時系列について、少し整理しよう。ドロシーとも合流出来たし、次に顔を向けなければならない。
これは原作の知識だが、ゴッデス部隊が編成されてから、一周年イベントである『Red ash』のストーリーまで約2年の時間が空いている。現在地はこの間だ。
そして、そこからまた空白の期間があって、次にハーフアニバーサリーイベントの『OVER ZONE』(以下OZ)がある。
一応説明すると、Red ashはゴッデス部隊が全員揃ってから、レッドフードが離脱するまでの話。
そしてOZは指揮官、リリーバイス、レッドフードを欠いたゴッデス部隊が、アークガーディアン作戦を遂行する話だ。詳細は省くがこの作戦により、ゴッデスは
それから更に100年ほど経った後、原作の第一章へと繋がる。
ま、そんなに先のことはまだいいんだ。取り敢えず『Red ash』を乗り切れるか、ここがボクの目標を達成できるかどうかの分水嶺だ。軌道エレベーター侵攻作戦を成功させ、もしラプチャーの親玉である『クイーン』を発見及び撃破が叶えば、そもそもOZルートには分岐しない。人類の勝利でハッピーエンドを迎えることができる。だけど、そこまでは望まない、ニ兎追う者はなんとやらだ。誰も死なない未来を目指そう。
具体的には、優先度が高い順に、"レッドフードを失わない"、"シンデレラを死守"、"リリーバイスが元気"といったところだろうか。
レッドフードは『Red ash』の時点で、侵食を受けていた。侵食というのは、ラプチャーからの洗脳のようなもので、喰らってしまえば最後、時期に死に至るニケの病気みたいなものだ。一応、治療方法はなくも無いため、その治療法の再現が求められる。
ただ、それよりも確実なのはレッドフードに侵食を受けさせない事だ。レッドフードが侵食を受けたタイミングは、レッドフード合流〜紅蓮の合流までのどこかである。
現在はゴッデスが誕生してから8ヶ月ほど、時間が経っている。紅蓮は『Red ash』の少し前に合流するため、レッドフードが合流するタイミングによってはかなり時期が絞られる。侵食持ちのラプチャーとの戦闘にレッドフードを参加させなければ、侵食を受けることもないだろう。
あとシンデレラが敵の手に堕ちず、リリーバイスが万全なら本当に勝利することも夢じゃない。あれれ、これって結構簡単じゃない?原作知識ってやっぱりチートだわ。
レッドフードがゴッデス部隊に合流するのは、ラプンツェル・スノーホワイトの後の事なのでいくらか時間はあるだろう。それまでやる事は今までとあまり変わらない。
情報収集と日々の訓練、そしてドロシーとの交流だ。
ドロシーは部隊に合流したばかりだ。いくらテストで優秀な成績を収めようと、実践経験がないのは事実。きっと表に出さないだけで、不安を抱えているに違いない。そんな後輩ちゃんがいて、ボクがすべき事はなんだ?それは彼女と仲良くなる事に他ならない。
ドロシーを探して基地を歩いていると、外でお茶を飲んでいる彼女を見つけた。それほど景色がいい場所とは言えないが、これは彼女のルーティンなのだろう。白い椅子とテーブルに、パラソルまで設置した特設のテラス席で、一人優雅にティータイムを過ごしていた。
時間を少しもらう事の了承を得て、ドロシーに話しかける。
「ドロシー、邪魔してごめんね。この後ボクと戦闘訓練しない?」
「ターリアと?二人でですか?」
「うん。この前はドロシーを試すようなマネをしちゃったでしょ?ボクの実力も知っておきたいかなって。その方が、戦闘でもお互いに合わせやすいだろうし」
「試すような真似をしたのは、他の二人だったと思いますが」
「まあ細かいことはいいじゃん!それで付き合ってくれる?」
「いいでしょう。ですが条件があります」
「いいよ、何でも言って!」
条件と来たか。ドロシーはロリホワに、近寄り難いと言わせるニケだ。やっぱり簡単には心開いてくれないよね、もちろん想定内である。
まぁこちとら、ちょろいオタクなんでね、推しの条件なんてなんでも聞いちゃうよ〜。
「少し、ティータイムに付き合ってください」
「え、」
ツンツンしているドロシーなら、もう二度と話しかけてくるなとでも言われるかとも思った。その時は、指揮官に頼んで軍務の一環として絡むつもりだったんだけどね。まさか向こうから距離を縮めてきてくれるなんて、予想外だった。
でも本当にいいのかな…ドロシー様とティータイムなんてご褒美なんですけど。
「…紅茶が嫌いなら無理にとは言いません」
「あ、ちがうちがう。好きだよ紅茶。嬉しすぎて、ちょっと固まっちゃった!すぐに椅子とってくるね!」
大急ぎで、適当な椅子を持ってきたボクは、ドロシーと向かい合うようにして座った。
マナーとかあるのだろうか?こんなお洒落なことはしたことがないので、少し背筋が伸びる。
白いティーカップに注がれた紅茶は、陽の光を透過して輝いて見えた。
「どうぞ」
「あ、ありがと」
ドロシーが紅茶の香りを嗅いだあと、カップに口をつける。そして口の中で少し転がすようにして飲み、ふうっと息を吐く。
