「あ、おはよう、アスカ」
眠気まなこを擦りながらリビングに入った時、アスカは口をだらしなく開けたまま、キッチンでお弁当作りに勤しむシンジと、ダイニングテーブルでホットケーキを頬張るミサトを見比べた。
「アスカが私より遅いなんて、珍しいわね」
もにゅもにゅとほっぺたを動かしながら、ミサトが振り返る。
窓からの朝日が眩しい。
理想的な朝だった。
短い日々だったが、昔、こんな安らかな朝が続いたことがあった。シンジがお弁当を作り、ミサトの予定を聞きながら、自分はシンジの朝食を食べる毎日。
「顔洗ってきたら、アスカ?」
ミサトの提案を後回しにして、アスカは席に着いた。ミサトの食べているふわふわのホットケーキが美味しそうだったからだ。
「先に食べる?」
エプロン姿のシンジが、グレープフルーツジュースをストロー付きのグラスで運んでくる。
シンジのやさしい笑顔に、アスカはドキリとした。
「メープルシロップ、かけようか?」
「あ……う、うん」
テーブルのシロップを、シンジはアスカの前に用意しておいた二段のホットケーキに網の目になるようにかけていく。
なかなかどうして、それは心地良いシチュエーションだった。年齢の問題さえなければ、休日の朝のおしどり夫婦のようだ。
ミサトさえ横にいなければ。
「ふーん……?」
意地の悪そうなミサトからの視線を横目に、アスカはシンジのホットケーキをテーブルナイフで切り分け、フォークで口に運ぶ。噛みしめた瞬間に、しあわせな味が広がった。
「なんかおかしいなとおもったら、アスカの着てるシャツ、いつもと違うやつなのね。そんなの持ってたっけ?」
「え? あ……」
アスカは危うく、フォークを落としそうになった。
シンジも今気づいたらしく、目を見開いている。アスカが来ているシャツは、シンジが昨夜寝る時に着ていたシャツだった。
「これね! これ、シンジのやつだから。私のやつ、洗濯出し忘れててさ、代わりがなくって、バカシンジの引き出しから借りたんだ」
その言い訳では、昨夜アスカが着ていた黄色のシャツと今着ているシャツが違うことに矛盾が生じるのだが、シンジは黙っていた。
「そんなことかなと思ってたんだけど……あれ? なんで二人ともそんなに顔赤いの?」
アスカとシンジがさらに言い訳を重ねようとしたその前に、ミサトはごちそうさまと手を合わせて立ち上がった。
「あ、そうそう。昨日言い忘れてたんだけど」
タコのように顔を真っ赤に紅潮させている二人に、ミサトは言った。
「あなたたち、明日から一週間、本部で合宿ね」
「え……?」
※
林立するビル群から住宅街を抜け、車は緩やかな上り坂のドライブウェイに差し掛かる。
それは奇妙なドライブだった。
助手席にシンジ、後部座席の右側にアスカ。なぜかその隣に綾波レイがいて、運転手は加持リョウジだった。
「パイロット三人でお出かけとは、珍しい組み合わせだな」
加持はバックミラー越しにアスカとレイに視線を送る。
「すいません、加持さん。無理なお願いをしてしまって」
「いや、構わんよ。保護者気分でドライブってのも、たまにはいいもんだ」
事の発端は、シンクロテストの後、日向マコトと青葉シゲルの通信内容を耳にしたことだった。
『北西部の高台のあたりで無線信号をキャッチしたんだが、なんだと思う?』
『子供の遊びじゃないのか?』
『それが、暗号化された形跡があるんだ』
北西部の辺りは、シンジとアスカがこの世界に巻き込まれる直前に車を停車していた場所でもある。移動に使用していた車両に積んでいた無線機だとすれば、外部と連絡が取れるかもしれない。
だが、シンジとアスカには時間がなかった。今夜からはミサトから言い渡された〝合宿〟のために、しばらく登校はおろか本部からの外出も禁止になる。探りを入れるなら、今日しかなかった。
アスカの機転で、たまたま本部に出入りしていた加持リョウジを捕まえることができたのは幸運だった。先日ミサトと三人で気分転換にドライブへ出かけた際、ドライブウェイの高台で落とし物をしたから車を出してほしいと、理由をでっちあげたのだ。
そこまではよかったのだが、なぜかその場にいた綾波レイも一緒についてきたのである。
「タバコは……と。すまない、やめておこう」
加持は左手を引っ込めると、ハンドルに添え直した。
シンジはチラチラと加持を観察する。
ニアサードインパクトの後、自分が目覚めた時には、すでに加持リョウジはあの世界にはいなかった。
落ち着いた、大人の男性。
ミサトさんの大切な人。
この世界では、アスカの憧れの人……。
「俺の顔になにか付いてるかい?」
「あ、い、いえ。すいません」
いつの間にか凝視していたらしい、シンジは慌てて前方に向き直った。
(エコヒイキのやつ、どういうつもりなのかしら?)
