【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告 作:新川翔
夜、ニューヨーク。煌びやかな街灯、広告たち。そして全身に浴びる冷たい風。
そしてうずくまる俺。
「二日酔い?」
セーターやコートを着たウリエルは、俺の隣にぴたりと座って様態を確認してきた。
「ああ、今まで酒飲んだことあまりなかったから、その、限界が分からなかった」
「そう。どんまい。大丈夫?薬飲む?」
俺たちはタイムズスクエアのとあるビルの屋上で、体育座りをしている。
「そっち行ったら飲む。だいじょうぶ」
「そう、寒いね。コーヒー飲もうか」
「ああ」
互いに買ったコーヒーを飲んで少しでも体温を上げる。
「それでさ」
「ん?」
「どうしてこんな高いところに陣取ったの?」
マイケルのいる世界のニューヨークは丁度冬で、ヒリつくような寒さだ。
「一応、力のこととかあるからさ。人目に着かない方がいいかなって。それに、物価高いし、この世界のアメリカ……」
「それは、世知辛いね……」
「世知辛いよ……」
「お金。持ってるんだ」
「まぁね。多くはないけど」
「へー、って待って。それってこの世界のお金?」
「いや違うな。でもお金自体は本物だぞ」
「え?」
俺の言葉を聞いたウリエルは、こちらを見て固まっている。
「いやほら、肖像画や偽造対策も同じヤツを使ってるぞ」
「なん…だって…」
「……まずいこと。したみたいだな」
彼女の表情から俺の行ったことの重大性を知った。
「私はナニモ聞いてない」
「そうだな。俺はなにもしていない」
「「………」」
それから静かな時間が流れていく。
マイケルは両親と話しているだろうし、帰ってくるまでもう少し時間はかかるだろう。
「……今までどんな感じで生きてきたの?」
「研究所にあるものをよく使ってた。ベッドとか食料とか、服も残っているものはそこから取って使ってた。後は別の世界で日銭を稼いだり、狩りをしたこともあったな」
「なるほど。……理事会には温かい食事とか、生活に必要なものは揃ってるよ」
「……ははは、ありがとう。存分に使わせてもらうよ」
「……そだね」
「そういえばさ、そっちでお金用意できる?」
「できるよ」
「やっぱ寒い。どっかで休もう。」
「だよね」
俺たちは結局理事会の支援でカフェに入り、そこでマイケルを待つ。
その後、マイケルが両親の家で寝ることになったので、ホテルで俺たちの部屋を一つずつ取り、明日に向けて休むことにした。
そして、朝を迎える。もう傷は全快している。いつも通りのポテンシャルを発揮できるだろう。そのため、朝の時点で包帯は取ってしまった。
サイコルから貰ったピアスを着け、朝食とチェックアウトを終えるとすぐに、『多次元宇宙安全保障理事会』のある世界に移動した。
「こほん。言っておくね。ようこそ私の職場である『多次元宇宙安全保障理事会』へ」
俺の目の前には、高さ1000メートルは超えるビルがそびえ立っている。
どうやらここはエントランス前の広場らしい。
突然出てきた俺たちに驚いて、周囲の人々は距離を取りながらこちらを伺っている。
「まずかったかな」
「ここにいる人々は事情を説明すればいいのでオッケー。さぁ、中にれっつごー」
彼女の案内に従いエントランスに向かっていく。
「やっぱり、地球よりは発展しているな」
マイケルは目の前の文明の発達度合いに感動していた。
「そうだな。形成してきた文化は…地球とはあまり変わらないタイプだな。あ、そうだ。ウリエル。司令室に行くんだろ?直で飛んだ方が良いか?」
「警報が鳴っちゃうからだめ。そのためにセキュリティシステム切るわけにもいかないし」
「そ、それもそうだな」
自動ドアが開き、ロビーに入る。
エントランスには多種多様な生物がいた。人間型の者や、手や足が複数ある者、不定形の者など、全てが同じ志を持つ同士なのだろうか。
「それではエレベーターで最上階まで向かいます」
俺たちはウリエルに案内されるままに歩いていく。
「すげぇな」
「どうだ?CIAと比べて」
マイケルの感動の余韻はまだ続いているようだ。
「ま、それはアレだな。あー。あれでって、言えるわけないだろ。そんなこと」
「それもそっか。すまん」
「ジョークじゃないのか?マジだったのか?」
「あ、エレベーター来てる。運良い」
ウリエルはそんな言葉を交わす俺たちを放ってエレベーターのボタンを押し中に入る。
「ちょっと待ってぇー」
