魔法世界の実力者になりたくて!   作:Assassss

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速すぎる男、『ジミナ・セーネン』

その攻撃に使われた魔力は、試験区域の誰もが感じ取れるほどに大規模だった。デンケンは魔法でジミナの周辺を炎の海にし、リヒターはジミナの周辺に土の槍を殺到させる。ラオフェンは、二人の傍に待機して、ジミナが想定以上の規模の攻撃を仕掛けてきた場合に備えていた。

その攻撃魔法の規模は、試験区域の受験者が誰でも見ることができるほどには大規模だった。しかししばらくすると、突然デンケンが叫んだ。

 

「!ジミナが消えた!周囲を警戒しろ!」

 

デンケンは攻撃中、攻撃と並行してなので精度は劣るが、ジミナの魔力探知は続けていた。攻撃魔法により視界がふさがれる事への措置だ。その観察によると、ジミナが瞬間移動したかのように突然消えたのだ。

デンケンとリヒターが攻撃を止め、しばらくすると視界が晴れる。そこには本当にジミナがいないことが肉眼でも確認出来た。

 

「……儂には探知できん。リヒター、どうだ?」

「……俺もだめだ。」

「少なくとも、私の高速で移動する魔法(ジルヴェーア)みたいに移動する系の魔法だと思うよ。一瞬だけど、何かがあの中で動いたように見えた。」

「そうなのか?儂は分からなかった。」

 

ラオフェンは高速で移動する魔法(ジルヴェーア)の習熟の為に、高速で移動する物体をとらえることに関しては他2人より鍛えられていた。

 

「瞬間移動じゃないんだな?じゃあ棘は効果があるということだ。」

 

そう言って、リヒターは周囲に土の棘を大量に生成した。

 

「……いや、それができるなら籠を回収されたまま逃げられる可能性があるな。ジミナのパーティ2人は……よし、幸いにもそこにいるな。そいつらを人質に事を進めることを考えるべきだろうな。」

「その必要はない。」

「!!!」

 

リヒターは、背後から聞こえてきたジミナの声に、反射的に後ろを向き防御魔法を貼った。だが、実際にはリヒターの背後には何もなかった。

 

「……なんだ?デンケン、ラオフェン、今俺の後ろにジミナがいたか?」

「いや、儂は見てない。」

「……私が見たときにはもういなかった。でも何か気配はした……気がする。」

「……少なくとも、生身の人間ができる動きの域を超えている。あのヒンメルや、南の勇者でもできるか怪しいだろう。おそらくは魔法を使ったはずなのだが、魔力探知には何もかからない。何故だ?」

「簡単な話だ。こうすればいい。」

 

その声が響いた直後、3人の目の前に、一般攻撃魔法が飛んできた。3人はかろうじて防御を間に合わせたが、声が無ければ間に合っていなかったであろう間合いに入るまで、3人はその攻撃に気付けなかった。

 

「……方向からして、儂の前方から撃たれたはずなのに、なぜ儂は気づけなかった!?」

「しかも棘に引っかかった様子もない。クソ、どうなっている……!?」

「……ねえ、多分なんだけど、あの攻撃、まったく周囲に魔力を発散しないようにコントロールされてるんじゃないの?」

「は、はぁ?いくら何でもそんなことできるわけないだろ。」

「で、でも現に魔力探知に引っかからないんだしさ。そう考えるしかなくない?」

「うむむ……そういえばあのゼーリエ大魔法使いはそれができると聞くから不可能ではないはずだが、ゼーリエ以外に出来るという魔法使いの話を聞いたことが無い。仮にその仮説が正しいとなると、少なくともジミナの魔力コントロール技術はゼーリエ並ということになってしまうが……。」

「お喋りとは暢気なものだな。」

「!!!"光の槍を放つ魔法(ラヅデリツ)"!」

 

デンケンは再び後ろを振り返る。今度は、ジミナの姿を視認できた。デンケンは即座に魔法で光の槍を生成し、ジミナに突き刺した。

一瞬、デンケンは槍がジミナを貫いたように見えた。だが次の瞬間、その姿が掻き消える。

 

「な、な!?今確かに貫いたはず!?」

「……残像だ。」

 

その声が聞こえた直後、デンケンは一般攻撃魔法に襲われる。あまりのことに、防御魔法は間に合わず、もろに喰らってしまった。さらに、なぜか下方向からの攻撃であったために、デンケンは宙に打ち上げられる形となった。

