うーん、これは流石に無理だ。
色々頑張って、ゼーリエさんとはギリギリ勝てるってところまでは攻められたけど、そこにフリーレンとフェルンが加わるとなるとなあ。ちょっと僕の処理能力を超えてしまう。右腕無くなっちゃったし。まあ生やす手段はあるんだけど、この戦闘中には無理だ。ちょっとやってみようとすると……うわ、フリーレンとゼーリエが全力で妨害してくる。やっぱ無理だ。左腕だけで戦うのは、どうしても動きに支障が出る。それに圧縮と爆発をずっとやってた疲弊もあるし、フリーレンとフェルンはほぼ無傷で魔力満タン。僕が戦えるのはあと10分がせいぜいなところ。……うん、ムリ!
まあ、こういう時がいつか来るものだとは思っていた。ゲームの裏ボスだって、最終的には主人公に打ち倒されてしまう。いつまでも勝ち続けられるほど、現実は甘くないよね。だからこそ、相手の方が総合的に上になった場合の、陰の実力者らしい退場の仕方ももちろん考えてある。
僕は、死ぬつもりは毛頭ない。最後に一発ドカンとやって、それに乗じて退散するつもりだ。……まあ、本音を言えば、ゼーリエ相手にも圧倒して悠々と去ってみたかった。けれど、僕はこれでもかなり満足している。前世では、全力の僕はチンピラや軍人相手にバトルすることがせいぜいだった。世界規模のバトルは、どんなに努力しても無理なことだった。それが今や、世界最強の魔法使いを相手にここまで戦えている。今のぼくなら核爆弾にも、多分対抗できるだろう。それを考えると、やっぱり残念という気持ちよりも嬉しい方が勝るな。
というわけで、最後は魔法という力をくれたこの世界に感謝を表したい。精一杯やってみるから、どうか受け取ってほしい。
刮目せよ。これが陰の実力者の終幕だ。
◇
フリーレンとフェルンが空中の戦場に来てからは、状況は好転した。シャドウは確実に追い詰められていた。
「私とゼーリエで時間を稼ぐ。フェルンはシャドウと100m以上の距離を常に保って!知ってると思うけど、そのくらいの距離は0.5秒もかからずに詰めてくるんだからね。」
「そう言うフリーレンも距離を保っていろよ?」
「私はあの浮いてる剣をいくつか減らす。それで、フェルンは一般攻撃魔法で適度にシャドウを妨害しつつ
フリーレンは、浮いている剣の4、5本を攻撃し始める。剣の半分ほどは、フリーレンの方に向かった。複雑な軌道を描きかなりのスピードで動き回る剣だが、それでも攻撃を避けるそぶりを見せることから、破壊可能なものであるとフリーレンは予想した。
そして、ゼーリエにもかなりの余裕が生まれ始める。
「……
ゼーリエがその魔法を発動すると、突如としてシャドウの胸の一部が爆発した。
「……ッち、あばらが数本逝ったか。」
その声は苦しみを感じているものではなかったが、胸部は赤く染まりだしていた。
「やっと発動できたか。」
「……まさか本当に爆発するなんてね。信じられない気持ちだったけど、圧縮と爆発による魔力増幅、まさか本当にやっていたなんて。」
先ほどまでは、あまりに余裕が無く発動できなかった魔法だが、ゼーリエがこの魔法が必ず効くと予想し、
「本当に、隙が少な、すぎる、よっ!」
その隙に、フリーレンも一般攻撃魔法を浮いている剣の一つに放つ。それはついに命中し、帯びていた魔力は失われ、ただのスライムに戻ったそれは重力に引かれ落下していった。
「さて……シャドウ。もう一度言う。投降しろ。」
この戦力さで、シャドウが負けることは明らかだった。先ほどシャドウが使ったような、半ば小手先の技術でどうにかなるような状況ではない。だが、この期に及んでも彼は諦める気はないようだった。
「断る。決着はまだついていない。」
「……そうだね。私も投降するべきだと思うよ。」
「ほほう……慈悲か?我が憎くは無いのか?」
フリーレンは、シャドウを少し睨みつけながら言葉をつづけた。
「……実際、私はお前のことは嫌いだよ。旅の要所でいちいち邪魔してきたし。私の仲間を攻撃したし。……でも、魔族を減らしてくれたり、時々人を助けたこともあるって聞いた。……だから、単純に敵とは割り切れない。」
「なるほど、我の力が必要だと?ならば、我を従わせるに足る力があると証明してみよ。」
「いや……、私、人間を見習って、一回チャンスを与えてみようかなって。」
「何?」
「シャドウ。今のあなたの敗因、分かる?」
「敗因?分かり切ったことを言うものだ。我が力が足りないというだけのこと。これ以上の言い訳などない。」
「いや……多分、力以外のものを殆ど持っていないんじゃない?シャドウ。」
「なんだと?」
「ゼーリエはピンチの時に私たちが駆け付けた……人のつながりっていう力を持っている。でも、ピンチのお前に駆け付けてくれる人はいるの?シャドウ。」
「……」
実際、シャドウのもとに集まってくる人影などいない。
フリーレンは、畳みかけるように、説得するように話す。
