「ディフェンス!」
シンジとアスカは瞬時に前後の密集陣形をとった。
前方に両腕を伸ばした初号機の真後ろから、弐号機も両手を広げる。
依然中空での浮遊を維持するゼルエルの眼前が眩くフラッシュした。瞬間、可視化できない光線がタイムラグなしで初号機と弐号機の展開するATフィールドに直撃した。
「ぐぅッ!」
二機のフィールドを重ねた状態でも、なお強大な圧力に押し込まれる。白い閃光の中、プラグ内が激しく縦に揺れた。
《きゃあッ!》
エヴァのバックシルエットを残して、地鳴りのような衝撃に襲われた発令所内で悲鳴が起こる。
《総員、狼狽えるな!》
エヴァを通してジリジリと指先が焦げるような痛みが走り、パイロット二名とミサトは、ゼルエルの初手を防ぎきったことを確信した。
「ビームなんかじゃ……ッ!」
シンジたちは、危惧していた第一関門を突破した。発令所を真後ろに背負った状況での攻防戦。特殊装甲を易々と融解させる破壊光線は、必達で防御しなければならない一撃だった。そして、連続での使用ができないことは、優秀なオペレーターたちの分析ですでに明らかになっている。
「お先ッ!」
初号機の背後から左側へ弐号機が飛び出す。アスカは先ほど咄嗟に放り投げたパワードエイトを拾い上げながら、ほとんどノーモーションで構え、発砲した。
情報宮に乗せた十二発のライフル弾は通常兵器にもかかわらず、そのひとつひとつが侵食型のATフィールドをまとって飛翔しているに等しい。けたたましい被弾音とともに、アスカの弾丸は一気に二層分のフィールドを突き破った。
アスカの強靭な意志力は、この戦闘の要である。
だが、ゼルエルは意に介した様子など微塵も見せず、前進速度を緩めることなく地表付近まで降りてくる。
《プランBを採用。エヴァ各機の武器輸送は支援に回る初号機を優先して!》
二機のエヴァの武装は、ジオフロント内の各所に自走車両に乗せて配置されている。その全てにシンジとアスカの情報宮が組み込んであるが、問題はその配備数の心許なさだ。
今後の使徒戦で最も有効と思われた初号機のF型装備の受領が間に合わなかった。ステージ2エヴァの装備はパワードエイトと、他はわずかな装備に留まっている。
潤沢な兵装は少なく、敵は強固なATフィールドを重ねて真正面から直進してくる。
やるべきことはシンプルだ。高速戦闘での短期決戦。再生時間を与えずに全てのフィールドを突破して、コアを破壊するしかない。
シンジとアスカがどう立ち回ろうが、数分のうちに決着はつく。
「ガトリング……!」
本部防衛のためにその場に留まったシンジは、後方配置された多砲身440ミリ機関砲を抱え上げ、トリガーを引いた。
重量級の装備は取り回しが悪い。シンジは銃身が焼けつくまで撃ち尽くすつもりだった。
アスカがレフトサイドから回り込むようにパワードエイトの射撃を続ける。超速弾による波状攻撃は、ジオフロント全体を激しく振動させながらゼルエルの三層目のフィールドを中央から左右に瓦解させた。
ゼルエルの前進速度が、わずかに鈍る。だが、発令所も懸念材料を増やしていた。
《フィールドの強度が増しています!》
《残りのフィールドは?》
《五層です!》
「……ッ⁉︎」
アスカが撃ち尽くしたカートリッジを交換しようとしたわずかな時間に、ゼルエルが動いた。両肩のベルトアームが折り紙のようにパタパタと垂れ下がり、瞬く間に鋼鉄を超える硬度をなして二機のエヴァへ同時に襲いかかる。
「速い……!」
直線的な攻撃だが、その速度は尋常ではない。
直感的に生命危機を感じたシンジは、咄嗟にガトリング砲を手放した。直後、鋭利な刃物と化したベルトアームはガトリング砲の砲身を容易くスライスし、爆散させた。