デンケンは空中で自身の状態を把握すると、即座に飛行魔法を発動して姿勢を制御し、魔法を放たれた地面の方向を確認するが、何もなかった。

 

「何度も背後から来ている。何故学習しない。」

「な!?ふごっ!」

 

その直後、またしてもデンケンの背後から攻撃が来た。質量を持って殴られたような感触であり、デンケンは地面にたたきつけられた。リヒターの設置した棘は避けられ、ちょうど先ほどデンケンがいた位置に撃ち落された。

 

「お、おじいさん、大丈夫!?」

「……あ、ああ、まだ動ける。ジミナ・セーネンめ、年寄りを何度も驚かせおって……」

「デンケン、一旦休んでいろ。先のことを考えると、傷を癒すための時間が必要だろう。俺が足止めする。」

 

リヒターの目の前には、いつの間にか着地していたジミナがいた。相変わらず猫背の一見弱そうな姿だが、3人にはもはやそちらの方がふざけた姿に見える。

 

「俺は、自らに降りかかる火の粉を払っているだけだ。お前たちが去るならば、時間稼ぎなど不要なはずだ。」

「このままコケにされて帰れるか。せめてそのふざけた魔法くらいは打ち破ってやるよ。」

 

リヒターはそう言って地面に手を突く。直後に、地面から再び土の棘のようなものが生えてきた。先ほどと違うのは、その形状がまるで網の目のように細い線で構成されていたことだ。

 

「デンケン!よく見といてくれよ!」

「ああ。」

 

リヒターはジミナがいる手前詳しく話さなかったが、土の細い線にはそれぞれにしっかりと魔力が通されている。その魔力は、デンケンにも通されている。仮に何かがそれに触れ、破壊した場合には、パーティの中で最も魔力の扱いに長けているデンケンならば触れた物の魔力を確実に察知できるだろう。つまり、リヒターは、ジミナの周りに魔力によるセンサーを張ったのだった。そのセンサーの役割を果たす土の線は、上空や地下も含めてジミナが触れずに出ることはできないであろう程に張り巡らされた。

その上で、リヒターは声を投げかける。

 

「この土の線に生身で触れようとしない方が良い。魔力で糸鋸程度には鋭くしてある。お前がどんなに素早く動けるとしても、多少の手傷は負わせられるというわけだ。」

 

確かにジミナの動きを封じることもあるが、それは本命ではなくジミナの魔法の仕組みを暴くことが、リヒターの真の目的である。何かの魔法を使ってこれを突破するつもりなら、少なくともその魔力を検知することで魔法の中身が割れ、魔法を使わないならば、傷を負うことは避けられないということだ。

ジミナは、土の糸の檻にとらわれたまま動こうとしない。しかしリヒターは、彼が何もせずにただ立っているだけであると侮るつもりはなかった。檻の傍で土が隆起し、そこから小型の槍が生成され、土の糸の間を縫ってジミナに放たれる。何も対策しなければ、ジミナは頭を貫かれるだろう。

しかし、次の瞬間。

 

「ん!?消え、ふぐっ!?」

 

リヒターから見ると、ジミナの姿が突然消えた。かと思うと、その直後には鳩尾を膝蹴りされいた。リヒターは特別動体視力や魔力探知に優れるというわけではないが、それを加味してもあの土の糸を張めぐらせていた上で見失うことなど信じられなかった。

リヒターは呻きながらもジミナから距離を取り、デンケンとラオフェンのところに戻る。

 

「いてて、くそ。……土の糸は……破壊されていないな。なら決まりだ。ジミナの魔法は空間転移系だ。わずかにだが魔力の発生を感知した。デンケン、空間転移系の対策魔法はあるか?」

「ああ、ある。儂も魔力を感じた。しかし希少な空間転移魔法の使い手をこんなところで見られるとはな。しかもあのような者が……」

 

2人は、魔力の発生を確かに感知したが、あまりにも一瞬で微弱であったために、細かい解析はできなかった。しかしデンケンは、高度な魔法を目の前の青年が使っていることに感心しつつも、これでやっと一方的な戦いから脱せられると、少しだけ安心した。

しかし、ふとラオフェンの顔を見ると、今まで見たこと無い程の驚愕の表情を浮かべていた。

 

