【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告 作:新川翔
登壇要請
トレーニング終えてカフェテリアのある階に到着すると、マイケルとアレクサンドルがいたので話しかけることにした。
「おはよう」
「お早う」
「おはよう。どうだ調子は?」
俺が挨拶すると、アレクサンドル、マイケルの順番で返してきた。
アレクサンドルの目の前の皿は空だ。恐らく既に食べ終わっているのだろう。対してマイケルの目の前には卵や
「快調、といった感じだな。
「そりゃそうだが…。やっぱりお前、傷直るの早いよな。ほら、俺が検査しようってなった日に別の世界行ってたんだろ?」
「まぁな。そこは俺の体質によるものだからな」
「体質?どういうことだ?」
そういえばアレクサンドルは、俺が作りものであることを知らない人間だった。
「ああ、アレクサンドルには言ってなかったな。彼、人造人間なんだ」
特に隠すことではないので彼に告げてみた。すると彼はぶっきらぼうな表情は崩さず、それでいて驚いたのか眉をひそめていた。
「……ほう?何号だ?」
「何号って…5号だけど」
彼はひそめた眉を戻し、元の真顔になった。
「ジョークじゃなさそうだな。これまた、珍しい」
「そっちの地球でも人造人間って珍しいか?」
「珍しい、というか聞かないな。別にお前を嫌う訳ではないが、そもそも、宗教的にアウトだ」
「そういえばそうだな。というか、やっぱりそっちもキリスト教あるんだ」
「やはり、そちらの地球にもキリスト教はあるのか」
「あるある。進化や文化の醸成は環境に適応することで起きるものだ。地球と同じような環境の星があったら、同じような文化が生まれるよ」
これは俺が様々な世界を旅してきたことによる経験則だ。細かい違いさえあれど、意外と共通点がある文明は多い。
「そういうモノなのか。納得は出来るか…。ああ、そう。朝食はこのタブレットから注文するといい。ロボットが配膳する」
彼が俺にタブレットを手渡してきた。それを受け取り、画面をタップしてみると、料理のメニューが表示された。色とりどりの様々な文化の料理が俺を迎え入れた。
「そうだ。みそ汁とかあったぞ。確か日本食セットだよな?」
「マジか。いいな。…よし頼んでみるよ。ありがとう。日本食ってことは俺の他にも日本人いるんだな」
マイケルの言う通り、定食の欄の中に日本食のセットがあった。
「シェフの一人が日本人だ。凄腕の料理人だよ」
「なんか、地球人多くないか?俺の気のせいか?」
アレクサンドルの言葉を受けてマイケルが疑問を口にした。
「地球って人口多いからな。その分多く採用されているんじゃないか?ちょっと待って、ウリエルに聞いてみる」
(おはよう、ウリエル。ここって地球出身多い?)
