杉森美奈の尿意 作:マーウィン・ゴンザレス
【ピピピピ!ピピピピ!ピピピピ!】
「ううん……」
けたたましく鳴るアラームの音に、少女は顔を顰める。灰色のカーテンの脇から差し込む光は、どんより暗い部屋に僅かな明るさをもたらしている。
「んぅ……」
鬱陶しそうに寝返りを打ち、手探りで目覚まし時計を探し当て、音を止める。
それから少し経って、目をこすりながら、ぼんやりと瞼を持ち上げる。
「……うえっ!嘘!?もうこんな時間!?」
開けた目に入ったのは、電子時計の7:50という表示。一気に意識が覚醒し、半開きだった目がパッと開く。
「やばっ、寝坊っ!」
パジャマ姿の少女は、布団から飛び起きた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
制服に着替えた少女は、息を切らせながら朝の通学路を走る。額には汗が煌めき、肩に抱えたカバンは一歩進む度にぐわんぐわんと揺れる。
杉森美奈。橋山中学校。14歳。
成績はいいほう、運動もそれなり。性格は明るいが、男子からの人気は普通。
そんな彼女には、ある悩みがある。
「っやばっ、おしっこしたい……」
そう、トイレが近いこと。
「うー……この辺コンビニあったっけ……てか行ってたら時間やばい……」
生まれつき膀胱が小さく、あまり多くの尿を溜めておけないため、尿意を感じる頻度も、我慢できる時間も普通の人より短い。
それに加え、今日彼女は家でトイレを済ませていない。時間がなくて焦っていたために忘れてしまった。
「どうしよう……また外でするしか……」
基本的に寝坊しがちな彼女。こういったことは以前にもあった。その時は、人気のない路地裏に入って行き、こそこそと周りを伺いながらしゃがんで放尿した。
あくまで緊急事態における苦策である。本当なら羞恥心が邪魔して実行するのは難しいだろう。しかし、今からトイレを探す猶予は、漏らすまでの時間、学校へ向かうバスの出発時刻、二つの意味で残されていなかった。
「っ、あそこっ!」
見つけたのは、前回放尿した路地裏。依然として人気はなく、近寄りがたい雰囲気を放っている。
「……………う」
その暗闇を前にして立ち止まり、美奈はおずおずと中の様子を伺う。
この時間帯にも関わらず、中はほとんど暗闇に覆われて見えない。もし中に怖い人がいて、ここで事件なんかに巻き込まれたら、助けてくれる人はいるだろうか。
「漏れる……」
しかし、そんなことを気にしている場合でもない。彼女はおしっこがしたいのだ。今はそれが最重要案件であり、膀胱を圧迫し続けるこの尿意の解消こそが至上命題である。
彼女の下半身がぶるっと震える。こうしている間にも、尿意の限界は刻一刻と迫ってきていた。
「………………行こっ!」
やむを得ないといった表情で、覚悟を決めたのか一直線に突入していった。
両隣を高い建物に挟まれているため、朝とは思えない暗さのこの小道。倒れたゴミ箱の中身が散乱し、ネズミもそこらを走り回っている。
「はぁ、はぁ、もう無理っ!」
曲がり道の手前でそう叫ぶと、急にパンツを膝まで下ろした。ここを曲がればひとまず大通りから美奈の姿は見えなくなるのだが、そこまでたどり着く余裕はもうなかったようだ。
「あっ、ふぅ、はぁーっ……」
慌ただしくしゃがみ込み、それからゆっくりと息を吐いた。
「危なかったー……てか、これ遅刻だし……」
黄色く光る水たまりを背にして、おずおずとパンツを履き直す女子中学生。その表情は、我慢し続けたものを全て出し切った爽快感で溢れていた。
「はぁーあ……また先生に怒られるのやだなー……」
彼女の災難はこれからも続く。