「……どうしたラオフェン。」

「…………違う。」

「うん?」

「空間移動なんかしてない。あいつ、本当に高速で動いてリヒターの前に移動しただけだよ。」

「は?いやいや、土の糸が全く破壊されていないぞ。」

「全部避けてた。最小限の動きで……例えばバク宙とか、前転とか、スライディングとかを……いや、なんて言えばいいんだろう。とにかく、最高速度を維持したままあの糸を全部避けて走り続けたんだ。動作の全てが完璧で淀みなくて、まるで水が張り巡らされた糸を通るくらい滑らかな動きだった。すごい……私も武術を極めたらあの領域までいけるかな……」

「……ちょ、ちょっと待てラオフェン。じゃあなんだ、ジミナは本当に武術の達人だということなのか?」

「そうだよ。どこの流派なんだろう……?見たこと無い癖の動きだったけど、少なくとも私が出会ってきた中でも1,2を争うレベル。そっちが言ってた魔力の探知ってのも、多分加速するために魔法を使っただけなんじゃないかな?」

「その通りだ。バレてしまったか。」

 

ラオフェンの耳にその声が届いた直後、高速で移動する魔法(ジルヴェーア)をランフェンは反射的に使い、声の方から一歩離れて振り向く。そして、信じられないものを見た。

 

ジミナがほとんど魔力を使わずに、高速で移動する魔法(ジルヴェーア)を使うラオフェンと同速で動いていたのだ。

 

ジミナの使う魔法は、高速で動くという点では高速で移動する魔法(ジルヴェーア)と同じだが、魔力消費量が数十から数百分の一程度しかないと、ラオフェンは感じ取った。そしてそれは、人体への深い深い理解からなされる技術の結晶だった。高速で移動する魔法(ジルヴェーア)は単に「高速で動く」というイメージにより構築される魔法だ。さらに、この魔法は脳の処理速度まで上がるわけではないため、事前にどのような動きをするかをイメージする必要がある。だが、ジミナのそれは、「関節のここをこの程度加速させ、脚のこの筋肉はこのように強化し……」と、どの部位をどのように動かすかを、逐一コントロールしていたのだ。それにより、無駄なエネルギーを全く消費していない。ラオフェンはこの武術への解像度の高さの差を感じ取り、悔しくもあったが、それ以上に人間業と思えない技術に、そしてそれを高速で移動する魔法(ジルヴェーア)のスピード下で実行できる処理能力に、ひたすら驚嘆した。

ジミナは、高速で移動する魔法(ジルヴェーア)中のラオフェンに殴りかかる。しかしそれは、一つ一つがなぜか受けやすいものだった。ラオフェンはそれを防御しながら、なんとなく既視感のある動きだと思った。しばらくの攻防ののち、ラオフェンは気付いた。これは組み手だ。当初の猫背はどこへやら、武人にふさわしい直立姿勢で、ラオフェンに正しく組み手を仕掛けていたのだ。故郷の師匠が、高速で移動する魔法(ジルヴェーア)中に組み手ができることが達人の証だと言っていたが、まさかここでその手本を見ることになるとは思ってもみなかった。高速で移動する魔法(ジルヴェーア)をしながらの組手は、高速で行うことによる肉体への負荷や、魔法制御もしなければいけないという難しさから、今のラオフェンにはかなりの難題だったが、それでも不格好になりながら何とかジミナについていく。

それは、ラオフェンにとってこの上ない経験値だった。こんなことができるのは故郷にいる最も武術に長けた存在しかラオフェンは知らず、そのような人々は常に多忙のために、そしてその人の魔力をラオフェンの為に割ける機会が少ないことから、ラオフェンは高速で移動する魔法(ジルヴェーア)中の組手などほとんどさせてもらえなかったのだ。ジミナの顔に何かの感情が浮かんでいることは無かったが、ラオフェンは何となくこれはジミナが自分の為にしてくれていることなのだと感じた。

しかし、高速で移動する魔法(ジルヴェーア)は5秒継続させるのがラオフェンの限界だった。その限界が来た時、ラオフェンは魔力を使い果たし座り込んでしまった。

 

「はぁ~~~、降参。今の私じゃ勝てないよ。」

「……ラオフェン、今ジミナと何してたんだ。俺達には衝撃波みたいなものが数秒出続けたようにしか見えなかったぞ。」

「えーと、組手してもらった。」

「……いやなんでだよ。」

「うーん……ノリ?」

「お前、試験中だぞ……」

「まあ、悔しいけど私はジミナには勝てない。それはよくわかったよ。もう大人しく引き上げた方が良くない?これ以上は魔力の無駄だと思うよ。あ、そういえばさっきおじいさんに言ってた、急所をずらすとかいうのも多分本当にやってたんだと思うよ。」

