魔法少女まどかマギカ  間(はざま)の物語   作:Mt.モロー

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第十六話 【巴マミ1】(1)

 美樹さやか失踪事件 2日後 16:30

 自宅マンション 巴マミ

 

 今日は重大な打ち合わせの日であった。美国織莉子の襲撃予告にどのように対応するかを決めなければならない。佐倉杏子は単独で行動し、大きな足かせとなっている優木沙々を倒すべきだと主張していた。

 

 また、美樹さやかは織莉子から大きな影響を受けており、立ち位置を定めかねていた。彼女は本日を期限としてどうするか決めると言っていたが、まだ流動的だ。

 

 織莉子の殺害対象である暁美ほむらは、非常にクールであった。『狙われているのは自分なのだから無理に付き合う必要はない』と言った。ほむらは織莉子たちの能力を知りつくしており、それは嫌になるぐらい自分たちとは相性が悪かった。

 

(暁美さん……あなたは何者なの?)

 

 それが巴マミの率直な感想だった。さやかのクラスへの転校生。最も新しい仲間であるほむらは、どこか諦観(ていかん)した感じがあり、大きな隠し事があるようにも感じた。そして突然エキセントリックな発言もしたりする。何度か聞いた“円環の理”と“鹿目まどか”という架空の人物が同一の存在だという話だ。

 

(円環の理……私もいずれはそこに行くのね)

 

 幼少期のマミは決して孤独ではなかった。両親から寵愛(ちょうあい)を受けており、友人も大勢いた。しかし、自動車事故で両親を失ってからのマミは、孤独にならざるを得なかった。命を繋ぐことと引き換えに、マミは魔法少女としての使命を背負った。

 臆病で小心者なマミは、それを凌駕(りょうが)するために過剰なまでの訓練をして、あらゆる状況にも対応できる戦闘スキルを習得し、いつの日か最強魔法少女と呼ばれるようになった。だが、それは誇らしいものではなかった。最強魔法少女とはマミが孤独と引き換えに得た称号だった。

 

 しばらくすると、マミに、佐倉杏子というパートナーが現れた。マミが戦いのノウハウを教えると、彼女は急速に成長していった。近距離戦を得意とする杏子の存在は、マミの弱点克服にも作用した。そして二人は互いに刺激しあい成長していった。そのことにマミは喜びを感じていた。それは1年にも満たない期間ではあったが、魔法少女になってから最も幸せな時間でもあった。

 

(……いけない。もう昔のことよ)

 

 自分がにやけていることに気が付いた。杏子との思い出は良いものだけではない。その後は仲たがいをしてしまい。改善の(きざ)しはあるものの、まだ修復されてはいない。

 

 

 ――マンションのインターホンが鳴った。エントランスの画面には仲間の三人が映っていた。

 

「今開けるわ」

「お願い」

 

 先頭にいたほむらが答える。あと数分でここに来るはずだ。マミはもてなし用の紅茶や菓子類をテーブルに並べる。

 

(はかな)いものね……魔法少女って)

 

 今度は玄関のインターホンが鳴り、マミは仲間を招き入れる。 

 

「お邪魔しまーす」

 

 と言って入室したのは美樹さやかだった。なにかためらいが消えたような顔をしている。次は佐倉杏子だ。ちらりと目を合わせるが、挨拶はない。まあ、彼女の場合はここはほぼ自宅のようなものだ。妙な気づかいはこちらが困る。

 

「巴さん……どう?」

「それを話し合うために集まったんでしょう? とりあえず座って」

「……そうね」

 

 自分のために命をかけてもいいのか? というほむらの(とい)だ。

 昨日、マミは浅古小巻、呉キリカと対峙した。彼女たちには戦いへの迷いがなかった。織莉子のために命を捨てる覚悟ができていた。捨て身の相手にはこちらも同等の覚悟を持って立ち向かわなければ確実に敗北する。

 

「マミ、食ってもいいか?」

「どうぞ。足りなかったら言ってね」

 

 杏子が中央の皿に置かれたスコーンをつまんで食べる。ボロボロと粉がテーブル落ちている。 

 

「杏子! テーブルにいろいろ落ちてるよ。なにか敷いて食べなよ」

「そうか? じゃあ、そこのティッシュを取ってくれよ」

「自分でとりなよ。ああ……マミさん、すみません」

 

 結構いがみ合っていた杏子とさやかだが、わだかまりがなくなった様子だ。

 

