読む方居ないかもですけど続けばあと2.3話だと思います…
御伽話は悲劇に終わることも珍しくは無い。無論、作中で描かれるキャラクター達は、悲劇など望まない。誰しもが自分の幸福を目指して奮闘するが、その結果は最後までページを捲るまではわからないのだ。そしてどのような幕引きだとしても、それは誰かにとっての幸福であり、悲劇である。
ーーそして、しばしばページが書き足されることもある。作者本人か、はたまた第三者の手によって。
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『ポイントを通過した。ゴッデス第二、作戦開始だ。砲撃部隊はオルドリンの指示に従って砲撃開始』
『『了解』』
無線越しに指令受領の返事が返ってくる。彼らは鈍色の空にいた。
「うわ、あれ全部ラプチャーかよ!気持ち悪いな!」
砂塵とエブラ粒子の嵐を抜けて、視界が晴れる。レッドフードの遥か前方には、一面の赤い光が蠢いていた。ラプチャーの数は無限であるという定説も、この光景をみれば納得だ。最早、形容する言葉が見つからないほどの大群。地平線を埋め尽くしてなお余りあるラプチャーの軍勢は、悪夢的な絶望を漂わせている。
一行の乗る戦闘機は寸分の狂いなく目的地である軌道エレベーターへと進む。しかし近づくほど、これから降りかかる困難が嫌でも目に入る。
「何だ、怖気付いたか?」
「そりゃそうだろ!ちょっとチビりそうだ」
「やめて下さい、レッドフード汚いです」
「ただの比喩だよ、比喩!チビってないって」
ラプチャーに補足されないように、限界まで高度を下げ地表スレスレを飛行する。続けて巡航速度を可能な限り落とし、その時を待つ。
本作戦の目的はラプチャーの海を掻き分けて、軌道エレベーターへ到達することにある。時間と物資が勝負の鍵だ。戦闘は最小限にする必要があった。
一騎当千のゴッデス部隊であっても、時間を掛ければ包囲され、やがてすり潰される。戦争に数は絶対なのだ。
圧倒的な数的不利を覆すには、自分たちが何で勝っているのかを知る必要がある。ゴッデスのそれは言うまでもなく瞬間的な火力だ。
戦術はゴッデスを本隊として、鶴翼の陣を敷く。左翼にゴッデス第二、右翼はオルドリン手製の兵器群が担当する。敵軍と比較してあまりに小さな翼だが、可能な限り大きく広げて風を起こす。
「「動いた!」」
指揮官と操縦桿を握るリリーバイスが声を出したのはほぼ同時だった。
開戦の狼煙を上げる右左翼の攻撃により、ラプチャーを動かす。ラプチャーは音や光に反応して標的に向かって集まって行くため、必然的に敵の密度に差が出る。
「行けるか?」
「これだけあれば十分よ。みんな舌噛まないように気をつけなさい!」
今、狙い通りゴッデスの正面が薄くなっていた。いくら手薄になったといえど、それは相対的なものであり、厚い壁である事には変わりない。それでもリリーバイスには、その僅かにできた道筋が見えていた。
一行はグンと加速するGを感じながら、ただ前を見据える。この先にいる仲間の無事を信じて。
リリーバイスの操縦技術はまさに神業だった。機体をまるで自分の身体のように扱い、僅かな隙間を縫って駆ける。ラプチャーからすれば敵を検知した時には既に通り過ぎた後で、まるで対処のしようが無かった。
「凄まじいな…!このまま行けるのでは…」
赫い光が高速で流れていく。しかし、ひとつの作戦とスピードで押し切れるのであれば、人類はここまで追い込まれていない。
「…‼︎ 接近してくる巨大敵性反応あり!11時の方向、5秒後にエンカウトします!」
ラプンツェルのアラートからきっちり5秒後、辺り一帯に影が落ちる。突如として前方に壁が出現したのだ。
ーー否。よく見ると壁の端には、黄ばんだ巨石がびっしりと並んでいる。これは巨大な口である。プランクトンを飲み込む鯨のように、今まさに我々を飲み込もうというのだ。
凄まじい巨体とその大部分を占める口が特徴的なタイラント級ラプチャー、グラトニーである。暴食と呼称されるこのラプチャーが最初に確認されたのはICBMによる一掃作戦の時だった。軌道エレベーター周辺のラプチャー掃討のため放ったミサイルは、着弾の寸前、地面から這い出てきたグラトニーにより飲み込まれ、あろうことが跳ね返してきたのだ。
これにより当時一番の規模だった基地は壊滅。人類の前線は更なる後退を余儀なくされた。
「…ひッ」
スノーホワイトは食べられるという根源的な恐怖に息を漏らした。回避行動も意味をなさない、圧倒的な捕食範囲に思わず体が固まる。しかしあと少しで戦闘機が呑まれるというタイムミングでグラトニーの口が閉じた。
大口が呑み込んだのは彼女たちではなく、機体から発射されたミサイルだった。早い話が囮である。
「推察通りだ!これで振り切れる」
「…チビったか?」
「…ッ!チ、チビってません‼︎」
「お前たち、随分と余裕があるな…」
「くッ…!指揮官、回避のためにスピードを落とし過ぎた。このままだと堕とされる!」
「わかった、次のフェーズだ!