マナー違反があってはよくないと思い、その飲み方を参考にするため観察していたが、紅茶を飲むドロシーは艶っぽくて、ボクは何となく目を逸らした。
テーブルには砂糖とミルクが用意されているが、ドロシーは何もいれなかった。せっかく淹れてもらったものだ、砂糖やミルクを大量に入れられるのはいい気分ではないだろう。ボクも何も入れずに、カップに口をつける。
「…!わぁ、すごく美味しい」
一口飲んだ途端に、華やかな香りが鼻から抜けていく。今まで飲んだ中で、間違いなく1番の紅茶だ。そして、ドロシーと同じテーブルで、同じ飲み物を飲んでいることがその味を何倍にも引き立てている。
「お口に合ったようで何よりです」
「いつも飲んでるボトルに入ったやつと全然違うよ。砂糖入れてないのに甘い!」
「フルーツティーですので。飲み易い紅茶が良いかと思い、用意しました。私のお気に入りの茶葉なんですよ」
「へぇ〜紅茶って奥深いんだねぇ」
ドロシーは心なしか得意げに、紅茶の話を聞かせてくれた。推しが楽しそうだとボクも嬉しい、自然と笑みが溢れる。
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楽しいお茶会を終えて、気分一転。ボクたちは武装して、戦闘訓練を行った。
この前見た時も感じたが、ドロシーは視野がすごく広い。武器も
わりとボクも万能型なので、誰とでも合わせられると思うが、お互いに何でもできると、もっと選択肢が増えてやりやすい。
「…リリーバイスも、あなたと同じくらい強いんですか?」
かなり動いたはずだが、ドロシーは疲れを表には出さない。
原作でいつだったか紅蓮は、服が汚れるような戦い方を好まないドロシーに、勿体ないと苦言を呈していたが、ボクはそう思わない。
戦闘なんて非日常に身を置くなら、潔癖ともいえる
そして紅蓮のなりふり構わず、純粋な強さを求めるのもまたひとつの
この世界では、二人には親友になってもらうけどね。ボクが全力でお節介を妬きますので。
「ボクじゃリリーバイスには、逆立ちしても勝てないよ」
「そうですか」
「あ、嘘だと思ってる?具体的にいうと、ボクの二倍強いよ」
ドロシーはどこか信じられない様子だ。その内、その眼で見る事になるだろうから別にいいけど。
あと個人的な朗報だけど、ボクがドロシーの足を引っ張ることは無さそうだ。やはりリリーバイスが異常なだけで、ボクは他のゴッデスのメンバーと同等以上の能力はありそう。
だからといって、怠けてはいられない。少しでも強くならないと。ニケの良いところの一つは成長できることにあるのだから。
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ドロシーが合流して一月後、ゴッデスは更に追加メンバーを迎えた。
「ほ、本日よりゴッデス部隊に合流いたします。フェアリーテイルモデル3番、ラプンツェルと申します。よろしくお願いいたします」
「…シスターだ」
「シスターね」
「シスターですね」
(おっぱいでか…)
シスターを実際に見たことがある人は多くないだろうが、目の前の女性…いやニケはシスターのイメージをこれでもかと詰め込んだ姿をしていた。金髪碧眼に修道服、首からさげたロザリオをみて、他に想像する者はいないだろう。ただ一つ聖職者にあるまじき、胸部装甲に目を瞑る必要があるけど。事前にビジュアルは知っていても、実際にみると言葉を失うレベルだ。
「どこから来たって?」
「ええと…はい。V.T.C.から来ました」
「大きな教団が運営している医療センターですね」
「はい、そうです」
「そういえばあなた、見覚えがあります。確か次の教皇として有力な…」
ラプンツェルは所属していた組織で、かなりの地位にいた人物だったが、その立場を全て返上してニケとなる道を選んだのだ。簡単な決断ではない、一部からは聖女と呼ばれる彼女の精神性が、どれほど至高のものか窺い知れる。
「…聖女だ」
「聖女ね」
「聖女ですね」
「…デカすぎんだろ」
「…?ですので、これからよろしくお願いいたします」
ラプンツェルは他のフェアリーテイルモデルとは異なる設計思想で作られており、主に支援によるバックアップが主な役割だ。髪の毛のジャマー機能や、光学兵器への防御、専用武装『ホーリーグレイス』による回復など、できることは多い。支援に特化している為、単純な戦闘能力は他のゴッデスに劣るが、護らなければいけない程弱くはない。
特にヒーラーとしての能力は、部隊の継戦能力を大きく向上させる、現在では唯一無二の役割だ。
仕組みとしては、ニケのボディを構成するガッデシアムという物質を操り、傷を補修するというものだ。詰まるところニケの負傷しか治せないのだが、非常に優秀な能力であることに違いはない。さすがに治せる傷には限界があるようだけどね。
ラプンツェルは特定の誰かと親しかったりはしなかったと記憶している。無論孤立していたわけではなく、みんなと同じくらい仲が良かったという意味だ。
強いて挙げるとしたらレッドフードかな?その…ね?エッチな本とかで…仲良くなってたでしょ?
