--追記--
色変えは消しました。読んだ方はすみません。
シャドウの身体から魔力が溢れ出す。だが、その量は先ほどまでの比ではない。シャドウが体外に放出される魔力を制限していたことは、出会ったときからわかりきっていた。使用する魔法と比べると、あまりにもアンバランスだったからだ。しかしそれを加味しても、放出される魔力量の変化があまりにも大きかった。
「……そこまで完璧に放出される魔力を制限していたなんて。いったいどれほどの年月を修行に……いや、それ以前の問題。シャドウ、貴方はそもそも魔力の扱いが生物とは思えないほどに精密なのね。そもそも魔力制御のために、生物としての身体構造を改造しているのかしら?」
ソリテールは相変わらず質問を投げつけるが、それを無視してシャドウはソリテールに向かい手をかざす。手にゆっくりと魔力が収束していき。
「Lesson 1 . 使う魔力は最小。一点に集中させ無駄を省く。」
シャドウがそう言うと同時に、ソリテールは宙へ打ち出された。事前に貼っていた防御魔法が全く意味をなさないほどの高威力。ソリテールはその衝撃で血を吐くが、同時にその技術を考察した。
(……今の、私がやってきた『魔力を打ち出すだけの魔法』だ。でも、木々が全くなびいていないところを見るに、私にだけ影響があった。あの威力で、本当に魔力を打ち出すだけなら周囲の物も破壊されるはず。)
だがソリテールは、先ほどの攻撃で自分の胴体につけられた打撲痕が、きれいな円形になっていることを発見した。そして気付いた。
(……まさか、魔力制御を極めれば、これほど無駄のない『魔力を打ち出す魔法』攻撃ができるというの!?……そうか、これは、シャドウからのメッセージなのね。技術の無い魔法など無いと。そういうことなの!?)
ソリテールはそこまで考えたところで、突然背後に違和感を覚えた。振り返ると、目の前には手をかざして再び魔法を打ち出そうとしているシャドウがいた。
ソリテールは、本当に直前までこの気配を察知できなかった。魔力探知は欠かさなかったにもかかわらずだ。振り向いた直後に、遅れてシャドウの魔力探知が背後にいることをソリテールに教えた。
「Lesson 2 . 魔法の行使は一瞬。脚に集中させ一気に加速し、逆方向に魔力を爆発させることで急停止する。」
強烈な衝撃がソリテールを襲い、また別方向へソリテールは打ち出される。その後、またシャドウがソリテールが打ち出された以上のスピードでソリテールの背後に先回りし、またソリテールを打ち出す。それが何度か続き、最終的に地面にたたきつけられた。ソリテールは空中で高速お手玉をされ、深刻なダメージを受けてしまい、起き上がれなくなってしまった。
地面に這いつくばるソリテールの前に立つシャドウ。だがそのシャドウを見上げるソリテールの目は、諦めに塗れたものではなく、むしろよりシャドウの技術を観察しようとしていた。
そして、ソリテールは一つ、気付いた。
「……ガハッ、ガハッ……シャ、シャドウ……目に見えて、魔力の、放出が、減ってる……そんなに減らして、本当にいいのかしら……?」
激痛に襲われながらも、問いかけを止めないソリテール。それに反応してなのか、シャドウはソリテールを見つめ、何かに集中しだした。
直後、ソリテールに、この場にいる魔法使い全員にとって常識外の現象が発生した。シャドウの放出する魔力が増加したのだ。残存魔力を増やす魔法など、過去に類似例すらない。そんなことが可能なのならば、もはや魔法使いは魔力切れ問題とは無縁になるであろう。
「Lesson 3 . 魔力で圧縮と爆発を繰り返す。体内の魔力をこの技により増やすことで、魔法の可能性に限りは無くなる。」
「……な、なによ、それ……魔法の、常識が、根底から……」
「魔法に、頂など存在しない。そういうことだ。」
