フリーレン一行は、アウラに操られていた者たちの弔いをするために、グラナト伯爵が用意した馬車に乗り戦場に戻ってきていた。シュタルクは傷がひどいために寝かされた運ばれていた。シャドウが残っている可能性も考慮し兵を連れての行動だったが、その場にシャドウの姿はなかった。
「激しい戦いであっただろうに、死者を傷つけまいとしたことが見て取れる。感謝する。よく北側諸国の英傑たちに敬意を払ってくれた。」
「いや……いくつかの遺体は守り切れずにボロボロになってしまっています。申しわけありません。」
「確かにな。……だが、この戦いの跡を見て、どれほど激しい戦いであったかが分かる。これを見たうえで、そのような文句を言うものはおらん。」
一帯の戦いの痕跡はそれはすさまじいもので、町からそこを見ても変化がわかるほどであった。地面はことごとく抉り取られ、遠方に見える森の木々はいくつかが根元からへし折られていた。それほどまでにシャドウの攻撃は高威力だった。
「……この後は地図を少し書き換えることを考えなければならんな。しかしシャドウか……。話を聞いたときは半信半疑だったが、この状況を見ると信じざるを得んな。」
「……ああ、そうだ。シャドウの情報を得たときは大陸魔法協会などに知らせていただけると助かります。」
「分かった。危険な男のようだからな。民にも注意喚起をしておこう。」
「……フリーレン様。今冷静になって考えてみると……シャドウの言ったことは、本当だったのでしょうか?」
「というと?」
「例えば……自分の力を高めるために人々を犠牲にしているとか。改めて考えてみると、そんな事が可能ならとうに世界中に広まっていると思います。人の死に際を観察した魔法使いなんて過去にたくさんいたはずですし。魔族がそんな技術を使っているなんて話もありませんしね。」
「……まあうん。私もちょっと頭に血が上っていたのかもね。でも、じゃあなんでシャドウは否定しなかったんだろう?」
「それは……分かりかねますが……」
「きっと、イテッ、過去になにかやらかしちまったのは事実だからじゃねえかな?」
シュタルクは、寝たままで馬車の中から声をかけた。
「シュタルク様。口から血が出ていますよ。安静にしていてください。」
「安静にしてるだろ。」
「こ、小僧。よくそんなボロボロの身体で平然としていられるな?」
「まああと一週間くらいすれば元通りになりますよ。」
「……内臓も骨も筋肉もグチャグチャでしたのに。なぜそう簡単に回復するのでしょうか?本当に不思議です。」
「……アイゼンもこんな感じだったかな。戦士っていうのは本当に頑丈なんだね。」
「お、俺のことはともかく。俺が感じたのは、そういう悪評がつくことを受け入れてたって言う感じだ。だからどこかで、罪悪感のようなものを感じてたんじゃないか?」
「そう、なのかな?私は正直あのシャドウが何考えてるかを理解するのは、魔族を理解するくらい難しいと感じてるよ。」
「いや、その話は俺もわかるぞ、小僧。」
「グラナト卿?」
「俺もかつて、息子が死んだときには申し訳の無さや罪悪感でいっぱいになって、何か俺に罰が下らないかと望んだことがある。なんで息子を戦士にしてしまったんだろう、とな。当時の俺の周りの人間は、俺の責任ではないと言ってくれたが、簡単に割り切れる物じゃなかった。」
「……そうですか。あ、仮に俺が死んでしまったとしても、天国でお前たちを恨んだりはしないから安心しろよ?」
「シュタルク様、冗談でも笑えないのでやめてください。」
「え、ごめんフェルン。」
「……俺が思うに、シャドウは自分より同等、それか上の存在を望んでいたのではないかと思う。お前たちの話によると、そのシャドウという男はかつての魔王よりも強いんだろう?だから多分、自分を罰してくれる存在というものに出会えなかった。そういう辛さがあった……のかもしれんな。まあ、そのシャドウが人間であることが前提での話だが。」
「……正直私は、シャドウが人間であるか今でも疑っているよ。」
「……何か理由でもあるのか?フリーレン。」
「まあ例えば。角が無いから人間だと考えるのは早計だ。角を消せる魔法なんていくらでもあるからね。それと……戦闘中に私、こっそり服が透けて見える魔法をシャドウに使ってみたんだ。」
「……戦闘中に何やってるんですかフリーレン様。」
「まあ、試すだけなら多分タダだしね。でね、そうしたら、服が透けなかった。これはどういうことだと思う?」
「…………え、なんだろう?なんかそういう魔法から守る魔法とか?」
「……もしくは、その服が体の一部、とか?」
