優木沙々が杖を高く
(そうよね……織莉子さんなら私がここを選ぶことを予知できる)
美樹さやかは、自分の能力が最大限に発揮できる場所としてこの天覧山を選択した。沙々が大量の魔獣を準備するのは予測できた。だからこそ、
一匹狼の魔法少女は生き残ることが難しい。それは、戦いに
(杏子……一点突破は無理よ)
さやかの師匠的な存在の佐倉杏子は、勝手な単独行動をすることがあった。それは、彼女が経験に裏打ちされた戦いのノウハウを持っているからだ。魔獣は上下の立体機動に弱かった。杏子はその特性を利用して、跳躍してからの攻撃を繰り返すことで、多数戦を苦にしていなかった。
しかし、現状それは自殺行為だ。沙々はそれを考慮していた。跳躍した段階で、階段状に配置された魔獣から集中砲火を浴びてしまう。
治癒能力に優れたさやかではあるが、それには限界もあるのだ。
(まずは数を減らすこと……にしては、多すぎるわね)
さやかは、円形陣の外周を回ることにした。高速で木々をすり抜け、一体ずつ魔獣を倒す。当然、巧妙に配置された魔獣からの十字砲火を受ける。しかも、一体倒すごとに後続の魔獣がそれを埋めていく。
反時計回りにさやかは駆け抜け4体ほどの魔獣を仕留めた。可能な限りグリーフキューブも回収する。これだけの敵が相手なのだ。必ず途中で浄化が必要になる。
(まずい……)
視界が開けない場所を選んでいたさやかだが、斜面上部ではそうはいかなくなった。下部にいる魔獣たちからも狙われ、
さやかは戦術を変更した。剣を二本持ちにして、もっとも近い場所にいる魔獣に突入し、ブロックノイズに変えた。そして、また、次の魔獣に突入する。そうすることで、対面する魔獣以外の攻撃を受けなくて済む。とはいえ、無傷でいられるわけではない。常に手負いの状態で、回復しながらの戦いになった。
満身創痍になりながらも、さやかは外周を一周した。倒した魔獣は十体以上だが、途中からグリーフキューブを取る暇がなく、ソウルジェムの
(優木さんさえ倒せば……)
こんな消耗戦を続けられるわけがない。ならば、魔獣の洗脳を解いたらよい。見えている。見えすぎている罠だった。だが、それ以外の戦術もないのも確かだ。
さやかは、最初に回収したグリーフキューブ6個でソウルジェムを浄化した。完全には浄化できなかったが、もう少しは戦えそうだ。
さやかは大きく息を吐いて両手の剣を目の前でクロスさせる。
「行くしかないね……相打ちでも、優木さんを倒さなきゃ」
大跳躍して、一気に優木沙々を倒す。跳躍中に相当なダメージを受けるのは間違いない。しかし、彼女さえ倒せたら、さやかの戦いは終わる。その後、自分が死のうが生きようが関係なかった。ほむらのために、上条恭介のために沙々は倒さなければならない。
そう決意し、さやかが腰を沈めた時に、魔獣たちに動きがあった。なんと、さやかの意図を見透かしたように、優木沙々までの道をモーセの紅海のように割った。
「どうした美樹さやか? 私を殺したいのでしょう」
「……」
およそ30メートルほどの距離。さやかなら3秒ほどで沙々にたどり着ける。だが、その周囲には、まだ80体以上の魔獣が残っており、いつでもさやかを攻撃できる体勢だ。
「優木さん……あなた死にたいの?」
「減らず口を叩くなよ。ここにくる度胸があるのかい? 美・樹・さ・や・か」
「あるよ」
あざけわらう沙々に向かって、さやかは全速力でダッシュした。両手に剣を構えた青い閃光は、魔獣の攻撃を許さなかった。想定外の速度に、沙々も慌ている。
「優木さん! ごめん!」
右手の剣で沙々の首を跳ね、左手の剣で、沙々の上半身と下半身を分離した。罪悪感により、さやかは一瞬目を背けた。
「それで終わり?」
信じられない光景だった。言葉を発した沙々の頭はブロックノイズ化し、上半身も同様にノイズとなった。そして、残された下半身上にブロックノイズが再集結して、沙々の身体を再生していく。
(なにこれ……)
優木沙々の再生は完了し、さやかに失望の表情を見せる。
「あなたの努力は認めます。でもね……そんなクソみたいな剣じゃあ、私は倒せませんよう」
「……」
ほむらからの情報では、紗々のソウルジェムは粉々になり、小ビンに入っているはずだ。さやかはそれを確認していた。
(腰にぶら下げている小ビン……あれがそうね)
さやかが追撃しようとするところ、超大型の魔獣に
「もう一度チャンスをあげます。ただし、もう一周してもらいます。そうですねえ、ノルマは10体以上ということで」
「ノルマ?」
「つべこべ言っていないで、逃げないと潰されますよう」
超大型魔獣からのビーム攻撃。その威力は大きさに比例する。受けると大ダメージを負う。さやかは、距離をとり、それを躱す。追随するように周囲の魔獣からも攻撃があり、あっという間に円陣からはじき出された。どうやら、沙々からの提案を受け入れざるをえないようだ。
もうグリーフキューブは残っていない。ソウルジェムもかなり濁っている。急がなければ自滅の危険もある。さやかの剣はマミのマスケット銃同様に、ただの道具だ。そのため、魔力がある限り、無限に造りだせる。
(ダメージは最小限にしなきゃ)
前回同様に、点と点を結ぶように最短距離で魔獣に突入する。改善点は、突入前に、剣を投擲して、魔獣を弱体化させることだ。これにより、攻撃による被害を大きく減少させられた。とはいうものの、一周する頃には、さやかは傷だらけになり、魔力の低下により、治癒も追いついていない。
再び、沙々への道が開放された。
「ずいぶんと血まみれで。そんなので、私を楽しませてくれるのですか?」
「あんたの悪趣味には……つきあうつもりはない」
両手で剣を腰構えし、沙々に突っ込む。狙うのは、腰のソウルジェム。あの小ビンを破壊して、ソウルジェムを散乱させれば、彼女を倒せる。
(笑ってる……)
沙々は笑っていた。そして、予想外の攻撃。持っていた杖で、さやかを撲殺しようと叩きつける。しかし、そんなスローな攻撃は無意味だ。なにしろ自分は杏子の素早い槍撃も避けられるのだ。
さやかは、簡単にそれを避けて見せ、剣を横なぎにして、沙々のソウルジェムを叩き割った。
小ビンが砕け散り、ソウルジェムの粉末が空中に漂っている。
「……」
沙々はまだ笑っている。そして、杖による第二撃。さやかは後退してそれを避ける。そんなはずはない。魔法少女なら、ソウルジェムを割られたたら生きられないはずだ。
彼女のソウルジェムは単体で生きているようだった。各粉末がブロックノイズ化し、沙々の手元に集まっていた。さやかは、それを啞然と見ているしかない。
「私は不死身なんだよ美樹さやか! 魔獣と融合した魔法少女だからねえ!」
「……」
「もう一度だよ……ただし、生き残ればの話だけど」
再度、超大型魔獣が沙々をガードし、さやかは円陣から排除された。
(どうやったら……どうやったら、あの人を倒せるの?)
次話:閃光(3)