魔法少女まどかマギカ  間(はざま)の物語   作:Mt.モロー

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第十四話 【美樹さやか】(2)

 美樹さやか失踪事件翌日 17:45

 見滝原路上 美樹さやか

 

(仁美……はやまらないで)

 

 志筑仁美のあの電話の切り方。時間的な猶予(ゆうよ)は非常に少ないと感じた。

 

(あんたは、もう十分苦しんだ……だから、もういいんだよ)

 

 仁美は以前にも自殺を(こころ)みたことがった。その時は間一髪で食い止めはしたもの、美樹さやかへの友情と、上条恭介への恋愛感情の板挟みが、彼女を極限状態に陥らせたのだ。

 

 さやかは魔法少女に変身した。仁美がどこにいるのか正確な位置が分からない。このままでは確実に間に合わない。ここは、賭けるしかなかった。仁美は前回同様に魔獣の異空間に取り込まれているはずだ。

 

(『杏子! 時間がない! 駅周辺の異空間に飛び込んで』)

(『とっくに見つけてる。これから入る』)

 

 さやかは大跳躍して駅を目指した。なるほど、大きな瘴気(しょうき)があふれだしてる異空間があった。そこに朱色(しゅいろ)の魔法少女が侵入するのが見えた。今度は見間違いではないはずだ。あれは佐倉杏子だ。

 

 数分遅れてさやかも異空間に侵入した。大型の魔獣が駅ビルの屋上に居座っている。その眼下のホームに制服姿の少女が立っていた。一般人は魔獣の異空間には入れない。それが許されるのは魂を魔獣に捧げるものだけだ。

 

(間に合わない……)

 

 仁美がふらふらと線路に近づいていく。異空間では現実世界の事象は分からない。多分、仁美は駅に到着しようとしてる電車に飛び込むつもりだ。さやかの位置からでは、それを止めることができない。

 

 赤い彗星のような移動体が仁美に接近していた。杏子だ。彼女なら間に合うかもしれない。

 

(『仁美は任せろ! さやかは魔獣を倒せ!』)

(『杏子! お願い!』

 

 彼女なら必ず仁美を救出してくれる。そう信じて、さやかは魔獣に突進する。

 

(変異魔獣……)

 

 変異魔獣は、これまでのレーザーによる単純攻撃だけでなく、自然現象等の固有の攻撃方法を持っていた。この魔獣は強烈な風で、接近するさやかの行く手を(はば)んでいた。

 さやかは、空気抵抗を最小限にして剣先から魔獣に突入した。体型を維持できなくなった魔獣はブロックノイズ化する。だが、変異魔獣は、そのブロックノイズにも攻撃能力を持っていた。

 

(わずら)わしい!」

 

 さやかを挟み潰そうとするブロックノイズを剣で両断していく。そして、すべてのブロックノイズを消し去ると、魔獣はグリーフキューブを残して消滅した。

 

(『杏子!』)

(『間に合った……お嬢さんは無事だよ』)

 

 さやかは天を仰ぎ、大きく息を吐いた。グリーフキューブを拾い、ゆっくりと杏子たちのいるホームに降下した。

 

「ありがとう……杏子」

「お嬢さんは、あんたと話したいみたいだぜ」

「……」

 

 杏子に抱えられた仁美は、恐怖によるものか自力では立てない様子だった。

 

「さやかさん……」

「あんた、なんてことするの。これで二度目だからね」

 

 友人の死など見たくもない。安易に死を考える仁美には、慰めよりも先に警告が必要だ。なぜならば、彼女には自分以上に生きてもらわねば困るからだ。

 

「でも……」

「仁美、私の姿を見て」

「……」

「私は魔法少女なの……だから……恭介の想いには応えられない」

「どうして……?」

 

 杏子が、仁美と同じぐらいに驚いている。そうかもしれない。悩み、苦しんできたことが、望んできた(かたち)で解決しようとしているのだ。それを自ら拒否するなど、真意が分からないのも当然だ。

