魔法少女まどかマギカ  間(はざま)の物語   作:Mt.モロー

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第二十九話 天秤(1)

 白羽女学院

 巴マミ

 

 巴マミがベテランと呼ばれるまで魔法少女を続けられている要因は、度を越した慎重さにあるのかもしれない。決して不利な戦いはせず、引くべき時は躊躇(ちゅうちょ)せずに引く(いさぎよ)さが、結果的にマミを救っていた。しかし、それは自身が本来持っている臆病さの裏返しなのだ。

 

 二日連続での白羽女学院への訪問。しかも、今日はここで戦闘をしなければならない。マミは、あらゆる状況を想定して、魔法少女に変身してここにきていた。浅古小巻なら不意打ち等の手段は用いないと考えるが、その想定も決して排除しない。マミは、得物であるマスケット銃を抱えて、すでに戦闘態勢になっていた。

 

(どうやら……向こうもそのつもりね)

 

 白羽女学院の広い校庭のやや右寄りに小巻は立っていた。彼女も魔法少女に変身し、武器であるロングアックスを右手に持ち仁王立ちしている。敵ながら、なかなかの威圧感だ。

 

「小巻さん、ここで戦うつもり?」

「巴マミ……馴れ合いは昨日までにしてほしいね」

「そう……戦いは回避できないわけね」

「当たり前だ。私はあんたを殺すためにここにいる」

「なるほど」

 

 マミは素早く銃を構え、小巻のロングアックスを狙い銃弾を発射した。彼女のソウルジェムは柄の付け根にある。何度かの遭遇で、それは確認済みだ。無論、これで倒せるとは思っていない。小巻の戦術を探るための射撃だ。

 

 小巻の鉄壁シールドが作動し、弾丸を弾いた。そのシールドの規模はマミの想定外で、高さや幅が10メートル近くはあろうかというものだった。

 

(なぜ? こんなのは魔力の無駄使いだわ)

 

 小巻は、相性的には最悪の相手だが、マミには勝算があった。それは、攻撃側の優位性だった。小巻は、あらゆる攻撃に備え、防御態勢を保持し続けなければならない。マミの銃撃、砲撃を跳ね返すのだから、それ以上のエネルギーが不可欠だ。小巻の魔力がマミを上回っているとしても、先に枯れ果てるのは彼女の方だ。

 

(学園内に引きずりこんでの短期戦。それしか彼女に勝ち目はないはずよ)

 

 疑心暗鬼(ぎしんあんき)になる展開だが、ここは定石通り攻めるしかない。マミは10挺のマスケット銃を出現させ、わずかな時間差で一斉射撃する。全て同じ場所を狙った。小巻のシールドがそれに耐えられるかを確認するためだ。

 

(暁美さんがまともには倒せないというわけね……)

 

 マミの放った銃弾は、すべて弾かれるか消滅した。連続した一点攻撃でも破れない強力なシールド。確かに、防御としては無敵かもしれない。ただし、必ずどこかに弱点はあるはずだ。マミは抜かりなく次の手を用意し、実行していた。

 

 彼女のシールドのエネルギー分布は均一なものなのか? それとも中央重点的に集束するものなのか? 正面からの連続攻撃とほぼ同時に、延長されたリボンで生成した銃で、噴水の陰から銃撃を加えた。均一防御でなければ、攻撃が通る可能性があった。

 だが、小巻のシールドはマミの想像以上に強固なものだった。なんなく銃弾を弾き返した。

 

「満足したかな?」

 

 シールド内で彼女は笑っていた。

 

「私が満たされるのは、あなたが力つきる時よ」

「予想された戦術だ。私が無対策でここに来てると思うかね?」

「予想できたからって、防ぎきれるとは思わないことね」

 

 “無限の魔弾”はマミが得意とする範囲攻撃だ。無数の銃を出現させて同時射撃する。マミは、前方に菱形のマスケット銃の集合体を形成する。そして、掛け声とともに全弾発射した。中央の50%は一点集中、残りはランダムの場所から小巻を狙った。先ほどとは比較にならない着弾で、彼女の姿が煙で見えなくなった。

 

「……」

 

 煙が消えて、小巻が何事もなかったかのように姿を現した、そのシールドに衰えた様子はなく、鈍く光り輝いていた。

 

(本当に……厄介だこと)

 

 小巻がゆっくりと前進してくる。暁美ほむらの情報では、シールド展開中は攻撃オプションがほとんどないとのことだが、なにかいやな予感がする。マミは、小巻の前進に合わせてじりじりと後退する。

 

「最強魔法少女が逃げるのかね?」

「ええ、あなたみたいに胸に一物を持っている人にはベストな選択よ」

「そうかもね」

 

 ともかく、このシールドをなんとかしなければどうしようもない。幸い、小巻はこちらの後退方向や速度に合わせてくれている。

 

(速度では……どうかしら)

 

 マミは、噴水近くで停止し、連続した銃撃を加える。と同時に小巻の死角から地面と同色に擬態したリボンを虫が()うような速度でシールドに侵入させる。

 

(通った……)

 

 なるほど、小巻のシールドは速度に反応するらしい。高速の銃弾や、矢や槍の攻撃は完璧に防ぐが、極めてゆっくりとした速度(低エネルギー)のものには反応しないのだ。

 

 小巻に気づかれて、マミのリボンはアクティブになったシールドで切られた。

 

「また銃を侵入させようというつもりかな? これでは、質量的に足りないだろう」

「……」

 

 侵入できたのはわずか5センチほどだ。小巻の言うように、これでは銃弾にもならない。しかし、倒す方法は判明した。

 

(一瞬でいいのよ……銃口さえ通過できたら、あなたに砲撃を浴びせられる)

 

 ティロ・フィナーレの砲撃をシールド内に放出したらとんでもないことになる。恐らく、小巻は、跡形もなくなるだろう。

 

(私を殺すためにここにいるのなら……その逆だって受け入れるわよね)

 

 小巻は、マミを追うのを止めて、噴水の脇で停止する。こちらの出かたを待っているようだが、なにか()に落ちない。結局、彼女はなぜ、こんな不利な場所で戦い、なぜ、マミに隙を見せるのか? その疑問が解けていない。

 

(美国さんの予知……?)