退いたシンジに対して、アスカは迎撃の構えを見せた。
だが、ベルトアームの圧倒的なスピードは、エヴァのインターフェイスの警告アラームとロックオン速度を上回る。
それを、アスカの反応速度が凌駕した。
「遅い!」
弧を描くような前屈姿勢から、左肩パイロンのプログレッシブナイフを抜剣する。リボンが到達するまでのコンマ数秒に、アスカはプログナイフの一撃をあわせた。金属がちぎれ飛ぶような金切り音は、弐号機の頭部ではなくゼルエルのベルトアーム先端が中央から縦に引き裂かれていく過程で発生した。
二股に枝分かれしたリボンの両端は、突撃の勢いそのままにネルフ本部のとんがり帽子上空まで到達する。それほどの威力だった。それをアスカは、片手のナイフのみで受け止めたのだ。
「なめんじゃないわよ!」
放棄したレールガンを再度拾っている余裕はない。プログレッシブナイフに両手を添えて、アスカは前方へダッシュした。
抉れた地面が土煙を立ち上げる。リボンは中央から鮮やかに両断され、弐号機を中心に左右へ開いていく。
初号機のガトリング砲を切り刻んだもう一方のリボンは標的を弐号機に定めて、緩いカーブを描きながら赤いエヴァの背後から襲いかかった。
「アスカッ!」
アスカは右足で急ブレーキをかけると、振り向き様に右肩パイロンからもうひと振りも抜剣し、迫り来るリボンを真上から一太刀で両断する。
その隙に、中央から切り裂いたもう一方のリボンの両端が、蛇のような意志を持って弐号機の左右から迫る。それすらも、アスカは演舞のようなプログナイフの斬撃で斬り刻んだ。
この段階で、アスカは命綱であるアンビリカルケーブルをパージした。
小回りと機動力の確保を優先したアスカのこの判断は正しい。五分間の内部電源に切り替わるが、どのみちゼルエルのフィールドが再生する前にコアへ到達しなければ、勝ち目はないのだ。
《すごい……!》
発令所がどよめく。
ーそうだ。もっとだ! もっと来い!
式波・アスカ・ラングレーの十四年間の戦闘経験。他者を寄せつけない惣流・アスカ・ラングレーのゼルエルを上回る拒絶力。
そしてなによりーシンジが傍にいて、自分だけを見ているという絶対の高揚感。
アスカ・ラングレーのベストコンデションは、ゼルエルの攻撃をまったく寄せつけなかった。
しかし使徒のベルトアームは、間髪を入れずに千切れ飛んだ先端から別のリボンを生成して弐号機を翻弄する。
アドレナリンが分泌する。遅れていた弐号機の反応が徐々にアスカに追いつき、シンクロ率が上昇していく。
一撃喰らえば真っ二つにされる極限状態の中で、全身を包み込むようなこの安心感はなんだ?
ーママ?
擦り傷程度のダメージは、しかしアスカをゼルエルまで後一歩の距離で停滞させた。
「しつっこいッ!」
シンジは、アスカの援護を堪えて前方へ駆け出していた。
ポジトロンライフルによる射撃攻撃はオミットする。光弾によるATフィールドへのダメージは期待値が高いが、Y字型の特殊形状ライフルを装備するためには、左右いずれかのパイロンを捨てなければならない。敵のフィールドの残りは五枚。突破するには、中和も視野に入れて早々に格闘戦へ移行すべきだ。
「この……!」
ポジトロンライフルの代わりに拾い上げたエヴァ専用拳銃を、弐号機へ執拗にまとわりつくベルトアームへ向けて連射する。大型拳銃特有の太く乾いた発砲音を響かせながら、そのうちの数発は分岐を重ねるリボンの内の三本を弾き飛ばした。
「キリがない! アスカ!」
「先行け! バカシンジ!」
初号機もまたアンビリカルケーブルを切り離した。
