【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告   作:新川翔

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三日目 役者

 三日目

 

「どういうこと、なんですか⁉」

 

 早朝に彼から電話を受けた俺は、支配人の言葉を受けて声を荒げていた。

 

「さぁな!どうやら、『実際に殺したバカ』と『死体をいじくったバカ』は別人のようだ!アウマ婆さんによると、実際に人殺しを指示した証拠は出た。実際に殺していたのはマフィアだ。それで間違いはない。問題はどいつもこいつも、死体損壊に関しては知らないってぬかしやがる!つまり、今回の犯罪は『死体をいじくったバカ』がやりやがったってことだ!」

 

(それで、どうする?犯人候補があまりにも広すぎる。サイコルの力で総当たりで絞り込むって言っても簡単に逃げられるぞ。サイコルの力を効率的に使うために、俺はどうすればいい?)

 

 そう考えていると、ウリエルが横からちょんちょんと俺の肩をつつく。

 

「証拠は出たどうか聞いてみて」

 

 俺は深呼吸をして落ち着いてから彼女の助言に従うことにした。

 今は情報を少しでも多く収集して候補を絞り込むしかない。

 

「すいません。何か証拠は出ませんでしたか」

 

「出なかった。しかも現場は今までと似てる部分が多い。恐らくプロどもの犯行を真似してるな」

 

「重ねてお願いが、俺、現場に行ってもいいですか?」

 

「ああ、キャリバーの駐車場の2階だ。目立つなよ」

 

 すぐに俺は穴を開けて彼女共に現場に向かった。

 出る場所は駐車場近くの人目のない場所。

 誰にも見られていないことを確認してから、野次馬の集まる目的地へと移動する。

 

「ん?」

 

 ログテさんが見えた、ような気がする。

 

「すいません。理事会です。現場を見せていただけませんか?」

 

 現場に着くと警官に中に入れてもらい、その遺体の様子を見る。

 

「ああ、どうぞ」

 

 どうやらご遺体は鉄骨に磔にされているようだ。

 

「理事会さんですね。昨日はありがとうございます。本事件を担当しているライです」

 

「どうも、俺はクロノ・ノーデンスです。こちらはウリエル」

 

「マフィア根絶はこちらの願いでもありました。この恩は忘れません。こちらも協力は惜しまないつもりです。今から犯人の絞り込みを行います。」

 

「どういう風に?」

 

 彼の絞り込みという言葉に俺の興味は強く惹かれた。それは今俺がやるべきことだ。

 

「モノレールの運用状況と、都市間を移動した車の利用状況を使います。モノレールを利用するにはICチップの入ったカードが必要です。もし全ての犯罪でこんなバカげたコトやった人間が同一犯かつ、マフィアでないのなら、時間での絞り込みが可能です。マフィア共は偽造のカードや観光客が捨てていったカードを使っているので、この手は使えませんが、もし相手が一般人なら使える」

 

「その…偽造のICカードの入手難度はどれくらいですか?」

 

「かなり高いです。あれはベルラージの経営クリーン化以降はほとんど出ていません。マフィア共は自身たちの行動に必要ですから、一般市民に売ることもほとんどない。売ったにしても超高額です。この方法は有効なはずだ」

 

「そうですね。それでは、お願いします」

 

「もう少しでリストが完成します。少しお待ちを…できました」

 

 二人で差し出された資料を見る。そこには1か月の間に犯罪現場となったタイミングでその都市にいた者がリストアップされていた。そのリストにいるのは合計8名。

 その中にログデの名前があった。

 

 嫌な予感がする。

 まだ、揃っているのは状況証拠だけだ。彼は

・全ての犯罪が起きたタイミングで該当する都市にいて

・最近何か変化があったようなことを仄めかし

・昨日、血糊や臓物の演出について話し合った。

 それだけだ。

 

 そう根拠を並べていくうちに自分の考えが馬鹿げていること自覚する。

 

「いやもう、最後のはもう、言いがかりじゃないか」

 

 小声でそんな独り言が漏れてしまう。

 

「かなり絞れましたね。それではこの8人をこちらに連れてきます」

 

「いや、」

 

 刑事を呼び止める。

 そうだ。動じるな。俺がすべきことを思い出せ。

 

「一人。ここの近くにいました。どこに連れていきましょうか?」

 

 

 

 

 

 日は沈み、都市の活気が盛り始めている。

 俺とウリエル、サイコル、刑事、及び3都市の支配人、そして容疑者の8人はホテル『バース』の大会議室に集まっていた。北側のみに設置されている窓には外の煌びやかなイルミネーションが映っている。

