【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告 作:新川翔
そして五カ国会談前日。
作戦の最終確認を終えた俺とウリエル、マイケル、サイコルは、ファーモットの城下町を覆う壁の上で、パンを食べながら休憩していると、遠くに俺たちの視界を横切っている一団が見えた。興味が湧いたので、望遠機能を使ってその一団を観察することにした。馬のような6つの足を持つ生物に乗った5人。恐らく、女2人、男3人。男の内一人は老人で地に着きそうな長く白い髪と髭を魔法で浮かしている。さらに彼らのそれぞれの頭上には傘のようなものが浮いており、直射日光を防いでいる。
俺の経験則でその集団の種族を推察する。
「サイコル、あれは……エルフ、かな?」
「ん?そうなんじゃないかな?確か、五カ国会談の一団が通るって申請があったよ」
彼女は腰のベルトに着けている双眼鏡を取り出してその一団を観察する。数秒間の沈黙の後、彼女の表情は明らかに焦っているものとなっていた。
「ちょっとまずいね。これは。君たち、連絡魔法のピアスに耳を傾けてくれないかな。何が起きたかはキャプラに報告するついでに聞いてね」
すぐに彼女は連絡魔法のピアスで、俺たちへの説明を後回しにして、キャプラに連絡し始めた。
「どうしたサイコル。なにかまずいことでも?」
ピアスにはサイコルと連絡しているキャプラの声が聞こえてきた彼女も焦っているサイコルに動揺しているようだった。
「うん!まずいどころの話じゃないかな!」
「珍しいな。こんなに慌てるのは」
キャプラが聞き返すと、サイコルはより深い説明を始める。
「エルフの国、ウィラノス。絶対に何か起きてる」
「どういうことだ?」
「今、通ったウィラノス首脳陣全員。
「正気じゃない?……心神喪失状態ということか」
それはつまり、エルフの一団は平静を装っているようにみえるが、その心の内は狂気に満ちている。ということだろうか。
「そういうことだね。時々あるよね、精神を操られている人たちが心神喪失しているパターン。一般的な個人もしくは組織では、時々ある話だ。でも今洗脳されているのは、あの引きこもって魔法の研究しかしていない奴らの首脳陣だ。全員洗脳されているなんて、普通はありえない」
「そうだな。このことはすぐに共有しよう」
その異常性をすぐさま理解したキャプラは、魔法道具で呼びかけを行うことを決定した。
「それと、接触はしない方がいいと思うよ。建前がないし、洗脳の条件が何かこっちも分からない」
「そのつもりだ。そこで国民が接触しないかどうか見ていてくれ。それでは──『全局員、及び全兵に通告。現在城下町近くに会談に向かうエルフの一団がいるが、彼らへの接触は全面的に禁じる』」
「関所の職員には検査を受けさせよう。これから通過する関所も同様だ。どう思う、サイコル」
「それでいいと思う。というか、それしかないかな。今のところ」
キャプラが指示を出した後に対策を考えていると、ズドンと城壁に赤い流星が落ちてきた。赤い流星の起こした土煙からドラガが現れる。
「どうなっている?」
「エルフの国の首脳陣が洗脳されているらしい」
ドラガの問いには俺が答えた。
「ふむ。もし敵になるのなら、厄介ではあるな」
『一応、三つ巴以上の戦いになる可能性がある。作戦は変えないが、そこは考慮しておいてくれ』
キャプラの忠告を受けながら俺が今どうすべきかを考える。
(今更作戦を変えたところで何かできることはない。というか、ワ―サイト対策の時点でカツカツだ。最悪俺の力で撤退戦をすることになりそうだな……)
その2時間後、シーオリトンの大統領も合流し、会談に向かう者たちは、五カ国会談の会場へと向かうこととなった。まず会場に向かうファーモット側のメンバーはウリエル、マイケル、キャプラ、サイコル、デズト、と
「それじゃあ、お先に」
「いってらっしゃい。連絡、待ってるよ…どんな会話コレ?」
「どうなんだろうね?」
牛車のような乗り物に乗り込もうとするウリエルと話していると、サイコルが会話に入って来た。
「…私も混ざったほうが良いんですか?」
「もしかしたら、そうかもしれないぞ」
その光景を見て困惑しているキャプラに対して、マイケルが深刻なことを告げるトーンで冗談を言っている。
「どーも!オルトです!代表のキャプラさんですねぇ!よろしく」
そこに爽やかな面をした黒髪の男が割って入り、握手を促すようにキャプラに対して手を差し出した。
「はい?」
「大統領、ほら、困惑していますよ」
「なんでそんなアッパーに攻めるんですか?同盟国でしょう?」
キャプラが困惑しているとメガネをかけた水色の長髪の少女、そしてその少女と『メガネをかけていない』という点以外同じ容姿の少女の順で男を制止する。少女たちの方は双子だろうか。『大統領』と言っていたので、爽やかな男はシーオリトンの大統領であると考えられる。
「あぁ握手ですね」
キャプラは遅れて彼の手を握った。
「はははははは、ごめんなぁ!」
オルトという男はぶんぶん、と握られた手を上下に振っている。
「相変わらず張り付いた笑顔ですね」
そこにサイコルがいつもの笑顔ではなく真顔で、さらに敵意の籠った声色でオルトに話しかけた。
「サイコルちゃんやめてくれよ。頑張って作り笑顔してるだけだぜ。ほら、笑顔苦手だからさ」
「そうでしょうね」
ここまで彼女が敵意を露にしているのは珍しい。
