魔法世界の実力者になりたくて!   作:Assassss

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フリーレン一行がクラフトとともに雪山で生活している間の話です。


アウラ、『陰の実力者』の研修の時間だ。

私は七崩賢と呼ばれる大魔族アウラ……だった。今はもうこの肩書は名乗れないだろう。

それは私がグラナト領へ攻め込もうとしていた時だった。遠くからグラナト領を眺めて、さて攻め込んだ後はどうしてやろうかなんて考えていると、人間が近づいてくるのを感じた。普通に、一人で、徒歩で。まずこの時点でおかしい。私の周囲には首なしの兵が私を護衛してるんだから、私を殺そうとしているのだとしたらよほどの強者か、ものすごい馬鹿だ。実際はその両方だったのだけれど。

私はその人間に興味を持って、首なし兵を構えさせつつとりあえず観察してみた。しばらくすると、一人の青年と呼ばれるような男の人間が私の前に来た。魔力量からして、特に魔法の訓練をしていない、本当にただの人間のように見えた。それがわざわざ私のところまで来るなんて。グラナト領からの使いか?とその時は思った。だけど、その人間、私に話しかけることもなくグラナト領の方を向いてなんかブツブツ一人でしゃべりだした。

私が話しかけても、独り言を止めないし、挙句私が負けるとか言い出した。殺そうとしたら、突然「ま、魔族だあああああ!!!」とか叫びだした。

……私は一応500年生きてる魔族だから、周りの魔族よりは人間のことに詳しいつもりだったけど、ここまで間抜けな人間は見たことが無かった。そんでもって、その後は無様に命乞いを始めた。私は呆れながらそいつのことを観察してたけれど、その時一つ気付いた。コイツ、歴戦の戦士と見まがうほどの鍛えられた体をしている。この後のフリーレンの戦いで使う兵の数は多いに越したことが無いので、私はこいつに服従させる魔法(アゼリューゼ)を使って駒にしようと決めた。そうしようとしたら、そいつはしなりお?がどうとか喚きだした。最後まで変な人間だったなと思いながら、私は魂が天秤に載せられるのを見ていた。

 

そしたら。

 

ガッチャアアアアアン!!!!!!

 

という今までに聞いたことが無いような音を立てて、天秤は傾いた。そいつの魂の方に。

……いや、私だって、服従させる魔法(アゼリューゼ)を誰彼構わず使ったりしない。私より魔力が多い相手に使ったら一巻の終わりの魔法だから、これでも相手の魔力量を見抜く能力は鍛えてきたつもりだ。……でも、そいつは体外に放出される魔力が一般人とまったく、本当にまったく変わらなかった。その上普通に命乞いをしてきたのだ。こんな人間が私より強い魔力をもっていると疑いだしたら、そもそもこの服従させる魔法(アゼリューゼ)自体怖くて使えないというものだ。

……うん、まあ、今の主張は現実逃避だ。こんなあまりにもどこにでもいるような人間に服従しなければならないだなんて考えたくもないのだ。その時はもうお終いだと思った。私が人間にとってどれほど厄介な存在とみられてるかはよく分かってる。どうせ自害しろとか言ってくるに決まっているのだ。

……と思っていたのだが、なぜかそいつは私を殺さなかった。その後、そいつと私は少し喋った。その時の会話によると、名前はシド・カゲノー。正真正銘の人間で、カゲノー男爵家の次男らしい。……これ以外のことは、今でも正直よく分からない。なんか「これはどういうシナリオなの?」とかいう質問をするし、何言ってんだコイツとか思ってたら今度はこの世界にはまじんでぃあぼろす?が裏にいるとか言い出すし。それで、そんなの聞いたことないって言ったら露骨にがっかりされるし。でもその時の話を総合するに、一言で言うと、コイツは『陰の実力者』とかいうよく分からない何かを目指しているらしい。とりあえず普通の人間じゃないことがよく分かった。