十五発の薬莢を置き去りにして、初号機は目前に配置された自走車両からカービンタイプのパワードエイドを拾い上げ、構えを取りながら全速力でゼルエルのフィールドへタックルを仕掛けた。接触部分を中心に黄土色のエネルギーが放射状に広がり、シンジの侵入を拒否する。
「一枚はもらっておく!」
シンジの怒りは、気づかないうちに自身の内側で爆発した。アスカだけを切り刻むこの使徒への憎しみと嫉妬。フィールドを中和しながら零距離で撃ち込まれたバレットの雨は、その全てが四枚目の防御壁を突き破っていく。開いた中心部へ右肩パイロンのプログナイフを左手で刺突させ、それをシンジは外方向へ掻っ捌いた。
斬り裂いたのはフィールドにもかかわらず、指先に肉を引きちぎったような生々しい感触が走った。だが、シンジはそれに気を取られている暇はなかった。
ゼルエルの顔面が初号機を真正面に捉え、眼部に光を走らせたからである。
「やられるッ⁉︎」
発光の直後、レフトサイドから発生したゼルエルとは別の絶対防御の拒絶の壁ーアスカが右手でなぎ飛ばした弐号機のATフィールドが、弐号機自身の周囲にまとわりついていた無数のベルトアームごと不可視の光線をジオフロントの壁面まで弾き飛ばした。
「私のシンジに……」突風の如く、衝撃波が走る。
「気安く触れるなあぁぁーッ!」
破壊痕と衝撃がジオフロント外壁に突き刺さる中、アスカは逆手に持ち直した左手のプログナイフを、最大出力の捻転を効かせたバックナックルでゼルエルの五枚目のATフィールドへ叩き込んだ。
フィールドの中心に亀裂が走り、ここまで酷使された弐号機のナイフの刀刃が砕け散る。さらに弐号機の左肩から放たれた七発のニードルガンの追撃で、その亀裂の広がりは決定的なものになった。
アスカの気迫に、ゼルエルは初めて怯えたようにわずかに後退した。
「ミサトッ!」
《ペネトレーター、てぇッ!》
本部後方から、放射状のドライブラインを描いて円筒形の砲弾が飛翔した。アメリカ支部から一発だけ受領した虎の子の指向性N2弾は、超高速で錐揉み状に回転しながらアスカが穿ったフィールドの中央部に着弾、貫通した。
「アスカッ!」
「シンジッ!」
名前を呼び合うだけで、意思疎通は叶った。二機のエヴァは左右に二歩、散開して身を屈める。
『フィールド!』
《対閃光! 対ショック姿勢ッ!》
ミサトの怒号と共に、二次反応を起こしたN2弾は超爆発を起こした。
「……!」
ゼルエルの強固な拒絶壁に阻まれ、爆裂な衝撃だけをジオフロントに響かせ、初号機の傍らのパワードエイトまで誘爆させながら、N2弾は前後のATフィールドを破壊するに至った。
残りのフィールドは二層。エヴァの内部電源のリミットは弐号機の方が若干少なく、まだ三分十二秒を残しているが、二機のエヴァの有効な残兵器はどちらもプログナイフのみである。
「うああぁぁぁーッ!」
「こんちくしょおおぉぉぉーッ!」
散開して助走距離を得た初号機と弐号機は、同時に中段で得物を構え、同時に大地を蹴ってゼルエルへ突貫した。
激突の瞬間、ゼルエルの残り二層のフィールドが重なり、融合して分厚いひとつの盾を形成する。
「こいつッ!」
「なまいきッ!」
ギャリギャリと火花のようなビジョンが飛び散り、ゼルエルのフィールドは二機のエヴァのナイフの侵攻を阻害した。手応えのなさから、攻撃が有効打になっていないことをシンジとアスカは悟る。
《! 下から反応⁉︎》
無駄な破壊を一切行わず、地面から強烈な勢いで二本のベルトアームが生えた。N2弾の爆風を隠れ蓑に、ゼルエルが自身の背後からリボンを地面へ潜伏させていたことに誰も気がつかなかった。
戦闘経験の差が、アスカとシンジの対応を分けた。
尋常ではない反射速度で身を捩ったアスカは、弐号機の脇腹にリボンを掠らせるに留めたが、頭上にかかげる形になったプログレッブシナイフを両断されてしまった。
