ノブリス・オブリージュ?なんですのそれ? 作:一般お嬢様
ゲヘナの方がマシ、その言葉はトリニティの生徒から出てくる言葉としてはあり得ないものであり。それはアリウスに取っても聞き逃すことは出来ないような言葉でもあった
「聖園ミカ、我々は協力関係にある。そこは覚えているだろうが…その言葉は我々アリウスにとっても聞き捨てならない言葉だぞ?」
アリウスも元々はトリニティが出来る前まではゲヘナとも戦ってきたのは間違いない事実である。自分達を迫害してきたトリニティにも憎しみは有るが、それと同等、或いはそれ以上にゲヘナへの憎しみも高かったのである。
「んー?」
「トリニティは憎い、だがそれ以前にゲヘナは我々の敵だ」
「そうだね、それはそう。………じゃあ逆にアリウスに聞きたいことが有るんだけど。いいかな?」
「……なんだ?」
アリウスの指揮官の一人がミカに向かってグレネードを構える、もしかしたら内部分裂が起こるのか?と周りが思ったのだが。そうはならなかった、そのままミカがくるりと体をアリウスの指揮官の一人の方へ向けつつ、歩み寄りながら尋ねる。
「アリウスって、信じる手順とかは違うけど。身内を攻撃することを良しとする教え、あったっけ?」
「………おそらくは無い。少なくとも、戦える兵士を徒に減らすような真似は御法度だろう」
「うん、そうだよね。そうだよね?じゃあ…ゲヘナの風紀委員長のことは、ある程度知ってるよね?敵のことだしさ?」
「まあな」
「トリニティにとってヒトミちゃんってその立ち位置なんだよね」
「…………は?」
問答を重ねた上でミカがそういえば、アリウスの指揮官が間抜けな声を上げる。それはただのアリウスの生徒にまで波及し、俄にわめき立つ。どういうことかと
「ヒトミちゃんって、本当はとっても強いみたいでさ?多分正義実現委員会の剣先ツルギ以上に。それどころか…まあ、下手すると私以上にかな?本人から聞いて昔の資料漁ってたら、まあ。普通に空崎ヒナよりも強い可能性が高いっていうのは分かったんだよね」
「……それが何だ、少なくとも我々の目の前に───いや、待て。我々の目の前に立ちはだかっていることはまあ良い、そういう話ではない」
「うん、そういう話じゃないよね?」
ミカが語った言葉に、何の関係が有るのか?というように煩わしそうな声を上げていたアリウスの指揮官は、何かを考えるような素振りを見せつつ。何かを理解したような声色に変わった
「トリニティの生徒は……いや、トリニティは。
「そういうこと☆」
アリウスの指揮官が震えながら絞り出した言葉に、ミカは笑顔で頷いた。ミカが肯定したのを見れば、持っていたグレネードランチャーを震わせながら銃口を下げた。その後、まるで理解できないことのように
「何故…?何故だ?何故そんな事をする?ゲヘナへの対抗手段として有力な力を持つものを潰して何になる?それではゲヘナとの戦争が拮抗する、いや。最悪の場合負けに行くようなものでは無いのか……!?」
アリウスから見れば。それはあまりにも理解しがたいものだった。キヴォトスは平和ではない、どこかしらで戦争し続けているというようなものと違いない、であるならば。自分の国を、自治区を守る駒が多くて困ることは当然無い。むしろゲヘナと戦うのであれば尚更必要なはずだと
「理由?理由かぁ……教えてあげよっか?」
「………その理由は何だ。そんな駒を消す理由だ、裏切りでもした「気に入らないから」……は?」
「だから、気に入らないから。それだけだよ、ヒトミちゃんがそうなってる理由は」
「……馬鹿な。有り得ない……有り得ない……!?」
「そうだよねー。理解できないよねー………その程度なんだよ。今のトリニティってさ、風紀委員長である空崎ヒナもなんだか大変そう、っていうのはある程度調べがついたんだけど。一応死ぬ位までは追い詰められてないし、普通に戦えるみたいなんだけど」
「………そこの天上ヒトミというのはそうじゃないのか」
ミカの言葉を受けて、視線がヒトミの方へと移る。ヒトミは視線を受けつつも、まだ目を閉じて微動だにしなかった。ミカも同じ様に視線を送る
「うん、少なくとも。今のヒトミちゃんなら私で抑えられるかな?っていう感じ」
「………なるほど、或る意味では腐った現状こそが裏切り。ということか」