ただ、私が『陰の実力者』について知ろうとした態度を見せると、少しだけ期待を込めた声で私に説明しだした。私としても、従わなければいけない存在が何を目指しているのか、はとても重要な話なので、渋々ではあるけど話を聞いてみたのだ。結果、コイツの頭が本当に狂っているということが分かった。曰く、『陰の実力者』とは、「物語に陰ながら介入し、実力を見せつけていく存在。」……らしい。そうか、そういう物語が好きなのか。じゃあ作家になればいいじゃない……と思ったらそうではないらしく、自分がその『陰の実力者』になりたいらしい。いや何言ってるの。この世界は現実よ?って言ったら、「いーや、この世界は古典的JRPG世界なんだ。その証拠に魔法があって、勇者が居て、魔王がいるじゃないか。まあもう討伐されちゃったけどね。」って返された。JRPGなんて単語聞いたことが無い。それについて質問したら、コイツ曰く「JRPGっていうのは、よく陰の実力者の活躍場所になるんだよ」と返された。いやだからその『陰の実力者』って何???この話は理解できないだろうと思った私は、話題を変えて「実力を見せつけたいなら、人間の魔法技術大会に出場すればいいじゃない。」と言った。そしたら、「そんなことをするのは表の実力者のやることだ。大会に出るなら出方を工夫しないとね。そもそも『陰の実力者』は実力を見せびらかすことを目的としない存在なんだ。」とか言い出した。矛盾してるわよ?実力を見せたいのか見せたくないのかどっちなの???

と、こんな調子で、使う単語の意味は分かるけれど、文にすると意味不明になる発言を連発された。しばらくして、とりあえず「力を持っているのに見せびらかさないなんてかっこいいわー」と言っておけば何とかなることだけが分かった。まあ嘘じゃないから、これ。「力を持っているのに見せびらかさないなんて(まだまだ上を努力しているのだとしたら)かっこいいわー」って自分を騙す感じで発言できた。……あんまりこのことを考えていると、これについても喋らされそうで本当に面倒くさい……。

そのおかしい頭で私を逃がすという判断をしてくれないかとも思ったけど、残念ながらそういうつもりはないらしい。その後、シドは当初の予定通りフリーレンと戦えとか言い出した。この時はシドはフリーレンと敵対しているのかと思ったけど、話を聞く限りむしろ気に入っているように思えた。人間って好みの存在に対し敵をけしかける習性絶対ないわよね???しかも、戦うに際してものすごく条件を付けてきた。考えていることは言葉に出せだの。服従させる魔法(アゼリューゼ)はゆっくりやれだの。なんでって思って理由を聞いたけど、「良いバトルをするため」……らしい。実際戦っているときは、自分の考えたことや感じたことをペラペラしゃべる物凄い間抜けになってしまった。こんなことをしてもなんも良いことないわよね絶対。でも、服従させる魔法(アゼリューゼ)を使わないようにしていた不幸中の幸いで、フリーレンが体外に放出される魔力を制限していたことに気づけた。力を持った人間ってどいつもこいつも理解できないわ。本当になんでこんなことをするのかしら???

でもその後は、結局フリーレンの連れの二人が応援に来て負けてしまった。……というか、コイツに「フリーレンが負けそうになったら油断しろ」とかいうバカみたいな条件を付けられていたから最初から負けてるようなものだけど。……改めてこう言うと本当に私って道化ね……。

で、その後はシドが来て私を回収した。その後のことは覚えてない。なんせ私に首を切れと命令した後に遠くに放ったらしいから。ふざけんな。

 

 

「やっぱりこれからもフリーレンたちを追いかけていこう。先のイベントでは素晴らしい主人公力が見れたからね、アウラ」

「……そうね、彼女たちは強いわ。……主人公力って何よ……

 

今はグラナト領から離れて、このシドがいるカゲノー領の近くの森に潜んでいる。ここでもこいつは半分も理解できないような話をしてくる。あと命令のせいで聞かれると面倒そうなことを言いそうになったのでできるだけ小声にした。正直もうコイツと『主人公』とか『陰の実力者』とは、についての話はしたくないのだ。

 

「……切断された首を元通りにつなげるなんて、本当にすごい魔法技術ね。……お前のことはなんて呼べばいいの?」

 

……これは本心だ。こんなに頭がおかしいのに、魔法に関する技術は今まで私が見てきたどの存在よりも卓越している。あの魔王様を含めたうえでだ。なんで魔力操作をするだけで首が繋がるのよ。しかもコイツが言うには、魔法の修行歴は大体20年くらいらしい。絶対嘘……だと、客観的に考えればそうだけど、心のどこかに本当なんじゃないかと考える自分もいる。でも、本当だとしたら……私の今までしてきた魔法の修練は何だったの……?