扉を閉めようとすると、一人のふんわりとした雰囲気を持つウェーブのかかったロングの女性が駆けてきた。
「ごめんなさい。えっとね。確か、42階っと…よし、ここね」
するりとエレベーターに入り彼女の目的の階を指定すると、その様子を見ているウリエルに気づいたようだ。
「ウリエルちゃん。お帰り。ってことは…そちらがあの二人?」
「どうもです。ラファエルさん。そうですねあの二人です」
「マイケルですよろしく」
「クロノです」
「どーも。はじめましてー。マイケル君。確かにミカエル因子が体と紐づいてる。不思議ねー」
「ミカエル因子?なんですかそれ?」
マイケルが聞きなれぬ単語に疑問を持ったようだ。
「ラファエルさん、一応、言っちゃダメなやつです。まだ」
「え、ほんと!?ごめんなさい。忘れてね」
ウリエルが忠告すると、ラファエルははっとして慌て始めた。
「あー……はい。忘れますよ。ははは」
俺は背後にあるガラスを通してこの世界の一片を知ることにした。
このビルの周囲一帯は荒野であり、一本だけ道路が通っているのが見えているだけだ。しかし、目を凝らしてみると、その道路の先の地平線には、摩天楼などの建造と人の営みが見えた。恐らく、このビルが危険だから物理的に距離を置いているのだろう。
「え、見えてるの?」
「望遠機能とかあるから。いやヒトっぽい粒が動いてるな。くらいだよ」
「え、便利だね!」
ウリエルの質問に答えているとラファエルが急にこちらへと関心を寄せてきた。
「すごいな。どこに何がいるとか分かるか?」
さらにマイケルもそれに乗っかる。
それほど気になることだろうか。
「そこまでは分からないな。でもアレだな。完全自動運転は実現してるな」
目を凝らして彼らの生活がどんなものかを調べていく。
「ま、そのくらい。いってるか。アメリカでも実現しそうだったしな」
全自動運転の話をしているとエレベーターは42階に到着した。
「私はここで、じゃぁね。また会おう!少年少女たち!なんちゃって」
彼女はそう言ってエレベーターから出ていった。
「自分の世界を持っている人だな」
マイケルは扉が閉まってエレベーターが上昇していくのを確認してから、先ほどの女性について語った。
「そうだね。でもいい人だよ」
「ま、悪い人じゃないだろうな」
その後、俺たちはゆっくり壁に寄りかかったりして適当に雑談を交わし到着を待つことにした。
少しして、エレベーターが到着し扉が開くと、目の前に背丈の高い金髪の男が左手を腰に当てて立っていた。その左目は金髪で隠れている。
「よう、お前らと同郷ということで案内人を仰せつかった。アレクサンドル・アルベールだ。よろしくな。司令が部屋で待っている。付いて来い」
彼はそれだけ言って振り返り、ずかずかと奥へと進んでいく。どうやら案内しているつもりらしい。
改めて見回すと、この階層には廊下が真っ直ぐ伸びており、その先に自動ドアだけがあることが分かった。
「あの、案内役なんて、聞いてないです」
ウリエルは先に進む彼の隣まで駆け足で移動して問い詰める。
「俺が今さっき直訴したからな。司令から許可を頂いた」
「マジすか」
俺とマイケルも先に走っていった彼らに、駆け足で追いつく。
「どこ出身だ?俺はアメリカ」
「フランスだ。君は?」
「俺は日本だ」
「そうか。やはり同郷だな。それでは色々話を聞きたいところだが、そんな時間はなさそうだ」
俺たちは赤いカーペットの敷かれた廊下をまっすぐ歩いていく。
ふかふかすぎて足音がほとんど出ていない。
「さて、この扉の先が理事長のいる部屋だ。入るといい」
扉の前に立ち止まると、彼の強引な案内は終了した。
「何がともあれ、後は105階のカフェテリアに来い。そこでゆっくり話そう。それではな」
そう彼は言い残してエレベーターの方へ去っていった。
「もしかしたら行けないかもしれないからなー!」
マイケルが大きな声で念のために忠告しておいてくれた。
そして、俺たちは何だったんだろう、と思いながら一呼吸入れる。
一呼吸入れたのを、ウリエルが確認すると、彼女は扉の隣にあるパネルに手を当てて扉を開いた。
「こんにちは。はは、元気―?入ってー!」
奥から、明るい印象を与えようとする男性の声が聞こえる。
司令室に入ると、奥に広い長方形の部屋は椅子だけが鎮座しており、そこに黒髪で軍人のような目つきのガタイの良い男が座っている。服装はなぜかセーターにジーパンのようなものだ。
(これ、畏まらなくていい感じ?)
