魔法少女まどかマギカ  間(はざま)の物語   作:Mt.モロー

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第七話 【美国織莉子】(2)

 美樹さやか失踪事件の数か月前

  美国織莉子:魔法少女2日目

 

 キュウべえという得体(えたい)の知れない生物と契約し、美国織莉子は魔法少女となった。”自分の生きる意味を知りたい”という願いが、織莉子に予知能力を付与(ふよ)した。しかし、織莉子はその能力を制御しきれず、散発的かつ断片的に現われる未来予知に悩まされていた。

 ほんの数秒ほどのヴィジョン。それが、いつのものなのか、なにを意味しているのか、不明なものばかりだ。唯一はっきりと認知できたのは、昨日、夢という形で現れた“暗黒による世界破滅”のヴィジョンだけだった。

 

 織莉子が登校の準備を終えて、玄関のドアを開けようとしたところ、予知が発現した。

 

「痛!」

 

 思わず声が出てしまうほどの頭痛。これも抑制(よくせい)していかねばならない。

 

(小巻さん……?)

 

 見えたのは、怒り心頭な浅古小巻の顔だった。小巻は同級生でありクラスも同じだった。成績優秀、強い責任感を持ち、スポーツも万能。長身であり凛々しい顔立ち。まさに非のうちどころのない女性像だが、彼女の最大の欠点が、それらのものを台無(だいな)しにしていた。

 

 浅古小巻は極端に怒りっぽいのだ。

 

 彼女が怒っている顔は見なれている。ただ、織莉子の見たヴィジョンは至近距離から彼女に怒鳴られるものだった。

 

 

 ――白羽女学院への通学路を織莉子は歩いていた。父親の自殺以来、“友人”と呼ばれていた“良家組”の数人も織莉子との距離を置き始めていた。

 生徒玄関で織莉子は上履きに履き替えて教室までの廊下を歩いていた。すると、けたたましい怒鳴り声が聞こえてきた。どうやら浅古小巻の声のようだ。

 

 “良家組”の織莉子の“友人”二人に、小巻が当たり散らかしていた。

 

「どうしたの? 小巻さん」

 

 織莉子は今朝見たヴィジョンが今であるかを確かめるために小巻に話しかける。“友人”が助かったと言わんばかりに織莉子に礼をして、一目散(いちもくさん)に逃げ去っていた。

 

「美国! なんであんなやつらに好き勝手言わせているわけ?」

 

 直情的だが嘘偽(うそいつわ)りのない性格。(わずら)わしくはあるが、織莉子は小巻を嫌ってはいなかった。察するに、織莉子の陰口を言っていた“友人”たちに突っかかっていたらしい。

 

「私は陰口を認めるわ。聞こえないものに腹を立てる必要はないでしょう」

「ばっかじゃないの。あんた、いつまで引きこもっているの? いつになったら、いつものあなたに戻るの?」

「それを聞いてどうするの?」

「私は、あんたにケンカを売ってるの! 歯ごたえがないとつまんないじゃない」

 

 思わず織莉子は笑ってしまった。それが気に障ったのか、小巻に正面から罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせられた。既視感のある光景だった。間違いなかった。これは、さきほど見た予知ヴィジョンだ。織莉子は、半信半疑だった自分の予知能力に自信を持った。あとは自由自在に操作する方法を確立するだけだ。

 

「小巻さん、あなたは真っ直ぐな人ね」

「……なによ」

「その真っ直ぐさを……どんな相手でも貫ける?」

「あんた? なに言ってるの?」

「そうね、忘れてちょうだい」

「……」

 

 予知によれば、彼女は自分の仲間になる人物だ。だが、現時点では、そのきっかけがつかめない。

 

(私は(あせ)っているのかしら。あの終焉の日がいつかが分からない。だから小巻さんを早く仲間にしようとしている……)

 

 あ然としている小巻に、織莉子は微笑みを残して去ることにした。バカな事を言ったものだ。その証拠に、小巻の怒りは収まらぬようで、彼女の“友人”である行方晶と長月美幸に取り押さえられていた。

 

 

 ――その日、織莉子は積極的に行動していた。『キリカ』と呼ばれていた人物がどこにいるのかを調べるために、休み時間のたびに教室を離れていた。

 

