本作に通して言えることですが、戦闘が発生しない場面は薄味になります。今回はかなりつなぎ回です。
「結局、シャドウに関する情報は出ませんでしたね、フリーレン様。」
「そうだね。これだけ聞き込みしても何も無いんだから、本当に最近姿を現したんだろう。いや、私たちが出会ったのが本当に初めてなのかもね。」
フリーレン一行は、中央諸国グランツ海峡にある村に滞在していた。今は仕事を終え、宿に戻る帰路だ。海岸の清掃の依頼を受け、既に二ヵ月滞在している。
その傍ら、先日出会った謎の男シャドウに関する情報を集めていた。この村に来る行商人に聞きこんだり、自ら別の村に足を運ぶなどした。しかし、まったく成果は出なかった。
「そういえば、前にゼーリエ様に魔法で連絡を取っていましたよね?返答は来たのでしょうか?」
「来たよ。でもゼーリエも知らないってさ。」
「そうですか……。あ、でも世界の成り立ちとかの話もありましたよね?あちらはどうでしたか?」
「それがさあ、『フリーレン、エルフとしての世界の見方と責務に足を踏み入れるときが来たか。まずは一万年程度の単位での魔法技術の進化に関しての話だ。』とか言い出してきてさ。面倒そうだったから話を切り上げちゃった。とりあえず、『シャドウに関する情報は手に入り次第教えてくれ』だってさ。」
「え、なんですかその話。私は気になります。」
「やだよ……なんかすごい面倒そうな仕事押し付けられそうじゃん。通信魔法にゼーリエの、なんというかいやらしい感情が乗ってたんだよ。私まだ1000年くらいしか生きてない。さすがに一万年単位での仕事は嫌だよ。」
「話を聞くだけでも、いいんじゃないんですか?」
「まあ、フェルンなら今後ゼーリエと会う機会はあるだろうし、そのときね。」
「……分かりました。」
そんな話をしていると、フリーレン一行は宿に到着した。その受付では、村人の二人が会話をしていた。
「……いやすごかったぜあれは。魔族をあんなに一方的に倒すなんて実力者を俺は見たことねえ。」
「いやいや……さすがに一瞬で20の魔族を一刀両断は荒唐無稽すぎる。」
「いや本当に見たんだって……。それに、武装も見たことが無いものだった。変幻自在に伸びたりする剣だったぜ。でも杖は使ってなかったな。」
その話を耳に挟んだ二人は、もしかしたらシャドウに関わるかもしれないと考え、話を聞きに行った。
「……ねえ、ちょっといい?その話、詳しく聞かせて欲しい。」
「……ん?おお、確かフリーレン様か。確か海岸の掃除をして頂いているのでしたよね?いやあ、おかげで素晴らしい新年祭が迎えられそうです。」
「そうだね、まあ新年祭までには掃除は終わるよ。……それで、今の話を説明してもらっていい?」
「勿論です。数年前のことでした。俺は山菜を取りに山へ向かったんです。でも、道中で魔族の集団に出くわしてしまって……。十年は出なかったので、正直油断していました。幸い、自分の方がいち早く発見できたようで、急いで自分の魔力の体外放出を制御して隠れました。」
「……良く咄嗟にできたね。正解の行動だ。」
「まあこれでも、魔法使いの端くれなので。それで早く逃げようとしたら、突然魔族の悲鳴が上がったんです。見ると、集団の中心に黒ずくめの男?に見える人が立っていました。」
「黒づくめ……」
「その人はいろいろと異常でした。まず魔力放出がほとんど感じられなかった。それなのに……表現が難しいのですが、指先から剣?のようなものを出したかと思えば、それを鞭のように形状変化させて、周囲の魔族を攻撃し始めたのです。とんでもない魔力制御でした。」
「……それで?」
「その後、別の魔族が駆け付けたようですが、まったく相手になっていませんでした。最後には叫びながら一瞬で20を超える魔族の首を切断し、去っていきました。」
フリーレンとフェルンは、やっとシャドウの情報が出てきたと目を輝かせた。
「うんうん、それで、その男はシャドウって名乗ってたりしない?」
「え?いえ、してませんでしたね。」
「……え?じゃあ、なんて名乗ってた?」
「そうですね、ちょっと独特な発音でしたが、たしか。」
「Stylish Mazoku Slayer !!!」
「って、名乗ってましたね。」
「え、なんですかその名乗りダッサ。」
フェルンは、およそ12歳程度の男児が考えそうなネーミングに対し思わず本心が出てしまった。
「…………その、他には何か言っていた?」
「ええ、確か、『ほおら、金置いてけー!』とか、『スタァイリーッシュ・ソォード!』とか、あと『ヒャッハー!!!』ってよく叫んでいました。」
「ふざけてるんですか?」
「お、俺に言われましても……」
「……どんな姿をしていた?」
「服は黒っぽいマント?みたいなものでした。それと顔に、麻生袋に穴を開けてマスクにしたものをかぶっていましたね。首から上は強盗のようでした。」
フリーレンとフェルンのテンションは下がっていった。
「……別人ですね。」
「別人だね。シャドウはそんな俗物じゃないはず。」
その後、とりあえずStylish Mazoku Slayerは、これはこれで要警戒対象、ということになったが、それ以上その話は続かなかった。大方、どこぞの戦い好きの魔法使いがふざけていたのだろうとフリーレンは結論付けた。
◇
僕が彼女たちをストーカーしてしばらくすると、港町に滞在し始めた。なんでも、清掃の仕事を引き受けたらしい。
さて、新世代の主人公一行が滞在するということで、僕は異世界らしいイベントが発生することを期待していた。例えば、清掃中の海岸のごみは、実は海中の巨大な魔物が原因だったとか、この村で裏の仕事をしている人たちがコッソリ捨てていたゴミを発見したりとかだ。僕はありとあらゆるイベントを想定し、それぞれに最適な陰の実力者としてのふるまいを妄想していた。
さあ異世界、素晴らしいハプニングを期待しているよ!