 

「呼び方?まあシドでいいよ。」

「……分かったわ、シド。」

 

ただ、コイツは私が口を悪くしても割と怒らない。こうして呼び捨てても構わないらしい。この点は助かった。これで魔族の社会みたいに支配者に向かって生意気な口を聞くなとか言われていたらストレスで死んでしまうところだった。従う相手が魔王様みたいに相応しい中身のある存在ならまだいいけれど、こんなに頭がおかしい奴に服従するなんて道化以外の何物でもないので、そのストレスが本当にひどい。フリーレン戦での私の振る舞いは一刻も早く忘れたい。

 

「さて、アウラ。君にはこれから僕の陰の実力者プレイを手伝ってもらうよ。」

「……分かったわ。」

 

本当は『陰の実力者』についてほとんど何も分かっていないけど、これは「とりあえずできることはします」という意味の「分かった」だ。命令のせいで私はコイツに嘘をつけないけど、うまく誤魔化せば多少は繕うことができる。

 

「あれ?魔族の割には意外と素直だね。」

「……さすがに、魔力量がはるかに負けているうえに、服従させる魔法(アゼリューゼ)を受けた状態で反抗するほど私は馬鹿じゃないわ。はらわたが煮えくり返りそうだけど、死んでないだけマシだと思ってる。それに、人間への服従なら寿命が来るまで我慢出来るから。……これからどうするの?」

「とりあえず、君には人間社会で擬態してもらうために、体外へ放出される魔力の制御と、角を隠すための魔法の修行をしてもらうよ。あ、もちろん隠すってのは見えないうえに触れないようにするって意味ね。」

「……それ、前者は多分10年くらい、後者は50年くらい修行が必要な技術なんだけど。」

「えー?そんなわけないよ。例えば前者なんて僕は一ヵ月くらい頑張ったらできるようになったんだから。やり方が悪いだけだと思うよ?」

 

嘘つけそんな方法あったら歴史上の誰かが絶対発見しているわ。……でもその話が気になるのも確か。

 

「……嫌な予感はするけど、シドがその強さを得るためにした修行は興味があるわ。」

「おお、いいね。まあじゃあ早速始めようか。」

 

……何から何まで不安だけど、おとなしく頑張るしかないか……。

 

「あ、ちなみに僕は最低でもあと300年は生きる予定だからそのつもりでよろしく。」

「ブ チ ギ レ そ う」

 

 

 

 

とりあえず私はシドの家の近くにある洞窟に身を寄せることになった。これからシドが時間を見つけて私のところに来て、魔法の修行をすることになった。でも私は、人間を勝手に襲わないように命令されてしまっている。人間を食べないと、死にはしないけど力は落ちる。そう言ったら、なんとシドが人間の死体を自分から持ってきた。曰く、「スタイリッシュ盗賊スレイヤーをしていた時に死体の処理に困っていたんだよね~。ちょうど昨日やってきたところだから、アウラにあげるよ。」らしい。人間ってかなり餓えても同属の肉は食べない習性だったはずだけれど???私の人間の認識をシドに合わせては絶対にいけないのだろうと、その時強く感じた。

……ま、まあ。そんな感じで意外にもシドは私の食事の面倒を見てくれるようだった。少なくとも私が魔族を服従させたとしたら「自分の飯くらい自分で何とかしろ」ってやっていたところだったので、この点は意外だった。本人曰く「人間以外だと、家の残り物を持ってくることになるけどね。」ということで、人間が手に入らなかったときも食事を提供してくれるようだった。……でも、一応自分の手でこの辺の動植物からまともな食事を作れるようにしないと。それに、もうすぐ冬だけど、シドは洞窟に寒さがしのげる程度の魔法的設備や、私がここにいることが察知されないための魔法の細工をしてくれた。そんな感じで、割と環境は整っている修行の日々が始まった。

 

 

修行一日目:

私の魔法技術を確認するとかいうことで、服従させる魔法(アゼリューゼ)以外の使える魔法を一通り見せた。シド曰く「まあ服従させる魔法(アゼリューゼ)以外は普通だね。」という評価だった。……自覚はある指摘だけど、改めて言われるとなんかムカつく。

そのあと、とりあえず直近の目標が「体外への魔力放出を抑えるようにしよう。」だった。まあ頑張れば私も一時間くらい持続する……と思っていたら、なんと「一時間とかじゃなくて、今後一生そうしてね」とか言われてしまった。無茶苦茶なと思ったけど、「アウラ、死ぬ気で頑張れ」と命令されてしまったので、頑張るしかない。私はできなかったら死ぬという思いで頑張った。一日目は放出を抑えられるように色々頑張っていたら疲れていつの間にか眠ってしまった。

