筆者の独自考察が多分に含まれます。
目の前に現れた男。おかしな状態の魔族を倒したと一息つこうとしたところに、この男、シャドウは現れました。
シャドウ。フリーレン様をして完全に格上と言わしめるほどの魔法技術を持つ、謎の男。初めて会ったときは、かつて悪逆の限りを尽くしたという大魔族クヴァールを倒そうとしたときでした。彼はおそらく勝手にクヴァールの封印を解き、その上クヴァールを一方的に追い詰めていました。かつての勇者一行でも封印がやっとだったはずなのに……。
フリーレン様曰く、彼の脅威はその実力もさることながら、その正体がまったくもって不明なところだそうです。あの大陸魔法協会の創始者ゼーリエ様ですら、彼の正体には心当たりがないそうです(関係ない話ですが、フリーレン様は大陸魔法教会を知らず、資格も持っていなかったんです。闇魔法使いだったんですね、フリーレン様……)。それどころか、人間の味方なのか、敵なのかも分からないのです。当時は世界の破壊と再生がどうとか言っていましたが、正直一介の魔法使いの私に言われても困ります……。
おそらくは彼自身の考えで行動しているのでしょうが、その考えで私たちに敵対されてしまったらひとたまりもありません。フリーレン様とゼーリエ様のご意向で、その後しばらく滞在する町などで聞き込みをしてみました。しかしまったくもって成果が出ず、もうどこか遠い所へ行ったのだろうと思って、最近は頭から抜けていました。
でも、改めて相対すると、その魔力制御のとんでも具合に驚かされます。例えばこの男が前のクヴァールの時に使っていた防御魔法。フリーレン様と私も真似できないか色々試してみましたが、例えるなら一本の指の上に針を5本縦に重ねるような精密さが要求される難しさでした。フリーレン様曰く、習得するのにどれほどの時間がかかるのか想像したくないとのことです。
正直、あの魔法の技術に興味はありますが、あまり会いたくはない男です。……そもそも人なのでしょうか?角は見受けられないので、隠していない限りは魔族ではないはず。人だとしても、何らかの方法で長い時間を生き、その生の全てを修練に費やした存在なのでしょう。ともかく便宜上人とします。ひとまずはアイゼン様にこの男の事を伝えなくては。
「アイゼン様。この男が、この前話したシャドウという男でございます。」
「なるほどな。フリーレン、まず一つ言っておくが。」
アイゼン様はシャドウから目を全く話しません。先ほどとは緊張の度合いが違うのがわかります。私も先ほどから背中の汗が止まりません。
「この男、明らかに魔王より強いぞ。」
……なんとなく予想はしていましたが、いざ改めて言われると、心に来るものがあります。今のこのパーティに、かつての勇者一行ほどの力はありません。この男に敵対されたら正直終わりです。でも、クヴァールの時は結構楽しそうに戦っていたように見受けられました。覚悟を決める時かもしれない……。
そう思いつつ、シャドウの一挙手一投足に集中していると、シャドウは予想外の発言をしました。
「お前も、力に負けたのか。」
悲しみを含んだ声でした。シャドウは、私たちが先ほど倒した妙な大型魔族を見ています。
……もしかして、この妙な魔族たちはこのシャドウの仕業?
「……この魔族の状態はシャドウ、お前が用意したの?」
フリーレン様も同じお考えのようでした。
「魔族。彼らは魔力を、力を求める。だからくれてやったのだ。だが、その末路がこれだ。」
……もしかして、魔族に魔力を譲渡した?そのような技術は聞いたことがありません。でも、それよりも重要な点は。
「……お前、魔族の味方か?」
「さて?我は魔族に与するつもりはなく、しかし人類に与するつもりもない。我の味方は、我のみだ。」
……やはり、シャドウは人間の味方ではないようです。いわば、人間と魔族の戦争における、第三勢力。利益があれば、魔族に手を貸す可能性がある。
「私には分からないな。シャドウ、お前は魔族ではないよね。なら、魔族の有害さは分かってるはず。滅ぼすことが愚かとか言わないよね?」
フリーレン様には、そのような存在は受け入れがたいものでしょう。フリーレン様は、過去に住んでいた村を魔族に襲われ、すべてを奪われたと伺っております。そのため、生きてきた時間のかなりの部分を魔族を欺くための修行に費やすほどに、魔族を憎んでおられます。今の声にも、少しの苛立ちが混じっていました。
しかし、シャドウは予想外の方向に話を進めてきました。
「……人は、魔族を滅ぼしたいがために力を欲する。魔族も、生涯をかけ魔法という力を欲する。」
「……何?」
「だが、その果てにあるものは何だ?人も魔族も、身の丈に合わぬ力を欲する者がいる。」
そう言われて、ふと気づきます。この男ならば、この魔族の状態を予想できないはずが無い。そして、この森には最近まで魔族の出現情報はなかった。つまりこの状況はシャドウが用意したもの。
……もしかして、シャドウはこの魔族を通じて、何かを伝えようとしている?人は身の丈に合わない力を欲するべきではないというのでしょうか?