「……何を、何を目標に、あなたは、そこまで……?」
「ふむ?」
「…………魔法は、イメージの世界。高い威力を欲するなら、その威力が何をもたらすのかをイメージしなければ、使えない。でも、この世に、あなた以上の魔力を持つ存在なんて……ゼーリエくらい、かしら。でも、ゼーリエと比較するなら、あまりにも扱う魔法の系統が、違う。ゼーリエが魔法の知識による高みだとするならば、あなたのそれは、制御の緻密による、高み。いったい、何を目標に、あなたは……」
ソリテールがそこまで問いかけると、シャドウはしばらく間を置いたのちに、口を開いた。そこから出た言葉は、威厳さよりも少しのやさしさや親しみを感じさせる声に乗っていた。
「遊びは終わりだ。」
◇
途中のレヴォルテ戦までは順調だったんだ。
魔力探知を阻害する霧がかかっていたから登場の機会を掴むのが難しかったけれど、ある時霧が晴れると同時に彼らがピンチになっているのが見えたので、雑魚魔族を一掃しつつスタイリッシュに登場。ついでに前回素晴らしい主人公力を見せてくれたシュタルクに向かって「フッ、俺はお前のことを認めてるぜ」アピールのために意味深な笑顔を投げかけた。
そしてその後は、剣を扱うまさに王道な魔族の戦士であるレヴォルテとバトル。僕が戦ってきた魔族の中でも有数の強さを誇る戦士で、僕としても戦っていて楽しい相手だった。その上で、その有力な戦士を圧倒するという実力者ムーブも出来たことだし、大満足だ。
でも、その次の戦いが問題だった。人間っぽい見た目のソリテールと名乗る魔族。なんかすごく質問を投げかけてくるのだ。本当に何でもかんでも聞いてくるんだよ。まあまだ「お、お前はどうしてそんなに強いんだー!?」的な質問なら分かるんだけど、僕の好きな食べ物とか、前に僕が小細工をかけた魔族のこととか、好きな武器とか、好きな服装とか、好きな物語とか、果ては僕の身長についてとか、明らかに戦いに関係ないことまで聞いてくるんだ。いやまあ、確かにこの世界の住人からしたらシャドウという存在が目新しいのは分かるよ?でも、今は命を懸けたバトルの最中だ。TPOというものがあるよね?僕は陰の実力者としての演技も忘れてついそう言ってしまいそうになった。
多分、このソリテールという魔族は、人間でいうところのあれだ。厄介オタク。前世でもそういう感じの人たちいたよね。自分の好きな対象についての言葉が止まらなくなる人。この世界はサブカル的なのがあんまり発達していないから今まで頭から抜けていたけれど、まさか魔族にそんな存在がいたとは。確かに僕はシャドウの時はカッコよく振る舞うことを心がけているけれど、ここまで効く人が現れるとはね。そもそも君、多分初対面だよね?もしかしたらコッソリみられていたのかもしれないけど、少なくとも僕は認知していない。……いや、これは僕もそうだな。前世の幼い頃にあこがれを抱いたときも、僕が一方的にカッコいいと思っただけで、画面や物語の中の存在が僕を認知しているわけじゃない。……つまり、憧れを抱いて生きていた僕が、ついに憧れを抱かせる側になったというわけか。そう考えると感慨深いな。僕の陰の実力者活動の、一つの実績と言ってもいいかもしれない。
さらにこのソリテールという魔族さん、なんか突然魔法の高みが見えないとか言い出したのだ。聞いた時はさっぱり理解できなかった。僕は修行して、この世界の中ではトップレベルの実力を身に着けたと自負しているけれど、まだまだ足りないと思っている。僕の最終目標はこの世のあらゆる脅威に対してスタイリッシュに圧倒できる実力だ。例えばあのゼーリエというエルフを圧倒できるようになることも目標の一つだけれど、この世界には背に森ができるほどにデカいドラゴンとか、女神と呼ばれる存在がある。