「そうだね。私はフェルンの言った方が正しいんじゃないかと思ってる。やっぱり身体構造が人間とは違う何かなんじゃないかな。……なんにしても、シャドウに関しては情報が少なすぎるし、言うことも抽象的でどこまで本気にしていいのか分からない。結局、今は正体を考察するには時期尚早すぎるだろうね。」
「……しかし、フリーレン様。一つだけ信じてもいいことがあるのではないでしょうか?」
「……何?」
「シャドウは最後、私たちの何かを認めたということです。シュタルクへの発言は耳にしましたよね?」
「……そうだね。」
フリーレンは、シュタルクとフェルンに改めて向き合い、微笑みながら言った。
「フェルン。シュタルク。よく魔族たちに打ち勝ち、勇敢にシャドウに立ち向かった。偉いぞ。」
◇
その後しばらくグラナト領に滞在したフリーレン達は、旅立ちの時を迎えた。そこにグラナト卿が鉢合わせた。
「もう旅立ちか、フリーレン。」
「グラナト卿。」
「門まで送ろう。」
そうして、フリーレン一行とグラナト卿一行は門まで一緒に歩くことになった。
その道中。
「フリーレン。お前は魔王城のある大陸最北端のエンデを目指しているそうだな。だが、北部高原は昔から強力な魔物や魔族がよく出現する。最近はその動きが怪しくなっているとかで、人々の往来が制限されている。冒険者の場合でも、2級以上の魔法使いの同行が必要だそうだ。」
「……あ、この中で持っている人が居ませんね。私は3級ですし、フリーレン様は無資格の闇魔法使いです。」
「何その言い方。」
「そういえば、北側諸国で認定試験を受けられる場所がありましたよね。」
「北側諸国最大の魔法都市オイサーストだな。シュヴェア山脈を越えたずっと先だ。街道沿いに進めばいいが長い道のりになる。」
そうして歩いていると、彼らは門にたどり着いた。グラナト卿は最後にフリーレンに、
「フリーレン、グラナト家はこの恩を決して忘れん。良い旅を。」
と礼を述べた。
そうしてフリーレン一行はオイサーストを目指して旅立った。ただし、フリーレンにとってはもう一つ目的があった。
(シャドウのことは、一度ゼーリエと腰を据えて話すべきだろうね。人間っぽい所もあるのかもしれないってシュタルクは言うけど、やっぱり力を持った存在が何考えてるのか分からないってのは気に入らない。)
◇
今回の戦いでは、彼女たちや、特にシュタルク君は僕に欠けていた視点を提供してくれた。それは。
『絆の力で強くなる系主人公』という存在だ!
いやー、これは盲点だった。この世界で魔力譲渡とかの技術が無いから頭から抜けてたよ。戦いの途中までは本当に主人公ではないのではと疑ったけど、実際は彼らはやはり主人公だったのだ。最後に僕のスライムソードを破壊されたのには素直に感心したよ。
ただ、途中で僕のスタイリッシュ魔族スレイヤーであると言い出しだのはちょっと不愉快だったな。あれは『悪い奴ら相手に無双する系陰の実力者』なんだ。戦いの場面が違うんだよなあ。まあ、シュタルクのような人が居る可能性があることを考慮しなかった僕にも落ち度はあるけどね。そこからどう振る舞うのが陰の実力者っぽいのか、しばらく混乱してしまった。そして途中でシュタルクが、昔僕がスタイリッシュ魔族スレイヤーをしていたことを、「恥ずかしく思ってるんだろ!?」って言いだしたときはちょっとイラっとした。確かに当時の僕は実力的に未熟なところはあったかもしれないけれど、スタイリッシュ魔族スレイヤーをしたことにはまったく後悔していない。前世にもいたんだよね。僕が学校の屋上でネット上からかき集めてた世界中の黒魔術について考察していたら、後ろから覗いて来て「う、うわぁ……w」みたいなリアクション取る人。人の感想についてどうこう言うつもりはないけど、人が真剣にやってるのに茶化さないで欲しかったものだ。
まあ、僕はもう前世含めたら30歳を超えた精神的大人だ。ちょっとくらいの無礼は水に流そう。なにより、その後のシュタルクの主人公パワーは素晴らしいものだった。特に、「人と協力しないお前にはできないだろう!」はすごい主人公っぽかったし、この指摘にはなるほどと思った。確かに、僕の憧れる陰の実力者は他人を陰から操ることはあっても、他人を頼ることなんてしない。そういうのは表の実力者のやることだというのが僕のイメージだ。なるほどなあ。今後は孤高という特徴に注目した陰の実力者を考察するべきだな。