(見つけた)

 

 『キリカ』と呼ばれていた人物とは、昼休み時間に食堂で出会った。なにかを購入しようとして小銭をばらまいて困っていた彼女を助けた。とはいっても、小銭の数枚を拾っただけだが。

 

「ありがとう……」

 

 小銭を受け取ろうとしたキリカは、織莉子の顔を見て固まってしまった。よく分からない人物のようだが、あの夢に登場したからには、彼女も魔法少女のはずだ。だとしたら、自分が魔法少女であることを見抜かれたのかもしれない。

 

「名前を聞いてもいいかしら?」

「キリカ……呉キリカ」

「そう、キリカさんね――」

 

 織莉子が自己紹介をする前に、キリカは織莉子から小銭を奪い、走り去った。本当によく分からない人物のようだ。

 

「ふん! 今日はずいぶんと活動的ね」

 

 浅古小巻だ。いつもの癇癪(かんしゃく)をおこされてはたまらないので、彼女を昼食に誘うことにした。

 

「小巻さん。一緒に昼食はどうかしら」

「良家組が成金組と一緒にいていいのか?」

「あら、私はまだ良家組かしら?」

「……」

 

 織莉子が近くにあったテーブルに座ると、小巻はその対面にドカッと座った。

 

「美国、なんであんたは私を名前で呼ぶの?」

「あなたが望んだからよ」

「私が? いつそんなことを言った?」

「入学時の自己紹介で小巻って呼んでくださいと言っていたわ」

「……あんた」

 

 絵に描いたようなイライラぶりに、織莉子は少し可笑(おか)しくなった。

 

「小巻さん、あなた、妹さんか弟さんがいらっしゃる?」

「なんでそんなことを聞く?」

「性格占いかな。あなたの責任感の強さはそういうことかなと思って」

「はっ! くだらない。私は占いなんて信じない。そんなことに行動を左右されるなんて愚か者のすることよ」

「そのとおりだと思うわ。これは興味本位。いいえ、私は浅古小巻という人物にとても興味があるの」

「……」

「答えたくなければ結構よ」

「いるわよ」

「そう」

 

 小巻がテーブルにバンと手を突いて立ち上がる。かなり大きな音がしたので、周囲の人間かこちらを見ている。

 

「いいよ。美国、ケンカを買うってわけよね?」

「うふふ、そうね」

「面白くなってきた。必ずあんたを泣かしてやる」

「妹さんによろしくね」

「……なぜ妹だと分かった?」

「別に。だって二分の一じゃない?」

「……」

 

 頭の切れる彼女のことだ。本当にただの興味本位ではないことを理解したはずだ。あとは、こちらも演技をしなければならない。

 

 

 ――放課後。小巻は家に戻り、私服に着替える。そして、外出の準備をしていた。

 

「織莉子、ようやく魔獣を倒しに行くんだね」

 

 キュウべえが織莉子に話しかけてきた。どこから侵入したのかは分からないが、この生き物にも演技に付き合ってもらう。

 

「キュウべえ、しばらくの間、私を無視してほしいの」

「どうしてだい?」

「あなたの期待に応えるためよ」

「面白いね。理由は聞かないでおくよ。どうせ、すぐに分かるだろうからね」

「少し遅れて出てくれないかしら」

「いいとも」

 

 午後7時。辺りはもう真っ暗だった。織莉子は魔獣の瘴気に導かれるように白羽の中心部に向かった。学園より1キロほど離れた商業施設に、空間の裂け目があり、強烈な瘴気を発していた。おそらく大物の魔獣がいるのだろう。

 心を()んだ一般人が迷いこむように、織莉子は、無意識を装い、その裂け目の中に進入しようとしていた。

 

(小巻さん……来ているわね)

 

 決して無謀なことをしているわけではない。これは予知済みのことなのだ。

 

(私は異空間で魔獣に襲われ、そこを彼女に助けられる)

 

 午後の授業中に発現した比較的長いヴィジョンが、そう教えてくれた。そして、その予知には商業施設の時計が見えていた。午後7時53分。このイベントの発生時刻だ。織莉子は、そのスケジュールに従い、異空間に進入する。