最初期の綺麗なラプンツェルには、レッドフードの話は刺激が強く、不埒だと苦手意識を持っていたが、性知識を得てセクハラモンスターになってからはその限りではない。もともとむっつりだったのかもしれないが、レッドフードの影響力は恐ろしいな。今から会うのかちょっと怖いよ。
天然な所もあるが、慈愛に満ち他者を慈しむ聖女様、それは煩悩にまみれた後も変わりはしない。それがラプンツェルだ。
ラプンツェルには聞きたいことが沢山ある。教団の事、V.T.C.(Votive Treatment Center)のことなどは原作でもほぼ描写がなかった為、何も知らないのだ。
後学のためにも、その中枢にいた彼女の話を聞いておきたいと思い、話しかけるタイミングを窺っているのだが、祈りを捧げ始めて早3時間。一向にお祈りが終わらない。
いつのまにかボクは眠ってしまっていた。
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「ターリア。こんな所で寝ていると風邪をひきますよ」
「…ん、ドロシーだぁ…なんでボクの部屋にいるの?」
肩を揺すられて、目を覚ますとドロシーが立っていた。寝ぼけ眼をこすりながら思ったことをそのまま尋ねる。
「ここはあなたの部屋ではありません」
徐々に意識の輪郭がはっきりとしていく。そうだ思い出した。ラプンツェルのお祈りが終わるのを待っていたんだった。
ふと見るとラプンツェルは変わらず同じ場所、同じ姿勢で祈りを捧げていた。さっきまで昼だったのに、もう日も沈んでいる。そういえば三日三晩祈った事もあるって、言ってたっけ。
「すごい集中力ですね。ラプンツェルに用事があったのですか?」
「そう。教団とかV.T.C.について聞きたくてね」
「意外です。宗教に興味が?」
「いいや、どっちかというとV.T.C.について知りたいんだよ。これから関わる機会もあるかもしれないしさ」
原作でレッドフードが侵食された時、治療方法を探していたラプンツェルの発言から、V.T.C.はニケの治療方法も研究しているようだった。ボクはそうならないために動いている訳だが、最悪の事態を考慮して、今から関係を持っておく事も考えなくてはならない。
知りたいのはどれだけ信頼できる組織かということだ。
「あとどのくらい掛かるかわからないし、また今度にしようかな。ドロシーはご飯済ませた?」
「まだです」
「あ、そう?」
かなり食い気味に答えてきたドロシー、まるで聞かれるのを待っていたかのような反応だ。
…そういえばドロシーは、何故こんなところにいるのだろう。ここは基地内でも端の方にあり、アクセスの悪い所であるため、偶然通りかかったという事はないと思うけど。
…まあ起こしてくれたしどうでも良いか!
ボク達は一緒に食事を摂るべく、食堂へと向かおうとしたのだが、ちょうどラプンツェルのお祈りが終わったため、三人で夕食を取ることにした。
ニケはご飯を食べなくても、ある程度活動できる。心臓付近にある内部コアが動力を供給してくれるからね。
でも今のところボク達は、毎日しっかり三食頂いている。食糧難にでもなれば、控えるつもりだけど、食事の時間はコミュニケーションの機会としても有意義なのだ。
「その本ならボクも読んだよ」
「本当ですか?最終章での怒涛の伏線回収と大逆転劇は衝撃的でした…!」
「うんうん!あと主人公のお父さんがさ…」
ラプンツェルは原作通り読書家のようで、好きな本の話で盛り上がった。ボクは特段本好きという事もないのだが、ラプンツェルが勧めてくれた本は、たまたま資料室に紛れ込んでいた為、読んだことがあったのだ。ひとしきり話したところで、静かに食事をするドロシーに気がついた。
「…あ、わからない話しちゃってごめんね。ドロシーにも今度貸してあげるよ。ボクの本じゃないけど」
「いいえ、結構です。話の内容は今、お聞きしたので」
やってしまった。ドロシーの機嫌が少し悪い。短い付き合いだけど、そのくらいはもうわかるようになった。
ボクはラプンツェルに聞きたいことを、一通り聞けたから満足したのだけど、ドロシーはあまり喋っていなかった。自分の混ざれない話は楽しくないよね、悪いことをしてしまったと反省する。でもしつこく謝るのは逆効果なんだよねぇ。
「ひと口食べる?」
ダメ元で、ボクのハンバーグをひと口切り分けて口元へ運んであげると元気になった。
ゲームなら『好感度が100上がった』って感じだ。
…ドロシーってこんな食いしん坊キャラだったかな?スノーホワイトじゃないのにね。
V.T.C.の名称は適当です、Vって何なんでしょうね。Votiveは「奉納する」です。
お気に入り登録・高評価嬉しいです、ありがとうございます。
誤字報告もありがとうございました。
体感8000字くらい書いたつもりでも、5000字弱なのなんでだろう…