私はハイター様から頂いた杖を見つめました。身の丈に合わない力……。ハイター様は、私に魔法を教えるとき、使い方を誤ってはいけないと、力を持つ者としての振る舞いがあると、私によく仰っていました。
……でも、そのような問題は、私だけものではないはず。今まで姿を現さなかった存在がわざわざここまで手を込んだことをするからには、それ以上の意味があるように思われます。
するとシャドウは、どこからか新しい魔族を取り出しました。私の魔力探知では確認できなかったのに、どこに隠されていたのか、突然現れました。……もしかして、他にもまだいるのでしょうか?
「その末路がこれだ。ああ、なんと愚かしい存在なのだ。」
「こ、これは……」
「う、うギギギ……」
「ク、苦しい……」
「助けて……僕には家族が……」
すると、フリーレン様が小声で私に話しかけられました。
(フェルン。わかっているとは思うけど、魔族に家族なんていない。魔族の言葉は、人を欺くための言葉だ。あの苦しそうな声も、わざとかもしれない。油断しちゃだめだよ。)
私はそれに頷いて返答します。……フリーレン様はそう仰いますが、あんなに魔力がグチャグチャな状態で言われると、私にはこの魔族達が本心から助けて欲しいかのように思えてしまいます。
……でも、シャドウの声には、悲しみが含まれていました。つまり、何かがシャドウの望みに反している。……そういえば、先ほどシャドウは「魔族に力をくれてやった」と言っていました。わざわざ「くれてやった」などという表現をした。つまりシャドウは、身の丈以上の力を欲することを厭う。そして、それは「人も魔族も」そうだと言いました。
……もしかしてシャドウは、人類そのものが身の丈以上の力を欲しているという警告をしている?この魔族の姿は、その成れの果てだと?
「我が魔力よ、爆ぜろ。」
シャドウは、そういうと、魔族の体内に会った魔力を操作し、爆発させました。魔族は見るも無残な姿になり、消滅してしまいました。
「今、くれてやった魔力を我の手によって爆ぜさせた。与えられた魔力をコントロールできていない証拠だ。お前たちも、こうなりたいか?」
……「お前たちも」とは、つまり私達人類もそうなりえる、そういうメッセージなのでしょう。確かに、魔族が与えられた魔力を自身の制御下においていれば、このようなことにはならないのです。シャドウは、私達人類の魔法もそうなり得ると言いたいのでしょうか?
……私の頭に一つの魔法が思い浮かびました。一般防御魔法。私はこの魔法を教わったとき、これ一つで魔法攻撃なら大抵のものは防御出来てしまう性能に驚きました。無論魔力消費が大きい、物理攻撃に弱いといった欠点はありますが……。
……でも確かに、それまでの時代と比べて、人間の扱う魔法は高度に、強力になっています。この調子でいけば、いずれ人間には扱いきれないほどに強力になる、とでも言いたいのでしょうか。
そんなことを考えていると、シャドウが私の方を向いていることに気づきました。……え、今の台詞、もしかして私に言ってたんですか?私のような一介の魔法使いになぜ、とは思いますが……女は度胸です。こういうときは虚勢を張るものだとフリーレン様に教わりました。
私は、これから手にする魔法がどんなに強力なものであったとしても、必ず使いこなして見せます。あの魔族のような失敗を、恐れたりはしません。
なんて、ちょっとした反抗心を含めた決意を込めてシャドウを見返します。まあ私自身そこまでして魔法を追及する人間だとは思っていませんが、同時に魔法を恐れるつもりもありません。それに満足してかは分かりませんが、彼は背を向け、去ろうとしました。
「シャドウ。お前は、人間のことが好き?」
フリーレン様が声を掛けました。やはりこちらの味方をするのかが非常に気になるようです。
「人間?フッ、愛しているに決まっているだろう?」
と、シャドウは返しました。少しおどけたような声でした。おそらく、純粋に好きなのではなく、私達が藻掻いたりするのが好きとかの、そんな捻くれた意味なのでしょう……。
「さらばだ。お前たちに未来を切り開く力があるのならば、また会おう。」