 

 

修行二日目:

変わらず放出される魔力量を抑え続けた……けど、精神へのダメージが本当にひどい。自分が下の存在に格下げされたことが嫌でも実感される行いだった。魔族社会で言えば、今の私は自らの意思で地位を落とす馬鹿にしか見えないだろう。技術がどうとかじゃなくて心理的な「嫌」との戦いの方がキツかった。ちなみに、シドにそう言ったら、「え?もう魔族の社会に属していないのになんでそんなこと気にするの?」とか言われた。現実を認識させられたショックでその日は集中できなくなった。

 

 

修行十日目:

死ぬ気でやった成果なのか、とりあえず一日中放出量を抑えられるようになった。……でも、シドから見たら「えー?まだまだだよ。放出される魔力が揺らぎまくりだからフリーレンとかにすぐ見抜かれるよそのままじゃあ。」と呆れ顔で言われた。でもそれを言われたときに私は何も言い返せなかった。だって『死ぬ気でやっている』状態でこれだから、喋る余裕なんてないのだ。ましてや魔法を使う余裕も、動き回る余裕もない。文字通り一日中『死ぬ気で』やっているせいでここ数日水も食事も碌にとれていない。一応シドが無理やり口に肉や水を魔法で突っ込むので餓えはしないだろうけど。

ちなみに水面で顔を確認したけど一瞬別人かと思ったほど痩せてた。

 

 

修行三十日目:

何とか飲み食いができる余裕ができてきた。久しぶりに自分の手で口に運ぶ人間の肉は本当に美味だった。あと、自分の力で水浴びができるようになった。一応シドが汚くなったら私を魔法で洗ってくれていたけど、魔法で生成した水の塊に私を勢いよく放り込んでかき混ぜるだけという扱いでキツかった。服を洗うのと間違えているんじゃないの?

まだまだ私から放出される魔力は揺らいでいるけど、とりあえず魔法の素人からは分からないようになっただろう。ちなみにシドは今の私について「おかしい、上達速度が想定の1/3だぞ……?」とか言いやがったマジでしばくぞてめえ。

 

 

修行四十日目:

揺らぎが収まってきた。……フリーレン程度の魔法使いには見抜かれるだろうけど、人間の魔法使いの半数以上には見抜かれないんじゃないだろうか。シドからしても「うーん……まあ本当はその1/10以下の揺らぎに抑えてほしかったんだけど、仕方ない。運が悪くなければ

見抜かれないだろうし、いったん次の話をしよう。」とか言われた。いろいろ言いたいことはあるけど、とりあえず認められたようだ。

 

「さて、今までは動かない状態での魔力放出の制限だったから、今度は動き回る状況下での制限ができるようになろう。とりあえず動きつつ魔法使いながら制限してね。あ、そうだ。動きの中で揺らぎが出たらご飯抜きね。」

 

お前マジでふざけんなお前。「あ、そうだ」ってなんだよ思い付きでキツくしないで。あ、あと最近不摂生だから動き回るには足腰が……

 

 

修行五十日目:

精神と体を犠牲にした結果、動き回って魔法を使っても放出される魔力が揺らがないようになった。……なんだろう。最近は精神的ダメージから心を守るためなのか、修行がきつくても何も感じないようになってきた。

それと、シド曰く「今日から角を隠す魔法を習得するために頑張ろう。つまり、角を見えなく、触れなく、探知できなくするようにするんだ。」とのことだ。……いや、それが全部いっぺんにできたら魔族は皆それで人間を不意打ちしてる。シドの説明によると、この技術は制御の繊細さもさることながら、相当の魔力量が必要となるらしい。実際、説明を聞いてみると、理論自体は分かりやすいけど、とにかく魔力を消費する方法だった。私だったら、完璧に魔力を制御できたとしても2時間が限度の魔法だ。でも、魔力の総量はそう簡単に増えない。また死ぬ気で増やせとか言われるのかと思ったら、なんとコイツ、自力で魔力を増幅できる方法があるとか言い出した。何それ。今までの魔法の常識が音を立てて崩れ去る話よ。もし私がその技術を習得して、その後シドの支配から逃れることができたらもう敵なしじゃない。私は約一ヵ月ぶりに心の中に喜びを感じた。コイツの支配下でも生き延びようという気持ちになった。