そしてその後のシュタルクの迫力は本当に良かったね。振るわれる斧から伝わってくる激情がすごかった。物語の王道主人公ってあんな感じなんだなあ。というわけで、この主人公力が高いシュタルク君には敬意を払い、彼に見せ場を作るために僕は『人の心すら捨てて力を追い求めた系陰の実力者』となってあげた。こうすることで、シュタルクは僕の『心』に一撃を入れ、僕は絆の力があってようやく一撃を入れられる程の実力があるとアピールができるのだ!我ながらナイスアドリブだった。
「やっぱりこれからもフリーレンたちを追いかけていこう。先のイベントでは素晴らしい主人公力が見れたからね、アウラ」
「……そうね、彼女たちは強いわ。……主人公力って何よ……」
僕の隣に居るのは、服従状態となったアウラだ。戦いが終わった後、遠くに投げ飛ばしたアウラを回収した。ちなみにその時、頭が土に埋まって抜けない状態だった。僕が切断された首を戻すために魔力をいろいろいじった際に、魔力の制御が一時的にできなくなってたみたいだ。それにしても、なかなか三下感のある光景だったな、あれは。
「……切断された首を元通りにつなげるなんて、本当にすごい魔法技術ね。……お前のことはなんて呼べばいいの?」
「呼び方?まあシドでいいよ。」
「……分かったわ、シド。」
このアウラには、僕が陰の実力者を目指していることを明かしたうえで、いろいろ手伝いをしてもらう予定だ。そのためにアウラに習得してもらわないといけない技術は沢山ある。
「さて、アウラ。君にはこれから僕の陰の実力者プレイを手伝ってもらうよ。」
「……分かったわ。」
「あれ?魔族の割には意外と素直だね。」
「……さすがに、魔力量がはるかに負けているうえに、
へー、そうなんだ。こうやってみると、思ったより魔族の思考って人間に近いんだなー。魔族は人間大嫌いで罵詈雑言しか吐かない存在だと思ってた。
「……これからどうするの?」
「とりあえず、君には人間社会で擬態してもらうために、体外へ放出される魔力の制御と、角を隠すための魔法の修行をしてもらうよ。あ、もちろん隠すってのは見えないうえに触れないようにするって意味ね。」
「……それ、前者は多分10年くらい、後者は50年くらい修行が必要な技術なんだけど。」
「えー?そんなわけないよ。例えば前者なんて僕は一ヶ月くらい頑張ったらできるようになったんだから。やり方が悪いだけだと思うよ?」
「……嫌な予感はするけど、シドがその強さを得るためにした修行は興味があるわ。」
「おお、いいね。まあじゃあ早速始めようか。」
よーしよし。やる気がある弟子でいいね。成り行き次第では、陰の実力者の弟子として育てる試みもアリかもしれない。他人に自分の技術を教えるのは今までやったこと無いけど、まあ何事もチャレンジとよく言うし。頑張るぞー。
「あ、ちなみに僕は最低でもあと300年は生きる予定だからそのつもりでよろしく。」
「ブ チ ギ レ そ う」
・服が透けない
生きたスライムは服判定されませんでした。
・2級以上
北部高原はシド君の遊び場となっていたので、原作より平和。
・「人と協力しないお前にはできないだろう!」
ここで「確かに僕は友達いなくて寂しいなあ……」ではなくて「なるほど、僕は友達いない系陰の実力者か!」っていうメタ認知だけしてそれ以上の感想は持たないの最高にサイコパスポイントだと思う
・……主人公力って何よ……
シドの命令により、アウラの発言は全て本心だが、できるだけ波風を立てないように聞かれてまずそうな発言は小声にして聞かれないようにするという小細工を習得している
というわけで、シド君は人間性を……多分取り戻せていませんね。シュタルクの人を取り戻せ云々はメタ認知の段階で終わっています。シュタルクはシャドウの心に一撃を入れられたとして満足し、シド君は主人公力の高いシュタルク達に満足しました。メリーハッピーエンド(?)。ただしシド君の心にシュタルクの発言は強く印象に残っています。
次回、アウラ研修編。
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おまけ。現時点での原作との乖離ポイント
・シドがスタイリッシュ魔族スレイヤーをしていたために北部高原が少し平和
・シュタルクの村の人々が兄含め一部生存
・フェルンが魔力譲渡による他者強化という新技術を獲得
・シュタルクがカッコいい所を見せ、フリーレンとフェルンからの株が上がっている。多分シュタルクも少しだけ人間的な成長がある……かもしれない。
・ゼーリエがシャドウを捜索している(そのうち書けたらいいなあ……)
・フリーレンが行く先々でシャドウを危険人物として警告して回っている