ウマ娘 プリティーダービーの二次創作です。
100万ドルのウマ娘が、愛する父に捧ぐ贖罪の話。
「もしも競走馬のシャダイソフィア/ダイナカールがウマ娘だったら」という空想のもと、書かせていただいています。
各ウマ娘の辿った道につきましては概ね史実準拠となります。
今回はダイナカール視点で話が進んでいます。主にソフィアとカール、エアグルーヴ(乳児)、名前だけギャロップダイナが出ます。
1行目からお葬式のシーンです。あまり明るい話ではありません。
「お父様」のモチーフとなった総帥が亡くなられた際、棺にソフィアのたてがみが納められたというエピソードにインスパイアされて書きなぐりました。
書きたいシーンのみ書いているので、空気感を適当に感じ取っていただけますと幸いです。
⚠️メインは元ネタありのオリジナルウマ娘/オリジナルキャラクターにつき、苦手な方はご注意ください。
⚠️非常にデリケートな題材なため、問題が発生した/発生しそうな空気感を察知した場合、予告無く削除させていただく可能性がございます。
⚠️トレーナーは登場いたしませんが、「シャダイグループ」という元ネタありきの有名家系や元ネタに関係する実在の人物(総帥)をモチーフとした「お父様」など、ウマ娘以外のオリジナルキャラクター/要素が登場いたします。
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史実ではエアグルーヴが誕生した日と社…の総帥が亡くなった日の間隔が約4ヶ月程度なので、こちらに出てくる赤ちゃんの月齢は大体3,4ヶ月程度と思っていただけますと幸いです。
お父様が亡くなった。
今や世界最大級と言っても過言ではないウマ娘レース界の名門、シャダイグループ。その創設者、総帥であるお父様――厳密には私の実父ではないけれど、親戚関係にある皆はその裁量と功績の大きさから総じて『お父様』とお呼びするのが常であった――は、全国にレースの世界を志すウマ娘のためのクラブチームや養成施設を開設し、ときに自らも指導に加わりながら、運営の大部分をひとえに担っていた。
その目は常に海外のウマ娘のレースの世界を見据えていて、ただ日本で勝てるというだけでは決して満足しない人だった。私たちのような自身の子どもや親族、クラブ所属のウマ娘のみならず、精鋭揃いのコーチ陣に対してもトレーニングや実戦に一切の妥協や容赦をしない、一見厳しいだけの人のように見えるけれども、それでも誰よりもレースへの、そしてウマ娘への愛情に溢れた、そんな厳格で不器用で、優しいひと。
不幸な報せが届いたのは、多数のGIウマ娘を輩出し、トレーニング施設もさらに拡充され、国内外問わず優秀なスポンサーや指導者を幾人も抱えて、正にシャダイグループが栄華の頂点のさらに先にいるような今このときだった。私たちが現役だった頃よりもずっと大きくなり、多面的に強くなったシャダイグループが波に乗り、更なる夢を掴もうとしているその矢先に起きた、突然のこと。
「――見たかった、でしょうね」
お父様、きっと。
通夜、弔問に訪れたたくさんの関係の方々に親族総出で丁重に御礼を述べ対応をし続け、先程ようやくそれも終わり、寝ずの番に入る頃、お父様の棺の前でぽつりとそんな言葉を発したのはソフィア――シャダイソフィアだった。お父様の実子で、私の親戚で、家族で、同い年。そして同期としてトゥインクル・シリーズのターフを駆けた、かつての私のライバルであり、誰よりも心優しく美しいウマ娘。
畳に膝をつき、たくさんの花々の前に安置された棺の窓を開け、お父様のもう動かないその顔を眺めるソフィアの横顔はごく僅かな微笑みを象り、涙の面影もなく凪いだままだった。そしてその横顔に混ざる、申し訳ないというような色。
そんなソフィアのぎこちなくとも自然とも取れないような複雑な表情に、先程彼女のこぼした言葉が単に『お父様はシャダイグループのこれからを見たかっただろう』という意味だけではないことを私は悟る。悟ってしまったのだ。
なぜなら、ソフィアに彼女の実の父であるお父様がかけていた『期待』を知っていたから。――そして、そのソフィアが『お父様の期待を裏切ってしまった』と〝あの日〟からずっと思っていることもまた、苦しいほど知っていた。