 

「さて、サイコルだったね。この中にそもそも犯人がいるのか。そして犯人がいるのか。教えてくれ」

 

 ジョーさんは長机に一列に座っている容疑者の前に立つ。サイコルに対して犯人の特定を始めた。

 

「はーい。それでは、この中に死体を損壊した方いますかー?していない方は手を挙げてくださーい」

 

 彼女の質問に8人全員が手を挙げる。

 

「なるほどね」

 

 すると、彼女はゆっくりとログデを指さした。

 つまり、ログデが死体損壊の犯人だ。

 彼が北側の窓に逃げ出そうとしたその瞬間、俺の腕だけ移動させて彼の腕を掴んだ。すぐに腕の穴を体全体に通して、奴の背後に回って力任せに机に叩きつける。

 

 その様子を見たサイコルは讃えるように拍手をしていた。

 そうだ。間違っていない。

 俺が優先すべきことは、『人々を救うこと』だ。そのために、危険性のある人間が犯人だったというだけで、動揺し取り逃すことはあってはならない。

 俺の使命には迷って仕損じることなど、何があってもあってはならないことなのだ。

 

「確保。刑事さん。捕まえてください」

 

「クロノさ「黙って」」

 

 今は彼に一言も発させない。それが、正しい選択だ。

 

「ばく「あ?」

 

 バリン、と背後の窓が割れる。

 振り向くとそこには、ドローンに取り付けられた爆発物らしきも───

 視認した瞬間に穴を出してそれを俺の世界に飛ばす。しかし、その気が逸れた一瞬で拘束を解かれ、奴は俺の拘束を抜け出してドローンが突き破った窓から外へ飛び出した。

 躊躇うことなく。こちらもすぐに走り出す。

 

「能力許可!」

 

 走り出す俺に、ジョーさんはそう叫んでいた。どうやら能力を使用してもいいらしい。それだけ理解して、窓から燦燦ときらめくイルミネーションの世界へ飛び込んでいく。

 溢れるのは人の笑顔、町の歓声。観光地らしい笑顔の溢れた景色。それは俺が守るべき光景だ。

 

(いたな。手首からワイヤーのようなものが出てる。それで逃げるつもりだろうがノロい)

 

 すぐに穴を出現させて奴の肩を掴んでから、もう一度元居た会議室に戻り、今度は奴を床に叩きつけて、背中を右膝で抑える。

 

「どうしてだよ!やっと、やっと掴めたのに!」

 

「だからもう、喋るなよ…」

 

「この感覚があるから!オレは!オレで!」

 

 脳裏にバチバチと、あの光景が蘇る。

 燃え盛る赤い炎。黒い灰。赤い血。黒い煙。

 拙い視界。悲しい笑顔。憎い笑顔。熱い空気。冷たい世界。

 

「それが、殺しをしていい理由には、ならないんだよ」

 

 感情を抑えて言葉を漏らす。まだ、俺は怒っていない。こんなことで起こっていたらこの先が思いやられてしまう。感情に身を任せるな。これは、怒りじゃない。怒りじゃない。冷静になれ。そもそも、俺が怒る理由もないだろう。

 

「いや、普通に怒ってるよ」

 

 サイコルは俺の耳元で事実を淡々と囁く。

 

「……だよな」

 

 彼女の言葉により、俺自身への理解が追いついてきた。

 

「クロノ、失礼。どいてくれ」

 

 彼女の言葉を噛み締めていると、刑事が手錠を持ちながらこちらまで来ていた。

 

「ああ、よろしくお願いします」

 

 俺はゆっくりと拘束するのを交代して、刑事にログデを引き渡す。

 

「20時3分。逮捕」

 

「ちょっと別室いい?」

 

 刑事が手錠をかけている様子を立って見ていると、今度はウリエルが俺の隣から小声で話しかけてきた。

 

「ああ、そうだな」

 

「あ、私も行くー」

 

 どうやらサイコルはついてくるらしい。特に嫌だとは思わない。むしろ、今は感情を冷静に分析してくれる彼女は必要不可欠だ。

 

「ジョーさん、ちょっと失礼します」

 

「ああ、別にいいさ。後は任せろ」

 

 隣の小さな会議室に移動する。

 俺は入り口の近くにある席に座り、サイコルはその右隣に座る。

 

「はい。これより、『救世主講座』を始めます。」

 

「いえーい」

 

 ウリエルは俺の左隣に座って、俺に講義を始めた。

 サイコルは俺の隣で拍手している。

 