他にも、前世の核爆弾、地震、嵐、疫病、自然界の魔力の脅威、そのような僕ひいては人類の脅威となりえるあらゆること。これらに余裕で対処できるようにならないとダメだ。陰の実力者が雷に打たれて死にましたー、流行り病で死にましたー、なんてカッコ悪いしね。僕は物理的脅威にはだいぶ対抗できるようになったけれど、一般に呪いと呼ばれる魔法への対処がまだ不十分。地面を砕くことはできるけれど、地面をそのままに地震を止めることはできない。空にエネルギーを放って雲を晴らすことはできるけれど、天候を操るといったことはできない。こんな感じで、僕はまだまだ習得しなければならないことが沢山あるのだ。こんな状況下で高みが見えないなんて言えないね。
……でも、この魔族さんの話を聞いてみて、僕はなんとなく理解した。彼女は、今までの人生……いや、魔族生の中で、憧れるものに出会えなかったんだ。この魔族さんは、まあちょっと変わった性格ではあるけれど、努力家であることに間違いはない。保持している魔力量からはそれまで研鑽を重ねてきたことがわかるし、あの剣を出す魔法だって(あくまで僕が見てみた中ではあるけど)相当高度な魔法に見える。でもある時から、努力の目標を失ってしまったんだ。確か、魔族は人間を殺すことが生きがいの生き物のはず。つまり、人間を殺せれば、それ以上は本能の対象外ということだ。まあ確かに、彼女の使う魔力を放つだけの魔法でも、彼女の魔力量なら大半の人間を楽に殺せる。彼女の周囲には、魔王とかの彼女以上の実力者もいたはずだけれど……多分、彼女は魔法の修練の先に、魔族の中でで一番になるとかじゃなくて、人間をどうやって殺すかをいつも目標として据えてきたんだろう。だから、それが簡単に達成できるようになってしまって、『高みが見えない』という気持ちになったんだろう。魔法の修練が完全に自己満足と化してしまったのだ。
彼女は、前世で核爆弾に出会えなかった僕なのかもしれない。僕は核爆弾を撃たれても死なない陰の実力者を目指して色々努力してきた。色々捨ててしまったものもあるけれど、その努力の日々は実際充実していて、僕の人生に張りを与えてくれたという点では、不謹慎かもしれないけれど核に感謝している。幸運や才能ありきかもしれないけれど、目指すものがある人生って素晴らしいと、僕は今までの人生経験上結構実感を伴ってそう思っている。
……うん。そう考えると、『陰の実力者』を目指す僕で良かったな。一定の実力で満足して努力を止める『陰の実力者』なんて考えられないから、僕はこの先の人生ずっと何かを極め続けることになるのだろう。このソリテールという魔族さんのおかげで、僕が『陰の実力者』としてなすべきことが見えた気がする。初心を取りも戻せたって言うのかな。ありがとう、君のお陰だ。だからこれからすることは、僕から君へのちょっとしたプレゼントだ。君は人生の目標を設定することに失敗しちゃって、燃え尽き症候群みたいな感じで魔法の高みが見えなくなってしまったようだけれど、またこれから高みを目指していけばいい。今世の探求の道はここで終わりだけれど、僕が転生できたんだし、多分彼女も転生できるだろう。その来世において目指すべき高みというものを、これから感じ取ってほしい。
だからこれで、遊びは終わりだ。
◇
「遊びは終わりだ」
シャドウがそう言った瞬間、彼の魔力が高まりだす。だがそれは、あまりに莫大で、緻密だった。その高まった魔力は、青紫の線となって剣の先から姿を現す。細い青紫の線が、幾筋もシャドウに絡まっていき、複雑な模様を描き出す。
それを見たフリーレンは、怪我などしていないかのように立ち上がり、他三人を魔法で引っ張り全速力でその場から離れだす。
魔力の扱いに長けるフェルンとザインは、目の前の光の恐ろしさを理解できたが、戦士であるシュタルクはその危険性を把握できなかった。
