魔法世界の実力者になりたくて!   作:Assassss

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覚醒の刻

ゼーリエは、シャドウと戦う中で、なんとなく彼の戦闘スタイルの傾向を見出していた。

シャドウは、ゼーリエに向かい絶えず攻撃魔法を放つ。見たところ一般攻撃魔法のようではあるが、範囲が半径数百mもあるもの、比較的細いがゼーリエでも防御できないほど強力なもの、曲がりくねり軌道が読みづらいものなど、もはや別物といえる多種多様な一般攻撃魔法がメインだった。対してゼーリエは、一般攻撃魔法を含む多種多様な攻撃を試みていた。周囲の自然物を用いた魔法、炎、雷、冷気など様々だ。だが、戦いの中でゼーリエは、特に有効な種類があることに気が付いた。

ゼーリエが、血液を赤インクに変える魔法(レブラザデェズム)を仕掛けようと魔力を込めだす。すると、それに対しシャドウは尋常ならざる速度で反応し、過大にも思える魔力を込めてゼーリエを攻撃するのだ。ゼーリエは血液を赤インクに変える魔法(レブラザデェズム)を中断し防御する。いくらシャドウが圧縮と爆発により魔力を増幅させられるといっても、無駄の多い対応であると言わざるを得ないものだった。

 

血液を赤インクに変える魔法(レブラザデェズム)は、3420年前のシュトラール近辺で発生した戦争においてよく使用された魔法だ。これはわずか一週間足らずで対抗魔法が見つかった。習得も簡単だ。知っていれば、今のような力押しなどせずとも対抗できたはずだぞ?不勉強だったな、シャドウ。」

 

シャドウは、初見殺しに分類される魔法への対処が最も苦手だったのだ。つまり、知ってさえいれば問題ないというものであり、シャドウはそれらへの対処が後手に回るか、強引に攻撃魔法で中断させるという対処しかできていなかった。

 

「……体毛を鉄に変える魔法(ファロンガジェデ)上下左右を間違えさせる魔法(ゴリジャムディル)魔法を病とする魔法(マシックジッキャ)……そのどれも、お前は適切に対処できなかったな?そうやってバカスカ攻撃して、魔力は持つのかな?」

「なるほど……厳しい話だ。」

「お前とて無尽蔵に魔力を、いつまでも増幅できる訳ではないはずだ。そして、お前は魔力を使う戦い方しかできない。」

「……」

 

シャドウは、そのような初見殺し系の魔法をほとんど使ってこなかった。全く使わなかったわけではないが、しかしゼーリエのよく知るものばかりであり、しばらくすると全く効果が無いのを悟ったのか、使うのを止めてしまった。これらの魔法は、通じることを前提にすれば、使用魔力に対し高い効果を得られるものが多いのだ。しかし今のシャドウが使う魔法は、一般攻撃魔法のように、対処法を知っていても防御をすると一定量の魔力を消費させられるものばかりである。そしてそれは、シャドウに明らかに負荷を強いていることがゼーリエには分かった。

 

「私が攻撃しないときに棒立ちすることが多くなったな?魔力の節制は良いことだ。私もその間息をついて魔力を回復できる。」

 

ゼーリエは感知できていないことではあるが、実際、シャドウは少しづつ疲弊していた。魔力を増幅させられるとはいえ、それは世界で彼しか戦いに用いていないほどの超高精度の魔力操作技術が必要となるものなのだ。そのような神経をこれでもかと使う作業を続けて、平気でいられるわけがない。シャドウと言えど人であり、疲弊するのだ。

 

「で、どうするんだ?私はこういった魔法をあと500個ほど使えるが?」

「ム……」

「おっと、だからってお前が好きな派手な魔法も嫌いではない。このようにな。」

「……!ッフ!」

 