……そう思っていた、当初は。
もう三ヵ月くらい経過したけど、まったくもってなーんにも起こらない。彼女たちはただ海岸の掃除という仕事をしつづけただけだった。え、あれ?君たちそのままでいいの?RPGだと経験値が溜まらない状態になるよ?というか、よく三ヵ月も同じ仕事続けられるね君たち。飽きないの?
ああ、暇だ、暇すぎる。僕は、この時代の人々の時間感覚を甘く見ていたようだ。まあ、前世と比べてこの世界はゆっくりしてるなあとは思っていたし、僕が毎日陰の実力者としての活動の為に時間を無駄にしない生活を続けていた、ということもあると思う。ともかく、僕にとってはあまりにも長い時間だった。暇すぎて昔のスタイリッシュ魔族スレイヤーに一時期戻っちゃったよ。村自体も平和なものだった。海に魔物とか、殆ど出なかったし、村の人たち全然汚職とかしないの。僕の陰の実力者としての活躍の場は、ほぼなかったと言っていい。
かといって、自分でマッチポンプして活躍の場を作り出すのもなんか違う。僕は自分に、悪いことをしていなさそうな人にはなるべく危害を加えない、というマイルールを課している。陰の実力者は、享楽的な行動原理ではなく抽象的かつ俯瞰的な理由から事を起こすべきなのだ。
暇になった間、僕は彼女たちのことを改めて調べなおした。彼女たちの会話を盗み聞きした限りでは、彼女たちはこの村の新年祭まで滞在するらしい。本当に気が長いな!あと一ヵ月以上もあるよ!それでその次は、アイゼンというドワーフさんのところへ行くらしい。彼は、魔王を討伐した勇者パーティの一員だ。
今回のことで僕は学んだ。この世界で陰の実力者として活躍するには、受け身じゃダメなんだ。このまま僕が何もしなかったら、彼女たちはアイゼンと昔の話をしながらお茶を飲んで終わるに違いない。つまり僕は、彼女たちにとってのイベントでありかつ、何らかの意義のあることをしなければならないのだ。
というわけで、僕はこの村にてイベントが発生することを諦め、アイゼンと合流したときのイベントに注力することにした。そのために、僕は北の方へ向かった。しばらく探すと、魔族が10人くらいたむろしているのを発見した。そこで僕は、シャドウモードになり、魔力を仰々しく発しながら魔族さんたちの目の前に降り立った。
「な、なんだ貴様は?なんて魔力だ!?」
「我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩るもの。」
うん、いいね。メチャメチャビビってくれているようだ。ここにいる魔族全員が畏怖の混じった目で僕を見ている。
ここで僕は、陰の実力者として言ってみたかったランキング5位くらいのセリフを放った。
「力が欲しいか?」
いよっしゃあ、決まった!本当はこういうのはピンチの時の主人公たちに向けて言うのが理想ではあったけど、僕が今考えているシチュエーションで言うのも悪くはない。
僕は手に魔力を集めて、彼らに差し出す。
「魔の、さらなる高みへ昇る覚悟があるならば、我が手を取るがいい。」
しばらく様子見していた魔族さんたちだけど、やがて僕に近づいてきた。最近知ったんだけど、魔族さんたちは自身の魔力量で集団内の序列が決まるんだって。へー、意外と野蛮な価値観だなあ。頭がいいのが取り柄の魔族っていないのかな?
ということで、彼らは魔力が圧倒的に多い僕に従ってくれるはずだ。でもまあ今回は、君たちを部下にするとかいうつもりは無いんだよね。一応、本当に彼らが覚悟があるならば僕としても育ててもいいかもしれないとは思うけど、残念ながらここにいるのはモブ魔族たち。手を取った魔族さんは、
「ま、魔力が!ウワアアアアアア!!!!」
てな感じで、魔力の多さに耐えられずに気絶しちゃった。
ちなみにこれは僕の個人的信条なんだけど、やっぱり借り物の力で高みへ上るなんて考えるべきじゃないよね。だから、こういう安易な手法で力を得ようとしたこの魔族さんたちはあんまり好きになれない。魔力コントロール技術を磨いていれば、ちゃんとこの魔力量でも制御下において、気絶したりはしないはずなんだけどね。ついでに、そういった理由から僕は女神の魔法を習得する気が無い。だって、他者が開発したものをわけもわからず使うなんて実力者っぽくないじゃん。女神の魔法が必要なら人間の魔法をもとに代替魔法を開発したいと思っている。
まあということで僕は、
「この程度の魔力にも耐えられないならば、貴様らに高みへ上ることなど永久に不可能だ」
と言って、魔族さんたちを全員気絶させた。
いやあ、魔族にはなにしても怒られないのがいいね。彼らには、次のイベントでのキーキャラクターになってもらう。僕は、彼らの身体を魔力でいじくりまわしながら、今度こそ陰の実力者としてどう振る舞うかについて胸をふくまらせた。
・スタァイリーッシュ・ソォード!
仮にフリーレンたちがStylish Mazoku Slayerの戦いぶりをもっと詳しく聞いていれば、やっぱりシャドウかもしれないと考え直すかもしれない。
・ネーミングダッサ
フェルンはこう思うだろうけど、筆者にはフリーレンがこのネーミングに対してどう思うのかが全く想像できなかった。
・魔族にはなにしても怒られない
シド「この生き物使えるなあ!なにしても怒られないから、安全に好き勝手出来る!」
アイゼンイベントはかなりオリ展開が入る予定です。まあ本作そんなんばっかですけどね。