【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告 作:新川翔
「どうぞ、俺の故郷へ」
「失礼します」
ウリエルは俺の案内により俺の故郷の地球に足を踏み入れた。既に日は沈んでおり、辺りに電灯もなく辺りは真っ暗だ。彼女はすぐに手に持っている懐中電灯の光で俺の足元を照らした。照らされたスニーカーを見ていると、ふと眼球に光が入ってくる。
「うわっ!」
彼女が一瞬だけ、俺の目に懐中電灯を向けてきたのだ。
「はは、やめろよ」
「うん、ごめん」
そして彼女は光源を俺の近くにある表札に向ける。石で作られた大きな表札には『神野科学研究所』と彫られていた。
俺の開けた穴から一人ずつ理事会の調査員がこの場所に現れる。
燃えて廃墟となった3階建ての施設。どこかしこに穴が開いており、月明かりが通っている。俺はその黒く焦げた光景を見て決意を固める。
(やってみせるさ)
そう心の中で告げてから振り返る。
「言った通り、一階が受付と会議室、応接室。二階が実験体の居住区。三階は実験室です。自由に調査してください。ただ、庭に山になっている場所があるんですが、そこは絶対に掘り起こさないでください。スキャンもできればやめて欲しい。もしするんなら俺に声をかけてください」
五カ国会議から一週間と四日。俺はとあることを条件に、彼らを俺の故郷に招き入れた。
そして、俺の世界で大きく息を吸って吐く。
ついに五カ国会議の一週間前だ。
俺の目の前には理事会から借り受けた各種兵器が揃っている。どれも調整を終えて十全に使えるようにした。
「壮観だな」
どれも助けた世界などから譲り受けた品や開発した兵器らしい。
「さて、どれも使えるようになってきたなぁ……」
この3週間俺は、理事会の施設を使って俺自身を鍛えてきた。理事会には俺の故郷の調査を許可する代わりに、俺自身の『移動する力』の能力の向上と、理事会の強力な武装『上位戒災礼装』の数々を借り入れるという契約を結ぶことが出来た。
(体も以前より軽くなってる。これなら、何とか戦えそうだ)
ウリエルによると、援軍はスケジュールの関係で見込めないそうだ。それでも、今の俺なら絶対に成果を残せる。自信を胸に、理事会ビルの自動ドアの前に降り立った。
(さて、重要な俺の最初の第一歩だ。しっかりと果たすぞ)
そして、俺たちは作戦会議をするというファーモットの議場に、ウリエルとマイケルと共に集まった。この議場には他にも保障局局長キャプラ、法罰卿サイコル、軍務卿デズト、特別処刑人サバスが揃っている。また、竜神のドラガともう一人、俺の知らない人間もこの場にいた。ドラゴンたちとの会談とは、その机と椅子の配置が換わっており、議長机と発言台に向かって扇状に置かれている多くの椅子の中から、各々が適当な場所に座る中、キャプラが堂々と発言台に立った。
「さて本日は集まってきてくれてありがとう。まずは先ほど入った情報で共有していきたいことがある。ワ―サイトについてだが、物資の流れから戦争をしそうな状況にあることが分かった。内務卿の言った戦争を仕掛けるということは間違いない。これはシーオリトンからの信頼できる情報だ。攻める先は残る隣接国である我々ワ―サイトである可能性が非常に高い」
彼女はこの会議の前提である、この国がワ―サイトに戦争を仕掛けられそうであるということを確固たるものとした。
「シーオリトンはこの大陸の物流の中心だからね。そういった。モノの流れには詳しいんだよ」
すると、サイコルは理事会からの参加者にも分かるように補足説明を入れてくれた。
「本日はシーオリトンの援軍として参加してくれる予定のクアラさんも同席してくれた」
キャプラがそう言うとこの議場にいる唯一俺の知らない人間が手を挙げた。
「シーオリトンのクアラだ。目的はアレムを殺すこと。よろしく頼む」
髪を後ろに束ねた暗い声の男は淡々と自己紹介をした。
「さて、まずは作戦について話しておこう。我々の作戦は二つのチームに分けて戦うというものだ。自国の領土を守るチームと、会談で敵と相対するチームの二つだな。これは、ワ―サイトが二点襲撃をよく使うことから立てた作戦だ。これをアレムのことを良く知るというクアラさんを交えて決めようと思う」