シャドウは反射的に位置を横にずらす。直後、風を切る音と、轟音が響いた。ゼーリエの落とした隕石は、シャドウが直前にいた位置を正確に通過し、オイサースト周辺の水を吸い尽くされた湖跡に着弾し、クレーターを作った。その余波ですら、オイサーストの都市を破壊し得るほどのものであったが、さすがにこれに関してはゼーリエがあらかじめ対策をしていたのか、隕石による衝撃波は不自然に小さくなっていった。

 

「やはり直前まで気付けなかったか。当然だな。隕石自体に魔力は無いからな。」

「いや……普段の我ならば、もっと早くに気付けていたな。」

「ほう?少しづつ疲弊していることを白状したか。」

 

意外なことに、シャドウの声は少し意気消沈したもののように聞こえた。常に傲岸不遜な態度を崩さないシャドウが初めて見せた感情だった。

 

「そうだ。これが現実だ。魔法の知識、その使い方、今の我では、どうやっても届かないものがある。」

「フン。投降すれば、命は助けてやるぞ?」

 

ゼーリエは当然のようにそう言った。しかし、それを聞いたシャドウは。

 

「投降……?ククク、フハハハハ……!」

「な、何がおかしい!?」

 

シャドウは笑い出した。そして、ゼーリエは、何かとても不愉快なことが始まると予感した。

 

「いや……本気を出す。」

 

シャドウは、手を横に広げる。そして。

 

「覚醒の刻は来た……!」

 

シャドウの周辺に、無数の、紫に妖しく輝く剣が現れた。それらは弧を描きつつ、彼の周囲に浮いていた。

 

(な、なんだ?またスライムソードか?……!一本一本に、凄まじい魔力が込められている!これでこられたら、防御魔法などたやすく貫通してしまうと考えるべきか……!)

 

「では、続きだ。我の真の力を見せてやろう。」

 

シャドウは、自信たっぷりにそう言った。ゼーリエは、どういった魔法が飛んでくるのか、あの剣が飛来してくるのかと警戒していた。

だが、シャドウの行動はゼーリエが予想だにしないものだった。

 

「……!全方位に押し出す魔法(アーラープシンラ)!」

 

ゼーリエは、今の反射的な対処を、後から心底自画自賛した。魔法を使った直後、ゼーリエが見たのは、吹っ飛ばされつつも空中で体勢を整えようとするシャドウだった。

ゼーリエの反射神経は、並の人間のそれではない。この戦いの最中は、危機に早く気付ける魔法(デコーモインル)を常時使用しており、反射神経は並の戦士以上のものであった。その状態のゼーリエに、ほとんど意識されることのない速度で、いつの間にかゼーリエの傍まで接近していたのである。

 

「……我だけを見ていていいのか?」

「……!」

 

ゼーリエが、再び反射的に、その場から移動した。そこへは、先ほどシャドウが出した浮遊する剣が飛来していたのだ。

 

「ふう、危な……なっ!?いや、は!?」

 

それらを避けて一瞬胸をなでおろしたゼーリエだったが、直後に再び緊張と焦りが戻った。その剣は、グニャグニャと軌道を変え、ゼーリエを切り裂かんと縦横無尽に動きつつ襲い掛かってきたのだ。

 

「ここからは、魔法対決ではなく、我も殺し合いのつもりで戦わせてもらおう。行くぞ!」

 

シャドウは、攻撃魔法を放ちつつゼーリエに再び接近してきた。魔法の方は防御魔法を用いれば対処できるが、あの剣はダメだ。防御魔法は破られるほどの魔力が込められている。ゼーリエは、あまり慣れていない回避行動による対処を余儀なくされ、それはゼーリエの脳に少なくない負荷をかける。

 

(……おかしいと思っていた。シャドウはスライムで剣を形作るのに、今までそれを使う気配が無かった。遠くから一般攻撃魔法……のような魔法を使うだけだった。ならば剣を出す必要自体ないだろうと。だが、そうか。奴は先ほどまで、魔法使いとして私に挑んでいたというわけか。そして、勝てないと悟り、今は全ての力を以て、私に挑んでいる。そういうことなのか……!クソッ!)