左斜め後方下部の死角から襲われたシンジには、対処する術がなかった。ただ、フィールド越しに見えるゼルエルのベルトアームの違和感から致命的な〝何か〟が間に合わないことに気づいたシンジは、本能的に機体を外側に逃しながら、左肩パイロンのウエポンラックを開いた。
刹那ー。
初号機の左腕は根元から切断された。
「! がッ! あぁッ!」
神経接続のカットすら間に合わず、シンジは意識がねじ切れそうなほどの激痛に、実際に自身の左腕が真下から切り落とされたのだと錯覚した。
それでも叫び声を上げなかったのには、意味がある。
「シンジッ!」
エントリープラグの全天周囲モニターが、初号機の肩から噴出した血でどろりと赤く染まる。咄嗟に初号機を庇おうとした弐号機の眼前に、上空から二本のリボンが垂直落下し、壁のように地面へ突き刺さった。
「この……!」
善悪を知らない子供のように、ゼルエルが無邪気に笑った気がした。
「まだだ! アスカッ!」
モニターにシンジの表情が映る。
「……ッ!」
視線を交わすだけで、二人の意思疎通は叶った。
足元に転がっている切断された初号機の左腕ー開いたウエポンラックから〝シンジのプログレッシブナイフ〟を、アスカは掴んだ。
「死ね……!」
引き抜き様に振り返り、アスカは憤怒の斬撃を横一線に薙ぎ払う。
ふざけるな。
シンジを傷つけていいのは、この世界で唯一、私だけだ!
エヴァと情報宮が、ATフィールドを媒介に想いを力に変換できるというのなら、この一撃こそがその証左だった。二層を重ねた分厚いフィールドは、補助兵器であるはずのプログナイフの赤と青の不可思議な発光を見せる一閃で、紙切れのように真一文字に千切れて消える。
エヴァとゼルエルを阻む壁はついになくなった。
「どおぉりゃああぁぁぁーッ!」
時間はない。アスカが突貫する。
ゼルエルの胸部コアを表皮のようなシールドカバーが覆い隠したが、弐号機はそれを易々と十字に斬り裂いた。
弐号機が腹部に深く構えたプログナイフを突き出す。コアに接触する直前、なおも極小のATフィールドが顕現化し、突進の勢いをわずかに阻んだ。
「このおぉぉーッ!」
フィールドごと押し込むように、ナイフの先端がコアに接触する。プログナイフが散らした火花は、悲鳴のような不快な不協和音を撒き散らす。
ゼルエルのコアに、ほんのわずかな亀裂が生じた。
それでもなお、ナイフは内側に沈み込まない。残った小さなATフィールドが邪魔をして、プログナイフでは決定打にならないのだ。
ー硬い……ッ!
二本のベルトアームが弐号機に狙いを定める。
「ばぁーか……!」
瞬間、アスカはニヤリと笑った。
「シンジッ!」
「アスカッ!」
アスカは弐号機を百八十度反転させ、ゼルエルの右脚部目掛けてプログレッシブナイフを振り下ろした。刃はゼルエルの脚部を深く貫通し、大地にその体を固定する。ゼルエルは初めて浮遊状態から地面へ引き摺り下ろされた。
ほぼ同じタイミングで、初号機は残った右手のナイフで左右のベルトアームを素早く叩き斬ると、返す刃でゼルエルの頭部を真下から突き上げた。喉元からナイフは深々と沈み込み、シンジはそのままゼルエルの顔面をギリギリと上空へ押し上げる。片腕を失った激痛と、アスカに加勢できなかった自分の情けなさに、シンジは苦悶の表情を浮かべた。
「レイッ!」
「綾波ッ!」
発令所を有するとんがり帽子の後方、突貫で設置された鋼鉄製の高台の上で、零号機が極大射程のガンマ線レーザー砲を構える。
《うちは人材が豊富なのよ。殴り合いも撃ち合いも受けて立つわ》