でも具体的にどうするのか聞いたけど、よく理解できなかった。圧縮と爆発を体内の魔力で繰り返す……らしい。でもそんなことを文字通りに実行したら体は爆発四散してしまうので、魔力を激しく動かすとかそういう話なんだろうとは思う。でもなんだろう。猛烈に嫌な予感がする。今日はシドの門限の時間が来てしまったらしいので、明日から始めるとのことだった。

 

 

修行五十一日目:

前言撤回。喜びを感じた昨日の私を殴りたい。

コイツが教えてきた方法は、本当に、文字通りに、体内の魔力を圧縮し爆発させることを繰り返すことだったのだ。とりあえずシドの説明の通りに、万が一暴発しても平気なようにできるだけ小規模に体内の魔力を爆発させることを試していたら、シドが「いやいや、そんなんじゃだめだよ。もっとこのくらい思い切りよくやらなきゃ。」といって、私の首に手を当て、私の体内にある魔力を直接操作して見せたのだ。次の瞬間、本当に体内の魔力が攻撃に使える威力で爆発して、その直後に魔力が圧縮された。結果、私の体は体内で爆発が起こったにもかかわらず傷つかなかった。そして、体内の魔力は何故か分からないけど確かに増えていた。その時は、その神業とも言うべき技術に驚嘆して10秒くらい感心していたけれど、ふと我に返った。そして私はシドに言った。

 

「あの……シド?まさかとは思うけれど、この威力で私にやれと?」

「え?そうだよ。何回も言ってるじゃん?」

「……無理。」

「え?」

「無理無理!絶対無理!私修行中に絶対暴発を起こして死んじゃうわ!」

「えー?そこはさあ、服従状態なんだから諦めてよ。それにどうせなんとかなるって。実際僕だってやったんだからさ。"アウラ、体が傷つかないように制御しつつ体内の魔力で圧縮と爆発を今の威力で繰り返せ"。」

「い、嫌!無理無理死んじゃう!う、うわああああああ!!!!!」

 

そうして、最初に上手く制御できる訳もなく、私の魔力が内側から暴発した。

 

 

修行五十二日目:

一応体の傷はシドが治してくれたらしい。目が覚めたときは普通に動ける体になっていた。

でもそこからが地獄の始まりだった。……いや、この修行生活全部地獄だけど。でもこれ以降数十日が本当にひどかった。私はずっと血だらけの身体だった。命令されているから魔力の圧縮と爆発は全力でやらざるを得ない。けどこれ、想像していたよりも何倍も制御が難しかった。五十二日目は一日中頑張ってみたけど全然できないで失敗続きだった。そして、この修行で失敗するということはすなわち体の内から爆発が起こるということ。ひどい時には体重が半分くらいになったんじゃないかっていうくらい自分の中身が空っぽになった。一応シドが近くに居て、私が爆発したら魔法で治してくれたけど、私の精神までは直してくれない。ずっと赤い視界の中、何度も何度も肉や内蔵が私の中から飛び散っていくのを見て、私が人間ならそこら中肉の破片まみれで不衛生になるだろうなと現実逃避した。ああ、痛みを抑える魔法でも習得しておけばよかった……。

ちなみに、暴発させてしまい肉を飛び散らせる私を見たシドの感想は、「いや~懐かしいねえ。君ほど長い期間じゃないけど、僕も昔は失敗して今の君みたいな怪我をしたよ~」だった。私はコイツが実は痛覚が通っていないんじゃないかと疑った。後で聞いた話だけど、今は痛覚を自由に遮断できるけれど修行していた当時はそんなことやっていなかったらしい。時々人間が、魔族には人の心が無いのかと言うのを聞いたことがあり、当時はなによそれとしか思わなかったけど、今は少しだけその人間が言っていた『人の心』が理解できた気がする。

 

 

修行九十日目:

数百回の大けがを経て、何とか失敗しても内臓破裂で済む程度にコントロールできるようになった。……前に、この技術を習得できれば敵なしと言った気がするけれど、あれも撤回する。コストに対してリターンが少なすぎる。確かに、これをやれば魔力を多分無尽蔵に増やせる。この点は本当にすごい。でも、制御が難しすぎる。さっきコントロールできるとか言ったけれど、これは私がその場から動かずにコントールに全集中した場合の話だ。ここから動きまわる?考えたくもない。今の私は、少し風が吹いただけで暴発させてしまいそうな程危うい。それに、魔力を増やしたとしても、今度はその増やした魔力をきちんと体内に保管しないといけなくて、それにも修練を要するのだ。正直、どんなに修行を重ねても、私は実戦で使えるようにはならないと思う。この技術は、あの狂人が使っているから真価を発揮しているのだ。