 

ゼーリエは、また舐めるなと言いたいところであったが、その余裕がない。全方位に押し出す魔法(アーラープシンラ)の魔法を使えば近づけさせないことはできるが、これはどんなに魔力量があっても、連発が難しい魔法なのだ。おおよそ、5秒に一回といったところである。その間に、弾かれた剣やシャドウ本体は即座に反撃に転じてしまう。そのほか、例えば浮遊物を叩き落とす魔法(ワーダウンガ)といった、剣やシャドウ本体に直接作用する魔法も試したが、効き目は殆ど無かった。持っている魔力量が多すぎたのだ。先ほど山や水を飛ばす魔法のような魔法は、ますます使えない。相手が速すぎて狙いがつけられないのだ。

 

「どうした?祭りの余興にはちょうどいい踊りだが、それでは我に傷はつけられん。」

「クッ……」

 

ゼーリエは実際、打って変わって追い詰められ始めた。注意するべき対象が多すぎたのだ。シャドウ本体からは、接近した場合は確実に斬られるので距離を置かなければない。しかし、浮遊する剣がそれを妨害する。一つ一つが全く異なる軌道を描く。ゼーリエは、このような状況に陥ったことは今までなく、位置取りによる回避が上手いとは決して言えなかった。

 

「……仕方ない。アレを使うか。」

「ほう?いったい」

時を止める魔法(クロスターバリル)

 

ゼーリエがその魔法を発動させると、ゼーリエ以外の全てが停止した。シャドウは、いやその他の全てを含めて、すべてが動かない。ゼーリエは、魔力を消費しながらも息を整える。そして、シャドウの真後ろに移動した。

 

「……魔王の死後に魔王城で私が発見した魔法だ。……あまりやりたくはなかったのだがな。仕方ない。」

 

ゼーリエはそう言うと、シャドウの首元に切断魔法を放った。入念に魔力を込めた。時を止める魔法(クロスターバリル)を解除すれば、シャドウは首と銅を分かたれ、確実に死亡するだろう。

 

「……よし、大丈夫だな?」

 

ゼーリエは、シャドウ以外にも、周囲の状況に気を配っていた。

何故、ゼーリエはこの強力な魔法をここに至るまでに使わなかったのか?それは、この魔法が十分な研究をされていないものだからだ。例えば、ゼーリエが時を止めた世界の中で、ゼーリエが接触した空気はどうなっているのか?ゼーリエの視界は止まっているが、光は止まっていないのか?など、疑問点が多すぎるのだ。故に、今まで小規模な検証しか行ったことが無く、実戦で用いたのは今回が初めてなのである。

 

「では……解除、と。」

 

時が再び動き出す。

 

「何を、……」

 

ゼーリエの期待通りに、シャドウの首は切断された。見る限り、周囲に悪影響なども見受けられない。

 

「……やったか?」

 

ゼーリエは、やっと終ったと気を抜いた。

 

しかし、またしてもゼーリエの想定外の現象が起きる。

 

「……首を落としたからといって、我が死ぬとでも思ったか?」

「……え?は!?ぐあっ!?」

 

ゼーリエは、お返しとばかりにシャドウから不意打ちの蹴りを貰い、吹っ飛ばされる。

体勢を整えつつ、ゼーリエが見たのは、斬り飛ばされた首と胴体が魔力の糸のようなもので繋がれていたシャドウであった。

 

「首を飛ばされることなど対策済。このように、切断された直後に魔力の線が生命維持の役割を維持するよう仕込んでおいたのだ。」

「……は?いや、人は人形ではないんだぞ!?」

「魔族に対し、まあいろいろと実験した成果だ。素晴らしいだろう?」

 