「いいのよ。佐倉さんはおいしそうに食べるから私は好きよ」

「実際にマミのお菓子は美味いからな」

「ありがとう佐倉さん」

 

 料理の醍醐味はだれかに食べてもらい美味いと言ってもらうことだ。杏子の感想には喜びをもって『ありがとう』と言うしかない。

 

「なあマミ……優木沙々は全員で自分の異空間に来いと言ってるんだ。御呼(およ)ばれしようじゃないか」

「優木さんの制約の中で戦えというの? それは無茶だわ」

「いや、そうはならねーよ。だって向こうは一人足らないからな。だからさやかなりあたしを始末しようと思ったんだろう」

「……」

 

 魔獣以外との戦闘経験がある杏子の意見は実に興味深かった。彼女の言うように、自分たちが四人で乗り込んだ場合、沙々自身も戦わなければならない。

 

「暁美さん……浅古小糸の情報は間違いない?」

「ええ、彼女に戦闘能力はないわ。でもね、戦いは直接殴りあうことだけじゃないのよ。杏子の戦法も一理あるけど、ただでさえ不利な環境下に加え、浅古小糸の感覚操作……幻影、幻聴、皮膚感覚異常の感覚攻撃を受けながら戦ったら勝ち目はない」

「じゃあどうしたらいいと思うんだ?」

「分散よ。浅古小糸は一人しかいない。しかも彼女の能力の有効範囲はそれほど広くはない」

 

 つまりは、小糸はほむらが引き受けるということだ。織莉子の目的がほむらの殺害なのだから当然小糸は織莉子と行動を共にするはずだ。

 

「はっきりさせておきたい……魔法少女同士の戦いは魔獣戦とはわけが違う。死ぬ確率が桁違(けたちが)いよ。感謝しているけど、そんな戦いにみんなを巻き込むわけにはいかない」

「私は協力するよ」

「さやか……」

 

 真っ先に意思表明したのは、昨日までは揺れに揺れていたさやかだった。

 

「だけどねほむら……あんた、まだ、私たちに隠してることがあるでしょう? それをすべて聞かせて」

「……」

 

 マミにとっても興味のある話だ。特にあの盾についてはなんの情報もない。

 

「暁美さん、私からもお願いするわ。昨日、浅古さんから受け取ったあの盾にはどんな意味があるの?」

「……わかったわ」

 

 ほむらは目を閉じて紅茶を飲み干した。長くなる話の前準備のようだ。

 

「またかと思うかもしれないけど、これは鹿目まどかと関係があるの」

「……」

「巴さんもさやかも……鹿目まどかは私から聞いた話でしか知らない。そうよね?」

 

 頷くしかなかった。ただし、疑問も残った。なぜ、ほむらは杏子を除外したのか? すぐにでも質問したかったが、ここはまず、ほむらに話を続けさせよう。

 

「鹿目まどかを覚えている人間はいない。私以外はね」

「……杏子は違うの?」

 

 さやかも同じことを考えていたようだ。たまらずほむらに聞いている。

 

「……記憶じゃねーよ。あたしは、まどかに会ったんだ」

「会ったの? 円環の理に?」

 

 妙なことを聞いてしまった。まるでほむらの主張を信じてしまったような質問だ。

 

「一昨日な……あたしは偽さやかとの戦いで、死んだはずだった。でもな。あの人が現れて、あたしを救ってくれた」

「死んだはずって……」

「あたしのソウルジェムは砕けていた。両脚は折れ曲がり、左手もぶっ飛んでいた。……見てみな、このとおり、ソウルジェム、手も脚も元に戻っている。奇跡みたいにね」

「……」

 

 そういうことかと思った。思い出してみれば、あの日の杏子は変な質問を繰り返していた。そんな出来事があったのなら、それも納得できる。しかし、新たな疑念も湧いてきた。

 

「まさかとは思うけど、それって浅古小糸の幻影じゃないの? 美樹さんも佐倉さんも、お互いの見間違いが事件の始まりみたいだし」

 

 ほむらは首を振った。

 

「可能性は捨てきれない。けれど……彼女はそこまではできなかったと思う」

 

 そう、その過去形が不思議なのだ。ほむらは、まるで見たかのように語ることがある。その謎を解くためには、もう少し話してもらう必要がある。

 

「暁美さん、話を続けてくれるかしら?」

「ええ、でもその前に、紅茶のお代わりをもらえる?」

「わかったわ」

 

 マミが立ち上がると、さらにインターホンが鳴った。だれだろうか? もう来客の予定はないはずだ。不審に思い、モニターを覗くと、そこには浅古姉妹が立っていた。

 

「浅古姉妹だわ……だれか心あたりがある?」

「……」

 

 驚きの展開に三人は顔を見合わせている。

 

(美国織莉子の予知能力? 私の家も知っているし、今日ここに皆が集まることも知っているというの?)