アスカは窓の外に視線をやりながら、逆サイドのレイに意識だけをやっていた。
こちらの世界の綾波レイを知っているわけではないが、能動的に行動するような人物ではないはずだ。自分とシンジの存在が、彼女のイレギュラーな行動を引き起こしているのだろうか。
いや。違うな。
そういえば、自分とシンジがいた世界でも、食事会などという殊勝なイベントを計画して、碇親子の中を取り持とうとしていた。シンジが絡むことには、積極的になるのだろう。
アスカの胸の奥が、チクリと痛んだ。
「三人とも、着いたぞ」
頂上付近の路肩に、加持は車を停車させた。
「ありがと、加持さん!」などと、アスカは弾んだ声で言ってみる。このアスカ・ラングレーは、この男のことをずいぶんと慕っていたようだ。
おそらく、自分を大人に見てもらうために、セックスアピールのようなこともしていたのだろう。もう一人の自分の歪んだ承認欲求を、アスカは感覚で理解した。
人は、一人では生きられないー。今ならそれがわかる。
「僕、残ります」
「そうなのか?」
「はい。せっかくなので、ミサトさんのこと、色々聞いてみたくて」
「かまわないが、タバコ吸わせてもらうよ?」
もし元の世界の車両が残っていた場合、シンジとアスカにとっては具合が悪い。そもそも、二人が乗ってきた車は戦自のジープを改修したものなので、ネルフ関係者に知られるのはハイリスクである。シンジが加持の相手をして現場に近づけさせないのは、最初から二人で決めていたことだった。
シンジと加持を車に残したまま、アスカは景観を見るために設置された展望台を通り過ぎ、カーブの先へ足を進めた。残るのかと思っていたレイが当然のように後ろからついてきたが、この無口な朴念仁を置いてけぼりにするうまい理由が見つからなかった。本音を言えば、自分の見えないところでシンジと接触されるくらいなら、ついてきてもらった方がマシだ。
「なにかあるの?」
これも珍しい。話しかけてきた。
「ちょっとね、探し物」
「あなた、碇君のことが好きなの?」
「い……⁉︎」
背後から直球の質問が飛んできて、アスカの後頭部を直撃した。
「あのね……あんたも教室で見たでしょ?」
私とシンジがキスしたとこ。
アスカは少しの優越感を持って答えた。
「好きって、なに? 唇を合わせるのが、好きってこと?」
あまりにもレイがまっすぐな視線を投げかけてくるので、アスカは言い淀んだ。
まさか、シンジの身体中のほくろの位置まで全部知っているとは、この場では言えまい。
「あなたと碇君を見てると、もやもやする」
レイは自分の胸の中心に両手を添えて、俯いた。
アスカは、レイがうらやましかった。今なら素直にそう思える。不器用でも、感情を探して、言葉にしようとしている。
この前向きさが自分にもあれば、十四年前のシンジとの関係も、変わっていただろうか。
本当は、シンジの隣にいるべきなのは、レイなのではないか……?
鋼鉄の意志の内側。弱気な本音と共に、昨夜シンジと身体を重ねながら浮かんだ疑問が、再び頭をもたげてくる。
ーこの世界を望んだのは、私なんじゃないの……?