「今回の要請はまさに助け船だった!大国の力に比べれば我々の国はまさに小舟だ。アレムという大波にすぐさま飲まれてしまう!協力するからには大船に乗った気持でいて欲しいと言いたいところだがしかし、残念なことにこちらの戦力は軒並み10年前に亡くなってしてしまったからね。少しだけの助力しかできないことは本当に申し訳ないと思っている。だからこそ」
すると彼は背広服のような服の胸元から、サファイアのような宝石がはめ込まれたペンダントを、握手している彼女の手に包むように押し当てた。
「なんですかこれ」
「魔力を通すと鎧を顕現する魔法道具だ」
キャプラが問うと、オルトは自信満々に答えた。
「危険性は?」
「もちろんなし!この鎧は魔力を流せば姿を変えどんなものにも適した形になる。そして、あらゆる衝撃を軽減し、魔力の流れをより滑らかにして、魔力自体も活性化させる。使う魔法の効果も増大するということさ」
サイコルの問いにも、オルトは胸を張って答えた上でその道具の使用方法と効果も説明している。
「サイコル、確認してくれ」
「さてオルトさん。これ、先ほど言った効果はありますか?それに我々に不都合だったり危害を加えるような効果はありますか」
「私、そんなに怪しーかなー!ないよ、悪い効果は!」
「ごめんなさい。キャプラ、彼、嘘はついていないみたいだよ」
どうやら彼は、嘘はついていないようだが、その軽薄な態度はどんな意図があるのだろうと考えていると、一瞬、俺の方へ鋭い視線が向けられた。
「ありがとう。それではいただきます」
「はいはい。どうぞどうぞ」
その目線が俺の他にもウリエル、マイケル、ドラガに向けられていることから、彼の行動の意図を考える。恐らく、彼は道化を演じることで俺たちの品定めをしているのではないのだろうか。
「その前に、共有しておきたいことが」
「ん?なになに?」
彼にとって見ない顔の者たちを観察している中、キャプラはエルフの首脳陣が正気でないことを説明した。それを聞いたオルトは薄ら笑いを崩さないまま一秒だけフリーズして口を開いた。
「それは、警戒すべきだ。情報ありがとう。そちらは魔法の対策はするのかな?」
「既に連絡魔法のピアスにエンチャントをしています。ただで洗脳されることはないかと」
「それじゃあ、安心だね。君たちは?」
すぐに振り返る彼の従者の双子に確認する。
「私たちは日ごろから対策をしているので大丈夫です」
「大統領知ってるでしょ。なんでですか?」
メガネをしている少女、メガネをしていない少女の順に返答をしている。
「念のための確認だよ、落ち着いて。はい。それでは改めて出発しよう!」
「さて、失礼。オルト大統領。あまりウチの大事な人間に粉かけないでください」
そこに短髪で薄い紫の髪の女が割って入る。彼女が外務卿ネゴシ・アカドミナだ。今回の会談はキャプラの外交面でのサポートを行うらしい。
「それでは大統領の応対は私がします。ほらほら。あっち行きますよ。ほらほら」
「や、やめてくれ。ほら。まだ挨拶が」
彼女はキビキビと大統領を門の先へと連れて行った。
「「「「「…………」」」」」
嵐のように現れて嵐のように去っていったオルトを見届けた俺たちは、何も言えなくなってしまっている。すると、見計らったかのように軍務卿が俺たちの前に姿を現した。
「行ってこい。お前たちは国の代表だ。気圧されるなよ。それにデズト、情けないことはするな」
サバスは少し離れた場所で俺たちを眺めていたデズトにも声をかけている。
「…くだらんな。お前こそ国防という重大な責務を負ったんだ。しくじるなよ」
「当たり前だ」
デズトは軍務卿に対して短く答える。
「それでは、行こうか。みんな、牛車に乗り込んでくれ」
すぐにキャプラが全員に指示を出す。もう予定の時間だ。
「じゃあな」
「おう」
マイケルは俺に一時的な別れの挨拶をすると拳を突き出してきた。それをグータッチであると見極めた俺は俺自身の拳を突き出してグータッチをした。
そして彼らを乗せた牛車は走り出す。
先ほどのオルトに向けた敵意はまるでなかったかのような爽やかな笑顔で、かつ無言でサイコルはこちらに手を振っている。
(繰り返すようだけど、また後で)
(また後で)
テレパシーの言葉も返してウリエルたちを見送った後、北門には軍務卿、ドラガ、俺が残っていた。
「ドラガ、俺たちも行くぞ」
「……」
目の前に穴を開けると、奴は何も言わずにそこに飛び込んでいった。
「ザバスさん。よろしくお願いします」
「気にするな。行ってこい」
「分かりました」
俺は軍務卿と言葉を交わしてからその穴に飛び込んだ。
「そういえば、どうして向かうことになっているんだ?不安定要素があるなら後から仕掛ければいいんじゃないのか?」
穴から目的地に降り立つと、ドラガが話しかけてきた。
「五カ国会談は定期的に行われるらしくて、参加しなかったら何か悪いこと企んでいるんじゃないかって、ワ―サイトから攻められるらしいぞ」
「イかれているのだな」
「まぁ、そういう相手らしいな。さて、行くぞ」
俺たちの目の前にはクアラが湖の水面に座り、瞑想をしながら俺たちを待ち構えていた。
到着したのは城下町の遥か北にある『石の森』。
円柱のような形状をした岩の棒が無造作に何本も生えている。生き物はいない。なぜかこの場所には近づかないようだ。
そんな地帯が約十キロ。縦と横に広がっている。
俺たちがアレムを待ち構えるための場所だ。
????「どうやら、見られているな」