 

 織莉子の能力に驚愕(きょうがく)しながらも、マミはなにが最善かを探る。

 

(いいえ、最善なんてないわ。イニシアティブは彼女が握っているのね……美国織莉子……あなたにますます興味が出てきたわ)

 

 マミは通話ボタンを押した。

 

「浅古さん、ご用件は?」

「突然で恐れ入ります。今後についてみなさんと話し合いの場を持ちたいと思いまして」

「わかりました。あなたたち姉妹をご招待します」

「ありがとう。手ぶらですが失礼します」

 

 マミは通話ボタンを切り、エントランスのドアを開錠した。

 

「浅古姉妹はとても危険な相手よ」

「美国さんは、私が二人を中に入れると予知したのでしょう?」

「……」

「とりあえず今は、その予知に従いましょう。でも、警戒は緩めないで。美樹さんも佐倉さんも」

「そうですね」

「ああ」

 

 周知の敵の大胆すぎる来訪に、皆、沈黙を選ぶしかなかった。浅古姉妹に物理的精神的に隔離されてしまう可能性もあり、こちら側としても数の優位性にものを言わせて姉妹を排除することも可能だ。

 運命のインターホンが鳴った。この場で戦闘になるかもしれないのだ。マミは慎重にモニターを覗く。

 

(白羽女学院の制服……)

 

 とりあえずは戦う意思はなさそうに見える。あとは、姉妹の目的が何かだ。“話し合い”が穏やかなものである保障はない。

 ドアを開けると姉妹は身動きせずに入室の許可を待っていた。

 

「どうぞ」

「それでは遠慮なく」

 

 マミは、二人を入室させてすぐにドアをロックする。

 

「巴さん、警戒は無用です。私たちは本当に話し合いにきました」

「それを信じろと?」

「美国は信じてくれると予知しました。なので私たちは無防備です。みなさんから奇襲を受けるなど考えてもいません」

「……どうして美国さんが来ないの?」

「美国は短気ですからね。交渉事(こうしょうごと)は私がしたほうが良い結果が残せます」

「……」

 

 ほむらから聞いた話とは真逆だった。短気と言うのならこの浅古小巻こそが超のつくほどの短気だと聞いていた。

 

「本当に巴マミさんですか?」

 

 と言ったのは、小巻の陰に隠れるようにしていた小糸だった。

 

「本当に?」

「私、マミさんのファンなんです」

 

 髪を左側で縛っている小柄な可愛らしい少女がマミの手を握り嬉しそうにしている。

 

「ええ?」

「すみません。妹はあなたの熱烈なファンでして……」

 

 奥のほうから杏子の笑い声が聞こえた。

 

「よかったなマミ。あんたのファンがきてるんだ。こっちにきてもらいなよ」

「……」

 

 緊張が一気にほぐれてしまった。これが戦術なら、こっちの負けだ。

 

「小巻さん、小糸ちゃん。話し合いに応じるわ。こちらへどうぞ」

「お邪魔します」

「姉に同じです」

 

 マミは二人を上座に座らせる。上座とは玄関から一番遠い場所だ。つまりはもっとも逃げにくい場所になる。姉妹は、そんなことも気にせずに、あっさりと座る。

 

「どうぞ、小糸ちゃんも」

「いやあ、美樹さん。この間は失礼した」

「ありがとう、美樹さん」

 

 姉妹と面識のあるさやかが、気を利かせて二人に紅茶を提供する。用心もせずに普通に紅茶を飲んでいる姉妹に、ほむらがいぶかしげな目を向けている。

 

「それで? 話し合いってなんなの?」

「私たちは無駄な血を流したくないのです」

「無駄な血? 無駄じゃない血もあるってこと?」

「一般人の血は無駄な血です。それに比べ、あなたたちの流す血には意味があります」

「……」

 

 一気に場が緊張する。杏子などは今にも食ってかかりそうだ。マミは、目で杏子を制して話を続ける。

 

「一般人も手にかけると言うの?」

「暁美君に聞いてみてください。私たちにそんなことができるかどうか。彼女なら知っているはずです」

「そうね、あなたたちなら躊躇なく一般人も殺すわね」

「暁美さん……」

 