ゼーリエは唖然とした。確かにシャドウがそう言った実験をしていた形跡があることは知っていたが、もう自分に対して試しているのか、と。

 

「お前……死ぬのが怖くないのか?失敗したときのことを考えないのか?」

「頂へ至るために、恐怖などとうに捨て去った。今の我には、命を失うことよりも、もっと恐ろしいことがある。お前を超えられないことだ!」

「……狂人め。」

 

首を自力で接合するシャドウを見て、ゼーリエは恐怖を覚えつつ悪態をつくしかなかった。

ゼーリエは、再び時を止める魔法(クロスターバリル)を使おうとする。今度は、全身を確実に消し去ってやろう、と。

 

「その魔法は、もう見た。」

 

しかし、時を止める魔法(クロスターバリル)の発動の特徴をシャドウに記憶された以上、妨害されることは必然であった。

 

「……お前なら、当然だな!」

「フフ……ム!?」

 

だが、ゼーリエはもう一つの魔法を同時に発動しようとしていた。発動する際の「魔力の置き場」を変えていたため、こちらの方はシャドウに妨害されることはなかった。

また、すべての時が止まった。だが、今回は、ゼーリエの時も止まったようになっている。

 

ゼーリエが使った魔法は、自らの過去を書き換える魔法(ポスチュ)だった。こちらは、さらに危険な魔法だ。ゼーリエは一度これを使ったことがある。物は試しと、過去一時間の行動を「魔導書を読んでいた」としてみたところ、なぜか凄まじい頭痛が発生したのちになぜか30日程魔法が発動できなくなった、ということがあった。

その後も色々検証を重ねた結果、「1分以内の過去改変ならばひとまず安全」ということは判明したが、ゼーリエはそのあまりにもカオスな改変結果や、その副作用を鑑みて、この魔法を二度と使わないと決めたのだ。

だが、今は命の瀬戸際だ。実際にシャドウに殺意があるかはいまいちよく分からないが、致死級の攻撃をしてくるのは事実。少なくともここでゼーリエが負けた場合、シャドウはまた勝手に暴れだすであろう。

 

発動した瞬間、ゼーリエの脳内に、過去一分間の出来事が、連続する絵になって浮かびだす。

 

「ええと、一分前は……、時間停止解除の後ではあるか。だがまだコイツの首が繋がっていない。……この間驚きすぎてまともに行動していなかったからな。まず魔力の線を切断し、ここで間髪を入れずに攻撃を……はあ?この場合この威力で後ろから打っても普通に防御されるのか?クソ、面倒な……」

 

過去改変と言っても、物理的におかしいことを起こったことにはできない。変えられるのは、「ゼーリエがどのように意思決定をし、行動したか」に関わるもののみだ。因果許容範囲外の出来事にはならないようにと、慎重に慎重を重ねて過去を変えていく。

シャドウの予想以上の抵抗に苦戦しながらも、今のゼーリエは「シャドウの頭と心臓を確実に爆破した」ゼーリエとなった。

 

「……よし、解除だ。今度こそ死んでくれよ?」

 

ゼーリエは自らの過去を書き換える魔法(ポスチュ)を解除した。シャドウの頭と心臓は確実に消失し、その体が自由落下していく。

 

「本当に、死んだよな。……死んでいるよな?」

 

しかし、それを見てもゼーリエは不安が消えなかった。根拠がある訳ではないが、先ほどの首を自力でつないだシャドウを見たあとでは、不安がぬぐえなかった。

しばらくすると、聴覚を魔法で強化したゼーリエの耳に、下方向からドスンという音が聞こえてくる。間違いなく、シャドウの死体が地面に衝突した音であろう。そのまま一分ほどゼーリエは周囲を警戒していたが、何も起こらない。

 

「……はあー……」

 

ゼーリエは、息を吐きながら少しづつ降下する。念には念をと、死体を確認するためだ。今のゼーリエは魔法で視力も強化しており、その視界によるとシャドウは普通の下のように見えるが、さすがに細かい所までは見えない。

