大陸魔法協会本部には、創始者のための特別な部屋がある。建物の頂上に位置しており、ゼーリエは身長以上の背もたれを持つ品のある椅子に不遜に座り込んでいた。
「何故、私がここに出向いたか理由は分かるか?ゼンゼ。」
ゼンゼは気まずそうに口を閉ざすしかなかった。ゼーリエ曰く、今年の合格者は多すぎる、とのことだ。
「全員協力型の試験は大いに結構だ。今の一級魔法使いには協調性が無いからな。」
「面目ありません。」
「だがその中に、あってはならないほどの実力を持った者がいた。」
「……フリーレン様と、ジミナ・セーネン様ですね。」
「……そうだ。フリーレンはともかく、このジミナ・セーネンは何だ。覇気のない顔、みすぼらしい装備。こんな奴が一級魔法使いにいたら舐められるぞ。」
ゼーリエは、部下から送られたジミナに関する報告書を軽くたたきながら、呆れたように言った。
「第三次試験は私が直々に面接する。そしてこのジミナは99%不合格だ、不合格。報告書通りなら、魔法使いとしての実力以外が何もかも足りていない。お前たちもそう思うだろう?」
「……」
この場にいる一級魔法使いたちは沈黙の肯定をした。他人のことを悪く言うことに抵抗感があるために口にはしないが、人格面は「とりあえず法に背いたりはしない」モラルがある程度で、他受験者に対する態度や身なりのことを考えると、一級魔法使いたりえるとはとても言えなかった。
「……この若造がフリーレン並みの実力を持つというのは、確かに驚愕に値する。だから面接くらいは……いや、後で私が本人に直接会ってやろう。だがそれだけだ。はっきり言って今すぐに不合格を言い渡したい気分だ。というか、この報告書に書かれているジミナの能力すら正直疑っている。そもそもそれほど強いのに今まで名が知られていないというのが不自然すぎる。」
「……実力は私からも保証します、ゼーリエ様。」
「ゼンゼ……ああ、二次試験でジミナに着いて行ったのか。」
「はい。報告書の内容はおおよそ真実です。」
「私からも、報告書の内容に違和感ないことを述べておきます。」
「お前もか……レルネン。」
ゼーリエは、引っ込み思案のイメージが強いレルネンがそう申し出たことに少し驚いた。
「……しばらく観察して分かりました。彼はフリーレン様と同じく魔力を制限しています。」
「……何のためにでしょう?やはり魔族を欺くためでしょうか?」
「さあ……もしかしたら、魔族どころかほぼすべての人間を欺くためかもしれません。彼の届け出た経歴を確認してみましたが、ほぼすべて真実ではありませんでした。」
「ならばもう決まりだ。経歴詐称する奴など不合格一択だ。」
「それが……『受験料を払ったんだから試験を最後まで受けさせろ。文句があるならば合格後に一級魔法使いの資格を取り消せばいい』と本人は言っていまして……」
「チッ……仕方ない。とりあえず、後で顔を見てみるか。」
◇
そうして、ゼーリエとレルネンなどを含む一級魔法使いを含む一団は、ジミナを観察すべく受験者を観察しに来た。ただしゼーリエの莫大な魔力は目立つため、隠蔽の魔法を行いながらである。
「で、ジミナとやらはどこだ?」
「あそこです。あの隅に立っている男。」
そこには、誰とも話さずに建物内の隅で孤独に立っている男がいた。報告書通りの覇気のない風貌だった。
「ええと……あの男か?」
「はい、彼です。」
「はあ、やはりふざけているのか?放出される魔力は確かに揺らいでいるが、それを差し引いても脆弱な魔りょ、く……で……………………」
「ゼーリエ様?」
「………………………………」
レルネンがゼーリエを見ると、彼女はうつむいて固まっていた。しかししばらくすると、体を震わせ始め、放出される魔力が大きくなっていく。
「……あの、ゼーリエ様。これ以上魔力を放出されると、隠蔽が難しくなってしまうのですが……?」
「…………よくも」
「は?」
「よくも魔法協会を、私を馬鹿にしてくれたなああ??????」
「ひっ!?」
ゼーリエは怒っていた。それは一級魔法使いの中でも屈指の実力を持つレルネンでも恐怖を感じてしまうほどであった。これほどの怒りは、レルネンを含め協会の誰も見たことが無かった。ちなみに、魔力放出によって隠蔽が甘くなったことにより、その場にいたフリーレンもゼーリエの存在と様子に気が付いたが、その尋常ならざる様子に焦りつつも困惑している。
「……あのジミナ・セーネンの面接の順番は最後にしろ。」
「は、はあ。」
「それと、面接の時間を予定の30分ほど遅らせると受験者に伝えろ。準備がある。」
「な、何の準備ですか?」
「戦いの準備に決まっている。ああ、一応私は場所を選ぶつもりだが、奴がそうするかはわからんからな。オイサーストの住民には避難するように言ってくれ。」
「え、ええ!?な、なぜ戦いを」
「いいからやれ。」
ゼーリエは有無を言わさぬ様子で去ってしまった。残されたゼーリエの部下たちは、困惑しつつもこのことを伝えに行った。大事になるということだけは、全員確信していた。
◇