最大の課題は、ゼルエルの多重ATフィールドによる絶対防御を突破することにあった。可能なら、そのまま近接戦闘によるコアの破壊。それが困難な場合、ミドルレンジからの超火力によるコアの狙撃。
二段構えの攻略作戦。
「任務、了解」
零号機のコックピットで、綾波レイが歯を食いしばる。
アスカとシンジが時間を稼いでいる間に、エヴァの身長を超える砲身の最大チャージはすでに済んでいた。先に撃ち込んだN2弾ーエヴァパイロット三名の頭髪を媒介させた情報宮の弾頭は、二枚のフィールドを消失させる効果を見せた。そしてこのガンマ線レーザーには、アスカにもらった石をお守り代わりに格納してもらったのだ。
本来は無限に等しいS2機関の出力利用を想定した、広域制圧用の兵器である。稼働させるために出力を大幅に抑えてあるとはいえ、プロトタイプのレーザー砲はリミッターの制御に問題があり、レーザーガン内部で飽和したエネルギーがロックオンの照準を激しくぶれさせた。
「く……!」
少しでも初号機と弐号機に被弾すれば、致命傷になりかねない。
暴走しようとする操縦桿を、レイは血が滲むほどの力で握り締めた。
「お願い、言うことを聞いて……!」
二人を助けたいー。
レーザー砲ではなく、おそらくはアスカの石が、レイの望みに応えた。
センターのゼルエルに照準が重なり、ロックオンが完了する。
「いま……!」
初号機に抑えられているゼルエルの頭部がわずかに動き、暗く窪んだ右眼が遥か遠方の零号機を捉えて眼前に光の束を発生させた。
「マズい……ッ!」
シンジが叫び、レイはトリガーを引いた。
決着は、コンマ数秒の差だった。
ゼルエルのコアのみを撃ち抜くというレイの願いは、情報宮を経てガンマ線を極小のペンシルレーザーへと変化させた。凝縮された原子核は発射の瞬間に膨大なエネルギーを生み、超重量の銃身を跳ね上げ、滑るように零号機を後退させた。
光速化したレーザーは稲妻のような爆裂音を中空へ置き去りにした。ゼルエルのコアの中心点を突き抜け、遥か後方の大地に着弾する。ゼルエルの可視化できないビームは、コアを撃ち抜かれた影響で零号機をわずかに逸れた。
それらは全て一秒以内の出来事であり、だからガンマ線レーザーの爆炎と、コアを破壊されたゼルエルの十字痕による消失と、ゼルエルの放った光線が零号機後方のジオフロント外壁を焼き払ったのは、ほとんど同時に起こったのである。
《やった……!》
外壁破壊の振動で揺れる発令所内で、歓声と安堵のため息が巻き起こる。さしもの葛城司令と冬月副司令も胸を撫で下ろした。
「シンジッ!」
吹き飛ばされた弐号機のエントリープラグから飛び出したアスカは、逆サイドに転がった初号機の元へ全速力で駆けた。
初号機の背面部からエントリープラグを強制射出させ、コックピットハッチのハンドルを回して手動でこじ開ける。
「無事⁉︎ シンジッ!」
シンジは座席の中央でぐったりとした様子で横たわっていたが、意識はあった。苦悶の表情で額に大量の汗を浮かべながら、それでもアスカにやさしく笑いかける。
「怪我はない、アスカ?」
「バカ! 私の心配なんかどうだっていい!」
「僕も大丈夫……アスカの顔見れたから、元気になったよ」
アスカの瞳に、涙が溢れた。
「ホントに、もう……バカぁ」
アスカがシンジに飛びつく様子をモニター越しに見ながら、レイは無意識に長く止めていた息を吐き出した。
ーねじ込めた……。
冷たい汗が頬を伝う。失敗への恐怖と、それを乗り越えたことへの安堵がレイの胸中へ同時に去来した。
《いい痛い痛いっ! アスカ、左腕はまだ触らないでっ!》
《だーめ。それじゃ抱きつけないでしょ?》
戯れ合うシンジとアスカに、レイは目を細めながら小さな笑みを送った。
「あなたたちは、誰……?」