 

(これが……魔獣)

 

 それは大きな驚きであった。人間の負のエネルギーがこれほどの物を創り上げることへの驚きだ。しかも。魔獣は他者への攻撃が前提の悪意の塊だ。

 

 織莉子は5mはあろうかと思われる人型の魔獣を無視していた。今の織莉子は“ただの一般人”でなければならない。

 魔獣が織莉子を認識し、攻撃をしようとしている。恐怖はまったく感じなかった。なぜならば、あの魔獣の攻撃は、浅古小巻によって防がれるからだ。

 

 “ただの一般人”には視覚外にある魔獣の手が輝いた。その攻撃波動がとどく寸前、小巻が現れて織莉子を突き飛ばす。

 予知どおりの進捗(しんちょく)だった。織莉子は自分の能力への自信をさらに深めた。

 

(でも、予知はここまで……)

 

 西洋騎士の甲冑(かっちゅう)のような装束に身を包んだ浅古小巻が怒りを前面に出して織莉子を睨んでいる。

 

「美国! そこでじっとしていなさい!」

 

 小巻は、魔獣からの攻撃を防いだシールドを解除し、持っているロングアックス(長斧)に戻した。そして、大きく跳躍し、長斧を両手で振りかぶり、魔獣に叩きつけた。

 悲鳴とも歓声ともとれる音声を発して、魔獣はブロックノイズ化し、消滅した。いや、完全な消滅ではなかった。魔獣が存在していた(あかし)として、数個のグリーフキューブが残されていた。

 

 小巻は、それを拾って歩いてくる。

 

「小巻さん……」

「あんたバカなの! いや、バカでしょ!」

「……」

「なんでこんなところにいるの? 死ぬつもりなの?」

「小巻さん、その恰好は?」

 

 立て板に水だった小巻の罵倒(ばとう)が止まった。そして、なぜか彼女は顔を赤くしている。

 

「私は……ま、魔法少女なのよ」

 

 建物の影からキュウべえが現れる。約束どおり、織莉子を無視している。

 

「小巻はいつもそこで口ごもるよね。そんなに恥ずかしいのかい?」

「べ、別に恥ずかしくはないわよ。大っぴらに言えることじゃないからよ」

「へえ、どうしてだい?」

「それよりも、これはどういうことなの? 一般人が異空間に入れるの?」

「もちろんだよ。行方不明者のほとんどは、魔獣の異空間に迷いこんだ人だよ」

「……そのための魔法少女なの?」

「君の願いと合致しているはずだよ」

「……キュウべえ、少し消えてもらえる」

「わかったよ」

 

 キュウべえは猫のような動きでどこかに消えた。無論、あの生き物にそんな配慮ができるとは思えない。おそらくどこかに(ひそ)んでいるはずだ。小巻もそう考えたらしく、眉をひそめている。

 

「立てる?」

 

 少し落ち着いたのか、小巻は織莉子に手を差し伸べる。

 その手を取ろうとした時、もう一人の重要人物が現れた。それは、黒ずくめの魔法少女“呉キリカ”だった。

 

 キリカがニヤニヤしながらこちらに向かってくる。

 

「キミ、その子にだまされているよ」

 

 キリカは、織莉子を横目で見ながら小巻に言った。なるほど、感性が鋭いとは思ったが想像以上であるようだ。ここが潮時(しおどき)かと考える。なにしろ、今は予知されていない未来なのだから。

 

「美国……離れていろ」

「……」

 

 小巻の忠告どおり二人から離れる。とはいえ、会話が聞こえる距離までだ。浅古小巻、呉キリカ。キーパーソンとなる二人の力量を見極めなければならない。

 

「呉キリカだったわね。なぜ、魔法少女を狙うの?」

「へえー。ボクの名前を知ってるんだ」

「昼休みに美国に絡んでいたからね。それに、黒い魔法少女の噂は聞いているよ」

「キミはあの子のストーカーなのかい? 今日は、ずっと、あの子にへばりついていたよね」

「質問に答えなさい! なぜ、魔法少女に危害を加えるの?」

「ただの八つ当たりだよ」

「……」

「だから、キミにも八つ当たりをするからね」

 

