エーデルはほぼ完ぺきにシドの記憶を読み取りました。
この女の人……たしかエーデルって呼ばれてたっけ?エーデルさんは、僕に触れたまま動かない。いや、魔力でなんかしようとしている様子ではあるんだけど……うーん、自覚している限りでは心身ともに健康、幻覚症状も無いな。
「……お、おいエーデル?何ボーっとしてるんだ?」
ドゥンストさんとブライさんも、困惑してる様子だった。……いや、本当にどうしたんだろう?僕が気絶とかするはずだったのにピンピンしてるから戸惑っている……ということなのかな。
「……は!?い、いかん!」
気を取り戻したエーデルさんは、弾かれたように僕から離れてドゥンストさんとブライさんの方に戻った。
「エ、エーデル、どうだったんdぶわっ!?」
エーデルさんは、ドゥンストさんとブライさんを捕まえて僕から距離を無理やり取らせた。そして……僕を警戒しながら何やらヒソヒソ話をしている。うーん……これは、作戦会議という奴か。まあ現実ではこれは攻撃チャンスなんだろうけれど、お約束っていうものがあるよね。シナリオ的には、何かしら読み取った僕の驚きの情報が明かされる場面だ。今頃、僕の魔力制御の精密さにでも驚いているに違いない!
……とはいえ、ただ待つのは暇だ。というわけで聴覚を魔力強化してコッソリ聞いちゃえ。……さて、なになに?
「…………から、儂の言うことに合わせるんじゃ。呆れ顔とかするでないぞ。どんなに阿呆らしくても、絶対に!」
「ええ?なぜそのようなことをわざわざ……そもそも何を読み取ったのです?」
「い、い、か、ら!絶対に、変なことをするでないぞ!」
「は、はあ……」
そういうと、3人が僕に向き合った。うーん、彼らの話し合い、終わり際だったみたいであんまり内容が聞き取れなかったなあ。うーんでも、エーデルさんの様子からして、僕の並々ならぬ実力は感じ取ってくれたようだ。なんか少し震えてる。それだけ分かれば十分だ。
「……話し合いは済んだか?」
「……すー、はぁー、」
……エーデルさん、すごい張った顔をしているな。顔面に力を入れすぎて表情筋がピクピク動いてる。多分なんか言おうとしてるんだろうけど、ものすごく緊張して良い淀んでいるみたいな感じか?今まで見たこと無い反応だ。まあ、緊張しやすい人なのかな?
「…………わ、わしの!ぶっ……儂の混乱魔法が通じぬとは……これまでにない強敵じゃのう、ジミナとやら!」
「……ふん。精神魔法に対する対策は当然だ。」
……なんて言ってみたけど、やっぱり緊張してるのかすんごい噛むな、この人。こう言っちゃ悪いけど、「ぶっ」なんて噛み方したらちょっと雰囲気がなあ……。
まあそれはともかく、さっきのエーデルさんの硬直は、やはり僕に魔法が聞かなかったから驚いてしまったらしい。……僕そんなにガチガチに対策してたっけ?まあ、僕が転生した存在だから通じなかったとか、そんな感じなのだろうか。
「これでは、儂の主力魔法がおおよそ通じんだろう。こんな相性の悪い奴の相手なんかできん。ドゥンスト、ブライ、逃げるぞ!」
「え?は、はぁ……」
……それはちょっと困るな。僕のパーティメンバーといい、この試験で逃げる人多くないか?
「おいおい。まだこれからだろう?」
「なっ……突然目の前に!?」
「見えなかったぞ!?しかも魔力をほとんど感じなかった……」
「お前の実力は……そんなものなのか?もっと見せてくれ。」
そう。僕はこのエーデルさんともっと戦っていたいのだ。というのは、僕の魔法の技量に関係する。僕は、こういった抽象的な、というか見たり感じたりできない魔法の扱いが苦手なんだ。
この世界では、魔法はイメージの世界とよく言われる。つまり頭でうまくその魔法を思い描けないと、魔法は行使できないのだ。僕の場合、多分前世の科学技術の知識が影響して、目に見える魔法は上手くいくんだけど、目に見えない……と表現すればいいのかな?とにかくファンタジーっぽい魔法が苦手なんだ。語尾が変なふうになる魔法とかあるらしいけど、ああいうの僕全然できないんだよね。だって、僕かっこいい最優先主義だからね。変な語尾を話す僕を全然想像できない。
そういうわけで、僕は僕の苦手とする分野の魔法が得意そうなこのエーデルさんと戦って経験を積みたいのだ。陰の実力者として、苦手とする魔法分野は極力作りたくない。
「は、はあ?もっと見せてくれってなんじゃ……」
「ここで会ったのも何かの縁というものだろう。魔法使い同士、このままタダで終わるなど……まさに腰抜けのすることだ。」
「……~~~っ!!!」
……なんかすごい焦ってるな、この人。握った拳が滅茶苦茶震えてるし、冷や汗ダラダラだ。……緊張しておなか痛くなっちゃったとかないよね?
