【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告   作:新川翔

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交渉開始

「武力の貸与だが、そこの竜神を借り受ける」

 

 契約書を掲げながら言い放った俺の提案が、暴力禁止の結界が覆う議場に響く。他の者たちにとっては特に驚くべきことではなかったようだ。ここにいる人間とドラゴンたちは、ファーモットが戦力を欲していることを分かっていた。だからこそ、ドラゴンたちの中で最も戦闘能力が高そうな竜神を欲しがることは至極まっとうなことだ。

 なお、ドラゴンたちは既に姿を変えており、翼も消すことでほぼ人間のような姿になっている。

 

「断る」

 

 それを竜神は冷酷に、短く答えた。

 

「どうしてだ?」

 

「明解なことだ。理由がない。契約内容は武力の貸与だろう?必ずしも、僕がここに力を貸すっていう内容じゃない。僕は竜神だ。里を守る義務がある」

 

 だが、今はどうしても戦力が欲しい。俺はこの時点でこいつを乗らせる理由を用意しなければならない。他の者たちは俺の様子を見守るように眺めている・

 

「そういえば、お前。俺と殺し合いたがってたな?」

 

 理由なら一つ、即興で用意できる。

 

「何故、そう思った?」

 

「お前、さっきも殺害予告してきたじゃねぇか。俺を殺すことにこだわっているんだろ」

 

「…まぁ、そうだな。お前を殺すのも竜神としての務めだ」

 

 やはり奴は俺を殺したがっているようだ。しかも何かとこだわる『竜神』の称号のために。

 

「それで、その務めは果たせるのか?」

 

「……」

 

「無理だろうな。まず、俺は忙しくてな。お前に構っている暇はほとんどない。それに戦うとしてもチームワークでお前を倒す。俺とお前はほぼ互角。そこで俺の方が数的有利を取ったら、どっちが勝つかは明白だな」

 

「何が言いたい」

 

 竜神は質問攻めにされることが癪になったのか、徐々に苛立ち始めていた。

 

「もしお前の力を貸してもらえるのなら、俺が一対一で戦おう。勿論、お前は俺を殺せる。お前は俺を殺すという義務と、里を守る義務、どちらを取る?」

 

 命は捨てるつもりはないが、余すことなく使う。今すべきことは、北西の厄災の討伐のための戦力集めだ。

 

「条件は?どうせ色々と細かく付け加えたいんだろう?ぐちぐちと、みみっちくな」

 

「みみっちく?あぁ、ドラゴンには分からないか。このくらいは当然の責務だ。それも理解できないのか?」

 

 引き込めたことを胸中だけで喜んだ俺は、すぐに契約の条件を告げ始める。

「・期限は契約締結から、終了条件は二つ。次回の五カ国会議の終了。それとファーモットの戦争状態解消まで。この期限の間、お前はファーモットの戦力として戦ってもらう。

・消極的な関与は禁止だ。与えられた役割はしっかりと果たしてもらう。

・そして友軍への故意に危害を加えることも禁止だ。

 この三つが果たされた時、俺たちは誰にも邪魔をされない場所で、二人きりで、戦おう」

 

「ペナルティは?」

 

 随分と話が早いことに問題はない。ただ、この契約は抜け目なくしっかりと結ばなくてはならない。

 

「キャプラ、ペナルティってどこまで指定できるんだ?」

 

 奴の言葉から『ペナルティ』とは、この契約を破った際の罰であると推察した。

 

「特に制限はありません。ただ、互いにとって重ければ重いほど、強制力が増します」

 

 彼女がその罰則について教えてくれた。ならば、賭けるものはただ一つ。

 

「そうか、なら命でいいだろう」

 

 淡々と、無表情で告げた。

 

「乗った。反故するなよ」

 

 竜神はその言葉に即答で契約に乗った。

 

「当たり前だ。それじゃ、署名を」

 

 俺が契約書に名前を書いて手渡すと奴も『ドラガ』と書いてこちらに渡してきた。

 

「そうか。それでは、いくつか聞いておくべきことがある。戦う相手は?」

 

「ワ―サイトだ」

 

 キャプラが答える。するとドラガはチッと舌打ちを打った。

 

「そうか。質問事項が一つ増えたな。僕としてもワ―サイトの脅威は知っている。必要な情報を得た上で、鍛錬のため山に籠るとしよう。それで、本題の質問だが…戦力の状況はどうなっている」

 

「図式としてはワ―サイトvsファーモット、クロノとその仲間、シーオリトンの連合軍だ。西のヘットル、東のウィラノスは無視していい。理由はどうあれ参加しないはずだ。そして、戦力差の話だが、こちらがやや劣勢といったところだ」

