原作と同様の部分は最小限しか書きません。なので、原作を読んでないとよくわからない部分は結構あると思います。
シド君、家族愛とか友情とかの話が多いフリーレン世界には絶対なじめなそう。
きっかけがなんだったのかはよく覚えていない。ただ、物心ついたときにはもう「陰の実力者」に憧れていた。物語に陰ながら登場し、実力を見せつけていく存在。それになるために、僕は人生を注いでいた。
出来ることは何でもやった。普段の学校生活ではモブAを演じつつも、その裏では肉体を鍛え、世界中の武術、剣術、格闘術といったものは片っ端から習得した。でも、僕は最終的には気づいてしまった。こんなことを続けていてもダメだ。例えば、世界最強の格闘家になったとしても、完全武装の軍人に囲まれたらおしまいだ。万が一ボコり返せたとしても、空から核ミサイルが落ちてきたらどうしようもない。核でも蒸発しない実力を身に着けるために、新しいアプローチが必要だった。
そのために僕が目を付けたのは、魔力や気力、オーラといった、現代の科学では発見されていないエネルギーだ。本当に存在するか疑わしい代物ではあるが、なんか時々修行僧的な人が真面目にその手の話をするのを見たことがあるので、多分あるだろう、きっと。それを得るために、僕は今、山にこもり頭を打ち付けている。根拠はないが、血が額から出てくるぐらい頭を打ち付けていると、何かエネルギー的な感じる、ような気がする。
「魔力、」
僕は走り出す。山の中でパンツ一丁になって空気を感じることで、何かを掴めそうだったから。
「魔力。」
なんだろう、目の前に光のようなものが見える気がする。もしかしたら魔力かもしれない。
「魔力!」
光のようなものがだんだんと強くなっている。間違いない。ついに僕は、魔力をとらえたのかもしれない!
「魔力魔力魔力魔力魔力魔力魔力魔力!!!」
そうしてついにその光をとらえたと思った瞬間、僕はトラックにはねられて死亡した。
◇
こうして、僕の陰の実力者への道は唐突に断たれたかに思われた。しかし。
「クレアは弟を欲しがっていたからなあ、きっと喜ぶぞ!」
気が付くと僕を大きな男性と女性の顔が覗き込んでいた。これは……
「ええ、きっと喜ぶわ。でも、全然泣かないわね……」
なるほど。
「おんぎゃああああ!おんぎゃああああ!」
「おお、元気な泣き声だ!」
「気のせいだったみたいね。」
なにがどうしてこうなったか……。僕は父?と母?と姉?と使用人?らしき人々に囲まれていた。どうやら、異世界転生をしたようだった。まあそんなのは些細なことだ。なにしろ、周囲は魔力で満ちていた。僕は、前世では夢物語だった、魔力という圧倒的な力を手に入れた。それがすべてだ。前世での修業は無駄ではなかったのだ。この力さえあれば……!……あ。
(あー、うんこでそう……)
僕は前世で培った身体強化で肛門括約筋を締め上げつつ、これから赤ん坊の有り余る時間をどう使おうかということを考え始めた。
◇
そうして、10年ぐらいたったと思う。僕は陰の実力者としての実力を順調に身に着けていった。
僕、シド・カゲノーの家は、北側諸国の木っ端貴族であるカゲノー男爵家。代々優秀な騎士を輩出する家系だ。僕はそこの期待の跡取り……ではなく、優秀な姉に隠れた弟を演じていた。大した力はないけど、周りに迷惑もかけない、人畜無害なモブA。陰の実力者は、重要な場面で力を見せつけるからこそ陰の実力者と言えるのだ。そして普段の生活の裏では、陰の実力者としての修行を続けている。来る日の為に、表では完璧なモブAを演じ切り、しかし裏では圧倒的な実力が必要なのだから。なので、姉さんとの模擬試合の時にはいつもモブらしく無様に敗北を積み重ねている。正直僕は姉さんには楽勝で勝てるけど、実力は隠さなきゃいけない。周囲の人々の「あの弟も真面目にやってはいるんだけど、優秀な姉に比べられて可哀そうだねぇ。」という評価が聞こえてくる。うんうん、モブとしての評判は上々だ。
