【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告   作:新川翔

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World-2 砂上三大娯楽都市 怪像事件
一日目 春風と夕暮れ


 多次元宇宙安全保障理事会を有するビルの地下5階。

 その階層は別世界に飛び立つための空港の役割を持っているという。

 また、この階層だけは非常に大きく作られていて、天井までは40メートルほどある。

 そこに何個も世界の移動に必要な装置が揃っている。俺が眺めているのは別の宇宙を観測する装置だ。俺のいた研究所では『望遠鏡』と呼んでいた。これがマイケルの元居た世界の検索を大きく助けてくれた。

 

「昨日はありがとうございました」

 

「いやいや、こちらこそってヤツだ。お前の観測も参考になったからな」

 

「それにしてもこの望遠鏡、すごい性能ですね。見る範囲も、検索機能も俺より上だ」

 

「いいだろ。俺の大事な我が子みたいなものだからな」

 

 俺は別の宇宙を観測する装置の管理を担当する身だしなみを整えていない男性と、準備が整うまで談笑していた。

 

「どうやってそんな小型化しているんだ?見るからに、心臓らへんに全部詰まってるだろ?流石に運ぶものに制限はありそうだが……」

 

「小型化に関しては分かりません。俺、技術者じゃないんで。それで制限についてなんですが、それは全くその通りで、なんでも移動できるわけじゃないですよ。一度に運べる大きさには制限があります」

 

「そうか。じゃあ次は移動の過程についてだ。教えてくれ」

 

 俺はいつか話すことだろうし、もったいぶる必要もないと考え話すことにした。

 

「やっていることはこの世界の技術と変わりませんね。この設備はこの世界と別の世界を繋ぐことしかできませんよね。俺も『俺の世界』っていう場所と別の世界を繋ぐ力しかないんです。だから、別世界同士をつなげる穴は生成できません」

 

「へー。なるほど。じゃあ、俺たちの技術の延長線上にお前がいるってことでいいのか?」

 

「そこまでは分からないです。繰り返すようですけど、俺は技術者じゃないので」

 

「ああ、そういえばそうだったな」

 

「あ、いたクロノ君!はいこれ」

 

 白衣を着た女性メガネの研究員が、半ズボンと白いTシャツを持ってきた。

 

「え、どうしてですか?」

 

「ほら、あっち熱いから。45度くらいらしいよ。エレベーターらへんに更衣室あるから行ってらっしゃい。その後は移動装置へ集合」

 

「そうですか。了解です。着替えてきます」

 

 俺は提供された衣服に着替え終えてから、別の世界へ移動する装置の前に集まった。

 俺の目の前には20機の輪っか型の装置が横に広がっている。サイズは直径3メートル程で、それぞれ大型のコンピューターに繋がっている。さらに、奥にはもう一つ15メートルほどの同じような装置がある。これらの輪の中に世界を移動する穴を出現させるシステムだろう。

 

 俺とウリエルはそのうちの一つの前で、準備が完了するまで待機していた。

 

「そういえば、移動ごとに着替えるやつ、あれはなんだ?」

 

「それは因子の方の能力。環境適応みたいな」

 

「すごいな。便利」

 

「でしょ?潜伏もできるし。見惚れるな、よ」

 

「なんで、かっこつけてるの?」

 

「うそー、しんらつ」

 

「おい、バカ共、先遣隊の資料だ。必ず目を通せ」

 

 そこに俺と先ほど話していた男性が、タブレットを手渡してきた。

 そのタブレットには俺たちが向かう世界の情報が記されている。

 

「どうも……ウリエル、見る?」

 

「見る見る、見せて」

 

 彼女と同じ向きに立ち、資料を見せた。

 その資料によると、今回の厄災は人間、さらに殺人犯であると予測されているようだ。

 まずこの件は、理事会の厄災予測システムにより、都市に厄災が出現することを検知したことから始まった。

 理事会は先遣隊を派遣し、現地の人間とのコミュニケーションを開始。そこで、調査の中で奇怪な連続殺人事件が起きていることが分かった。先遣隊はその事件と厄災に関係があると判断したらしい。さらに、その資料には『連続殺人事件についての詳細』と『まずはバースというホテルの支配人と接触すべし』という旨が記載されている。