(ん……?んん………)
テレパシーで彼女に会話すると、うめき声が返って来た。この瞬間に俺は今の時刻がこういったことに適さないことに気が付いた。
(あ、ごめん。忘れてくれ)
「寝てたな。というか勢い任せて不味いことしちゃったよ…」
意外と人間味がある、と思った。確か、天使の名前を冠しているとはいっても、司令の言い方からすると、本当は因子を受け継いだ一般人だ。睡眠が必要なのは当たり前のことだ。
俺は朝5時30分にそんなことを考えながらメニューを日本食セットに決定した。
「お前たち、朝早いな。これからどうするんだ?」
「俺は検査の続きだそうだ。しかも一日中らしいんで、そっちには同行できない。よろしく言っておいてくれ」
「俺は…あれだ。とある厄災の調査だな。内容は秘密だ」
マイケルとアレクサンドル、それぞれが今日の予定を告げる。当たり前のことではあるが、彼らにもやるべきことがあるようだ。
「そうか、まぁ、お互いに頑張ろうか」
朝食を終えてから数時間後、俺たちは合流してからすぐに、ファーモットの城の軍務卿の執務室に向かった。彼はどうやら五カ国会議に向けての軍備を行っているらしい。そのため俺の考えていた提案は彼にすべきだと考えていた。執務室に入ると、彼は眉間にしわを寄せながら書類とにらめっこをしていた。また、傷は完治したらしく目立った外傷は見えない。この国の治療魔法技術の賜物だと言えるだろう。
「国のごたごたに関しては何とかなりそうだが、問題は戦争だな。戦力が足りん。ただ、まだ時間はある。それよりもこの日に来た、ということは何かあるんだな。言ってみろ」
「それは───」
そしてそのさらに数時間後、約束の時間より少し早めに議場に到着した。
広い議場の床は一面大理石のタイルでできており、その中央にポツンと二つの椅子が一つの机を挟んで置かれており、その互いの椅子の後ろの数メートル離れた場所に5つの椅子が二列並んでいる。ウリエルは部屋に入るとすぐに、理事会から持ち出した厄災レーダーと呼ばれる1mの黒い筒状の装置を、部屋の隅に設置し起動のための作業を始めた。
厄災レーダーとはその名通りその世界にある厄災を探し出す装置だ。彼女の持っている腕時計よりも範囲、精度が非常に高くなっているそうだ。これでここから北西の厄災について調べるそうだ。
「お、来たね。昨日ぶり。クロノ、ウリエルちゃん」
俺たちの次にこの部屋に入ったのはサイコルだった。
「こんにちは。早いですね」
「そ、れ、は、君が来るからだよ」
サイコルはこちらに指をさし、それをくるくる回している。何故かウリエルは俺の方をジトっとした目で見ていた。
「おや、来ていましたか」
そこにダウナーな声が聞こえる。これはキャプラの声だ。
「こんにちは」
「どーも。内務卿」
彼女が部屋に入って来たので挨拶したら、サイコルがニコニコしながらキャプラをからかい始めた。
「はぁ。内務卿じゃないぞ。というか、その席に着くつもりはない」
「貴方が内務卿になったわけじゃないんですね」
俺は彼女がその席に着いていないことに少々驚いていた。サイコルの方は興味がなさそうだが、勝手なことではあるが、彼女はこの国の実権を握るつもりなのではないかと考えていたからだ。
「恥ずかしながら、保障局の仕事で手一杯ですから。私が無理に内務卿になる必要はありません。なので、現在は内務卿の席は空席にしたまま、内務卿の仕事を手伝っていた者にその仕事を一任しています。取り敢えず、五カ国会談まではこの体制で運営するつもりです」
「大変ですね。頑張って」
「お言葉だけでも嬉しいです。そちらこそ様々な世界で活動をしているとか。……正直、想像しにくいことですが、応援しています」
「ありがとうございます。まずは五カ国会議に向けて、万全を期しましょう」
「そうですね」
「そういえば、竜神の身柄はもう引き渡しましたか?」
「ああ、はい既に。貴方がこの世界で最初に到着した場所を襲った双頭のドラゴンと身柄を交換しました」
「そう、ですか。いや、奴に用があって」
「クロノ!北から厄災の反応が!」
その時、厄災レーダーという装置を設置し終えたウリエルが大声をあげて緊急事態を伝えてきた。
あの時。感じた殺気が肌に突き刺さる。あの時のような純然たる破壊衝動。
「サイコル、竜神が来てるらしい。暴力を封じる結界でどうにかなるのか?」