「もう犯人は特定されたからこれ以上は彼らに任せよ。それで、これからするのは、これからのクロノ・ノーデンスのこれからの人生のためには重要な話」

 

「だろうな。うん。それは分かる」

 

「サイコルさん。今のクロノの感情は?」

 

「ぐちゃぐちゃ、だね。でも、さっきは感覚ですべきことが実行できたのはいいね」

 

 さっきのというのは、ログデを捕まえた時のことだろう。

 

「で、クロノはどういう風に考えてる?」

 

 何とか理解した感情を言葉へと具体化する。

 

「ああ、ログデが犯人だったこと。ショックって言うほど、いやショックなんだが。どっちなのか、俺自身には分からない。それよりも俺は奴に怒るべきなんだっていうか……。殺人は俺が最も忌み嫌っているモノなんだ。でも、絆されたって訳じゃ…」

 

「絆されてるよ。多少、だけどね」

 

「…そうか。そうなんだな」

 

 サイコルが言うからにはそうなのだろう。淡々と告げられる事実が、ツーっと俺の心に沁み込んでいく。

 

「これからの人生、こんなこと。いや、これ以上に酷いことはザルに起きる。だからこそ、極端なことに走る特使は多い。ここで、スタンスを決めるべき」

 

 そうだ。俺のやろうとしていることは怪物退治ではない。いや、そんな案件もあるだろう。でも、そうじゃない可能性だって十分にある。倒すべき敵が、俺と親しくなった者であることなんて想像にできることだろう。

 

「選ぶべき選択肢は二つ。一つはどんな世界をも救うか。二つ目は簡単な怪物退治だけを請け負うか。どちらが良い悪いじゃない。ただの方針決定だから、それに後からこの方針は変えれらる。それでも、自分がどう世界を救いたいのか。それは言語化しておくべき」

 

 俺に託されたこと。

 

「そうだな……。俺は人を助けたい。その願いを託された。その願いが俺の原動力だ。俺は前者で生きたい。そのためにも、線引きをしておこう。それならいける。でも壊れる可能性がないわけじゃない。もし、俺がそうなったとしたら、アレで殺してくれ」

 

 きっと、そのためにあの乗っ取る機能があるのだろう。

 そうだ。役を被ればいい。そうすれば心情的な距離は取れるはずだ。それに俺の判断も揺るがなくなる。

 

『人を救え、そのためにお前は生まれてきた』

 

 この言葉にふさわしい役を演じよう。特段、難しいことではない。俺の(タチ)を大きく変えるものでもない。俺は理想の俺を演じればいい。

 

「もちろん。そのつもり」

 

「え、物騒」

 

 暴走した者に何があるのか察知したサイコルは少しだけ驚いていた。

 すると、コンコンとドアを叩く音がした。

 

「どうぞー」

 

 ジョーさんが戸を開けて入ってくる。

 

「ん、今良いか?」

 

「いいですよ」

 

 俺が答えると、彼は俺たちに対して踵を揃える。

 

「もう面と向かって話すことはなさそうだからな」

 

「ありがとう」

 

 彼は俺たちの目を言って礼を言った。

 

「……はい!」

 

 その言葉はどうしても嬉しいという感情が芽生えてくる。

 何故ならあの言葉の通りに人を助けているからだ。

 

 

 

 

 

 そうして、また一日過ぎる。

 

 

 

 

 四日目

 恐ろしい夜は訪れず、被害者も出なかった。

また、自宅にて犯行に使われた凶器が見つかったらしい。調べによると、彼の動機は『死体損壊によって良いインスピレーションが得られる』からだそうだ。

 超都市級厄災の反応が鎮静状態となったことを確認した俺たちは、サイコルを元の世界に戻してから、理事会のある世界に戻ることにした。

 

「さて、おかえり。素晴らしい成果だったよ」

 

 そして、報告のために司令室まで戻って来た。

 司令は会った時の和やかな様子で俺たちを歓迎していた。

 

「もしかしなくても、試されましたか?俺」

 

 この仕事を終えてみて、ふと浮かんだことを問うてみる。

 

「試したってより、『見分けた』だな。お前がどんな心情でどんな行動を起こすのかをこちらの制御下で見たかったんだ。もし、絆されるタイプなら……そこはウリエルから聞いてるか。それよりも次の仕事だな。残り約一ヵ月、どう過ごすつもりだ?」

 

「まず、明日。あの世界に戻ります」




一人残った理事長「彼、あの作戦に参加できるかもしれないな」





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