 

「理事会には先遣隊もいるんだな。いいな」

 

「その人たちが事前にコンタクトを取ってくれてるから、仕事はスムーズにできると思う」

 

「なるほど。それじゃあ、安心だ」

 

 なんだか、気分が軽い。

 やはり、仲間というものはいると安心できる。

 これからは行く先々で怪しまれることも少ないだろうし、何より後押ししてくれる人々が、生きている。これほど嬉しいことはない。

 話がトントン拍子に進んでいるのも、俺がそういったものを求めていたからなのかもしれない。

 

「準備できました!飛ばします!座標はバースの路地裏。一旦、大通りに出てから、ホテルロビーの受付で話を通して!」

 

 先ほど俺に服を渡した女性研究者がコンピューターをいじりながら声を上げる。

 

「行くぞ。ウリエル」

 

「もち」

 

 俺たちの目の前の装置の輪に穴が開いた。

 その中に躊躇うことなく、春風のような足取りで飛び込んでいく。

 いつものような移動の感覚の中、希望が胸に灯っているような、晴れやかな感覚で次の世界にたどり着いた。

 

 

 

 

 一日目

 

 

 

 本当に暑い場所というものは、空気そのものが暑い。

 肌に触れる日光、口から吸う空気、地面から照り返す熱気、それら全てが暑い。

朦朧とさせられる意識では、そんなことくらいしか感じさせてくれない。

 

「熱いな」

 

「熱いね」

 

 路地裏から出て大通りで日差しを浴びると、暑さは一層俺たちの意識を奪っている。

 彼女はこの世界に着いた時点で、襟付きTシャツとハーフパンツに着替えていた。

 

「ほんと、便利だな。着替える力」

 

 とある国でたまたまタブーの服を着ていた時は、命の危険を感じたものだ。

 

「そうでしょ」

 

 すぐにホテル『バース』まで移動して、俺がフロントに要件を話した。

 

「すいません。理事会です。支配人とお話したいんですが」

 

「はい。かしまりました。少々お待ちください」

 

 俺たちは奥から出てきた副支配人を名乗る男に案内され、ホテルの裏口から一度出て、ひどい暑さを感じながら、小さな劇場に移動した。彼によるとステージにて支配人が待っているらしい。

 大きな防音扉を開けた先には、ステージは開演前のような暖かい光に包まれている。

 そこには『スーツを着た強面の男』と『ドレスを着た鋭い目を持つ少女』と『質の良さそうなTシャツを着た老婆』がそれぞれ離れた場所に三角形を作るように座っている。

 

「来たな。君たちが理事会の本隊か」

 

 一番舞台に近い場所にいるスーツの男が、俺たちの方へ声をかける。

 

「はい。支配人のジョーさんですね。はじめましてウリエルです。こちらはクロノ」

 

「ああ、とりあえず、どこか適当な場所に座るといい」

 

 俺たちは少し迷った末に、三角形の中央に座ることにした。

 

「それではこちらの紹介だ。俺はこの都市、及びホテルバースの支配人であるジョーだ。灰次」

 

「はぁい。ホテル『ベルラージ』の支配人アウマだよ」

 

「ホテル『キャルバー』のロンス」

 

 老婆、少女の順番で自己紹介をした。

 

「人払いは済ませてある。別に何を語っても構わんさ。それでは事件について、現時点で分かること共有しておこう」

 

「まずこの事件は1ヵ月前から起きている連続殺人事件だ。最初は週一だったが、ペースはより速くなり今は三日に一度のペースになっている。被害者は7人。死因は毒殺、刺殺、絞殺、銃殺等々バラバラだ。ただ、これらの殺人の共通点は三つ。一つ目はどれもホテルの関係者でそれなりの地位にいる人間であること。二つ目はどれも遺体が作品のように改造されていたということだ。そして最後は指紋やカメラの証拠に残っていないってことだな」