 即答するほむらに、浅古姉妹以上のもの恐ろしさを感じた。その対応に、あの可愛らしい小糸までもが苦笑している。まずい。織莉子がなにをしようとしているか読み切れない。

 

「どういうことか説明してくれる?」

「あなたたちは優木の結界に全員で乗り込もうとしているのでは?」

「選択肢の一つよ」

「残念だが、それは一般人の死を招きます」

「……」

「美樹君を無傷であなたたちに返したのは二つの理由がありました」

「私に杏子を殺させることでしょう?」

 

 さやかが彼女らしくない激しい口調で言う。杏子が落ち着けと言うように見ている。

 

「美国は洗脳解除コードも教えていたはずだよ。はっきり言えば美樹君には脱落をしてほしかった。もう戦う理由がないはずだからね」

「思ってたより単純なのね。これではっきりしたわ。織莉子さんに伝えてくれる? 私はあなたの敵になりますって」

「いいよ、それでこそ美樹さやかだ」

「……」

 

 完全に小巻側のペースで話が進んでいる。しかたあるまい。こちらはこれから対策を練ろうとしていたのだ。まだ具体的な戦術は決まっていない。

 

「二つ目は?」

「なぜ美樹君を無傷で帰したか? あれこれ考えていませんでしたか?」

「もちろん」

「それが二つ目の理由です。つまりは時間稼ぎ」

「時間稼ぎ? なんの?」

「優木沙々が大量殺戮を可能にできる魔獣を集めるまでの時間です」

「……」

「優木が洗脳した魔獣を見滝原のあちこちに配置します。彼女が命令すると悲惨な殺戮ショーが始まります」

 

 杏子がテーブルを叩き、上に載っていティーカップらがバウンドする。

 

「あいかわらずの下衆野郎(げすやろう)だなあいつは……」

「沙々お姉ちゃんは下衆ではありませんよ」

「小糸とかいったな? おまえもあいつに洗脳されているのか?」

「私を洗脳することはできません」

 

 杏子が驚いてほむらに助けを求める。ほむらはなにも言わずにただ頷くだけだ。いったい、この小糸という子はどんな力を持っているのだろう。

 

「巴さん……話し合いを求めたのはそれが理由です」

「私たちが暁美さんを売るとでも思っているの?」

「思いません。だから条件戦をお願いしたいのです」

「だれがだれとどこで戦うか決めるってこと?」

「さすがです、巴さん。美国と暁美君が戦うことは決定事項です。だから、その邪魔をされたくはない。そういうことです」

「……もう対戦相手は決まっているようね」

「それはこちらで決めさせてもらいます。その代わり、場所はあなたたちが決めてください。美国の電話番号をお教えしますのでご連絡ください」

 

 小巻はだれにでも見えるように電話番号の書かれたメモ用紙をマミに渡した。

 

「その条件は?」

「それぞれの場所から3km以上離れていることです」

 

 マミはメモ用紙を受け取りながら小巻を厳しい目で見つめる。

 

(なんとなくわかる。私はこの人と戦うことになる)

 

 その小巻は、もう一枚メモ用紙を取り出した。ただし、今度は伏せてある。

 

「暁美君、ゲームをしないかね?」

「いやだと言っても続けるのでしょう?」

「ものわかりがいい。この紙には巴さんが言ったようにだれがだれと戦うか書いてある。それを当ててくれないか?」

「巴さんはあなた、杏子は呉キリカ、さやかは優木沙々」

 

 姉妹がそろって笑顔になる。そして紙を表にする。完全一致していた。記載されていた対戦表とほむらの言葉が順番も含めて一致していた。

 

「異論はあるかね?」

「あなたの妹は美国織莉子と一緒にくるのでしょう? 不公平じゃないかしら」

「そうは思わない」

「なぜ?」

「君は時を止められるはずだよ。美国の予知だけでは手に余る能力だ。小糸の助力ぐらい許容範囲だと思うが?」

「……」

 

 マミだけでない。さやかも杏子も度肝(どぎも)を抜かれていた。ほむらの能力は記憶操作であるはずだった。だが、小巻は、ほむらには隠れた能力があると言った。しかも、最強とも思える時間操作の力だ。

 

(慌ててはいけない。ここは冷静に……)

 

 マミは冷え切った紅茶を飲み、わざと音を立ててソーサの上に置いた。姉妹の目をこちらに向けるためだ。

 