「……しかし隕鉄鳥がそこにあり、1対3のこの状況をみすみす逃すのは……」

「……ククク、本当に1対3か?」

 

ジミナは再び不敵に笑うと、腕を上に伸ばし、人差し指を立てた。するとその先から、一瞬魔力が放たれる。

 

「……え、何今の?…………何も起きないじゃん。」

「……!ラオフェン、上だ!」

「ん?う、うええ!?」

 

上を見上げると、屍誘鳥をはじめとしたさまざまな魔物が空を飛んでいた。試験区域のほぼすべての魔物が集まっていると思える数だった。そしてそれらが、デンケンパーティに襲い掛かる。魔物への対処へ手を焼きながら、デンケンは隙を縫ってジミナの方を確認すると、シケーニとピタリヨを担いでこの場を去るところだった。

 

「待て!逃がすか!」

 

そう言ってデンケンは一般攻撃魔法で足止めをしようとするが、ジミナの一般防御魔法に阻まれる。デンケンは普通に魔法が使えるではないかと心の中で悪態をついた。

 

「俺にはまだまだやることがあるからな。悪いがこの場は失礼させてもらおう。」

 

と言って、ジミナは離れていった。デンケン一行は、最悪な試験の滑り出しだと嘆きながら、魔物への対処に追われるのだった。

 

 

 

 

「うー……」

「気が付いたか。」

 

シケーニが目を覚ました。自分は木陰に倒れていて、横にはまだ意識が帰らないピタリヨが寝ていた。

 

「え、えーと俺は確か、デンケンのパーティと戦っていて……あ!ジミナ籠は!?」

「心配するな。ここにある。」

 

ジミナは、シケーニへ隕鉄鳥の入った籠を見せた。

 

「よ、よかった無事か。」

「心配するなと言っただろう。」

「またお前は……で、でも、どうやってデンケンパーティから逃げ切ったんだ?」

「あれを観ろ。」

 

ジミナが指さした先には、かなりの数の魔物と、それを迎撃しているパーティの者らしき攻撃魔法と、その破壊痕が見えた。

 

「……あそこで戦っているのはデンケンのパーティか?」

「そうだ。」

「な、なるほど。魔物の大群に襲われたところの混乱の乗じて逃げてきたのか。よく逃げ出せたな、ジミナ。」

「……ククク。」

 

ジミナははっきり答えず、静かに笑うだけだった。

 

「な、なんだよ……。というか、今のを他のパーティに見られてる可能性があるんじゃないのか?ジミナ、そういう気配は……いや、お前の探知はアテにならんか。」

「フッ……」

 

再びジミナは笑う。シケーニはジミナが何を面白がっているのかさっぱり分からなかった。

 

「う……あれ?ここは?」

「お、目が覚めたか。」

「シケーニ、ジミナ……」

 

シケーニは、起きたピタリヨに今の状況を説明した。

 

「分かったわ。今回は運に助けられたってことね。……それで、これからどうするの?」

「なあ、思うんだが、やっぱり見つからないフリってのは無理があると思うんだ。デンケンみたいな熟練の魔法使いには俺の偽装魔法は見破られたし、それに今回の件で、他のパーティが見ていたかもしれないし。それだったら、なるべく潜伏することを第一に考えた方がまだいいんじゃないか?」

「まあそうね。私は賛成。隠れてれば魔物にも見つかりづらくなるだろうし。」

「そうか?お前たちならば次は上手く隠せると思うが。」

「いや、なんで見破られた後でそう言えるんだよ……。悪いが、2対1で決まりだ。今後は潜伏をメインにする。いいな?ジミナ。」

「……仕方ないな。」

 

ジミナは、割と本気で残念そうに同意した。シケーニは、ジミナが自分の力を過信して何か余計なことをしでかそうとしていたので、残念そうなのではと思った。




Q:なんでジミナ途中で去ったの?
A:他のパーティにも喧嘩を売りたがっているから。

ラオフェンの過去話は捏造です。

次はフェルンパーティを出そうと思っていたのですが、ユーベルとラントはなるべくクリティカルな話は出さないようにして思いつくところまで進んでみようと思います。……書けたらの話ですが……
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