だから、私はソフィアの言葉に何も返せなかった。
ひとしきり棺の窓の中を眺めたソフィアは、やがておもむろに自身の左耳の飾りに手を伸ばし、慣れた手つきで外して棺の中へ入れた。現役時代から、いや、それ以上昔に親戚として知り合った幼い頃から肌身離さず着け続けている、柔らかく繊細に編まれたレースと滑らかなサテンのリボンでできた、清らかな白色と鮮やかな赤色のきれいな耳飾りを。
「お父様とお母様からいただいた、大切な宝物なの」と、トレーニングやレースで少し汚れたりほつれたりする度に、ソフィアはばあやに修繕を依頼していた。正直に言えば耳飾りなんて私たちにとっては選び放題で、頼めばきっと同じ形の飾りだって新しく作ってもらえるだろうにそれを良しとせず、修繕の間は他のものを着けてお洒落をすればいいのに頑なにそうしなかった彼女は、先の通夜ですら、紅白の飾りはいかがなものかと眉を顰める親戚の者たちに「こちらはお父様の選んでくださった、大切なものですから」と強い意志を見せ、いつもの耳飾りをつけて臨席したほどに大切にしているものを、あろうことか明日には燃やされ灰になってしまうお父様の大きな棺の中に入れてしまったのだ。
私はひどく驚いた。けれど、それでもなお、何も言うことはできなかった。また、彼女の気持ちがわかってしまったからだ。
思うにきっと、これがソフィアの贖罪なのだ。この耳飾りを身につけてトゥインクル・シリーズでお父様の期待に応え続けることができなかったことを、何年もの時間が流れたこの期に及んで詫びているのだ。膝を折りごめんなさい、ごめんなさいと泣きじゃくって謝るよりももっと深い意味を持つ、彼女のできる最大限の罪滅ぼしなのだと。
全て手に取るように内訳が分かってしまうそんな光景に、こちらが泣きたくなった。棺に片手を置き、再びお父様の亡骸を眺めるソフィアの横顔には相も変わらず涙の面影もなく、優しいまま静かに凪いでいるから、いっそう泣いてしまいたくなった。泣かないソフィアの代わりに泣くなんてそれもまた変な話なのに。それでもぐっと込み上げてくる胸苦しさが抑えられず、じわりと視界の端が歪みだしたそのとき。
おぎゃあ、おぎゃあと幼い赤子の大きな泣き声が部屋に響いた。私が胸に抱いていた生まれたばかりのウマ娘――エアグルーヴの泣き声だった。式の最中はお行儀よくほとんどずっとすやすやと眠っていたが、さすがに目が覚めたらしい。私ははっとして、慌ててソフィアから娘に目を移し、よしよしと声をかけながら撫であやす。
そのソフィアは突然の赤子の泣き声に呆気にとられたような顔をして私とエアグルーヴの方を向くと、すぐにまあっと花が咲くような喜ばしげな声とともに頬を緩めた。
「あら、うふふ……! かわいらしいグルーヴちゃん、お目覚めなのね。カール、私が代われる者を呼んでまいりますわ。グルーヴちゃんのために暖かい部屋も一緒に手配してまいりますから、ほんの少しだけこちらでお待ちになって」
私が言葉を返す隙も与えず、ね、と念を押したソフィアは〝あの日〟の怪我の後遺症の残る脚で不安定にゆっくりと立ち上がると、代わりはギャロップでも呼んで来ますわね、と脚をわずかに引きずりながら静かに部屋を後にした。
未だ泣き止まない愛娘を見つめる。きっとお腹が空いてしまったのだろう。時間的にもそろそろ授乳のタイミングだ。
柔らかい目尻の涙を指でそっと拭いながら、私ははたと気づく。ふやふやと声をあげて泣く幼い我が娘は、もしかしたらあの瞬間の私の代わりに、そしてソフィアの代わりに泣いてくれているのではないか、と。
「……ッ、ぅ、ふふ、っ、く……ふ、っふふふ……」
何を馬鹿げたことを、と思ったけれど、何故だか途端、笑うのが止められなくなった。そこに俗な面白おかしさは一切ないのに、笑う息と嗚咽のような息の詰まりとが同時に溢れだして止まらない。
不器用だ。なんて不器用なんだ。親も子も揃って。もうびっくりしてしまうくらい。
ソフィアに起こされたのか眠そうなギャロップがやってくるまでの僅かな間、私は泣き止まない我が子を抱きしめてあやしながら、湧き上がってくる名の知れない気持ちに抗うことなく一人笑いながら立ち尽くしていた。