レイが小さく首を傾げたその時、電波のノイズ音が微かに響いた。
ーまさか。
アスカはアスファルトの道の奥へ急ぐ。
緩いカーブの先にその光景を見た時、アスカは思わず息を呑んだ。
そこには、確かにシンジとアスカが使用していた戦自のジープがあった。その近くのアスファルトには、定時連絡用に積み込んであった無線機が無造作に転がっている。窓を開けて走行していたから、振り落とされたのだろう。
異様だったのは、そのどちらも、鋭利な刃物で切断されたように一部がなくなっていることだった。
ジープは前方の運転席と助手席の部分が、無線機は中央から縦に削ぎ落とされたように欠損している。
「これって……」
向こう側の景色は鮮明に見えるのに、何かがおかしい。
不可解な断面の意味を理解した時、アスカはゾッとした。ジープと無線機の切断面は、方向が平行に走っている。
つまり、今自分の目の前には、目に見えない壁があるということだ。自分とシンジがあの黒い球体の内側にいるとするなら、この壁は球体の端。ジープと無線機は、球体の境界線に挟まれている。そうであるならば、ジープと無線機の向こう側の景色は、ホログラムのようにただそう見えているだけの偽物ということになる。
「なに、これ?」
「ダメ!」
背後から手を伸ばそうとしたレイを、アスカは制止した。
どうする? 境界線を越えてみるか?
経験からくるアスカの勘は、赤信号を灯していた。触れたら取り返しがつかなくなるーそんな気がした。
その時、また微かな電子音が響いた。
《……こちら、ヴィレ所属の伊吹マヤです。シンジ君、アスカ、聴こえていたら返事をして》
機械的な電子音声ではなく、「元の世界」の伊吹マヤの肉声に、アスカの心臓はドクンと跳ねた。接触しないように注意しながら、無線機の前に膝をつく。
「こちら、式波・アスカ・ラングレー。聞こえる?」
しきなみ? というレイの呟きが聞こえたが、アスカは無視した。
無線の向こうがざわついたのがわかる。
《アスカ⁉︎ アスカなの? よかった、無事だったのね》
外部との接触に色めき立つ一方、アスカは高速で考えを巡らせていた。
明らかに真っ二つに切断されている無線機が生きている。この事実からわかることはー。
ー黒い球体の境界線の向こうは、位相がずれて見えなくなっているだけってこと……?
「な……⁉︎」
その瞬間を、アスカは確かに目撃した。
肉眼で見えている無線機の範囲が明らかに狭く削られたのだ。
黒い球体は、縮んでいた。
内側にある世界を呑み込みながら。
《あなたたち、今どこにいるの⁉︎》
「ごめん、説明してる時間ないみたい。大至急調べてほしいことがある!」
《どういうこと⁉︎》
レイがいる前で話していいかどうか、アスカは迷った。結果、綾波レイならネルフの大人たちに余計なことは話さないだろうと判断した。
「……ーお願い!」
アスカが何事か叫んで、マヤは戸惑いを返す。
《なんで、旧ネルフのセキュリティのことなんか……》
言いたいことはわかる。だが状況から考えて、その理由を話している時間がないのだ。
《聞こえる、アスカ?》そこへ、赤木リツコの声が割り込んだ。
《加持君の……で、いいのね? それなら多分、ミサトの……スペルは全て大文字よ》
「サンキュー、赤木博士!」
欲しい情報は手に入った。
アスカは立ち上がると、今度はジープの後部座席を開け放って中に体を滑り込ませた。
改めて見ると、やはりそれは異様な光景だった。
前方部分は切り取られて、奥に続く道路が丸見えになっている。だが、そこには不可侵の次元の壁が存在するのだ。ただ見えないだけで、もしかしたらすぐそこには、大人の自分とシンジの肉体があるのかもしれない。
後部座席はシートが倒され、狭い車内にキャンプ道具一式が敷き詰められていた。球体に呑み込まれる直前、シンジが無理なUターンをしたせいで、その荷物も酷く散乱していて、どこに何があるかわからない。
「あった……!」
アスカは迷わず、その瓶を手に取った。
薄汚れたその瓶を、アスカはぎゅっと胸に抱く。
「だめ……!」