 

「ありがとうございます。私たちが到着するまでに何か進展はありましたか?」

 

「犠牲者が一人増えた。俺の傘下ホテルの料理長だ」

 

 俺の問いにはジョーが答える。

 

「私から言えることはないよ。さっきジョー坊やが言ってくれたからね」

 

「ホテル『キャルバー』もアウマさんと同じ」

 

 続いてアウマ、ロンスの順番に答えた。

 

「警察は?政府の見解も教えていただけますか?」

 

 今度はウリエルが彼らに問う。

 

「協力してもらっている。全面的にな。その資料も主に政府がまとめたものだ。借りられる手は借りたいと考えたかからこそ、君たちに協力を要請した。我々はこの事件を非常に重く見ている。この国は観光特化の国だからな。顧客が寄り付かなくなると、国家の安泰に大きくかかわる。だからこそ一刻も早く解決して欲しい」

 

「ありがとうございます。それでは容疑者の絞り込みは出来ているんですか?」

 

「出来てはいるよ。犯人は私たちの都市にいるギャングだ。あ、私たちとは無関係だよ」

 

「違う。『ラルページ』関係者だ」

 

「俺は、分からん。恐らく、ただの単独愉快犯のクソバカ野郎だ」

 

 ウリエルの問いにアウマ、ロンス、ジョーの順でそれぞれが違う答えを言った。

 

「この事件、ラルページ以外に被害者が出ていない。つまり、この件で損失を被っていないのはラルページだけ。だからこそ、私は犯人がラルページ関係者であると結論付けた」

 

「それは『浅い』よ。ロンス嬢ちゃん。もしそんなことをしたら真っ先に私が疑われちゃうじゃないか。ラルページ周辺で事件が起きていないのは警備が充実しているからだ。そちらはあまり収益を上げていないそうだからね。そんなんだからこんな事件も起きてしまうんだ」

 

「ここで収益マウントをとるなババア、それに頭に血が上りすぎだガキ!」

 

「あァ?頭に血が上っているのは「ぴーーーーー」

 

 ガキと呼ばれたロンスが声を荒げ、議論が白熱し始めたその時、サイレンのような音が劇場に響き渡り、俺の鼓膜を刺激した。

 

「待て!馬鹿野郎ども。静粛にしろ。劇が始まる」

 

「「「「は?」」」」

 

 周囲を制止したジョー以外が困惑する中、壇上では手足が長く色素が薄い男による一人芝居が始まった。

 

(ウリエル、これ退出とかできないよな)

 

(どんな意図があるか分かんない。今は様子をみよう)

 

 内容は、簡潔に言うと亡国の王子が仲間に裏切られようとも自身の国を興すというものだった。上映は45分程で終了し、俺たち以外の人間も誰も退出することはなかった。

 

「さて、理事会のウリエルとクロノだったな。どうだった今のは?」

 

「どうだったって…役者に素質を感じました。表現力がピカイチでした。特に主人公が裏切られて悲しみに暮れるシーンは良かったです」

 

「私は、良かったな、としか。で、どうしてこれを見せたんですか?」

 

 俺は言われるがまま感想を言ってしまったので、ウリエルがその意図まで追求してくれたのはありがたい。

 

「意図は後ほど述べよう。そして、ウリエル。そのタンパクな感想だが、それでいい。むしろ、そこの男がまともな評論を述べられたことが驚きだ。我々が披露するのは一般人だ。その一般人の評価が『よかった』であるということはこれ以上ない賛辞だ。さて、お二方はどうだったかな?」

 

 その誘導に、まずはアウマが反応した。

 

「内容としては古典の再解釈。ま、ありふれたテーマだね。まぁ、ここで求められるのはどう再解釈をするかだけど…私としては好きじゃないね。解釈の仕方に品がない。どんな作品にも、その作品に応じて必要な品がある。この古典は古くから伝わる上品な作品だ。その改変は品がない。だから私の評価は低いね。でも、そこのクロノ坊やが言った通り表現したいものは伝わってくる。精進するんだよ」