 

 ここは軍事を担当している軍務卿が答えた。

 

「そうか。それだけでいい。僕は今すぐに鍛錬に向かう。どこかのタイミングで戻ったほうが良いか?」

 

「五カ国会議の一週間前には戻ってくれ。全体での会議がある」

 

 この質問も軍務卿が答える。

 

「つまり、鍛錬の期間は3週間か。分かった」

 

 それを聞き届けた奴は真顔のまま走って窓を突き破って外に出て、翼を出して豪速で彼方へ飛んで行った。

 

「ハァ───」

 

 その様子を見たルチは一つ深いため息を吐いた。

 

「いや…こちらからは以上だ。それでは失礼する。ああ、送迎は結構」

 

 その後、明らかに疲れたオーラを出している老齢のドラゴンは、怪しいことは何もすることもなく自身の里へと帰っていった。

 

「さて、意外と早く終わったな。良い結果だったな。解散」

 

 会談の相手の二匹が帰ったことを確認した軍務卿は会談を振り返って簡単な解散の合図をした。

 

「俺も修行に戻るぞ」

 

 会談の様子を見守っていたデズトは、それだけ言い残して議場から早足で出ていった。

 

「すごい剣幕だった」

 

 リラックスした雰囲気の中、ウリエルが話しかけてきた。

 そんな心当たりはない。つもりだったが、振り返ってみればかなり汚い言葉遣いだったような気がする。

 

「そう?」

 

「うん、もしかしてクロノ、竜神のこと、かなり嫌い?」

 

「そうだな。アイツは人を殺すことに躊躇がなく、むしろ乗り気だ。別に指折り数えれば良いって訳じゃないけどな」

 

 言葉に出すことで改めて理解する。俺は殺戮を良しとする存在を軽蔑しているらしい。

 

「……飲まれないでね。線引きって話。忘れてないよね」

 

「ああ、忘れてない」

 

 彼女の言う通りで憎しみに飲まれることは危険なことだ。だからこそ、俺自身の感情を客観視すべきだ。

 すぐに感情を切り替えて次にすべきことを考える。

 

「さて!何はともあれ準備だ。この世界で俺ができることはした。後は理事会だ。確か、特使の権利として、武器の使用ができたよな。その武装の一覧を出してくれ」

 

「おっけー。リストアップしとく」

 

「使えるものは全部使おう」

 

「それと、一応援軍として参加できそうな人材を探してみる」

 

「そんなこともできるのか?」

 

「出来るけど、できるというだけ。今回の相手は超大陸級。まさに類を見ない厄災。この作戦に参加できる人員も限られてくる。理事会としての参加者はクロノ、私、マイケルと見たほうが良いよ」

 

「それほど理事会は人員不足なのか?あのビルには結構人がいたと思うが」

 

「強い人はスケジュールがギチギチだから」

 

「そういうことか。ならしょうがない」

 

「どうも…お疲れ様でした」

 

 俺たちができることを考えているとキャプラがこちらに話しかけてきた。

 

「ああ、お疲れ様です」

 

「竜神の件ですが、ご助力、感謝します」

 

「あいつ、思ったより俺との決着を執着していたみたいでしたね。そこを利用できました。それで、彼は竜神という称号にも執着していたようだ。何か知っていますか?」

 

「すいません。分からないですね。ただ、200年に一度その称号を与えられる竜が生まれるとしか」

 

「うん、今こっちで裁判の準備してるダードとかいうドラゴンも、詳しいことは知らないって」

 

 キャプラの提供した情報にサイコルが捕捉をする。

 

「ありがとう」

 

「それで、クロノさん。この後の予定は?どうですか。早めの昼食でも」

 

 突然、キャプラがランチに誘ってきた。

 

「構いませんよ?」

 

 急な誘いだが、特に断る理由もないため乗ることにした。

 

「え、もしかして、ナンパかな?」

 

 すると、目を輝かせたサイコルが俺たちの間に割って入る。

 

「冗談はよせ。彼はいわば恩人の一人だ。恩人に礼を尽くすのは、何も変なことじゃない」

 

(なんか、モテるね、最近。私と会う前からこんな感じだった?)

 

 さらにウリエルがテレパシーを介してこちらに話しかけてきた。

 

(いや、そんなことはなかったかな。前は交流することも少なかったし、それでウリエルも来るか?)