そのまま私たちは、去り行くシャドウを見続け、視界から消えると緊張の糸が切れその場にへたり込んでしまいました。
◇
「はぁ……まったく、なんちゅう圧力を出す男だ。老人のただでさえ残り少ない寿命がさらに縮んだぞ。」
「正直あまり会いたくない手合いだよ。……予想はしてたけど、やっぱり人間の味方でも魔族の味方でもない、我が道を行くタイプなんだろうね。」
しばらくして、私たちはもう一つの目標であるフランメの手記を探す為に歩き出しました。私は、シャドウが言った、扱いきれない力という言葉が気になっていました。
「フリーレン様……あの、シャドウの行動についてどう思われますか?」
「……わざわざあんな手の込んだことをしてたんだ。何かを伝えたかったんだろうと思うよ。」
「その何かとは……やはり、将来的に魔法は、人の手に余る代物になるということなのでしょうね……」
「うーん……フェルンもそう思う?正直私は実感湧かないよ。でもまあ頭では理解できる話だ。シャドウはゼーリエみたいな思想を持ってるのかもね。」
「ゼーリエ様みたい、というと?」
「ゼーリエは魔法を才能ある者にしか教えなかったんだ。前は教えるくらいいいじゃんって思ってたけど……今思うと多分、あの魔族みたいに力に振り回されるようになることを恐れていたのかなって。」
「……フリーレン様は、私が習得するべきではない魔法などをご存じなのでしょうか?」
「いや、私はそんな魔法は無いって思ってるよ。まあ習得に段階を踏むべきとか、そもそも
「……しかし、あのシャドウはそう考えていない口ぶりでした。」
「そうだね……。ゼーリエとシャドウはどっちもそういう長い時間での考えで行動しているところがあるけど、二人の違いは、シャドウの方が結構悲観的なところだね。」
そういうと、フリーレン様は立ち止まり、私の方を向きました。
「フェルンは今の私を倒せる魔法使いの中で最も若い魔法使いになると思ってるよ。」
突然言われて驚きました。私、フリーレン様には全然届いている気がしないのに……。
「……言ったこと無かったっけ?
「……確かに、そこはそうかもしれませんが、それ以外はとてもとても……」
「そういう部分が増えていくと思ってる。これもゼーリエが千年前に言っていたことなんだけど……この先、時代は加速する、って。これに関しては真実だと思ってる。なんか最近、魔法技術の発展速度が早くなってる感があるよ。」
「そうなのでしょうか……?私には実感がありませんが……」
「フェルンはまだ20年も生きていないからね。これは、まあ魔王が討伐されて人類に研究する余裕ができたっていうのもあると思う。……でも明らかに言えるのは、こういう新しい技術を扱うのはエルフより人間の方が得意だってこと。で、新しい技術の方が基本的には強くて便利だよね?」
「そうですね……」
「人間から見ると、エルフは物知りだけど新しいことへの適応力が弱い種族に見えるんじゃないかな?」
「私はエルフをフリーレン様しか知らないので何とも言えませんが、故郷では昔のことを知る生きる歴史書的な扱いはあった気がしますね。」
「それで、エルフの私から見ると、魔法技術の研究に関していえば、人間って新しい魔法をすごいペースで生み出すなって思っている。私は大いに人間に期待しているよ。この先どんな魔法を生み出すのかなって楽しみにしてた。ただ……」
「今回のシャドウの言葉ですか。」
「そうだね。身の丈を超える魔法なんて考えたことが無かった。でも例えば……"望むものをなんでも生み出せる魔法"とか、"物体を複製する魔法"とか、"どんな病気でも直す魔法"とかが、大した魔力や修行無しに実現できたとしたら、フェルンやアイゼンはどう思う?」
「俺には正直縁がない話だな……。今まで魔王や魔族の討伐のために、力を得ることで精いっぱいだったからな。」
「……そんな魔法、強力過ぎて想像できません。あまりに荒唐無稽すぎます。」
「でも、空を飛ぶ魔法だって40年以上前は荒唐無稽、魔物や魔族の独壇場だったんだ。あり得ないことじゃない。」
「……でも、仮にできたとしたら、それは良いことではないのでしょうか?」