瞬間、背後から腰を抱き抱えられるように、アスカは後部座席から外に放り出された。レイが強引に引っ張ったのだ。
直後。
なんの音もなく、ジープの後部座席は不可視の境界線に呑み込まれ、後部のナンバープレート付近を残して見えなくなった。リアバンパーのあたりだけが宙に浮き、その先は綺麗な切断面で遮断されていた。
アスカの首筋を冷や汗が流れた。
危なかった。あのまま社内にいたら、後部座席部分と一緒に呑み込まれていただろう。
無線機の方を振り返る。そこにはもう、無線機自体も、伊吹マヤと赤木リツコの通信音声も残ってはいなかった。
外部との連絡手段は、これで完全に断たれたことになる。
「大丈夫?」
抑揚のない声で、レイが手を差し伸べてくる。アスカは素直にその手を取って立ち上がる。
「ありがと。ホント、助かった」
レイは感情的な動きを見せず、アスカの手元をじっと眺めていた。
「? あぁ、これ?」
アスカが車の中から取り出したのは、手の平大のガラス瓶だった。中には、形の整った石が敷き詰められている。
沿岸部をドライブする傍ら、シンジと二人で集めたものだった。海岸沿いでキャンプをする時、波に削られてキャンディーのような光沢を持つ石がよく見つかった。
小さく、丸みを帯びていることが条件だ。シンジとアスカは、そんな石を見つけては、波でよく洗ってから瓶の中にコレクションしていた。
大切な、二人の思い出だった。
「きれい」
あまりにもまじまじと眺めているので、アスカは蓋を開けて一番上の石を取り出し、それをレイの前に差し出した。貝殻を思わせる、琥珀色の小石だった。
「さっきのお礼。シンジと集めたの。よかったらあげるわ」
アスカ自身、いわゆる恋敵になぜそんなことをしたのかはわからなかった。ただ、〝式波〟・アスカ・ラングレーである彼女には、同じ造られたモノ同士のシンパシーをレイに感じたのかもしれない。
「あり、がと……」
レイは恐る恐るアスカからの贈り物を受け取った。他者からプレゼントをもらうことが、レイは初めてだった。
ーとはいえ……。
アスカは路肩に落ちていた木の枝を拾うと、道路の奥ージープがあった先の道へ投げ込んだ。枝は空中で弧を描いた後、ジープと無線機を消失させた見えない境界線を超えても消えることなく、アスファルトの上にカラカラと音を立てて転がった。
これではっきりした。
この小さな箱庭の世界は、外界の異物だけを排除しながら縮んでいる。仮に隣の綾波レイが境界線を踏み越えても、何も起きないはずだ。
つまり、自分とシンジだけが、この境界線を越えることができない。あるいは、自分たちと同じようにこの空間へ呑み込まれた誰か、も。
アスカは、最後に見た球体の半径を記憶していた。
ーこの半球の形状からみて、中心点はネルフ本部……多分その下のセントラルドグマか、ターミナルドグマだろうけど。
このまま縮小し続けるなら、最後はどうなる?
その最後はいつやってくる?
「あぁーもう、頭痛い……」
まぁ、いい。
アスカは思考をポジティブな方向へ切り替えた。
これからネルフ本部に戻って、〝合宿〟と称したシンジと二人きりの同棲生活が待っているのだ。
議論をする時間は、たっぷりある。
※
「調子はどう、アスカ?」
「誰に言ってんのよ、バカシンジ」
「ごめん……」
「でも、そうね、こっちの2号機はヘッドパーツがちょっと違うから、変な感じはするかな」
「そうなんだ。操縦しづらい?」
「そういうんじゃないけど……なんだろう、自分の知ってる2号機じゃないのに、安心するっていうか……守られてるような感じ」
「うまくシンクロできてる証拠じゃないかな。それなら、アスカはばっちりだね」
「なに、あんた、緊張してるの?」
「うん。そりゃあ、まぁ」
「この私がついてるんだから、どっしり構えておけばいいのよ。バカシンジのことは……」
「でも、大丈夫。アスカのことは……」
「私が」「僕が」
『守るから』
エントリープラグのモニター越しに、二人の目があった。
《シンジ君、アスカ。二人とも、準備はいいわね?》