だが、30秒ほど降下を続けたときだ。

ゼーリエの視界に、魔法陣が見えた。シャドウの死体の周辺にだ。ごく小さく見えにくいが、明らかにゼーリエに向けられている。

 

「……!!!」

 

ゼーリエは、咄嗟に防御魔法を貼る。直後、下方向から一般攻撃魔法が飛んできた。

明らかに、死体をトラップに使われた。そして、聞きたくなかった声が響く。

 

「ククク……ハハハハハ!!!さすが大魔法使いゼーリエ!まさか過去に干渉するとはな!」

 

そして挨拶代わりにと、上方向から攻撃が飛んでくる。

シャドウが、見下ろしていた。傷だらけになり血を流しながらも、いまだ健在だったのだ。

 

「お、お……お前!一体、どうやって!?確実に死んだはずだ!魔力反応すらなかった!さっきまで私が戦っていたお前が、身代わり人形だったこともあり得ない。そうであったならば、私が見抜けないはずがない!」

 

ゼーリエは、防御魔法を貼りながら、問いたださずにはいられない。

 

「……本当はモブ式奥義なんだけど……奥義・十分間のハートブレイク。魔力を細く加工し探知を逃れ、心臓の代わりに魔力で血液を循環させる。」

「は?いや……は?心臓を魔力で代替?つまりお前は、先ほどまでは死んでなかったというのか!?」

 

下を確認してみると、確かに先ほどまでシャドウの死体だと思っていた者が消失していた。さらに、心臓の部分を目を凝らしてみれば、何やら魔力が凝縮した何かがあり、鼓動のように規則的に動いていた。

 

「……だ、だが私は確かに頭を爆破したはずで……!?」

「もう一つの奥義。ブラッディ・トルネード。貴様が我の頭蓋を爆破した瞬間、実は首を傾け我は避けていたのだ。」

「い、いや私は確かに過去改変の中で、お前の頭を」

「我は確かに、魔力を消費しない部類の魔法は苦手だ。幻を見せる魔法などは、特にな。だが全くできないわけではない。我の幻の魔法が貴様に通用するのは、ごく限られた範囲だった。だからそれを頭部という急所に当てるのは当然だろう?一部位にのみ、しかし効果的に血がまき散らされた光景を見せる魔法。それがブラッディ・トルネードだ。どうやら貴様は過去改変の中で、見た光景に幻が含まれている可能性を考慮していなかったようだな。」

「………………お、お前は、何をしたら死ぬんだ?」

 

ゼーリエは、ここにきてどう戦えばよいのか分からなくなってしまった。こう何度も予想を覆されると、シャドウがあといくつ手札を持っているか見当もつかないと思うようになってしまった。全身を完膚なきまでに蒸発させれば死ぬのだろうか?だがその前に他者に魂を無理やり移すなんてこともしてくるかもしれない。猜疑心が、ゼーリエの心の中で大きくなっていく。

 

「……だ、だが、そんな方法で心臓を、いや、血液を動かし続けていれば、消耗は激しいはずだ。」

「確かにな。だが、お前はどうだ?」

「…………」

 

実際、ゼーリエの持つ魔力は、戦う前の30%を下回っている。これ以上ない破壊の魔法(ワズドレスーシャ)につぎ込んだ魔力をはじめとして、攻撃魔法や防御魔法をいくつも打っている。

 

「さあ、我慢比べと行こうか。」

「……!」

 

そうして、またゼーリエは剣とシャドウ本体を避け始めなければならなくなった。このような状況は、ゼーリエに魔力以外の疲弊ももたらしており、少しずつ頭が働かなくなっているのを感じていた。

実際、少しづつシャドウはゼーリエとの距離を詰めることに成功している。そしてゼーリエは、シャドウほど近接戦闘に長けているわけではないのだ。

今も、シャドウはゼーリエの眼前1mまでに迫っていた。ゼーリエはシャドウを遠ざけようと、魔法を放とうとする。しかし。

 