 

 彼女の講評が終わると次はイライラしているロンスに注目が集まる。

 

「…私も言うの?」

 

 ため息を一つ吐いてから彼女は評価を語り始めた。

 

「はぁ、私としては可もなく不可もなく。古典の再解釈なんてぶっちゃけ、投げてみなきゃわかんないし、そこの評価は担当プロデューサーに投げる。それ以外のことなら……かぶるのが癪だけどその表現力。そこは評価したい。そこの男はほっそくてなっがい手足を個性として認識し生かしている。その個性は尊重すべきこと。ぶっちゃけ個性を重要視するウチに欲しいくらい」

 

「だそうだ。お前、なんか掴んだな!確か、飲み込みは良いもんな!クビは回避できそうか?」

 

 ジョーは壇上の役者に向かって言った。

 

「は、はい!ありがとうございます!最近、良いことあったんです!でも、ロンスさん。すいません。ここでキャリアを積みたいんです」

 

「ハァ⁉なーんで、こんなところで振られなきゃいけないの⁉そんなことよりさっき人払いしたって言ってたよね。ジョー!」

 

「あぁ、まぁ言ったが。撤回する」

 

 ロンスの追及をジョーはあっさり受け入れた。

 

「ど阿呆!この状況使ってひいきを評価させたの?」

 

「ひいき?それは心外だ。それを言うなら、俺は俺の従業員全員をひいきにしている。こいつは、たまたまここで公演をかます予定だった、ただのバカだ」

 

「そんなことはどうでもいいんだよ。どうしてジョー坊はこんなことをしたんだい?」

 

「あー、それはな」

 

 年長者の催促により、彼はようやく、その意図を話す気になったようだ。

 

「発表していなかったがこの古典。昨日の事件のオブジェの元ネタだ。俺の見立てだが、オブジェはこの地域の古典を元にして制作されている。今日の元ネタは公開していない情報でな。そして観客の様子はさっきからカメラでREC中だ。さて、誰がどう動揺したのかな?」

 

「は!下らな!流石にキレた。帰る!」

 

 ロンスは怒り心頭になって、がつがつと足音を立てながら劇場から出ていった。

 

「ジョー坊。私も帰るよ。探偵ごっこがしたいのなら、向いていないからもうやめなさい」

 

 彼女は杖を突きながらゆっくりと防音扉の方へ歩いていく。

 俺とウリエルがその扉を開けるとありがとうね、と言った上で、ジョーに忠告を残した。

 

「この手の仕込みはどんな人間でも動揺するものさ。坊やが欲しいのは適当な建前かい?」

 

 防音扉が閉まると、ジョーは何も気にしていないようなそぶりで口を開いた。

 

「さて今日はお開きだ。自由に捜査してくれ。全ての都市に話はついてる。理事会の名前をだせばどこでも協力してくれるはずだ。明日の朝、また俺たちと作戦会議をしよう」

 

 

 

 

 

 

「ウリエル。これは犯人捜しだな」

 

 劇場を出た俺たちは、ジョーが用意したスイートルームで休憩していた。

 

「そうだね。どうする?理事会本部から嘘発見器持ってくる?でも、予約埋まってるだろうし」

 

「そうだな。考える前に、少し休憩しよう」

 

(というのは嘘だ。サイコルを呼ぶ。彼女は嘘以外の感情も読める。彼女の協力は発見器よりも心強いはずだ)

 

 俺はソファに寝そべりながらテレパシーを行う。

 

(あっち、忙しそうだし断る可能性あるけど、大丈夫なの?)

 

(そこは心配無用だ。でも、負担は軽減させたいから犯人の候補は絞ろう。今日は調査だ。15分後にここを出よう)

 

 

 

 

そうして、日は沈み、昇った。

おはようございます、

昨晩の被害者は1名です。





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