「!ぶ、ぶふっ、フリーレン、突然どうしたんだよ?もうちょっと優しく引っ張って、枝とかが顔に当たりまくって、」
「逃げるよ!!!全力!!!」
「シュタルク様、あの魔力が分からないんですか!?多分この森が完全に消滅します!」
「は、はあ!?マジかよ?」
「シュタルク、悪いが説明してる暇は無い。あれはヤバい、マジでやばいからとにかく逃げるぞ!」
「わ、わかったから引っ張らないでくれ、走りにくい。」
「シャドウめ……やっぱり本質は疫病神だ……!」
そうしてフリーレン一行はその場を去った。
ソリテールはその場から動かずにその光を見つめていた。一瞬だけそうしていたのか、それとも何分も見つめていたのか。だがやがて気が付く。
「……すごい。すごいわ。これは本当にすごい魔法よ!」
ソリテールは、魔族らしからぬ興奮した声で、両手を胸の前で握りしめてその光を見つめた。その姿は祈りのようにも見える。
「魔力を圧縮することでそんな美しい線を実現できるなんて!理論上可能なのは知っていたけれど、まさか現実にお目にかかれるとは、なんて幸運なの!」
模様はやがて拡大していく。一個人が扱うにはあまりにも大規模なそれは、ついに周辺一帯の森を全て囲ってしまった。その魔力量からして、中にいる者は生存が絶望的になってしまうが、牢獄と表現するにはあまりに美しい光だった。
「しかもこの大きさ、私が感じ取れるよりも遥かに膨大の魔力、いえ、天災と言っても過言ではないわ!」
ソリテールはシャドウにふらつきながらも近づいた。
「ねえ、教えて、教えて欲しいの、シャドウ。あなたは、一体、何を思って、生きているの?」
「……かつて、核に挑んだ男がいた。」
シャドウは厳かに語りだした。
「天より降り注ぐ、人々の営みを無へ返す究極の破壊。それに抗うため、男は肉体を鍛え、精神を鍛え、技を鍛えた。……だが、それでも届かぬ高みがあった。」
シャドウの言う「かく」はソリテールは知らなかったが、きわめて威力の高い爆弾のようなものだとなんとなく理解した。
「……しかし、僕は諦めるわけにはいかなかった。だから修行を重ねた果て、一つ、答えにたどり着いた。核でも蒸発しないためには?
自分が核になればいい。」
どこか決意を込めたような声だった。それを聞いて、ソリテールはシャドウの言いたいことを掴んだ。
洪水に人間を殺されたのなら、私が洪水に打ち勝てる魔法使いになればよかったんだ。
シャドウの魔法を見て、その言葉を聞いて、ソリテールは目標を得ることができた。すると、ソリテールの頭に、やりたいことが山ほど浮かび始めた。
「……そうか、分かったわ。私はその領域に至るために、まずは私の魔力量を高めなきゃね。」
「まだ終わりではない。真の高みを、その身に刻め。」
そう言うと、シャドウの剣先から出る魔力の線の数が増えていく。何かとてつもない魔法が使われることを、ソリテールは感じ取った。
「……いや、そうね。まずは膨大な魔力を制御する技術を手に入れなくちゃね!ああでも、それの為に魔力の圧縮と爆発を研究しなきゃ!」
「そもそも魔法行使の体系を一から見直さなきゃ!残魔力量を管理しながらの戦いから、出力が決め手になる魔法の時代が来るわ!そのために私の身体を魔力制御に適したものに改造しなきゃいけないのね!今まで消費魔力のせいで日の目を見なかった魔法も活躍するかもしれないわ!」
「まだよ!私の魔法はこれからもっと―――
その日シャドウが放った膨大な魔力の光は、大陸のどこからでも見ることができた。膨大な魔力は天を貫く柱のようで、人々に長い間記憶されることとなる。
みんなアトミック大好きなんやなって感想見てて思った。ワイも正直アトミック撃たせたいがためにソリテール襲撃イベントを起こした節がある。
あとアニメのラオフェン良かったね。