それでも、前にシドが言っていた角を隠すための魔法に必要な魔力は何とか生成できそうだった。……そういえば、こんな思いをして習得する目標が、500年を共にした魔族の象徴である角を隠す事だったわね。……あれ、なんか手が震えてる。それに目から水が。……角、切り落とした方が早いんじゃないかしら……。

 

 

修行百五十日目:

 

…………

 

「ふーんこの子が、あんたの言っていたアーラって子?」

「そうだよ姉さん!この子は可哀そうなことに、森でボロボロになりながらさ迷っていたんだ!きっと魔族に襲われたんだよ!」

 

ボロボロなのはお前のせいよ。

 

「……わ、私は七級魔法使いのアーラよー。故郷が魔族に襲われて逃げてひとり逃げてきたのよー。」

「そう……あなたも災難だったわね。そんなに痩せて、なんてかわいそうに……。でも、七級魔法使いって本当?」

「勿論だよ姉さん。ほら、アーラが持っているこれを見て!これは大陸魔法協会が発行している七級魔法使いの証だよ!」

 

それはお前が殺した盗賊から入手したものだけどね。

 

「へ―本当なのね。ねえあなた。この家で働かない?あんまりいい給料は出せないけど、とりあえず衣食住は保証するわよ?パパ、ママ、いいわよね?」

「えー本当?願ってもない話だわー。」

「うむ。いいんじゃないか?魔法を使えるなら、この家のことをいろいろ手伝ってもらいたいものだな。」

「この家は騎士しか排出しない家系だから、魔法とはあんまり縁が無かったのよね。クレアとシドにも、いい刺激になるんじゃないかしら?」

「うん!僕、魔法使いってあんまり見たことが無かったから、アーラがどんな魔法を使うのか興味があるよ!」

「……そうね。私も、魔法を使う魔族相手を想定しての訓練が足りないと感じていたところよ。というわけで、これからよろしくねアーラ。」

「わーい、家族が出来て嬉しいわー。」

「……ふふっ。なんだか妹ができたみたい。積もる話もあるでしょう?アーラはバカっぽいシドと違って頭も良さそうだし、仲良くできそうな気がするわ。」

「そうねー、よろしくねお姉ちゃーん。」

「ふふっ。よろしく、アーラ。」

 

……いや、何よこれ。私が一番そう聞きたい。

 

修行を続けて、シド曰く「下手に動かなければ人間社会に潜っても大丈夫」なほどに角を隠す魔法が上達した私は、シドの家に住み込みで働くことになった。いや、いくら偽名を用意して角と魔力を隠したからってそう簡単に受け入れられるわけないでしょ……と思うけど、なぜかできたんだからいちいち突っ込む気はない。血が繋がっていないのに家族だの妹だの言われるのは本当に意味不明だけど、とにかくシドが魔法で伝えてくるセリフを言っておけば怪しまれないようだった。

ただ、修行を終えても、圧縮と爆発による魔力増幅はどうしても様にならなかった。動いたり喋ったりしているときでも何とか増幅を続けられるけれど、例えば戦いの最中とか、急に驚かされたりした時にこれをしていると間違いなく暴発してしまう。なので、人の目を盗んでできるときに増幅するしかないようだった。これでも、角を隠す魔法を維持するだけの魔力は確保できそうだった。それでも時々、失敗して内出血を起こしてしまうけれど、自力で何とか治療できる範疇だ。