そしてこの会議はキャプラが音頭を取るようだ。
「そうだな。できれば、会談にできるだけ人員を削ぎたい。奴は他人を信頼していない。大事な局面には必ず登場する。今回の奴の狙いはヘットルと同じ手口通り、『服従の契約を結ばせること』だ。その局面となる会談には必ず出席するし、その周りを優秀な者たちで固めるはずだ」
クアラによると、アレムという人間は自分でやりたがるタイプらしい。
「それでは会談に必要な戦力から逆算しよう。クアラさん、アレムのための戦力はどれくらい必要ですか?」
「そうだな。3名だ。どうせお前たちなら知っていると思うがワ―サイトの強みは質と量。我々は全て戦場において、自身より強い相手に不利な状況で勝たなければならない。だからこそ戦力を集中することは悪手だ。アレムの担当は基本的に3名が最低限かつ最大限の戦力であると言えるだろう」
3名という数字は超大陸級と呼ばれる存在と相対するには少々心細い気がする。
「それではその3名の候補は……デズト、サバス、クロノ、ドラガに絞られる」
キャプラが対クアラで活躍できそうな人員を提示する。
「あぁ、3人の内の一人として俺は確定だ。俺はアレムに対して相性がいい。その理由は、俺の適性魔法が水だからだ。対して奴は主に炎の魔法を使う。それに奴の戦い方を知っているからな」
クアラが戦うという案には誰にも反論を出せなかった。
「それでは残り二人を決めようか」
そこでキャプラは、すぐに残りの二人を決めようと議題を変えた。
「そうだな。ではその判断のためにアレムの十年前の能力について語っておこう」
「待ってくれ。情報を提供してくれるのは嬉しいんだが、どうしてアンタはアレムにそんなに詳しいんだ?」
そこでマイケルがクアラへの疑問を口にする。
「元々、俺たちは組んでたからな。シーオリトンは海と商業の国だ。それに合わせてギルドという名の派閥が作られた。それで、俺と奴は今のシーオリトンの大統領の後ろ盾のもと、他のギルドを全て破壊した。それが10年前のことだな。…さて、話を戻そうか」
続けてクアラはアレムについて語り始める。
「奴の強みは強靭なフィジカル、壮絶な炎魔法。そして神器。これらを利用した火力だ。基本的に攻撃を受けるのはやめておけ。最悪、受けた部位が吹き飛ぶこととなる」
「よし、その上で軍務卿、どう思う?」
「そうだな。これは回避や攻撃を妨害する動きができる者が適任だろう。回避といえば俊敏性のデズトと竜神、そして移動魔法のクロノが、攻撃の妨害といえば、聖剣を持つ俺か豊富な妨害ができるクロノが挙げられるな。それでは、どれの長所がより適正か探っていくか」
キャプラが話を振ると、サバスが残り二人の選定基準を告げる。俺はその話を聞いて適性の高さから残り二人に俺が参加すべきだと考えた。さらに、俺には基準以外にも出来ることがある。
「そういえば、アレムは部下と連携してきますよね?例え、どんなに俊敏な相手でも触れることが出来れば、穴を使って分断できる。俺が出るべきじゃないでしょうか?」
「そうだな。奴と配下を分断した方がこちらも戦いやすい」
するとクアラが俺の意見に同調してきた。どうやら俺の『移動の力』の情報は共有されているらしい。
「確かに、敵同士の連携を避けられるなら、それ以上のことはないな。俺は賛成だ」
さらにサバスも俺の意見に賛成するようだ。
「移動先はどうする?俺の得意な狭所は、狭所自体がすぐに壊されそうだ。ならば、俺の瞬発力による俊敏性は生かしにくくなる。…俺は降りる」
するとデズトは自身の強みは発揮されないとして対アレムのメンバーから自主的に降りた。
「そうだな。それが良い。それで、アレムの攻撃はどれくらいの規模だ?」
サバスはそれに同調しながらも更なるアレムの情報を引き出そうとする。
「自由にさせたら、一振りで容易に山を削れるだろう」
その言葉を聞いた途端、議場にいる全ての人間が驚き凍り付いた。
人間が山を破壊する規模の戦いなんて聞いたことがない。どうやら周りの反応を見るに、その攻撃力は異次元のものなのだろう。