 

 ネガティブ思考だが、そう考えるしかない。小巻は、美国織莉子から何らかの予知を伝達され、その時を待っているのだ。

 マミは、自分の周囲に、放射状に銃を配置し、全方位警戒する。油断はできない。何らかのアクシデントが起きる可能性がある。

 

「どうしたの小巻さん……私とにらめっこでもするつもり?」

「それもいいかもね……でも、私の負けでいい」

 

 小巻が笑っている。確かににらめっこなら彼女の負けだ。しかし、これは、そんな穏やかな遊びではない。互いの命を取り合うデスゲームなのだ。

 マミは焦っていた。小巻が難攻不落ではないことはわかった。しかし、攻撃するタイミングがつかめない。

 

「巴さん……私はこれからシールドを解除する。攻撃したければご自由に」

「え?」

 

 小巻は本当にシールドを解除した。わからない、まったくわからない。なぜこんなことをするのだろうか? だが、絶好のチャンスであるのも確かだ。

 マミは、放射状に配置された銃を前方に再セットした。それを見計らい、小巻が大ジャンプをした。

 

「!!!」

 

 立っていられないほどの地震が発生した。いや、これは地震ではない。空間全体が強烈に振動しているのだ。ありえないことに、結界内の噴水が崩壊し、白羽女学院校舎も崩れている。

 

(結界が破壊されている……こんなことありえるの?)

 

 自分が完全に無防備の状態であることに気が付いた。振動はまだ続いており、マミは立つのもままならない。ところが、その影響を受けない者がいた。それは、振動発生前に跳躍した浅古小巻だ。

 

 マミはマスケット銃を出現させ、小巻がいるであろう上方に向ける。だが、それは遅かった。大上段から振り下ろされた、ロングアックスに右腕ごと切断された。激痛に耐えながら、左腕に短銃を構えるが、小巻の柄の攻撃で弾き飛ばされた。手が震えている。指も何本か折られた。

 小巻はロングアックスを再度振りかぶり、マミにとどめを刺そうとする。そうはいかない。右腕が無くとも、左手が使えなくとも、戦う(すべ)は残っている。

 マミは右足で小巻の腹部を蹴り上げる。小巻が苦痛でうずくまったところに左足で追撃する。それを避けるように小巻はバックステップする。これで距離ができた。マミは、短銃で小巻のソウルジェムを撃った。しかし、それはシールドによって防がれた。

 

「惜しかったね。もう少しであなたを倒せたのに」

「最後のチャンスだったかもよ」

 

 再びにらみ合いになってしまった。これで、自分の優位性は完全に失われた。

 

「私の消耗を待つという戦術は無理になったね。右腕と左手を治すのに、相当な魔力が必要となる。自分のソウルジェムを見たほうがいい」

「あいかわらずユーモアが無いわね……小巻さん」

「殺し合いにユーモアは必要かね?」

「ええ、私は、殺伐とした戦闘は嫌いだから」

 

 要は、言われなくても分かっているということだ。かなり黒ずんだマミのソウルジェムは、腕の治癒でさらに魔力を消耗する。そうなると、必然的に、こちらの方が先に魔力が枯渇(こかつ)する。小巻は、もう自分から攻撃しなくても良いのだ。マミに好き勝手に攻撃させて、魔力がなくなってから仕留めるだけだ。

 

(自信過剰は命取りよ……多分、それがあなたの最大の弱点ね)

 

 振動も落ち着いて、小巻がゆっくりと後ろに下がり、最初の距離感に戻った。そして、再び、大きなシールドを展開する。

 

「巴さん……」

 

 小巻がやや沈んだ声で話しかけてきた。

 

「私のことはマミって呼んでくれる?」

「いいでしょう。それではマミさん、さっきの振動は……なんだと思いますか?」

「さあ」

「あれは時空振動です。どこかの結界で強烈な破壊が起こった。それが他の結界に干渉したのです」

「結界の破壊? それじゃあ、そこの噴水も、学校も、壊れているのは結界内だけ?」

「そうです。いつもとは逆ですね」

 

 初めて聞く話だった。きっと小巻だって、美国織莉子から聞いていなければ知らなかっただろう。

 

「ところで。なぜ、その破壊が起こったか? わかりますか?」

「……」

「この結界破壊は……美樹君が発生させました」

「美樹さんが?」

「そうです」

 

 小巻が無念そうに声を絞り出した。

 

「美樹さやか、優木沙々……二人は、結界破壊と共に消滅しました」

「……」

 

 マミは口を一文字に結んだ。小巻が嘘を言っているようには思えなかった。仲間の死を現実として受け止めなければならない。しかし、あまりにも寂しすぎる。それを見届けることさえできなかった。泣いてはならない。今は、目の前にいる難敵を倒すことに集中すべきだ。

 

(美樹さん……)

 

 自分の弱さを思い知らされた。最強魔法少女などと言われながらも、自分の感情も制御できない。マミは、涙を流しながら左腕でマスケット銃を構える。

 

(負けない……絶対に負けるわけにはいかない)




次話;天秤(2)
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