「シャドウ、私達はお前のことをほとんど理解できない。力だけじゃなくて、何を考えているのかが。」
「ふむ。それがどうした?」
「……やっぱりそのことに何も問題意識が無いんだね。まあ私もかつてはそうだったけど。」
フリーレンは、この旅を始める前に、人間という存在を全く理解できなかった、しようとしてこなかったことによる失敗を思い出していた。ヒンメルとの時間を軽視してしまったことを。
だからこそ、同じ失敗は見過ごせないのだ。
「多分……それじゃいけないんだ。そのうち、取り返しのつかない失敗をして後悔することになる。シャドウ、お前は……魔族みたいな性格をしていそうだけれど、魔族ほどに相互理解を諦めるほど言葉を交わしたわけじゃない。」
「つまり、我をどうすると?」
「お前のことをもっとちゃんと教えて。何を考えているのか、何を目指しているのか。頂じゃなくて、今のお前のことを話してほしい。」
「……フリーレン、甘いな。」
ゼーリエが、「なぜこんな奴に情けを……」と言いたげな目でフリーレンを見た。
「うーん、シュタルクとフェルンがそうしてたから、私も多少は見習おうかなって。」
「はあ……私はこんな奴と話すのはこれ以上は御免だぞ。さっさと消えて欲しいものだ。」
「ゼーリエはもっと弟子と柔らかく会話した方が良いよ?さっきの戦いで、私たちに魔法の余波が来ないように色々してくれるところを見るまで、『実は自分たちのことどうでもいいと思いながらシャドウに攻撃し始めたんじゃないか』ってちょっと疑ってた人もいるんだから。」
「……善処しよう。」
ゼーリエは、少しだけバツの悪そうな顔をした。普段の傲岸不遜な態度に自覚はあるのだ。
「ククククク……」
しかし、黙って聞いていたシャドウは、耐えられないとばかりに笑い出す。
「フフフ、フフ、フハハハハハハハ!!!我を憐れむか!いいだろう!だが、その前に人のつながりとやらの力が、どれほどのものかを見せてもらおうか!」
シャドウが突然、浮遊する剣を収め上昇を始めた。そして、静止すると魔力が突如として溢れ出す。
紫の複雑な文様が、シャドウからあふれ出す。それらは巨大なドーム状になり、オイサーストを、さらに周辺の地域を包む。
まるで、シャドウという魔力の牢獄に、この一帯が捕らわれたかのようであった。
「……この魔力量。終わったらシャドウもタダじゃすまないぞ?」
「いわゆる最後の一撃ってやつじゃないですか?これ。」
「プライドを傷つけたのかな……?ここまでするなんて。」
「プライドはもう頂点なのかもしれませんね……」
話している間、シャドウの持つ魔力が際限なく増加していくのを、3人は感じ取っていた。
「……あ、あの。アレ喰らったら、私達消し炭になるんじゃあ……?前にシャドウが打ったものよりさらに強化されていますよね?」
「おいおい、そのために私とフリーレンが時間を稼いでたんじゃないか。」
「でも、私のじゃどうやっても威力不足です……」
「せっかく3人集まってるんだから、3人で協力して魔法を使おうよ。シャドウにはできない手段を以て戦おう?フェルン。」
「……いいですね。それ。」
それを見ていたシャドウは、また笑いだす。
「フフフハハハハ!アーハハハハハ!」
シャドウの持つスライムソードに、莫大な魔力を含む細かな線が纏いだす。
「……あの肉体損傷の状態でアレをやるのか。本人も無事じゃないだろう、絶対。」
「シャドウは一回こっぴどく負けた方が良いんですよ。じゃないとこうやって引き際を弁えられないようになってしまうんです。」
フリーレンと同様、フェルンも少し憐れんだような声で、魔法の準備を進める。
3人の魔力がフェルンの持つ杖に集まり、シャドウの持つ魔力に十分対抗できる魔法になっていく。
「仰ぎ見よ!そして知るがいい。地を砕き、天を穿つ!我が至高にして究極たる、最強無比の一撃を!」
「……今度は、前みたいに逃げるばかりじゃありませんよ!」
杖先に、幾重にも魔法陣が重ねられ、もはや後は全力で放つだけとなった。
「お前が切り捨ててしまったものがどれほど素晴らしいか、見せてあげる。」
3人の、杖を握る力もこれ以上強くなった。手が重なっている部分もあり、強く握られたことにより痛いと感じることもあったが、まったく不快ではなかった。
そして、
2つの極大の魔力の奔流が衝突し、しばらくそれは拮抗した。その荒れ狂う魔力の中、ゼーリエ、フリーレン、フェルンの3人は、シャドウがどういった様子かを確認することはとてもできず、ただ全力で魔法を放つだけだった。
しばらくすると、シャドウ側の魔力が急激に弱くなった。その直後、3人も限界に達し、魔法は終わった。シャドウの魔法がどうして途中で弱まったのかは、3人には分からない。
ただ確実に言えることは、彼女たちはシャドウに抗い、退かず、そしてついに退散させたことだろう。その場から、シャドウの姿は消えていたのだ。
放たれた魔法により雲は晴れ、どこまでも清々しい空が広がっていた。
次回最終回です。