「あちゃ、無理だね。この結界は結界の中にいる人に効果を発揮するものだし。それに城下町全体への結界も、今すぐっていうのは無理だね」
「奴は仲間のドラゴンに竜神と呼ばれていました。この会談に来ること自体は不自然ではありません。しかし、スピードが速すぎる。念のため。厳戒態勢で行きます」
「了解。ウリエル!援護頼む。アイツはこの先に必要なピースだ」
「万里に続く 黒蛇の鎖」
念のため、キャプラが詠唱を始めている。対して、俺はすぐに4つの穴を開けた。行く先は勿論、城下町のはずれ、竜神の飛行ルートの直線上。
地に足を着けてから、チックタックロットを剣型に変形させる。俺の隣にはキャプラ、ウリエル、サイコルが立っている。
視線の先、ゴマ粒のような大きさでもあの衝動は感じられる。
───奴が来る。
いつの間にか、特別処刑人と軍務卿もこの場所に集まっていた。処刑人の腕はもうもとに戻っており、その右手には新たな腕輪をしている。
あの時と同じ音速の赤い尾を引く弾丸は、刀のような武器を携え、俺たちの目の前に轟音と共に着弾した。
「クロノ!殺す!」
あの時と同じような殺害宣言。その言葉にはあの時以上の殺気が込められている。
「その言葉は、安くないぞ」
俺は剣を構えて叫ぶ竜神に言葉を返す。
「いや、そうではなかったな」
すると奴は、何事もないかのように、その仰々しい翼から赤い煙を吐くのをやめて、
「僕は竜神だ。優先順位の高いものからすべきなんだ。話し合いの場まで案内してくれ」
奴はずんずんと城内へと歩みを進めていく。
「意外と、聞き分けがあるんだな」
俺の言葉により、俺と一触即発の間合いとなるとその場で立ち止まる。
「俺は竜神だ。そのくらいの知能は持ち合わせている。その程度も分からぬのならここで殺す」
「待て待て。先ず、ルチというドラゴンを待つ。会談をするのは彼じゃないのか?それとも貴様は彼の名代か?」
そこに今回の会議の応接を担当するキャプラが割って入って来た。
「ルチか。爺さんは少ししたらここに到着するだろう」
「なら、そこで待て。お前たち二体は行動を共にしてもらう」
「…そうか、仕方がないな」
すると、老齢のドラゴンが急いで地面に降り立って来た。
「ハァ───、手厚い歓迎、感謝する。それでは議場に向かおうか」
彼は息を整えてから社交辞令のような言葉を発した。
こうして俺たちは城下町の大通りを通って、城内にある議場へ向かった。
事前に出していた避難警報により人通りはほとんどない。
(クロノ、今いい?)
石畳を、ルチと竜神を囲みながら歩いていると、テレパシーを通したウリエルの声が聞こえてきた。
(どうした?)
(今、厄災レーダーの詳しい検査結果が出た。特に北西の反応がやばい)
その声色は明らかに焦っているものだ。
(そんなに?)
(うん。今回の敵、北西の厄災は『超大陸級厄災』。タイプは生物型。活性状態。文字通り大陸を破壊するレベルの脅威)
怯える理由はない。しかも、相手がそれほど強大であることを把握できたのは、ある意味僥倖かもしれない。もし、それだけ強いのであれば、俺が上回る準備をすれば良いだけだ。
だが、この情報は受け取り方によっては、ただ不安を煽るものになる可能性がある。すぐに報告するのは悪手だ。
(下手に共有したら士気を下げそうだな。黙っておこう。北の方は?)
(北の方は超国家級。これも要注意。災害の形は…こっちも生物みたい。休眠状態)
(そういえば、南の方は?変わらない?)
(うん。屈服状態で変わらず、厄災の規模は超国家級。とだけ。怪物型だね)
ふと俺はサイコルがこちらを見ていることに気が付いた。彼女の感情を読む魔法の前ではテレパシーでさえも筒抜けだ。俺の視線に気づいた彼女はにやりと笑いながらジロジロとこちらを見ている。
(言わない感じでいい?)
今度はテレパシーではなく気持ちを込めて笑顔を返した。すると彼女はウインクして答えた。
(大丈夫、かな)
より敵がはっきりしてきたところで俺はすべきことを強く再認識する。強大な敵には強大な力が必要だ。使える手だったらなんでも使う。
どうしても竜神の力が欲しい。
サイコル(私も頑張らないとね)
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