「い、いや~~~、こんな試験の場で、あの技が通じんかったならとっとと逃げるに限るわ!一回あれを見せた以上、貴様は儂に触れられることを警戒するじゃろう?」
「え?いや、エーデルさん遠距離からでも効果のある精神魔法を使えませんでしたっけ?あの相手を服従させられる……」
「うるさい黙っておれ!とにかく話を合わせるんじゃ!」
「……何やら内密で話をしているようだが、1対3で逃げ出すなど恥ずかしいと思わないのか?」
「……確かに、俺達はまだ隕鉄鳥を奪えていない。時間も無いし、このまま引き下がるわけにごぶっ!」
エーデルさんがブライさんの顎を押さえつけて黙らせた。なんか今までにない程パワフルな押さえつけ方だったな。よっぽど嫌だったんだろう。
「と、と、と!に!か!く!命……あ、いや、先ほどの攻防で力量差が分からぬほど、儂らは愚かではない。そうじゃな?ドゥンスト、ブライ!」
「え、ええ……」
「はい……多分……」
「ではさらば、ジミナ・セーネン……!な、なぜまだ立ちふさがるんじゃ!」
このエーデルさん。なんかさっきからとにもかくにも僕から逃げようとするなあ。僕に触ったときから、様子がおかしい。僕と戦うことをすごく恐れている。小声で話していた内容から、どうもこの人、やっぱり目を合わせるとかで相手に魔法をかけられるタイプじゃないのか?ドゥンストさん、ブライさんも不審がりながらもエーデルさんの言うことを聞いているところを見るに、信頼はできる人なんだろう、多分。そんな人が魔法を使いさえしないということは、何か特殊な事情があるに違いない。
もしかして、この人……
◇
儂はあまり騒がしいのは好きではない。静かなところが好きで、大声で叫ぶなどは殆ど経験がない人間じゃ。
……しかし。今日だけは。本当に、心の底から叫びたくなったのじゃ。
あああもういやじゃああああああああああああああ!!!試験とかどうでもよいから早く帰らせておくれええええええ!!!!!
なんじゃ陰の実力者って!異世界は本当に存在していたのか!?神はなぜこんな奴を転生させたのじゃ!なんであのシャドウがこんなところで試験を受けてるんじゃ!?ジミナ・セーネンって「地味な青年」なのかふざけておる!大魔族アウラが生きているではないか!十数年の修行で大魔法使いゼーリエと同等まで強くなったなど人の所業ではない!しかもそれほどの力をごっこ遊びに使うなど誰が想像できるか!お前の言葉を真面目に考察していた協会の者達の時間を返せ!魔族を狩りすぎて絶滅を心配しとるのは人間の中ではお前だけじゃ魔族を減らしてくれて感謝するがの!
はー、はー、……お、落ち着け儂。冷静になるのじゃ。情報量が異常でちょっとおかしくなっておった。
……いや、冷静に考えても、陰の実力者って何なのじゃ。今までの行動からして、全然陰に潜めていないのじゃが。ただ強くなるだけではなく、人知れず活躍する存在……と、記憶を読み取った限りでは推測できるのじゃが、こやつの前世の知識も相まって、なんだかよくわからん。人知れず魔族を狩っているだけではいかんのか……?