「いやフェルン、なんでも生み出せる魔法なんてあったら、ドワーフとしては商売あがったりだ。俺達の仕事は鉄鉱石の採掘や武器の製作だからな。人生の目的が無くなっちまうやつも大勢出てくるかもしれん。」
「あ……そうですね、確かに。」
「まあそんな感じで、経験知識不足の人間が簡単に強大な力を行使できるようになったら……事故のような何かで自滅した、社会が混乱しすぎて戦争に発展、なんてこともありうる。シャドウはそんなことを気にしているのかもね。何が見えているんだか。」
「……未来が見えているとか?」
「判断材料が少なくてなんともね。でもそういう技術は実在する、今ここに。」
そういうと、フリーレン様は最初に捕縛した魔族を指しました。そういえば、シャドウが去ってからずっと運んでいましたね。正直かさばるのでどこかに置いておきたいのですが、目が覚めて暴れる可能性があるのでどこかに置いておくわけにもいかず、結局ずっと運んだままです。
「……先ほど眠らせた魔族ですね。」
「軽く調べてみたんだけど、なかなかすごいよ。いくつかの複雑な魔法術式と、それに合わせるようにこの魔族の身体がいじられている。出会ったときは暴走状態だったけど、これ、うまく応用したら魔力の状態を変えないまま魔族を服従させることができる。つまり、魔族の体の自由だけを、他の魔族に気づかれないままに奪うことができるってことだ。魔族をスパイにできるかもね。」
「……確かにすごい技術ですが、そんなに危ない代物でしょうか?」
「……フェルン。魔族にできるってことは、より身近な生き物……つまり、人間にも同じことができるってことじゃない?」
「……」
「まあできそうってだけだけどね。これ、事前に手間がかかることを除けば、魔法の難易度が現代の
「……それは……確かに……。」
他人をいちいち操り人形なのかを気にしないといけない社会ですか……あれ、結構ヤバくないです?いちいち人に会う時に解除魔法をかけるのも失礼ですし。すごく疑心暗鬼になってしまいそうです。
「とりあえず、これのことは私は信用できる人にしか話さないつもり。でもいずれ、こういう技術が自然に開発されたら……と考えると、未来は暗いのかもしれない。というのがシャドウが言いたかったことなんだろうね。」
「この魔族はどうしましょう?この森の件が終わったら、どこかの都市に寄って、大陸魔法協会に引き渡しますか?」
「え、いや。アイゼンの家をちょっと借りて解析した後は処分する予定だよ。フェルンにも手伝ってもらうね。」
「……え。私ですか?」
「そうだよ。さっきも言ったけど、人間の方が適応が速いから、この技術をとりあえずフェルンにできるようになってもらうね。」
「大陸魔法協会じゃなくて、私に?」
「そうだけど?」
「いえ、ありがとうございます。」
「……?」
そこでこの会話は終わり、私たちはまたフランメの手記探しを再開しました。
……フリーレン様が、大陸魔法協会じゃなくて、私かあ。むふふ。
・「この状況はシャドウが用意したもの。」「シャドウは何かを伝えようとしている。」
い つ も の 。
いやまあ意味あるのは間違ってないんだけどね
・ハイター様は、私に魔法を教えるとき、使い方を誤ってはいけないと……
オリ設定。でも僧侶ハイターならフェルンに悪いことに魔法を使うなくらいは言うよね……?
・人間
原作で人間とか人類という時にエルフやドワーフを含むのかが分からんので、あまり厳密に使い分けていません
・魔法技術の発展速度が早くなってる
まあ現実世界でも活版印刷の登場で社会の発展が速くなったみたいな話があるし、フリーレン世界でも同じじゃないかな……
・大いに人間に期待している
昔はフリーレンは「人間に教えてもすぐ死んじゃう」と言っていたけど、一級試験編をみるにこういう心変わりをしたんじゃないかな……と思いました
・フェルンにできるように
ちょっとづつ原作と戦力がズレていく予定です
・むふふ
フリーレンの信用度が、大陸魔法協会 < フェルンだったため
この後のフランメの手記イベントは原作通り進みました。
全然関係ないんですけど、この小説のタイトル安直すぎないの感が結構しています。でも他のタイトル全然思い浮かばないんや……
あと、本小説は一級試験までは行きたいと思ってます。行けると、いいなぁ……