 実に奇妙な闘いが始まった。ジョギングのような速度で攻撃を仕掛けるキリカに対して、小巻はスローモーションな動きで防御シールドを展開し、キリカをはね返す。それを二度三度と繰り返している。

 

(これが……呉キリカの能力。相手の動きを遅くする)

 

 織莉子はそう結論した。そして、それが作用するのは対峙している魔法少女だけだろう。

 

(これは千日手になるわね)

 

 有利なはずのキリカも、小巻の広範囲のシールドを突破できない様子だ。

 

「美国! もっと下がって」

 

 小巻も現状打破の道筋がみえないのか、織莉子に振り返り、警戒を(うなが)す。小巻の表情が変わった。奇妙そうに二人の闘いを眺めている織莉子からなにかを読み取ったようだ。

 

「キミ、厄介(やっかい)だね。少し動けなくするよ」

「どうやって? 私のシールドは破れないよ」

 

 見かけ以上に魔力を消耗しているらしい。二人とも息が上がっていた。

 

「ボクはまだ本気じゃないからね」

「そう……わたしもよ」

「あの子はね……もう、魔法少女だよ」

 

 小巻は意表をつかれたらしく、わずかに後退し、織莉子をチラリと見た。

 

「うそだよ……美国は、キュウべえが見えていなかった」

「じゃあ、証拠を見せてやるよ!」

 

 キリカの全速力のダッシュ。さきほどまでとは比べ物にならない速さだ。小巻のシールド展開が遅れて突破された。

 

 キリカが両腕のカギ爪を露出させて突入してくる。

 

「変身しないと死んじゃうぞ!」

 

 キリカがカギ爪を振り上げ攻撃しようとしている。ただ、殺意は感じられない。これは威嚇(いかく)だ。自分を魔法少女に変身させるための威嚇なのだ。だが、このままでは、ダメージを受けることになる。しかたがないので、変身しようとした矢先(やさき)に、その事故は起こった。

 

「あ……あ……」

 

 キリカが驚愕の表情で(うめ)いている。威嚇で突き出したキリカの爪が、小巻の心臓を貫いていた。

 

(なんてこと……私がヒントを与えたから)

 

 小巻はキリカの能力を理解していたのだ。だから、変身を解除し、素の高い運動能力でキリカを追い越して織莉子を(かば)った。

 

 噴水のように血を吹き出しながら、小巻は織莉子に倒れ込んだ。

 

「美国……無事か……」

「小巻さん!!」

 

 織莉子は、生まれて初めて恐怖を体験した。ようやく見つけだした生きる目的。それをこんな形で失うことに震えあがった。

 

(断じて受け入れられない……私は、この恐怖を乗り越える)

 

 織莉子は魔法少女に変身した。

 

「美国……そうだったの」

 

 虚ろな表情で小巻がつぶやく。

 

「小巻さん!! 死んではいけない。私にはあなたが必要なの!」

「むりだよ……私は……もう死ぬ」

 

 キリカがガクガク震えてしゃがみこんだ。

 

「そんなつもりじゃ……」

「キリカ! 大丈夫よ! 小巻さんは死なないから」

「だって……いっぱい血が出てるし、ボクの手にはその子の心臓の感触が残って……」

「しっかりしなさい! キリカ、私には、あなたも必要なのよ」

「……ボク?」

 

 腕の中の小巻が痙攣している。

 

「ダメだ……もう……なにも見えない」

「聞いて小巻さん。私たち魔法少女は、ソウルジェムを破壊されないかぎり死なないのよ」

「無理を……言わ……」

「その死は、肉体の記憶にすぎない! だから諦めないで!」

「……」

「人間が何千年も繰り返してきたこと。だから、肉体が死を覚えているの」

「……」

「でもね……私たちは、もう人間じゃない!」

「……」

 

 小巻の身体から完全に力が抜けている。それは、肉体的な死を意味していた。だが、織莉子はあきらめない。彼女を大地に横たわらせ、祈るように小巻を見つめる。

 

「オリコ……もうダメだよ。この子はボクが殺した」

「信じるのよ。キリカ、私たちの力を信じて」

「ボクたちは……もう人間じゃないの?」

「そう言われたら、あなたは絶望する?」

「……」

 