発令所が慌ただしい。第十四使徒が第三新東京市上空まで接近してきた証拠だ。
《ダメです。やはり通常兵器では歯が立ちません》
《構わず続けろ。奴がここに到達するまでに、少しでも多くの戦闘パターンの解析が必要だ》
冬月副司令の号令の直後、ジオフロント全体が大きく揺れ、ネルフ本部から五メートル先の天井部分に穴が開いた。
《十八層の特殊装甲を一撃とは、恐れ入るわね……》
崩落する天板部を抜けて、第十四使徒ーゼルエルがジオフロントに侵入した。
「気をつけて、アスカ」
とんがり帽子のネルフ本部前方に、初号機と弐号機は陣取っている。
形状は大きく異なるがーゼルエルの脅威を知るシンジは、無意識に唾を呑み込んだ。おそらく、こちらの世界でも奴こそが最強の使徒のはずだ。
「ふざけた顔して悠々自適にまっすぐ向かってくるなんて、ムカつくわね」
弐号機はパレットライフルの発展型ーロングバレルタイプのパワードエイトを構えると、ゼルエル目掛けて引き金を絞った。
発射間隔のごく短いレールガンの速射は、いかにパワードエイトがパレットライフルよりも一回り大きい大型電磁砲だとしても、この距離ではゼルエルのATフィールドを撃ち抜くには至らない。
弾丸が分厚いフィールドに弾かれる中、しかし数発はフィールドを貫通して、ゼルエルの左肩部に着弾。ほんの僅かにぐらつかせた。
被弾箇所はすぐに再生したが、アスカは不敵な笑みを浮かべる。
「つきあい悪いってわけでもなさそうね」
情報宮、という技術がある。
搭乗者の思い入れの強い〝何か〟を、エヴァの各武装先端部あるいはグリップエンドに格納することで、それが依代となってATフィールドの展開面積を変形・拡大、機体の防御から攻撃へ転換することが可能になるというオカルトめいた思想兵器だ。この場合の依代とは、例えばそれは、想い人の毛髪や、海岸で日が沈むまでじゃれあいながら集めた石ころなどである。
不確定要素の多さから、赤木リツコ博士は実戦投入に難色を示していたが、ATフィールドが心の壁だというなら、パイロットのメンタリティを強力な兵器に転用することも可能だろうというのが、葛城司令が下した判断だった。
特にこのオプションパックは、今のシンジとアスカとは抜群に相性がいい。
参号機の使徒化を輸送元であるアメリカ支部の責任と断じて、葛城司令はこの情報宮の技術を合衆国から免責の交換条件として受理した。彼女の快活な態度は、碇ゲンドウよりもむしろ情報戦でのネゴシエートに長けている。
その経緯を経て、この一週間、シンジとアスカは防庁部と技術部が急造で用意した格納庫脇の一室で、兵器・弾薬の製造過程を二人で観察する日々を過ごした。そうすることが、よりエヴァの兵装の威力を上げるために有効ということだった。
赤木博士と同じく、アスカは気休め程度だろうと高を括っていたのだか、先ほど放った初手の威力を見る限り、その効果は折り紙付きのようだ。
《戦闘評価、急いで》
《了解!》
《予定通り、初号機と弐号機の波状攻撃でいくわよ。零号機は後方待機。再調整、報告まだか》
命令と伝達が飛び交う発令所が、瞬間静まり返った。オペレーター全員の視線が、メインモニターへ釘付けになる。
空中を浮遊するゼルエルの前面に、幾重にも重なるATフィールドが顕現化されていた。望遠レンズでも肉眼ではっきりと確認できるほど、そのフィールドの数は分厚く映る。
《なんて数だ……》
《決戦だ。やることは変わらん。子供たちに支援なしで戦わせるつもりか、お前たちは⁉︎》
冬月の怒号で、発令所は再び動き始めた。
「来る……アスカ!」
「やるわよ、シンジ」
この世界がどうなるかなんてのは後回しだ。最強だかなんだか知らないが、自分の知らない敵にシンジが慄いているのが癪に触る。
ふと妙なことを考えて、アスカは小さくニヤリと笑った。
この局面を乗り切って、私は今夜もシンジの作った晩御飯を食べるのだ。
《いけるわね、シンジ君、アスカ?》
ゼルエルがゆらりと動きを見せた。
初号機と弐号機が腰を落として迎撃体勢をとる。
ミサトの号令が、戦闘開始の合図となった。
《作戦開始!》