 

「私は……長くは生きられない。恭介に悲しい想いはさせたくない」

「さやか……」

 

 予想どおりと言うべきか。杏子のほうが過敏に反応した。さやかは、彼女に笑顔を返した。

 

「仁美、私の分まで恭介を愛してあげて」

「でも……」

「大丈夫だよ」

 

 なにかを言おうとする仁美に、さやかは両手をかざした。強力な治癒能力を発揮する波動が、仁美を包む。心以外は健康体である仁美は、過剰なヒーリング効果により意識を失った。

 崩れ落ちる仁美を、杏子がホールドする。

 

「お、おい」

「ごめん杏子、いっしょに仁美を家まで運んでくれる」

「……しょうがねーな」

 

 杏子と二人で仁美を担いで家まで運んだ。彼女の両親とは顔なじみなので『貧血で倒れていまいした』などと適当なことを言い、仁美を引き渡した。

 

「あんた、本当にバカだな」

「なによ、あんたには言われたくないわ」

「せっかく坊やがあんたを好きだって言ってんだぜ。どうして断るんだよ」

 

 さやかは、一昨日の美国織莉子の予言を思い出していた。

 

(織莉子さん……このことだったんだね)

 

 織莉子の言葉の意味を()みしめながら、さやかは、それを声にした。

 

「何かを失うことは、何かを得ること。私は、恭介を失ったけど、それ以上のものを恭介からもらった」

「――」

 

 なにかのスイッチが入った。杏子がなにか言っているようだが、なにも頭に入らなかった。今のさやかには、たった一つのことしか考えられなかった。

 

(佐倉杏子……この人は、織莉子さんの敵)

 

 さやかは魔法少女に変身し、両手に剣を構える。突然の事態に、杏子は困惑しているように見える。これは都合(つごう)が良い。今ならば、強敵である佐倉杏子を除去できる。

 さやかは、前方に剣をクロスさせて杏子に攻撃を仕掛ける。両手で()ぎ払う直前に杏子も変身し、槍で防御した。

 

「さやか…どうしちまったんだ」

「……」

 

 クロスしてる剣を、杏子は槍の柄で抑えている。残念だが、それは想定内だ。自分は両手を使えるのだ。さやかは右手の剣を引き、杏子の腹部に狙いを変える。

 

「!!」

 

 さすがに戦闘能力が高い。杏子は瞬間的に察知し、柄を軸にしての後方ステップでさやかの攻撃を回避した。だが、逃すわけにはいかない。佐倉杏子は織莉子の大きな脅威になる。ここで仕留めておかねばならない。

 

「やめろ! さやか!」

 

 佐倉杏子はしきりにさやかとの戦闘を避けようとしている。かまうことはない。それならば、勝手にやらせてもらうだけだ。

 さやかは、両手の剣を、佐倉杏子に時間差をおいて投擲(とうてき)した。彼女は避けるか弾くかしなければならず、その隙を利用してさやかはチャージする。自分の得意な接近戦に持ち込むためだ。

 佐倉杏子は両方とも弾くことを決断したらしい。さやかは新しい剣を右手に出現させ。彼女に切りかかる。

完全に自分の間合いでの戦いになった。佐倉杏子はこの距離では有効な攻撃は繰り出せない。再び、後方に下がろうとするはずだ。そこが勝負所だ。

 

「!」

 

 予想外の事態だ。杏子はその場に留まり、無防備な態勢でさやかを待ち受けている。

 

「やれよ! さやか!」

 

 その杏子の言葉に、ひどく頭が傷んだ。ありえないことだが、別の誰かに脳を叩かれているような気分だった。身動きできなくなり、杏子の2mほど前で停止した。かろうじて、剣を杏子に向けているが、まともに対峙できない。

 