 小巻の身体に変化があった。大きな穴が開いていた胸の傷が小さくなっていく。

 

「オ……オリコ、見て」

「小巻さん! そうよ! 諦めないで」

「ああ……」

 

 キリカが大粒の涙をこぼしている。織莉子だってそうしたい。肉体の死を超越した強い精神力への感動。小巻こそは、織莉子が求めてやまなかった真の仲間だ。そして、この奇跡の時間を共有したキリカも、織莉子は仲間として欲した。

 

「泣かないでキリカ。あなたは、小巻さんとともに、私の仲間になるの。拒否は許さない」

「仲間? オリコはボクを求めているの?」

「そうよ、これから逃げ出したくなるような辛い試練が待っている。でもね、私たちは……それをやり()げなければならない。それまでは、泣いてはいけないの」

 

 蒼白だった小巻の顔色に赤みが増していく。彼女の心臓がエンジンのように活動を始め、体中に血液を送っている。やがて、小巻は静かに目を開けた。

 

「呉……手を貸してくれ」

「オリコ! コマキが生き返った」

「小巻さん!」

 

 なんという穏やかな顔なのだ。こんな小巻の顔は見たことがない。

 

「呉、手を貸せと言っているんだが」

「呉っていうのは、やめてくれない? キリカって呼んでよ」

「お前がそう言うのならそうしてやる。キリカ、起きるから手を貸せ」

 

 小巻は、キリカの補助で上半身を起こした。

 

「コマキ……ごめんよ」

「気にしなくていい……私の早とちりだからね」

 

 なにがあったのかは分からないが、小巻は別人と言っても過言ではないほど変わっていた。

 

「小巻さん……あなた、ずいぶん変わったわね」

「ああ、私がなににイラついていたのかが分かったからね」

「……」

「私は()えていた。心が飢えていたんだ。なにをしても、それは決して満たされることがなかった」

「今は満たされたの?」

「いや、まだだ。でもね、仲間といっしょなら……きっと心の飢えは満たされる」

「……」

 

 小巻は、織莉子に優しい笑顔を向けた。そうか、彼女は聞いていたのだ。自分とキリカの話を聞いていた。ならば、話は早い。二人に自分の能力を伝えよう。

 

「私は、あなたたちを(だま)していた。二人が私の仲間になってくれることは分かっていたの」

「……」

「私は予知能力の魔法少女なの」

「予知? それじゃあオリコは、ボクとコマキがこうなることが分っていたの?」

「いいえ、私が見たのはもっと先の話よ」

 

 小巻が立ちたいと言うので、キリカと二人でサポートした。小巻は、背中を大きく伸ばして、“人間”らしく骨をポキポキ鳴らした。

 

「まだ異空間が解けていない。魔獣はもう一体いるよ」

 

 小巻は周囲を見渡す。瘴気の強いエリアはあるのだが、魔獣を視認できない。

 

「美国……話を続けてくれ。あんたはなにを見たんだ」

「終焉よ……この世の終わり。それはね、ぞっとするような静けさとともにやってくる」

「災害? それとも戦争?」

「ちがうわよ、キリカ。もっと、なんというか、魔法のようなものよ」

「魔法? だとすると、それを使用した者がいるはずだな」

 

 織莉子は迷っていた。もう一人の魔法少女のことを伝えるべきか? 小巻の妹のことを伝えるべきか? それはできない話だ。魔法少女のシステムを知ってしまった小巻なら、全力でそれを阻止しようとするはずだ。

 

(卑怯者と呼ばれてもいい。人間の(くず)と呼ばれてもいい。私は、この世界を救うために、嘘を貫く。小巻さん、許して)

 

 織莉子は二人に目を合わせなかった。

 

「私たち四人は、どこかのビルの屋上で、その最後の時を同時に迎えるの」

「……四人? つまり、もう一人仲間がいるってこと?」

 

 織莉子は頷いた。そして、滅びる運命の見滝原を眺めながら、仲間を(あざむ)く嘘を言った。

 

「まだだれかは分からない。その魔法少女は鳥をイメージした衣装を纏っているの」

 




次話;美国織莉子(3)
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