魔法少女まどかマギカ  間(はざま)の物語   作:Mt.モロー

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第二十四話 Saturday(5)暁美ほむら(2)

 暁美ほむらは宇宙空間と(おぼ)しき場所に浮遊していた。無論、ここが宇宙ではないことははっきりしている。広大な精神空間の象徴が宇宙として表現されているだけだ。それは、5mほど先にいる少女によって造り出されているはずだ。

 

「まどか」

 

 ほむらは、もう一度少女の名前を呼んだ。しかし、彼女は微笑んでいるだけだった。

 

「あなたは……まどかじゃないの?」

 

 不安そうにたずねるほむらに、少女はゆっくりと首を振った。

 

「そうじゃないよほむらちゃん。その名前はもう意味がないから答えないだけだよ」

「いいえ、あなたは鹿目まどかよ。私がはっきりと覚えているから」

 

 名前とはそういうものだ。だれかに認知されてこそ意味がある。自分が覚えてさえいれば、“鹿目まどか”という名前は永遠に意味を持つ。

 

「まどか……会いたかった」

「そうだね……私もこの時を何千年も待っていたような気がする」

「気がする?」

「私には時間の概念が無いの。1秒も1000年も……私にとっては同じこと」

「……」

 

 ほむらは、まどかに近づこうと努力した。だが、移動する始点のない空間では、その場に漂うことしかできない。でも、それでも良かった。ほむらの全てであると言ってよいまどかに、また会うことができた。

 

「まどか……私はあなたの造ったこの世界を必ず守るわ」

「ほむらちゃん……私は、失敗したんだよ」

 

 まどかの表情が曇る。ほむらには意味が解らなかった。絶望し、魔女となる魔法少女の運命をまどかは改変した。それが失敗だというのなら、この世に成功などは存在しない。

 

「そんなことはない! あなたは全ての魔法少女の希望なのよ」

 

 まどかが近づいてくる。ほむらはまどかを抱きしめたいと思った。しかし、まどかはギリギリ手の届かない場所で停止した。

 

「人類はね、インキュベーターの助けがなければ、きっといまだに洞穴(ほらあな)暮らし。それは、本当のことなんだよ。だから、私は、インキュベーターを排除しなかった」

「それが……失敗だと言うの?」

「魔法少女には寿命があるの」

「……」

「その説理はインキュベーターが決めるの。彼らが求めるエネルギー効率に満たなくなったら、容赦なく魔法少女は切り捨てられる」

「あなたは……それを何千年も見てきたの?」

「ええ」

 

 あの世界改変の時、まどかには余裕がなかった。もちろん、熟慮したとは思う。ただ、次々と訪れた仲間の悲劇を目の当たりにして、“魔女化システム”を最大悪と考えてしまった。

 

「インキュベーターが存在する限り……魔法少女は決して救われない」

「私に……それをやれと言うの?」

 

 まどかがわずかに後方に下がる。長い桃色の髪が、蝶の羽のように広がった。

 

「何度かね……インキュベーターの本性に気が付いた魔法少女が現れて、彼らの殲滅(せんめつ)をしようとした」

「殲滅は無理だわ……奴らは無数にいるから」

「そうだね。でも、思考回路は一つなんだよ」

「え?」

「無数にあるのは端末。だから、全てを同時に葬る必要があるの」

「……」

 

 ほむらは大混乱していた。理想の世界であるはずの改変世界が不完全なのもであると、その創始者から告げられている。しかも、彼女は、不可能とも思えることを計画していた。

 

「まどか――」

 

 ――あなたはなにをしようとしているのか? それを問いただそうとした。ただ、無駄なことだったようだ。それは彼女から語られることとなった。

 

「ほむらちゃんの盾は、あの時に消滅しなかった。そのままの姿で、太古の地球の地層内に埋められたの」

 

 この場所には、衣服や装飾物は存在できない。そのため、トートバッグに入れていた盾も存在しないはずだった。

 

 だが、まどかが両腕を広げると、ほむらに魔法少女の衣装が着衣され、左手にはあの盾が装着された。

 

「インキュベーターがその盾を掘り起こし、彼らの最大の謎となった。だから、盾の謎解明には、全インキュベーターが意識を集中する」

「……そこで、全滅させろと?」

「私には……もう、ほむらちゃんしか頼れるひとがいない」

「まどか……私は、明日死ぬかもしれないのよ」

「織莉子ちゃんも、インキュベーターの犠牲者だよ。ほむらちゃんがこの世界に転生してから、彼らの警戒心は最大になったの。ほむらちゃんを倒す、あるいは、封じ込める人材を躍起(やっき)になって探していた」

 

 うなずける話だった。インキュベーターの契約外の魔法少女である自分は、奴らにとっては、過去の(いま)まわしい記憶(まどかが話したインキュベーター殲滅計画)の再来と考えるのは普通だ。しかも、自分は、奴らの制御外にあるのだ。予知能力の美国織莉子や最強防御の浅古姉妹は対抗手段としては最適だ。それに、不死身化した優木沙々、能力低下の呉キリカまで準備した。奴らの必死さが伝わるようだ。

 

「それじゃあ……美国織莉子の未来予知はインキュベーターの偽情報?」

「……それは分からない」

「どうして?」

「ほむらちゃんも……私と同じ回数の時間軸を繰り返した。それは忘れないでいてほしい」

「……」

 

 まどかが広げた両手をほむらにかざした。

 

「これは……」

 

 ほむらの盾が光り輝き、固まっていた砂時計が落ち始めた。

 

「時間は止められる。けれど、巻き戻すことはできない」

「これはなんの時間なの?」

 

 過去の時間終末点は決まっていた。ワルプルギスの夜によって、鹿目まどかが死亡する時間だ。そうだ。あの時、砂時計は落ち切ってしまった。ところが、これにはまだ砂が残っている。いったいだれが、この不明な時間を設定したのだ。

 

「あなたがこの砂時計を設定したの?」

「違うよ。それは、ほむらちゃんが、設定したんだよ」

「……」

 

 あの世界改変を自分は納得したはずだった。いや、納得したのではない。まどかの究極の選択を受け入れただけだった。良く分からない。まるで覚えていない。自分は、あの時、盾をどうしていたのだろう。

 

 ほむらは、流れ続ける砂を凝視する。いったい、流れ落ちた時になにが起こるというのだろうか?

 

「さやかちゃん、杏子ちゃん。マミさんも……。魔法少女の悲劇はこれで終わりにしなければならないの」

 

 話すことは終わったとばかりに、まどかが後退する。冗談ではない。まだ話し足りない。

 

「待って! まどか! 行かないで!」

「大丈夫。ほむらちゃんとは、必ずまた会えるから」

 

 心からの懇願だったが、まどかは聞いてくれなかった。ほむらは、見滝原中学校の屋上に戻された。トートバッグが光り輝いている。これは夢ではなく現実である証明だ。盾を取り出してみる。砂時計は確かに動いている。

 

(インキュベーターは、魔法少女がけりをつけなければならないのね)

 

 円環の理という概念化してしまった鹿目まどかは、この世界に直接関与することはできない。ならば、自分が、インキュベーターを殲滅しなければならない。その邪魔をするものは、だれであろうと排除する。

 

(美国織莉子……あなたには同情する。でもね、私の邪魔をするのならば、死んでもらうわ)

 




次話:saturday(6):三国織莉子&呉キリカ
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