「あたしはリナとは違う……友達を殺したりはできない」

「……」

「あんたはどう思ってるか知んないけど……あたしは友達のつもりだった」

「……友達」

 

 その言葉が、さやかの頭痛を消し去った。そして、さやかを支配していたなにかも、同時に消え失せた。

 

「私……どうして、変身しているの?」

 

 杏子がため息を漏らしている。なにかに安堵(あんど)しているような表情だ。

 

「ほむらから聞いたよ。優木沙々が生きているって」

「優木さん?」

「さやか……あんたあいつと話したのか?」

「ええ」

 

 杏子が変身を解除する。

 

「あんたは、スリーパーにされていたんだよ」

「スリーパー?」

「なにかのキーワードで優木沙々の洗脳が始まる。心当たりはあるかい?」

「……そうか」

 

 きっと自分は、杏子を殺そうとしていたのだろう。さやかは変身を解いて杏子に謝る。

 

「ごめんね杏子……ケガはない?」

「心配ない。それよりもさっきの話だよ。美緒から聞いた。スリーパーは特定のキーワードで敵になる」

「……織莉子さんは、洗脳発現のキーワードと同時に解除のキーワードも教えてくれてたんだよ」

 

 さやかは、織莉子を憎んではいなかった。自分を攻撃の材料にしたのは事実だが、すべて教えてくれていた。予言どおりと言うべきか、さやかは、自分とそっくりな友達を見つけることができた。

 

「友達……それが解除のキーワード」

「……」

「ねえ杏子、友達なら私のお願いを聞いてくれる」

「ちょっ!」

 

 杏子が顔を赤くしている。なるほどそっくりだ。佐倉杏子は自分にそっくりだ。

 

「言ってみなよ」

 

 さやかは笑った。気兼(きが)ねなくなんでも話せる相手。きっと杏子の言う友達とはそういうことなのだなと思った。それでは、自分もそうさせてもらう。ただし、杏子が受け入れるとは到底思えない。なにしろ、よく似ている存在なのだから。

 

「優木さんは私にまかせてくれない」

「友達でも……それは聞けないよ」

「あんたの仲間を殺したから?」

「そうさ、さやかはあいつの一面しか知らないだろう? あいつはとんでもないクズだよ」

 

 どうやら説得は難しそうだ。優木沙々は杏子を倒すことに執着している。手の内を知られている杏子は、おそらく負けるだろう。だが、それを素直に伝えると、かえって反発してしまう。なぜなら、自分ならば絶対にそうなるからだ。

 

「織莉子さんたちと戦うことになったら、一番苦戦するはキリカさんだよ」

「キリカ? 呉キリカってやつかい?」

「あの人は、相手の攻撃速度を遅くするの。マミさんでも、ほむらでも倒せない」

「……あたしにキリカを倒せっての?」

「あの人を倒せるのは、杏子の分身しかない」

「ロッソファンタズマか……」

 

 なんとなく上手く行きそうな気がしてきた。ここはもう一押ししよう。さやかは大声で笑った。

 

「なにそれ。本当はあんた、それ気に入ってんでしょ?」

「ちげーよ! マミのやつがさんざん言うから、つい口に出ただけだよ」

「いいじゃん! あんたはマミさんの一番弟子なんだから」

「じゃあ、あんたは弟弟子だからな!」

「いいよ、お兄さん、さやかの言うことを聞いて」

「……ちっ、しゃーねえなあ。考えておくよ。あんたと同じ明日までの宿題にするよ」

 

 本当の意味で杏子と友達になれた気がした。互いに魔法少女であり、いつ円環の理に導かれるかも分からない。しかし、佐倉杏子という友達を得たことは、上条恭介のさやかへの想いと同じぐらいに嬉しいことだった。

 

(織莉子さん……残念ですが、私はあなたの敵になります。もうご存じかもしれませんが、優木さんは、私が倒します)




次話:巴マミ
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