この世界についても紹介しよう。この世界は、前世でよくあるRPGに似た、実にテンプレなファンタジー世界だった。戦士がいて、魔法使いが居て、僧侶がいる。世界には魔物や魔族と呼ばれる敵キャラが居て、人間を脅かす。エルフとかドワーフも実在する。文明レベルはまるで中世ヨーロッパだ。いや、別に僕は中世ヨーロッパが実際はどんな世界かだなんで良く知らないけど、ラノベとかではよくそう説明されていたし、大体そんなもんだろう。
そして、魔力。文明レベルは中世とか言ったけど、魔力や魔法のおかげで思っていたよりは便利な生活ができていた。僕は陰の実力者として、当然すべての魔法を使えるようにしよう、と昔は考えていたけど、調べてみるとさすがに無理だと断念した。数が膨大過ぎるみたいだし、そもそも強力な魔法は秘匿されていることが多いようだった。こんなのを真面目に集めてたらそれだけで寿命が終わっちゃうよ。
というわけで、僕は陰の実力者として重要な魔法にのみ焦点を当てて習得していった。例えば、「何でも破壊するビームを放つ魔法」を習得すれば、たいていの他の魔法が無くても戦える、という感じだ。流石に何でもは無理かもしれないけど、今のところ僕の魔法で破壊できなかったものはない。まあ、使えない魔法が存在するというのはちょっとカッコ悪いけど、そう言われたら「本質さえ捉えれば数など不要だ……」という感じで行くつもりだ。数多の魔法を使い分ける敵に対して、たった一つの魔法のみで対抗する陰の実力者。これはこれでアリだろう。
という感じで、僕はこの異世界で戦うための力を身に着けていった。最近は、前世における核ミサイルに対抗できるような魔法も習得できたしね。こんな感じで、陰の実力者プレイができるこの世界のことは、今のところ結構気に入っている。だけど、一つだけ不満がある。
この世界、魔王が討伐済みなのだ。
なんでだよ!僕は勇者パーティの前でボスバトル後に突然現れて、意味深に「彼奴は死んだか。覚醒の刻は近い……」と呟いてみたりとか、謎の依頼を出して「我は陰に潜みし者。貴様らの実力、陰の世界で通じるか見てやろう……」といって意味深にバトルを仕掛けてみたりしたかったのに!勇者(名前はヒンメルらしい)はもうおじいちゃんになっていて戦えない。なんであと50年ぐらい早く僕は生まれなかったんだ!
とまあ、生まれた時代は残念だったけど、僕は諦めるつもりはない。この世界の魔王は、魔族のリーダー的存在であって、魔王が死んだからと言って魔族が滅びたりはしないのだ。大魔族と呼ばれる、ネームドボスは今も健在。それを討たんとする次世代の勇者がいつか現れると僕は信じている。その時こそ、僕の陰の実力者プレイのチャンスだ。ちなみに、他にチャンスがあるとしたら南側諸国の戦争かな。でもここからちょっと遠いんだよね。
◇
陰の実力者になるために、戦闘経験は不可欠だ。僕は前世の知識と魔法を組み合わせた独自の睡眠法により超ショートスリーパーとなっている。日中は貴族としての付き合いや勉強が多いからね。それに、騎士としての訓練もまあまあ参考になっている。この世界の人々は、魔力抜きにしても努力すれば強靭な肉体ができるようで、この点も僕がこの世界が好きなところだ。でも、陰の実力者になるためにはそれだけじゃ圧倒的に足りない。さて、そうして捻出した時間は数年前までは修行や物資集めに当てていたけれど、最近は修行の成果を確認するために盗賊や魔族を狩ることが多い。
今日も今日とて、夜中に抜け出して森の中を探し回っていると、光源を見つけた。どうやら魔族が人間狩りをしたので静か目の宴会を開いているようだった。今日の目的であるスライムボディスーツのテストにもってこいだ。