「そういうこと☆………ま、それだけじゃないんだけどねー」
実際問題、ヒトミの戦闘能力はかつてと比べるとかなり落ち込んでいる。それが利敵行為かどうか?と聞かれればそうであると言われても仕方がないだろう。それとも、ヒトミの戦闘力を知らない層の生徒が行っているのかもしれないが。
「””それだけじゃない…というのは?””」
「んー?」
「””ミカが言ったのは、ゲヘナの生徒全体。というよりは特定の個人のことだろう?””」
「そうだね、それは正しいかな」
先生が引っかかって居た事を尋ねれば、んー……と唸った後、ヒトミを視界の端に入れつつ。ミカが首を縦に振りながら答える。
「名前はええと……誰だったっけかな?愛清フウカ……だったかな?あの子の方がましだよねっていう」
「””ミカはフウカの事を知っているの?””」
「詳しくは知らないよ?詳しくはね?」
うーんと考え込んだ後に、名前を思い出したミカに先生が問いかける。だが、ミカはフウカのことは詳しく知らないらしい、それではましだよね、という発言にあまりにも説得力がないのでは?そう思われたが
「でもヒトミちゃんに助けられて。ちゃんとお礼を言った子っていうのと、ヒトミちゃんがゲヘナに行ったときに手助けしてくれたっていうのだけは知ってるよ」
「………!」
ミカがそういえば、ヒトミが此処で初めて軽くだが反応を示した。おそらくはゲヘナでの行動が監視されていたということは想定はしていたのだが、ナギサではなくミカにされていたというところが若干の計算違いということであるだろうか?
「あとは、ゲヘナの風紀委員会かな。末端だから……いや、末端だからこそトリニティの生徒への当たりが強いかなって思ったんだけれど。そうじゃなかったみたいだからね、これがもしトリニティだったら。そんなコトしないと思うよ、例え正当性があったとしても。ゲヘナ憎しの感情だけでさ」
「””……それは、そうかもしれないね””」
「でしょ?だからゲヘナの方がましってこと。多分今のままゲヘナと戦争したって内部分裂でゲヘナに負けると思うんだよね。そういう想定ができちゃう時点でもう駄目だと思うの……ま、こんな所かな?君達に引き金を引く理由は」
先生が肯定するのを見れば、ミカがどの口でゲヘナのことを醜い、なんて言えるんだろうね?と皮肉げに言いつつ、自分の銃のセーフティーを外す。これから先は言葉を語るつもりはないというように
「……ま、正直な話。先生とコハルちゃんは見逃してあげても良いんだけどね」
「……!?」
銃に手をかけながらミカがそう言うと、アリウス含め衝撃が走り、アリウスが色めき立つが。ミカが手で静止をかける。話は最後まで聞けというように
「コハルちゃんは単に勉強できないだけだったから、武力抗争に巻き込む理由がないんだよね。正義実現委員会にも迷惑掛けちゃうし、単に勉強が出来ないだけで武力で押しつぶされる理由は無いからね。その辺りは見誤るつもりはないかな」
ミカがコハルに視線を向けながらそう言うと、本気で最初からそのつもりだったのか。アリウスの方もコハルの方に対してはそこまで違和感がないようだった。次に視線が先生へと移る
「先生の方は……戦力的に居ない方がいい。っていうのも或るんだけど、あんまりトリニティの汚点を見せたくないんだよね、完全に歴史的な部分での失態だから。先生はキヴォトスに来てまだ短いんでしょ?だったらそこに関してあれこれを言うつもりはないかな、全部を把握して全部に対処しろー…なーんてのは。私が嫌ってるトリニティの生徒の言い草と同じだから」
どう?大人しく引くなら二人は見逃してあげるけれど。というようにミカが問いかける
「””……私は生徒の味方だから、逃げる訳にはいかないかな””」
「そーだよね、知ってた」
先生の方は既に分かり切っている問答のように先生が答えて、ミカが知ってましたよーと言うように返す。問題はコハルの方である。コハルは正義実現委員会という組織に所属しており。ティーパーティーの命令に従っただけ。という言い分は通らなくもない、現にアリウスの圧とミカの存在感に腰が引けてしまっている。一人だけ1年生というのもあって場数が圧倒的に足りていないというのは大きいだろう