「覚えておけ。接近戦ではナイフの方が早い。」

 

斬撃速度を上げるためにナイフ型になったスライムソードが、ゼーリエを斬りつける方が早かった。幸い、まだ鼻先に一筋の傷がついた程度の被害だったが、このような傷が少しずつ増えていくであろうことは、ゼーリエも十分わかっていた。

魔法には、どうしても「使う」という意識が入り、その思考の分ラグが出る。ゼーリエにとって「生まれてきたときからあった魔法」のうち現代において通用する魔法などほとんどない。その差が表れた結果となった。

 

「我が剣が届くまで、あと120手ほどかな?」

「クソ……」

 

ゼーリエは少しづつ追い詰められていった。人生で感じたことが無い程の焦りを募らせていく。負けるという、もう何千年も経験していないこと。そして、自分が負けたらどうなる?シャドウはあの馬鹿にした笑い声を上げながら悠々と去っていくのかもしれない。彼女にもプライドというものがある。殺されずとも、それは許せないことだ。

だが、手が思いつかない。対抗できる魔法はいくつも思い浮かぶが、それらを発動する暇がない程に、攻撃が激しいのだ。これら小さな隙の間に発動できる魔法はあるが、それらは今度は威力が足りない。事実例えば、動きを鈍くさせる魔法(スーボロリィテン)というという魔法を時々放っているのだが、彼の膨大な魔力にさえぎられるのか、シャドウに効いている様子が無い。魔法を避けるという行動と、時々不意打ちのように飛んでくる攻撃魔法を防御しながら、別の魔法を準備する、などという特異な状況に対する鍛錬は、ゼーリエと言えども流石に積んでいない。

 

「終わりだ。大魔法使いゼーリエ……!」

 

ゼーリエとシャドウの勝敗を分けた点は、その努力の方向性だろう。彼は、陰の「実力者」を目指していたのだ。その実とは、主に戦闘の場面において発揮されるもの、そのために、魔法を使う鍛錬は当然として、それに限らない方向性も消して軽視していなかったのだ。対して、ゼーリエは魔法の高みを目指していた。いうなれば魔法の探求が生業だ。剣と魔法を複合的に用いた戦闘技術は、その重要性自体は認めているが、どうしても魔法の探求と比べると気乗りしないものなのだ。

 

そしてその差が、今結実しようとしていた。シャドウの振るう剣が、ゼーリエの首に迫っていた。あと30cm。一般防御魔法と、動きを鈍くさせる魔法(スーボロリィテン)をはじめとしたさまざまな妨害魔法を受けながらも、ついにその漆黒の剣に斬られる、とゼーリエは感じた。

 

だがそうはならなかった。シャドウは突如として身を引いたのだ。

 

「……カクになる魔法(アイアムアトミック)(もどき)(開発中)(ちょっと進展)」

 

突如として、膨大な魔力の奔流が、かつてシャドウが放ち数多の魔法使いに影響を与えたそれが、シャドウの居た位置を襲った。ゼーリエはあっけにとられ、浮遊する剣も驚いたかのようにその動きを止めた。そしてゼーリエは慌てて体制と息を整える。

少しすると、それは収まった。シャドウの右腕が消失していることが確認できた。

 

そして、2つの影が空中の戦場に向かっているのがゼーリエには見えた。

 

「ゼーリエ、いつもふんぞり返ってるんだから最後まで圧倒しててほしかったな。」

「あの態度の割に結構私たちのこと気にかけてくれてたのですね……ありがとうございます。ゼーリエ様。」




・ゼーリエ
魔法の戦士というより研究者っぽくて、魔法以外の戦闘訓練はあんま好きじゃなさそう。

・浮遊する剣
カゲマスの緑シャドウのアレ
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