スライムボディスーツとは、僕が開発した新装備だ。スライムは想像通りのスライム状の魔物。彼らの動きの殆どが魔力によるものであることに着目した僕は、これを自由自在に操れるようになれば、形状が変幻自在の武器になるのではと思った。でも、開発に当たって問題があった。この世界の魔族や魔物って、死ぬと霧散しちゃうんだよね。某狩りゲーみたいにモンスターの身体を使って武器を、なんてことができない。色々試していた結果、僕は一つの気づきを得た。スライム、殺す必要ないじゃん。生きたまま僕の魔力で体の制御を奪ってしまえばいいんだ。そうして修行や試行錯誤を重ねた結果、僕は変幻自在の装備、スライムボディースーツやスライムソードを開発するに至った。
さぁ、スライム装備の性能テストと行こう。僕はテンションマックスで魔族さんたちに飛び込んだ。空き屋らしきところで人間を食べていたので、窓をぶち破って食事のテーブルの上にダイナミックに着地した。
「ヒャッハアアアァァァ!!!!!お食事中失礼しまあああす!!!新作装備のご紹介でええええす!!!」
「なっ、人間!?貴様どこから!?」
魔族さんたちが驚いている。僕が身体の魔力放出を制御していたこともあるけど、このスライムスーツが音を全く立てなかったということが分かった。前に魔族を襲おうとしたときには、どうせ魔族は魔力探知しか信じないだろとタカをくくって、魔力じゃなくて音でバレちゃったことがあったからね。今回は上手くいってめっちゃうれしい。
「これが新作スライムソードでええす!」
そう言って僕は、足の部分のスライムを刃に変形させて、目の前の魔物部分の口部分をぶち抜く。目の前の魔族さんは呆然とした表情で霧散していった。脚から出るのはソードじゃないかもしれないけど、まあ刃だし、大体ソードということで。
「ふ、ふざけるな人間のガキ!お前のような雑魚の魔力量など、奇襲以上のことはできんだろう!"炎の槍の魔法"!」
そう言って魔族さんは、僕の後ろから燃え盛る槍で背中を突いた。人間以上の力に通常の炎以上の高温。だが無意味だ。この程度じゃスライムボディスーツの耐久を上回ることは無い。
「な、なんだその服は?防御魔法も展開されていないはずだ、なぜ通じない!?」
「僕の方が魔法の練度が高いからじゃないですかねええええ!?」
そういって、僕は振り向きざまに魔族さんの首を切り飛ばした。
いやあ、対魔族戦は楽しい。人間の盗賊と違って、お金などの戦利品をGETできない事が多いのが残念だけど、魔族相手ならどんな悪口言ったって何の問題もない、むしろ称賛されることが多いからね。言葉に気を付けなくていいのはめっちゃ楽だ。
そんなことを考えていると、外にいたモブ魔族がわらわら集まって来た。
「な、なんだこいつ!コイツが殺したのか!?」
「魔力をほとんど感じないぞ?だが戦士ならば武器を持っているはずではないのか?」
「見張りは何をしていた?魔力探知をサボっていたのか?」
「おい人間、そのような魔力量でどうやって殺したのかは知らんが、そのような不愉快な言動は慎め。」
モブ魔族がなんかいろいろ言ってるが、いちいち反応するのも面倒なので無視。手にしたスライムソードで切りまくる。
「おらおらおらおらおらぁ!!!」
最初に首を斬られた奴は何が起こったのかも分からないまま死んだようだ、顔に変化が無い。次に切りかかった魔族は咄嗟に防御魔法を展開したが、魔力制御が僕に比べたらとても雑なので、スライムソードが当たった瞬間に僕の魔力を防御魔法に流し込んで崩した。スライムソードはそのまま第二モブの魔族の首を切断した。
第三、第四以降のモブも似たようなもんだ。なんか冷気を出したり電撃を放ったりしてきたけど、まあ大したことは無い。僕は調子にのって斬りまくった。