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空からの突破を断念したゴッデスは、地上を進んでいた。強引に陣地を作成し、エブラ粒子を用いて撹乱しながら戦うことで、戦力は奇跡的に拮抗している。
「キリがないな…!」
「いやむしろアタシら強すぎだろ…ッ!この戦力差で勝負になってるのヤバいって!」
「紅蓮はその位置を死守だ。スノーホワイト!」
「はい!セブンスドワーフ、フルアクティブ‼︎」
「よしぶっ放せ!レッドフードはその後をカバー!!」
卓越した指揮と阿吽の呼吸で答える兵士。まさしく最強の部隊に相応しい姿だった。しかし拮抗していては足りないのだ。ここは敵地で、まだ目的地に届いていないのだから。
指揮官は四方に目を光らせながら、唇を噛み締める。
(くそッこのままでは…。ターリアかドロシーが居れば!)
ゴッデスの面々にはまだ余裕がある。しかしこの先を考えると、今状況を打開せねば勝機はない。
ーー地面が揺れる。爆発やタイラント級の足音ではない。明確に命を握られている感覚に身慄いした。
「デカいのが来るぞ!!総員退避!!」
「間に合って…!」
直撃の寸前、割り込んだリリーバイスにより前方に出現したのは、掘り起こされた大地だった。確実に致命の一撃だった砲撃は、質量の壁によって相殺された。
「ハハ…さすがリリスだな」
「追いつかれた…ッ!指揮官!どうしたらいい⁉︎」
攻撃の主は先ほど振り切ったグラトニーだった。飲み込んだミサイルのエネルギーが残っているのか、再び砲撃の構えに入る。
「何度でも防いでやるわ!」
リリーバイスも再び防御のために、グローブを確認して手を地面にやる。先ほどの再現となるかに思われた時、グラトニーの顔面に鮮烈な青い光が降り注いだ。爆炎に見舞われ、巨大な口は閉口しタタラを踏んだ。
「ゴッデス!」
「どうしてこんなところにニケが…ッ」
「その風貌…シンデレラか⁉︎新手だ!迎撃用意‼︎」
走って近づいてくるシンデレラに対し、指揮官を守るようにしてゴッデスが立ち塞がる。その表情は冷たく、硬い。
「ま、待って!敵じゃないわ。ターリアに助けられたの。話を聞いて!」
ここは戦場、それも恐らく人類史上最も過酷な戦場である。先のグラトニーの一撃で、相当数のラプチャーが粉微塵になったが落ち着いて話をしている時間はなかった。敵の手に堕ちたはずのシンデレラ、しかしその
指揮官は今にも飛び掛かりそうな紅蓮を制して、問いかけた。
「ひとつだけ教えろ。ターリアはあそこにいるんだな⁉︎」
「ええ、いるわ!」
指差すは兼ねてからの目的地、軌道エレベーター。シンデレラの答えに満足そうに頷くと、大きく息を吸い込んだ。
「リリーバイス!」
「…ッ‼︎」
交わった視線は雄弁だった。
「俺たちを信じろ。俺はお前を信じてる」
指揮官と女神たちが手を挙げて、勝利の女神を送り出す。
「必ずターリアを連れて戻る。少しだけ待ってて」
リリーバイスはそう言うと、高速で地面を蹴る。瞬きの間に姿はそこに無く、5回のクラップが遅れて響いた。
「「「