「そうか。なら、俺は降りるほうが良いな。そのレベルの攻撃なら、どう万全に攻撃をさせずに立ち回るかを考えた方が賢明そうだ。聖剣の吸収速度も考慮すると、その規模の攻撃だと一手遅れれば間に合わない」
軍務卿は自身の能力との相性を考えて自主的に辞退した。
「それでは、ドラガとクロノそしてクアラの三名が基本的にアレムと戦う、ということにしよう。誰か、異論はあるか?」
キャプラの総括には誰も口を挟まないようだ。
「特に異論はない。好きにしてくれ」
竜神の同意から、アレムと相対する人員は決定した。俺とドラガ、クアラの3名だ。
「それではドラガとクロノは廊下に来い。作戦を練るぞ」
俺たちはクアラの指示の元、対アレムの作戦を構築するために廊下に移動して、各々、廊下の壁に背中を預ける。
「さて、まずアレムをどう倒すかだが、まず俺がヤツと戦い。出方を探る。そして機会を見計らってお前たちが参戦するんだ」
クアラは俺たちを一瞥してから彼の考える作戦について語り始めた。そこに対してドラガは不満なようだ。
「好き勝手言っているようだが訳が分からないな。さっきお前は僕たちにアレムの攻撃力が高いということをさんざん強調してきた。僕もソレの脅威は理解できた。ならば普通、この3人で連携して倒すような方法を考えるのではないか?わざわざ負ける作戦に参加するほど愚かな思考はしていないぞ。僕の目標は、そこの男を殺すことなんだからな」
「黙って話は最後まで聞くことだ。この提案をした理由は、俺の切り札と関係している。俺の切り札は巻き込む自爆型だ。だが、その自爆でも確実に殺せる確証がない。加えて、共に戦っている場合はその切り札を躊躇する可能性がある。つまり俺は共闘するメリットが薄いんだ」
不満を持った反論にクアラは敵意をもって返す。
「そうか。だが、信用がない。その切り札は有効なのか?殺せないどころかダメージも与えられないんじゃないか?そもそも、それを使わず死ぬ可能性もあるだろう?」
「抱え落ちはしない。約束しよう。それにこの自爆はこの世界の全ての生物に有効だ。威力は保障する」
「切り札のすごさは分かった。それだけ自慢するならな。だが、約束だけでは弱い。装填詠唱くらいやって見せろ。あまり僕を怒らせるなよ」
敵意が爆発しそうだったので仲裁に入ることにした。
「待て、ドラガ。ここで契約を破り死ぬ気か?彼の話も一応、理屈としては通っている。彼の想定している最悪は『彼が自爆をした上で殺しきれずに俺たちが死ぬ』ということだ。それを避けるための一人で陽動をする作戦なら一理はある。それとクアラ、貴方も一々敵意を出すな。アレムを倒すんだろ。しっかりしろ」
「…そうだな。抱え落ちにしては安心してくれ。装填詠唱はしておく」
「それを先に言え」
(ウリエル!助けてくれ!)
俺の制止もあまり意味がなさそうな気がしてきたので、思わずウリエルに助けを求めてしまう。
(え、何。どうしたの。緊急事態⁉)
その後、紆余曲折があったがなんとか対アレムの作戦を立てることが出来た。
「これがこの国の回復魔法の技術の結晶である『回生の宝玉』。どんな傷でも死んでいなければ治せるという秘宝だ」
アレムへの作戦会議が終わって議場に戻ると、キャプラがいつの間にか緑色の水晶玉のようなものを持ってきていた。
「…戻ったか。今の説明、耳に入っていたか?」
キャプラの問いには俺が答えた。
「聞いていたよ。それ、使用回数は?」
「一回限りだ。一応、私が持っておく。必要な時に言ってくれ。さて、これでこちらの作戦会議は終わりだ。そっちはどうだ?」
試すような視線。それに自信と覚悟を持って答える。
「準備満タンだ」
キャプラ「なんで私が進行役なんだ?」
サイコル「革命の主導、私とキャプラって形だからね。音頭を取るならこのどちらかでしょ。私は司法担当だから、表立って決めごとをするのはいかがなものかなーと思ったわけだよ。あ、会談でも代表として出てもらうからよろしく」
キャプラ「それも……そうか。いやでもタメ語慣れないんだよな。軍務卿とかデズトさんとか」
サイコル「それ、分かる」