第三次試験はなんとゼーリエの面接に変更だってさ。うーん、困ったなあ。もし仮に彼女と戦うこととなったら、彼女相手に勝てるかどうか微妙だ。そして多分余裕がなくなる。現代最強の魔法使いであるゼーリエと互角に戦う謎の男ジミナ・セーネン……ならまあまだカッコいいんだろうけれど、残念ながら彼女との戦いで正体を隠しつつ戦うこのジミナモードで居続けることは難しいだろうね。一応面接のときは、魔力隠蔽とかを全力でやって隠してみるつもりではあるけど……さっき、ゼーリエさんが魔法で隠れながらこっちに様子をうかがったっぽいんだよね。それに途中からやたら放出される魔力量が増えてたし。多分僕のこと見破ったんじゃない?あれ。
まあ、いつかはこんな日が来るとは思ってた。そもそも魔法自体が結構あやふやで、「なんでそんなズルい魔法が使えるんだ!?」って思ったことも何回かある。だから、僕の知識の範囲内でいくら対策していようと、それをいつかは貫通してくるだろうな、とは思っていた。だから今までゼーリエには近寄らずに生きてきたわけだが……まさかこの場で接触するなんてね。
でも、僕だって対策してないわけじゃない。ジミナの正体が見破られた場合のイメージトレーニングは当然してある。余裕のある戦いはできないけれど、せめて最強の魔法使いである彼女と互角であるところを見せつけて、ギャラリーに「ゼーリエ様と互角に渡り合うアイツは一体何者なんだー!?」くらいは言わせてやろう。
それにもう一つ、この時期で接触することは望んでいなかったとはいえ、僕はいつかゼーリエさんと全力で戦ってみたかったんだ。戦いとは対話だ。魔力の揺れ、剣先の動き、目線での読み合い。そういったもので、相手が何を考えているかを知ることができる。しかし、僕はこの世界で久しく対話らしい対話ができずにいた。だから、ゼーリエさんと戦えるというのは、焦りもあるけれど、嬉しくもあるんだ。
さて、時がたち、面接は僕の番だ。面接会場である中庭っぽい場所に入ってみると……なんかすごい数の魔法陣を展開させつつ、すごい形相で僕を睨みつけるゼーリエさんがいた。……うん、確実にバレてるね、これ。……あれ、でもなんで怒ってるんだ?僕ゼーリエさんに何かしたっけ?
まあ、仕方ない。腹をくくろう。陰の実力者として、これまで培ってきたすべてを見せる時だ。
◇
「……これはどういう挨拶だ?」
ジミナ・セーネンは開口一番にゼーリエに対しそう聞いた。ゼーリエは魔力の制限を止め、大量の魔法陣を展開させジミナに向けていた。どう見ても、一見するとひ弱そうに見える彼を全力で迎え撃つ気である。
「……お前、ふざけるなよ?私達を舐め腐るのも大概にしてもらおうか。」
「何の話だ?」
「何故わざわざ試験など受けに来た。お前はエルフのように寿命が有り余っているのか?だがエルフにすら、お前のような時間の使い方をした者は知らん。」
「何を言う。俺はただ魔法の頂点を目指し鍛えているだけだ。ここに来たのは、その一環だ。」
「鍛える……か。何を倒したいんだ?ひとまず、お前はもうかつての魔王は倒せるのではないのか?」
「過去の存在を出されても困る。比較しても仕方がない。」
「もういい加減そのふざけた演技を止めろ。虫唾が走って仕方がない。」
「……」
ゼーリエは、花壇の傍にしゃがみ込むと花を手で遊びつつ、話を続けた。
「お前の扱いはな、なんとも困ったものだったよ。魔族に対して積極的に攻撃を加えているそうじゃないか。そして人間に自分から手出ししたことは無い。お前は一応人類の味方なのかもしれない。だが、お前は危険すぎる。人を骨に還すはずのスライムを身にまとい、圧縮と爆発という死の危険を全く感じていないかのような行いをし、私ですら再現が難しい緻密な魔力制御で何もかも破壊する魔法を打った。魔法以外の戦闘能力も伝説の勇者としか思えず、出てくる言葉は詩的過ぎる。……お前の対応にはほとほと困っていたよ。だが、今回の試験で、どうするべきかよく分かった。」
「……どうするんだ?」
「お前は敵だ。」
ゼーリエは、花を弄ぶのを止め、ジミナを睨みつけながら立ち上がった。
「魔法協会は私が立ち上げた組織だ。そしてここにいる一級魔法使いの弟子たちは、私が相応に目を賭けた人間だ。それを馬鹿にされて、黙っていられるほど愛着が無いわけじゃない。」
「……」
「まだその姿で私を馬鹿にするつもりか?シャドウ。」
ゼーリエがそう言うと、ジミナはしばらくゼーリエを見ていたが、やがて。
「……ククククク。」
彼の周囲にどこからともなくスライムが現れた。それはジミナを包み込み、しばらくすると、そこには漆黒のローブに身を包んだ男が現れる。
「偽りの時は終いだ。」
その姿、魔力は間違いなく、ゼーリエが報告を受けていた通りの、シャドウの姿であった。
ゼーリエは、口角を上げた。
「それで……第三次試験の結果はどうだ?」
シャドウがふざけたような口調で尋ねる。
「…………合格だ。私は実力ある者を認めない程にワガママではない。」
ゼーリエは、非常に不満そうな声でそう言った。
だが言い終わると、ゼーリエの周囲に展開されていた魔法陣が一斉に起動し始め、膨大な魔力が込められる。
「……ただし私に勝てたらな!」
次の瞬間、オイサースト北部の大陸魔法協会支部は消滅した。
・ゼーリエ
ジミナの変装は、シャドウが「お前ら一級魔法使いなんざこんな弱い奴ですら倒せる雑魚ばっか!www」と煽っていると受け取っている。
というわけで次回から大怪獣バトルが始まります。ちなみに面接結果は原作通りです。
……ところで、ゼーリエの全力ってどんな魔法使うんだ……?(ノープラン)