「おらおらおらおらおらおらおらおらぁ!!!……あれ?」
3分くらい適当に斬りまくっていたら、見える範囲の魔族は全て倒してしまった。人間相手だと血の匂いがきつくなるけど、魔族相手だとそういうの無いから楽だ。やっぱり魔族って人間の闘争相手としてみた場合にはほんとピッタリなんだよね。いやあ、魔族諸君、君たちのことは本当に気に入っている。これからも人類の敵として僕の陰の実力者プレイの踏み台になってほしい。
「仕方ない、これで終わりかあ。……あとは。」
僕はスライムソードで後方をガードする。直後、衝撃波みたいな魔法攻撃が飛んできた。
「君で試すとしよう。」
「……ッ!これを防ぐか。」
「頑張れば2分くらい持ちそうだから、頑張ってね?」
僕の背後から、一回り魔力の強い魔族さんが現れた。この集団のリーダーかな?気配を消していたし、奇襲のつもりだったっぽいけど、発動から着弾までの時間が長すぎでバレバレだ。
「何者だ?これほどの実力、そしてそれに見合わぬ魔力量。お前のような奴は見たことが無い。」
そりゃ魔力量は普段から凡人並に感じられるように制御してるからね。やろうと思えばコイツらに奇襲をかけたときのように、ほぼ完全に0にすることも可能だ。
「僕かい?僕は通りすがりのスタイリッシュ・魔族・スレイヤーだ。」
「……なんだそれは?聞いたことが無い名だ。人間か?なぜ魔力が少ないにもかかわらずこれほどに強いのだ?何年魔法の修行をしている?」
「質問が多いねえ。とりあえず最後の質問に答えると、およそ十年かな?」
「……そうか。ならば今日お前はここで死ぬ。儂は150年間魔法の修練を重ねたからな。」
そういって、この小ボス魔族は杖を構えた。杖先に魔力が溜まっていく。ちなみに、僕は杖は使わない主義だ。杖を使うと魔法の制御がやりやすくなるみたいだけど、陰の実力者が道具だよりってカッコ悪いからね。
「……"衝撃を放つ魔法"」
そういうと、さっきより強力な衝撃波が襲ってきた。あーあ、この家は完全に壊れちゃうかな、これ。でもまあ、僕のやることは変わらない。僕はスライムボディスーツを正面に展開して、衝撃波を受け止めた。
「なんで通用しなかった攻撃を繰り返すかな?」
「……!わ、儂の最高威力でも通じないだと!?」
「それにね、その魔法は多分こうやるんだよ。"衝撃を放つ魔法"!!!」
僕はこの小ボス魔族が放ってきた魔法をそっくりそのままお返しした。ただし威力10倍。小ボス魔族さんは全身グチャグチャになって霧散し始めた。相手の技を即座にラーニングしてコピーする。うんうん、これも陰の実力者っぽい。
「き、貴様、儂の魔法を……!!!」
最期にそう言って、小ボス魔族は消えた。魔族って、使っていた魔法を僕がコピーして使って見せると、なんかめっちゃ感情を揺さぶられるっぽいんだよね。反応は怒りとか、絶望とか、驚愕とかで色々だけど。なんでそんなに動揺するんだろう?
「2分持たなかったね。」
改めて周囲を魔力探知したけど、残党はもういなさそうだった。今日はスライムボディスーツの性能を確認出来て大満足だった。
・スライム
オリジナル設定。フリーレン世界にいるって書いてあった記憶が筆者にはないけど、まあミミックがいるんだからスライムもいるやろ(適当)
・杖を使うのは魔法制御のため
オリジナル設定
・小ボス魔族
生涯をかけて開発した魔法を一瞬でコピーされしかもより高威力になって返されるという尊厳破壊を受けた。
・シド君
フリーレン世界で魔法のコピーとかそんなチートできんのか……と書いてるときは思ってたけど、原作でも5巻で似たようなことしてたしできるんやろうなぁって思って最終的に高度な魔法でない限りはできるということにした。戦闘能力的にはぜーリエと同等でいいのかなぁ……