「小糸ちゃん、質問があるわ」

「なんでしょう?」

「あなたは、魔獣を擬態(ぎたい)させることができるの?」

「ぎたい……ですか?」

「例えば、魔獣を美樹さんに化けさせたり、佐倉さんに化けさせたりすることよ」

「凄いですね。本当にできたらいいですね」

「……」

 

 小巻と小糸が笑顔でじゃれあっている。仲の良い姉妹は見ているだけで羨ましくなる。

 

「それについては美国とも話し合いました。美樹君から同じことを質問されましたからね」

「小糸ちゃんじゃないってこと」

「はい。小糸は幻影を使いますがそこまではできません。確かに優木に一般人が異空間に入るシーンを美樹君たちに見せろとは指示しました」

「変異魔獣のこと?」

「魔獣はあの大きさゆえに私たちに発見されやすい。だから普通の人間と同じ大きさに変異した。そうキュウべえから聞いています」

「結論は?」

 

 マミは少しイライラしてしまった。なんでも一から説明したがる小巻とはややフィーリングが合わない。ただ、その誠実な態度は嫌いではないので、もう一度紅茶を飲んで気分を落ち着かせる。

 

「後遺症ですよ」

 

 小巻は再びほむらと目を合わせた。ほむらの眉がピクリと動いた。彼女にとっても予想外の答えのようだ。

 

「……後遺症?」

「いいですか、私たちはそんな幻影を見たりはしない。あなたたちだけにその症状がでる。そのわけは、あなたたちが暁美ほむらに記憶操作された経験者だということです」

「……錯視(さくし)だというの?」

「いいえ、記憶の暴走です。見たいものに上書きされてしまうのです」

「……暁美さん?」

「……答えられない。今はね」

 

 それもそうだ。これ以上小巻たちに情報を与えるわけにはいかない。

 

「言い忘れていましたが、日にちは3日後でお願いします。予定があった方はすべてキャンセルでお願いします」

「それはジョークかしら? あまり笑えないわね」

「お厳しいですね。次までにユーモアセンスを磨いておきます。もっとも、次があれば……ですが」

「十分よ浅古さん。ジョークにならないジョーク。感動すら覚えるわ」

「高評価を頂いたところで……そろそろおいとましようと思いますが?」

 

 マミは仲間を見渡す。さやかと杏子は若干怒りを含んだ表情だ。冷めているのはほむらだけだ。そのほむらが口を開いた。

 

「なぜ私を殺したいのか……聞いてもいいかしら?」

「当然の疑問だが……答えは美国から直接聞いたほうがいい」

「浅古小巻らしくないわね」

「ほう、まるで私を知っているような言い方だね」

「いいえ。今のあなたはまるで知らないわ」

「……なるほど。美国が警戒するわけだ」

 

 物騒なことになりそうなので、マミは姉妹を追い出すことにした。

 

「美国さんと会えなかったことは残念だわ」

「申し訳ございません。でも、話はできます。場所に関してはあなたが美国に連絡してください。その時に、ガールズトークに華を咲かせてください」

「小巻さん……あなた、根本的にユーモアのセンスがないわ」

自覚(じかく)しています。暁美君ではありませんが、結構無理していますから」

「正直なのは……美徳かしらね?」

「そう信じています」

「……」

 

 

 ――浅古姉妹が帰った後、マミはなぜが鼻血を出してしまった。鼻を抑え、圧迫して止血する。杏子やさやかも少し気分が悪いと言った。

 

「もしかしたら……浅古小糸に波動をスキャンされていたのかも」

 

 ダメージを受けていないほむらが言う。スキャンとはどういうことだ。小糸は自分たちになにをしたと言うのだ?

 

「ソウルジェムの波動をキャッチされた。そのために彼女はきたのね」

「キャッチされるとどうなるの?」

「わからない……これは、本当にわからない。これまでの浅古小糸はそんな能力を持っていなかった」

「……」

 

 どうやら血も止まったようなので、マミは鼻の圧迫を()める。血の付いたティッシュをキッチンのごみ箱に捨てるために移動する。

 

(初戦は完敗ってわけね。でもね美国さん……負けを知った者は、とてつもなく強くなる。それを思い知らせてあげる)

 

 皆の所に戻ったマミは、両手で軽くテーブルを叩いた。

 

「どうやら戦いは避けられそうにないわ。こちらも準備しなきゃね」

 

 向こうが情報戦を仕掛けてくるのなら、こちらも緻密な情報を取得する必要がある。そのためのソースとして暁美ほむらがいる。

 

「まずは暁美さん……あなたの知っていることをすべて話してもらえるかしら」

「……わかった」




次話;巴マミ2
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