「……痛っ」
「フェルン、何してるの?」
「フリーレン様。ちょっと思いついたことがあって。」
「……まさかとは思うけど、シャドウの魔力増幅技術を真似しようとしているわけじゃないよね?」
「……いえ、あれよりはるかに小規模なもので」
「ダメだよ。あれは頭のおかしい人のやることだ。」
フリーレンは真剣な目でそう言った。フェルンが修行をしていること自体を咎められることはこれが初めてだった。
シャドウの戦いのあと、フリーレン達はザインと別れ、一級魔法使いの試験を受けるためにオイサーストに滞在していた。しかし試験の日までにはまだ猶予があるため、フェルンとフリーレンは魔法の訓練をしていた。
その中でフェルンは、ソリテールとシャドウの戦いで一端が明らかになったシャドウの技術を見よう見まねで真似てみていた。だがその制御の難易度はフェルンの想定をはるかに超えており、今のように爆発の制御を誤り、魔力を集中させてしまった部位から出血してしまうことを繰り返していた。
「……あれをそのまま真似るつもりはありませんよ。」
「真似ること自体止めて欲しいんだけどね。……圧縮と爆発による魔力増幅は、別にシャドウが初めて発見したってわけじゃない。」
「え、そうなんですか?」
「魔法の歴史はまあ、長いからね。……でも、試したことはあっても、実用した魔法使いは多分いないよ。」
「……なぜなのでしょうか?」
「危なすぎるんだよ。増えるとは言っても、実用できるほどの量を生み出すには攻撃魔法と同等の威力が必要だ。それが体内で起こるんだよ?仮に出来たとしても、少しでも体外から衝撃を加えられれば暴発してしまう。全身に爆弾を巻き付けたような状態になるんだ。そんな状態で敵と戦うなんて無理。実用しようと試みた過去の魔法使いはもれなく爆発事故を起こして死んでるよ。」
「……では、あのシャドウはどうやって運用していると思いますか?」
「…………分からない。何かの魔道具を利用しているとか……でも、それができる有用な魔道具なんてあったらもうとうに名が知られているだろうし……」
「シャドウの使っていた……確か、
「……人間、いや生物の個人が扱える魔力量とは思えない。ゼーリエでも無理じゃないかな。あの魔法、魔力量が膨大なだけじゃなくて、それを制御下においているのが信じられない。あの村が無事なのは見たでしょ?シャドウって統一帝国が作った人型兵器か何かじゃないかなって思うよ。」
シャドウの
……ただし、その村の生活に密接に関わっていた森が消失してしまったので、フリーレン一行はその森の再生にいくらか協力することとなった。シャドウの
「……でも、まあちょっと試すだけですから……」
「いや、そんな危ないことやる必要ないでしょ。」
フリーレンが、弟子の危険な行動を諫めることは当然と言える。それとは別に、あのシャドウのような異常者になってほしくないという思いがあった。
「フリーレン様。悔しくありませんか?」
「……え?うーん……まあ私としても邪魔ばっかりされていい思いはしてないよ。」
「それもありますけれど……私たち、シャドウから一本も取れていません。」
「まあ、うん。」
「シュタルク様は一撃入れたのに。」
「あれはすごかったね。」
「フリーレン様。お忘れですか?シャドウの正体を。」
「正体……?いや、それが分からないから困っているわけで……」
「シャドウの正体は、スタイリッシュ魔族スレイヤーなんですよ。分かりますよね?自分で自分のことをスタイリッシュとか言ってるんですよ?」
「う、うーん……」
「要するにあれはふざけて生きてるんです。そんな存在にいいようにされて、不愉快ではないはずがありません。」
「そういう話なのかな……?」
「そうです。フリーレン様もシュタルク様も、シャドウを大きく見過ぎです。第一言うことがなんかよく分からないのが多いですよね。皆さまはシャドウの言葉が深すぎて考察に困るとか言っていますけど、私は信じません。」
そういうフェルンの声は、確信しているというより、決意のために言っているように感じられた。フェルンも心の中で、シャドウはそのような単純な頭をしてはいないと理解していたのかもしれない。フリーレンは、強大な相手に立ち向かうために自身を鼓舞するような意味合いなのだと理解した。
シャドウの言葉は、一部の人間の間で議論になっていた。言うことが抽象的であるため、実は適当言っているだけなのではと推測する者も一部にはいるが、大半は何か自分たちの知らない重要な事実に基づく発言であるとか、深淵な考えから来る言葉であると信じられている。シャドウならばそうなのだろうと感じさせるほどに、シャドウの実力は高く、未知の技術を持っていたのだ。
「そう考えると、なんかいいようにされている現実にムカついて来ませんか?フリーレン様。」
「……まあ、そうだね。でもそれより私は皆の無事の方が大事なんだけれど……」
「そんなに心配なのでしたら、フリーレン様も手伝ってくださいよ。シャドウほどの威力が出せなくても、安全のために妥協するやり方などがあるはずです。」
「うーん、まあ私の弟子がここまでやる気を出しているし。とりあえず術式による補助を試してみるかな……」
そうしてフリーレンはフェルンの修行を手伝いだした。内心あまり歓迎していないのは確かだが、シャドウの技術を自身のものに出来れば非常に有用であることは事実で、フリーレンとしても少し興味が湧いたのだった。
「あれ、フェルン、なんか今成功しなかった…………?」
おや?フェルンのようすが……?
この戦いでソリテールはシャドウの技術をかなり割りました。良くも悪くもこの世界に影響を及ぼしていくと思います。