それで、なんでわざわざ人間の屋敷に私が住み着くのかという話だけど、シド曰く、「姉さんが時々僕が陰の実力者プレイの為に外出するのを咎めるんだよね。アウラ、姉さんと一緒に居てあげてよ。そうすれば多分僕から関心が移るかもしれないからね。」らしい。嫌だったら家出すればいいじゃないといったけど、『アウラ。分かってないな。口うるさい姉に反発しての家出、というモブにとっての重大イベントは、大人から見れば情けないけど当人から見たら蓄積した不満が爆発したというような理由を作ってからしなければならないんだ。』らしい。いつも通り意味不明だ。『モブ』というのは普通の人間を指す言葉らしいけれど、この単語を使う人間は今まで生きてきた中で見たことが無い。シドは、『陰の実力者』をしていないときは『モブ』になることを望んでいるらしいけれど……普通の人間になることを望むって今の私みたいな擬態じゃダメなの?……まあいいか。何かトチ狂って「こんな力を持った人間は『モブ』じゃない!今すぐこの力を捨てよう!」とかやってくれないかしら。ちなみに、私はシドの言うことが意味不明だと本人に正直に言ってみたけれど、「まあ残念ながらアウラは陰の実力者としての才能が無いみたいだからね。でも、努力を重ねれば少しは理解できるようになるさ。僕はそういう努力を重ねる姿勢のアウラは好きだよ。」らしい。つまり理解する努力は続けろということだ。絶対無駄な努力だと思うけれど。

まあ、私としてもずっと洞窟暮らしなんてのは嫌だったので、家に入るのはそんなに嫌な話ではない。まあこのクレアとかいう人間たちと、殺さずに関わっていかなきゃいけないのでそれは苦痛だろうけれど、あの修行の時間を過ごすよりは断然楽だろう。

それと、これからのことだけど、私は『陰の実力者の配下』をやれるだけの理解も才能もないらしいので、舞台における黒子のような役割をして欲しいとのことだ。まあ……要するに雑用なんだろう。最初に出された命令が買い出しだったから。でも、こうやって堂々と人間がいる街を歩けるほどに偽装が上手くなるなんて以前までは考えもしなかった。この点は確かに成長を感じた。

 

……え?何?じゃあ辛くてもシドとの修行を重ねてよかったね、だって?

 

…………良くない。

 

力を得た以外は何も良いことがない時間だった。

 

確かに、私の魔法の技術は成長した。シドに服従する前の修練の五倍くらいのスピードで上達できた感覚がある。それに、圧縮と爆発に関する制御についても、うまくやれば新しい攻撃魔法に転用できる気がする。シドに人間を攻撃することは禁止されているけど。

でも、じゃあこの圧縮と爆発の技術を今後も磨いていきたいかというと、絶対磨きたくない。偽装の必要がなくなったら途端にやめるだろう。情けない話かもしれないけれど、私にとってこの技術は痛みと恐怖の象徴だ。圧縮するたび、私の内臓も一緒に潰れるんじゃないかという気がするし、爆発させるたび、制御を誤って体から血が噴き出る光景を幻視する。こんなの、私が得た力じゃない。私は、人間を殺すために生まれた魔族だ。人間を殺すのが楽しみで魔法を磨いてきたんだ。魔法の為に人間を殺したわけじゃない。魔法の為にこの身を危険にさらすなんてあまりにもバカバカしい。

でも……シド・カゲノー。コイツは違うんだろう。目的のためなら、本当に『何でも』やる人間だ。見ていてわかる。コイツは、他の人間と違ってあのクレアとかいう姉に対してすら、仲が悪いわけでもないのに大事にしている様子が無いのだ。人間はほぼすべてが無条件に家族を大切にする。私の500年の人間観察ではそうだったし、人間自身もそう言っていた。でも、コイツは明らかに違う。明らかに精神構造が異なっている。人間からも魔族からも離れた心を持つ何かだ。『陰の実力者』となるためなら、自分の命すら危険にさらす。それ以外のことは、つくづくどうでもいいのだろう。

まあ、それだけならば頭のおかしい人間がいる、で終わりだけど、運命の歯車が変にかみ合ったのか、コイツは『陰の実力者』を実現できるほどの力を本当に手に入れてしまった。つまり、人間にも魔族にも理解できない存在が、とんでもない力を持ったということだ。予測不能なものほど恐ろしいことは無い。私はあの修行の日々でそれを学んだ。私がシドを理解できないように、シドも私を理解していないだろう。

 

目の前の店番をしている人間を殺したい欲求を抑えながら、私は碌に楽しみのなさそうなこれからの魔族生のことを考え、憂鬱になるのだった。




・シドのアウラへの修行の指導
憎んではいないが関心もないので結構適テキトーな指導方針である。つまり自分基準でアウラがどう感じているかなどほぼ考えていない。

・アウラ
可哀そうに!

・クレア
本ssでは描写できていないけど割とブラコンである。
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