 

「私もご一緒してもいいですか?」

 

 彼女はテレパシーを使わずに、参加意思を表明した。

 

 その表情は、やれやれとでも言いたげなものだった。

 

 

 

 

 

 食堂に案内されて、8メートルほどの長いテーブルの席に座って料理を待つ。

 

「隣、失礼します」

 

 左隣にキャプラが座るとそのさらに左隣にサイコルが座った。対してウリエルは俺の右隣に座っている。長机に密集して座っているからか、なんだか落ち着かない。静かに待っていると、キャプラの指示があり、侍女の方々が料理を運んでくる。

 

(パン、ばっかり)

 

 運び込まれてくる料理を見て、そう考えてしまった。トースト、普通のパンのようなもの、サンドイッチらもの。ただ量自体は俺とウリエルの二人で食べきれそうだ。

 

「サイコルからパンが好きだと聞いたので。そういった…パンやそれを使った料理を集めてみました」

 

 サイコルは、誇らしげなキャプラの表情を見てにこやかに笑っている。

 

「ありがたくいただきます。ああ、食べきれなかったら、持ち帰ってもいいですか?」

 

(朝、和食で良かった)

 

 などと考えながら目の前のご馳走に手を出し始める。

 

「はい。勿論です。籠はもう用意しているので、好きなタイミングで言ってください」

 

 サンドイッチは頬張り、パンはちぎって食べて、ちぎって食べてを繰り返す。

 

「ん───お、美味しいです」

 

「本当ですか。それは良かった」

 

 ここでパンの食べ比べをしてみて分かったことがある。意外と世の中のパンの種類は豊富だということだ。クリームパンだとかあんパンということではなく、生地の味が違う。酸味のあるパンは初めて食べた。もしかしたら元居た地球にもあるのかもしれないが、俺のとっては初めてだ。

 

「そうでしょう。そういったモノには詳しいので。ああ、これに合ったお茶もありますけど、一杯どうですか?」

 

「ああ、いただきます…それと、このパン、美味しいですね」

 

 すると彼女は急に照れて頬を赤らめ始める。

 

「それは…私が作ったものです。母のレシピを参考にして。それを喜んでもらえるならこの上なく嬉しい…です」

 

 彼女は不器用に笑顔を作りながら答えてくれた。その笑顔は気高さを残しながらも眩しいものだった

 

(この人。良い人。暖かすぎて、感動してきた)

 

(私も……)

 

 テレパシーでウリエルと暖かさを共有する。

 

 このまま談笑するのもきっと心地の良いことなのだろうが、俺としても仕入れておきたい情報がある。

 

「あの……急にすいません。ドラゴンについて色々教えてもらえませんか?」

 

 ドラガというドラゴンもいずれ対峙する可能性もある。この世界の一般的な情報くらいは掴んでおきたい。

 

「構いませんが……それではまずは基本的な知識から。ドラゴンとは古来からこの大陸に住んでいるとされる生き物です。一般的には大きな体躯を持ち、空を飛ぶことが出来る。また、魔法も色々と使えるようです。そして、多くの個体は、ここの北にある山脈に住処を作っています。食料は他の生物全てで、魔法などがなければこの世界の頂点に立っていたであろう存在です」

 

 なるほど、ここは俺の知っているドラゴンとは変わらない。それでは、俺の知らない部分について聞いてみることにしよう。

 

「それで、ドラゴンたちが人間の姿になれる理由、分かりますか?」

 

「……さぁ、それはこちらでも分かりかねます。変身できるドラゴンは数が少なく、その肉体についてはあまり分かっていないので」

 

「そうですか。それでは竜神の持っているあの片刃の武器について、何か知っていますか?」

 

「それも、知りません。あの武器は初めて見ました」

 

 刀に関してはこの食べているパン同様、たまたま同じ文化が醸成されたことで説明できる。これ以上情報が出ないとしても構わない。

 

「そ、その…お恥ずかしいことなのですが…」

 

「はい⁉」

 

 サイコルが照れながら言葉を紡ぎ始める。

 

「この後、落ち着いたら少し運動しませんか」

 

 それでも、誠意を込めて真剣に告げる彼女を見て、サイコルは笑いを堪えられない様子だった。

 

 

 

 

 場所は中庭そこに立つのは俺とキャプラ。

 互いに戦闘態勢を取っている。

 

「お時間いただき、ありがとうございます。少々負けず嫌いの気がありまして」

 

「そうですか。構いませんよ。さぁ、始めましょう」

 

 彼女の運動とは、再戦のことを指していたのだ。

 





クロノ「彼女、天然なとこあるな」 

サイコル「そこがいいんだよね!」

クロノ「わぁ!びっくりした!」
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