……と、とにかくじゃ。何とかしてこの場を凌がなければ。こんな奴の近くになどおれん。一応無闇に人を傷つける趣味は無いようじゃが、それでも機嫌を損ねたら何をされるかわからん。ここは穏便にこやつから離れて、試験が終わったら協会に報告するのが良いじゃろう。
必要なのは演技じゃ。幸い、こやつは人の機敏を察することには長けておらんようじゃから、適当にそれらしいことを言って引くのが良いじゃろう……多分。というか今はそれ以外に方法を思いつかん。今のところ、記憶を読み取ったことには気づかれていない。何としてでもこの場から逃げ切らねば。
……こやつ、なんと呼べばよいのだ?名前を4つも持っているぞ。……とりあえず今はジミナと呼ぶこととするかの。
ジミナと距離を取った儂は、ドゥンストとブライの頭を手繰り寄せ、小声で話し出す。
「よいか?奴は儂らの手に負える者ではない。まずは生存を第一にするのじゃ。」
「な、なんですって?確かに先ほどの攻撃を捌いたところを見るに、只者ではなさそうでしたが……分かりました。じゃあ逃げる準備を」
「それもいかん!奴を説得するしか、この場を切り抜ける方法はない。儂らがつまらんパーティであることを認識させなければならんのじゃ。」
「???つまらんパーティ?」
「いいから、儂の言うことに合わせるんじゃ。呆れ顔とかするでないぞ。どんなに阿呆らしくても、絶対に!」
「ええ?なぜそのようなことをわざわざ……そもそも何を読み取ったのです?」
言えん。記憶を読み取ったことをジミナに察せられてはいかんのじゃ。だから、実はジミナの最終目的がごっこ遊びだなんて事実を言うことは今はできん!……改めて言葉にすると腹が立ってくるの。シャドウの所業を聞いて、儂ら魔法使いがどれだけ忙しくなったかを奴は全然考えておらんかったのじゃ……
「い、い、か、ら!絶対に、変なことをするでないぞ!」
「は、はあ……」
そして儂はジミナの前に立ち、とにかくこのパーティと戦ってもうまみが無いことをいかにしてアピールするかに頭を回した。
……儂、今までの人生の中で演技なんて社交辞令程度しかないぞ?……ともかく、やってみるしかないの。
「…………わ、わしの!ぶっ……儂の混乱魔法が通じぬとは……これまでにない強敵じゃのう、ジミナとやら!」
「……ふん。精神魔法に対する対策は当然だ。」
……緊張しているときに慣れないことをするもんじゃないのう。正直不自然な気もするが……でもジミナの実力からして、正面から逃げきるなど無理であるし、なんとかして儂らと戦ってもつまらんことをアピールするべきじゃと思ったんじゃ……
…………緊張で、正常な判断力を持てているのかちょっと自信が無くなってきたの……
「これでは、儂の主力魔法がおおよそ通じんだろう。こんな相性の悪い奴の相手なんかできん。ドゥンスト、ブライ、逃げるぞ!」
「え?は、はぁ……」
……お、おい!可哀そうなものを見る目をするな!儂のキャラじゃない言動とはいえ、こっちは必死なんじゃ!
「おいおい。まだこれからだろう?」
逃げようとした瞬間に、いきなり目の前に現れおった。し、心臓が止まったかと思ったぞ……。
「お前の実力は……そんなものなのか?もっと見せてくれ。」
「は、はあ?もっと見せてくれってなんじゃ……」
「ここで会ったのも何かの縁というものだろう。魔法使い同士、このままタダで終わるなど……まさに腰抜けのすることだ。」
……おそらく、儂の魔法が目的なのじゃろう、ジミナは。記憶ではかなり興味を示していたからの。
でもそれはつまり……
「……~~~っ!!!」
こやつ、儂の精神操作魔法を一通り見るまで付きまとう気じゃ!頼むからやめておくれ!胃が痛くなってきよった!
儂の手札を見せていくこと、それがもたらしうる最悪の結果は、ジミナに儂が記憶を読み取れることを察せられることじゃ。そうなったら、いよいよ何をされるか分かったものではない。命を取られなくても……儂が余計なことを言わないか今後監視されるなどあり得るかもしれん。
「い、いや~~~、こんな試験の場で、あの技が通じんかったならとっとと逃げるに限るわ!一回あれを見せた以上、貴様は儂に触れられることを警戒するじゃろう?」
「え?いや、エーデルさん遠距離からでも効果のある精神魔法を使えませんでしたっけ?あの相手を服従させられる……」
やめろドゥンスト!余計なことを言うな!儂は全力で不快感を込めた目線をドゥンストに送った。とりあえず察して、口を閉じてくれたようじゃ……。
……ここで、儂は気づいた。おそらくジミナには、この程度の小声にした程度では聞かれておる。ジミナから離れた後の最初の会話、聞かれておらんじゃろうか?……儂の言動を怪訝に思っている様子があるから、多分大丈夫だと思いたい。とにかく、そういうことに今はしておくしかないの。
「うるさい黙っておれ!とにかく話を合わせるんじゃ!」
「……何やら内密で話をしているようだが、1対3で逃げ出すなど恥ずかしいと思わないのか?」
「……確かに、俺達はまだ隕鉄鳥を奪えていない。時間も無いし、このまま引き下がるわけにごぶっ!」
ブライやめておくれ!やめろ!虎どころか龍の尾を踏む発言をするでない!試験など3年後にまた受けられるであろう!……ついアッパーカットをした儂は悪くないはずじゃ。
「と、と、と!に!か!く!命……あ、いや、先ほどの攻防で力量差が分からぬほど、儂らは愚かではない。そうじゃな?ドゥンスト、ブライ!」
「え、ええ……」
「はい……多分……」
「ではさらば、ジミナ・セーネン……!な、なぜまだ立ちふさがるんじゃ!」
ジミナが、また儂らの前に立ちふさがった。その瞬間移動じみた高速移動、心臓に悪いから本当に止めて欲しいのじゃが。
「お前……エーデルと言ったか?もしかしてお前は……」
!!!ま、まさか儂が記憶を読み取ったことがバレたのか!?もはや、万事休すか……?
「お前は……自分の魔法が嫌いなのか?」
…………????????