見滝原中学校
美国織莉子
時間にしてみれば2秒にも満たないであろうか? 美国織莉子は経験のないほどの
(まどか……なぜ、あなたは答えなかったの?)
(なぜ……あなたは抵抗しないの?)
織莉子に組み敷かれているほむらは、死を受け入れているようであった。彼女にとって“かなめまどか”こそが“自分の生きる意味”なのだろう。
ほむらと目が合った。殺すなら早く殺せと言わんばかりの生気のない目だ。そうするべきであり、それが正しいことなのは間違いない。しかし、織莉子は、その選択は違う意味での暗黒をもたらすかもと考えてしまった。“かなめまどか”の言う『インキュベーターの支配』の継続だ。
(キリカ……小巻さん……沙々……あなたたちは、私を許してくれる?)
“自分の生きる意味”。それはとっくに見つけていた。美国織莉子の生きる意味とは、信頼できる仲間を見つけることだった。代議士の娘として生まれ、その期待に応えるように振る舞い、演じてきた。そのため、織莉子の周囲には大人、同世代を問わず、
「暁美ほむら……もう終わりにしましょう」
ほむらが、光の無い目で、一度
織莉子は、周囲を旋回している二つの“オラクルレイ”を加速させた。残っているすべての魔力を注入された“オラクルレイ”は超高速になり、白色の光輪に変化した。そして、その天使の輪が変形し、“オラクルレイ”は、織莉子の胸にあるソウルジェムに次々と突入し、破壊した。
(驚いているわね……いい気味だわ)
暁美ほむらが
急速に意識が遠のいていった。織莉子は身体に力が入らなくなり、その場に倒れ伏した。
「美国織莉子……教えて、まどかは、本当に私を殺せと命じたの?」
もう何も見えていない。しかし、声だけは聞こえた。ほむらが質問しているようだ。なるほど、それはそうだろう、彼女のアイデンティティにかかわる問いかけだ。だから正直に答える必要がある。
「かなめまどかは……」
そこまでだった。それに続く『そんなことは言っていない』を言うことができなかった。せめてもの
美国織莉子の意識は、あのビルの屋上に飛んでいた。すでに暗黒の拡張が始まっていた。呉キリカ、浅古小巻、浅古小糸が、その方向を見つめている。
織莉子は、そのヴィジョンがこれまでとは違うことに気が付いた。予知夢でのヴィジョンでは不鮮明だったものが、まるで現実の映像のように鮮明に見えていた。
一番前方にいたキリカが振り返る。これまで表情が分からなかったが、今回ははっきり見える。キリカは微笑んでいた。
「オリコ……だめだ、止められなかった」
その左側にいた浅古姉妹の小巻も眉を下げてキリカに同意した。
「美国、あれは防ぎきれない。私たちは負けたんだよ」
「お姉ちゃん……」
予知夢ではおびえているように見えた小糸だが、そうではなかった。小糸は、姉の言い過ぎを
三人が織莉子を囲むように集まってきた。
キリカが両手を織莉子の肩に乗せる。
「精一杯やったよね……オリコ」
小巻も、キリカの左手の上に手を重ねる。
「キリカの言ったとおりだ。これでいいんだよ」
背の低い小糸は織莉子の左腕を抱きしめた。
「そうだね、織莉子さんは頑張ったから」
予知夢ではここで目が覚めてしまう。しかし、今は、その続きが可能だ。
「ごめんなさい! 私は……みんなの期待を裏切ってしまった」
それは心からの謝罪だった。“悪魔”を殺せる最大のチャンスを逃し、自殺の道を選んでしまった。決して「精一杯」やってもいないし、「頑張って」もいない。だからこそ絶叫した。許してくれなどとは思わない。
呉キリカが織莉子を抱きしめる。大柄な浅古小巻は、妹の浅古小糸とキリカを包み込むように手を回した。
「オリコの“生きる意味”はね……ボクたちの“生きる意味”でもあったんだよ」
そのキリカの言葉で、織莉子の涙腺は崩壊した。
「私の“生きる意味”は……みんなと出会うことだったの」
小巻の手に力が入った。妹の小糸も織莉子の腕を強く抱きしめている。
「そうさ……私も、キリカも、小糸も……優木だってそうだよ」
美国織莉子の願いは
それを打ち消すように、“悪魔”の発生させた暗黒が、織莉子たちを消滅させた。
生きているのか死んでいるのかが分からない状態が続いていた。今度、織莉子が導かれたのは、純白の空間だった。立っているのが浮いているのかが不明になるほど白い空間だった。織莉子は新品のような魔法装束に身を包み、ソウルジェムも曇り一つない真珠色に輝いていた。
見覚えのある場所だった。ここは、円環の理だ。
「まどか! いるの」
「織莉子ちゃん、ここだよ」
天使のようにまどかは浮遊していた。彼女の微笑みが、織莉子の心を落ち着かせた。
(やはり、自分は死んだのね。さっきのも……きっと幻想よね)
そんな都合の良い話は無いなと思った。呉キリカも、浅古小巻も、優木沙々も、自分を許すはずがない。そして、それは受け入れなければならないことだ。
「まどか……これで良かったの?」
まどかは、その質問には答えなかった。その代わり、ゆっくり右手を上げて、遠くを指さした。
「幻想じゃないよ。みんな、織莉子ちゃんを待っているよ」
織莉子は振り返り、まどかの指さす方向を見た。そこには三人の人影が立っていた。
「……あれは?」
「行ってあげて」
まどかに優しく背中を押された。それに従い、織莉子は人影に向かって歩き出した。
三人が織莉子を見つけて手を振っている。手前の背の大きい少女は浅古小巻だった。真ん中のショートカットの少女は呉キリカ、その隣の特徴的な髪型の少女は優木沙々だ。なんと、彼女の目は、何事もなかったかのように普通に戻っていた。全員魔法少女の装束ではなく、白羽女学院の制服を着ていた。気が付けば、いつの間にか、織莉子も制服になっていた。
織莉子は戸惑いながら近づく。笑顔で迎えているようにも見えるが、自分は彼女たちに背信したのだ。仲間に加わる資格がなかった。
「オリコ! ここだよ!」
今朝聞いたばかりのキリカの声だが、何年かぶりに聞いたようにも思える。
「美国! 早くきなよ」
いつもの小巻の半ギレ声だ。なぜかとてつもなく懐かしく感じた。
「織莉子さん! また一緒ですよう!」
沙々の励ます声に、織莉子の歩調が速くなった。そして、織莉子は駆け出していた。
「キリカ! 小巻さん! 沙々!」
その叫びに、三人も走り出した。
(ここが……私の帰るべき場所。いいのよね? こんなに幸せでいいのよね?)
織莉子は、三人に受け入れられた。溶けるような幸福感が織莉子を包んでいた。そうだ、願いを叶えられた者には幸福という
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