(うん。いい感じ)
「「元気でーす」」
「元気だ」
俺たちに遅れてマイケルが返事をする。
「初めまして。私の名前はカバナキだ。親しみを込めてカバさんとでも呼んでくれ。今日来てくれてありがとう。余興とか挟まずに結論を言おう」
急に、部屋の雰囲気が一段と重くなった。これは彼の放つ威圧感からだ。
「あんたらが一体どこの何者なのか。今日はそれが知りたい」
殺意だろうか。こんなものは初めてだ。捕食者の殺意ではない。処刑人の殺意でもない。超然的な存在が命の値踏みをしているかのような。迫力だ。
(こわ)
(素でこれだから、慣れて)
「まず、マイケル。その鎧の力。見せてくれるか?」
「構いませんよ?」
彼は俺たちと少し距離を取ってから、全身に鎧をまとった、
「それは俺たちの死んだ仲間、ミカエルの力『バスター・ミカエル』だ。まずはどうして我々が君を警戒しているのか、その辺について説明するぞ」
俺たちの足元が光り出す。
どうやらこの部屋の床はモニターになっているらしい。
「まず、この世界における『天使』とは、『天使の因子』を持つ者のことをいう。我々はその因子を個人から個人へと引き継ぎ、幾千もの世界の平和を守ってきた。しかし、7年前ミカエルが死んでしまった際に異変が起きた。ミカエルの因子が行方不明となってしまったんだ」
モニターには図式でその天使の因子について説明されている。
「まず、因子が行方不明になること。それ自体があり得ない。因子には、我々がマーキングを施してある。つまり、とある者がマーキングを外した上で略奪。そして君に埋め込んだことになる」
「失礼します。気になる点について、質問してもよろしいですか?俺のことですので。知る権利はあるはずだ」
「分かった。なんでも答えよう」
「因子がコピーされたって可能性は?」
「考えにくいな。この世界でも因子の複製は試みられたがどれも失敗している。ついでにマーキングの取り外しもな」
「『にくい』とはどういうことですか」
「断言ができない。故にこんな表現になった。確かに、犯人が我々より因子についての知識が深いのなら、複製ができる可能性がある。だが、天使の因子はこの世界が原産の力だ。そのノウハウはこの世界が一番有している。そして、その蓄積された知識は、複製は不可だという。だがそれでも、ミカエルの因子はあずかり知らぬところで、マイケルの中にある。何が起きたのかこちらでも分からない。今、『天使の因子』の前提が崩壊している状態だ。だからこそ、警戒し、調べたいと思っているんだ」
「なるほど理解しました。協力はするつもりです。ただ一つ条件が」
「それは?」
「もし、俺の安全が保障されれば、ここで働かせてください」
「……なんだ。その程度か!分かった!その条件は飲もう!こちらも人材不足甚だしいからな!」
彼の声の調子は入室した時のような元気なものになった。
「ガブリエル!」
俺たちの背後から眼鏡をかけた長身の男が部屋に入ってくる。
「なんでしょうか?」
「彼を156階の研究室へ。全ての機器を使い、彼を調べ上げろ」
「かしこまりました。来るんだ。マイケル」
「ラジャー。じゃあ俺は先上がっても?」
「ああ、そうだな。ばいばーい」
「それじゃあ、後で」
ガブリエルという男はマイケルを連れて退室した。
「さって、次はクロノの方だ。君の方が難易度は低い。だからリラックスしてもらって構わないよ。…さて、てめぇは何者だ?」
また、先ほどの威圧感が俺を襲う。
特に恐れることはなく、俺自身の過去から現在までをかいつまんで話した。
「なるほど。まぁ、それはウリエルの報告通りだね。でもまぁ、このレベルで世界渡りを実現させる奴がいるとはな……」
「私たちが観測している範囲でも多くの宇宙がありますからね」
「そうだな。想定していなかった訳じゃない。それでまぁ、ゆっくりと手前の話を聞きこちらの技術を向上させたいところなんだが、問題があってな」
彼は申し訳なさそうに語り掛ける。
「今うちの研究班は全員マイケルにつきっきりだ。俺がそう指示した。こちらとしては『天使の因子』の調査の方が重要だからな。つまり、今、お前を調べることが出来ない。だから、内の研究員が手を開けるまでとある世界を救ってほしい」
足元の液晶にその世界の情報が映し出される。
砂漠の観光国『ラガス』。文明のタイプは地球に近いタイプだ。
オアシスを中心に3つの観光都市があり、それぞれに独自の文化が形成されているようだ。それぞれの都市は中心にある大きなホテルが運営しているらしい。そして、それらを見守るラガスの行政施設はオアシスの近くに建てられており、オアシスとそれぞれの都市はモノレールで繋がっている。また、それぞれの都市はホテルの名前を取っているらしい。
そして、厄災情報の欄には人間による超都市級厄災と記されている。
「いつ頃までですか?」
「すぐ終わるさ。一週間もかかることはないだろう。だから、元の仕事は邪魔しない」
「それで出発はいつですか?」
「明日、出立してもらうつもりだけど...」
「…いえ、今すぐ行きます」
「なるほど、どうしてだ?」
「俺は人を助けるために生きています。なら少しでも早く赴いてその厄災と対峙したい」
「よし分かった!ウリエル。案内頼んだ」
「了解。クロノ、ついてきて」
「もち…あ」
トントン拍子に物事が決まったその時に、フランス人のことを思い出した。
「どうした?」
「アレクサンドルが105階に来いって言ってましたね…」
「ああ…僕の部下から言っておく」
「何してるのかナぁ?随分と楽しそうだネぇ」
105階のカフェテリアにて新入りの地球人を待つアレクサンドルに、腰まで伸びる長い緑髪と蛇のような目を持つ女性の天使が話しかけた。
「ああ、少し同郷の奴らと食事ができるそうなんでな」
「たラん。なんと、伝言」
「なに?」
彼は今、何が起きているのか、伝言という言葉だけで理解したようだ。
一週間もかからないそうです。
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