「コハルちゃん、コハルちゃんは日常に戻れる権利がある。私はそう思うな?勉強が出来ないことは悪でもないし罪でもない。見逃してあげるというか、本当は関わらせないほうが一番良かったのにそれが出来なかった私達のミスのせいなんだけれどね。………どうする?コハルちゃん」
「……………」
ミカに問いかけられたコハルは、正直に言えば立っているだけで精一杯だった。此処数日の疲労と、先程の戦いでのダメージがコハルの足を引っ張る。まるで足かせのように
「わ、私は………」
「コハルちゃんは?」
コハルはなんとか声を絞り出すだけでも、体力が大きく削られていく感覚に襲われる。ミカと対峙しているというのも或るが、周りからの視線が何よりもコハルを追い詰める。
───下江コハルは下っ端だ、何をやっても上手く行かない。成績はあまりなく、実力も1年生の中で突出しているというわけでもなく。現場を取り押さえる方ではなく、押収品の整理を主に担当していた。
頑張って背伸びしても結果は散々だった。同じ1年生の方には自分よりも優れた生徒がいる。多分、自分はああはなれない、戦場で勇敢に戦って。友達を助けて、敵を追い払う…なんていう理想の正義実現委員会には到底なれっこない。だったら、もしかしたら。今此処で、逃げるほうが良いのかもしれない。
「………っ」
「ゆっくりでいいよ、コハルちゃんが決めるまではうごかないから」
ミカの優しい言葉が毒になり、コハルは目を瞑る。圧倒的な重圧から開放されるというのは、人間にとっては抗いがたい誘惑では或る。その誘惑はとてつもなく強力である、どうしようもない毒である。それに負けたとしても、おそらく。きっと、誰も文句は言えないであろう、元々巻き込まれる理由がなく、難から逃げられるというのであれば。
(このまま、逃げても……)
このまま逃げて正義実現委員会に戻ったらなんて言われるのだろうか?どうやって戻ってきたと問われるのか、それかアリウスから逃げ出したと言われるのか。はたまた無事で良かったと喜ばれるのか。そんな事を思いつつ……ふと目を開ける。なんとなしにヒトミの方を見たコハルは。いつの間にか目を開けていたヒトミと目が合う
そうした瞬間、コハルは数日前のヒトミとの会話を思い出した
─────力がなければ正義は不可能だと思いますか?
─────最も大切なものは『在り方』、ですよ
「……私は、私は………っ」
「………」
「私は、正義実現委員会の。下江コハルだから……っ!」
「!」
言葉を途切れさせながら、声尾を震わせる。コハル自身情けない声を出していると思う。それでも、それでも声を絞り出す。全身のありとあらゆるところから、立ち向かう意志を引きずりあげる、折れるな、立ち上がれと
「あ、相手がてぃ、ティーパーティーの人でも…っ」
足が子鹿の様に震える、今でも恐ろしい。ティーパーティーは正義実現委員会の直属の上司、その上司に銃を向けるというのがどれだけのことか知っている。仮に此処を乗り切ったとして、本当にトリニティから追い出されるかもしれないという現実を直視し無いといけないのだから
では、何故聖園ミカに銃を向けたのか?簡単なことである
「私の、「正義」は。私だけのものだから……っ!」
彼女が「正義」実現委員会だから、それだけである。
コハルは息を絶え絶えにしながら、ミカにそう言い放つ。足は震え、銃を持っている腕は照準が定まらないほどぶれている、顔色も当然良くない。おおよそ戦士と言うにはあまりにも貧弱で、正義と言うにはあまりにも滑稽な姿では或る
ただ、その姿は。この上なく下江コハルという人間性を表しており。この上なく、人間としての尊厳に満ち触れている、気高い姿であった
コハル様のみっともなくも、それでも折れない姿。まさしく弱者の咆哮ですわね、さて。次からは本格的な戦闘に移りますわよ〜〜〜!!!!
番外編について
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同じ作品で投稿して欲しいですわ〜!
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別作品として投稿して欲しいですわ〜〜!!
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ェ駄死もいいですわ〜〜!!!