【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告 作:新川翔
ファーモットとワ―サイトの国境にしてシーオリトンが作った運河。その運河の中心に魔法で作られた大きな会議場。そこが150年間、五カ国会談が行われている場所だ。
会議場の島は土魔法で作られたものであり、その上には直方体の上に半球が付いた建物が建てられている。
会場は四階に分けられている。一階は広場、二階はここに常駐する者たちの住居、三階は控室。そして四階、半球に相当する階層は会談を行う場所となっている。
そして、その会談場にて5つの国の代表が円卓に座る。
暴力禁止の結界を張るしきたりがあったが、前回のワ―サイトの言いがかりにより、そのしきたりは無くなっている。
1つ、風と作物の国、ファーモット。 保障局局長兼代表 キャプラ・ポリルット
2つ、海と争いの国、シーオリトン。 大統領 オルト・オーララ
3つ、森と英知の国、ウィラノス。 エルフの里 長老 フォランド
4つ、砂漠と古の国、ヘットル。 女王 イラス・ラン
5つ、山と血潮の国、ワ―サイト。 皇帝 アレム・ヴァルヘル
ファーモットは5名、シーオリトンは2名、ウィラノスは4名、ヘットルは1名、ワ―サイトは7名の従者を、その主の背後に控えさせている。ウリエル、マイケル以外はそれぞれの国の正装でこの式典に集まっていた。
各国の正装は、ファーモットはジャケットのようなものを羽織る制服。シーオリトンはセーラー服のようなもの。さらに、大統領は白い勲章の付いた襟の立った上着を着用している。ウィラノスはズボンとシャツとベストのような服の上にフードの付いた外套。ヘットルはシルクのような素材のローブ。ワ―サイトは軍服のような印象を受ける制服を着用している。
「それでは、会談を始めよう」
フォランドは堂々と会談の開始を宣言する。すると同時に二人の男が己の欲望を曝け出した。
「ファーモット、俺たちに服従しろ」
この欲望は、白い髪と黒と赤の目を持つ皇帝が告げた。
「全ての国の者たちよ。我々に服従しろ」
そして長老は、全ての勢力に対して服従を命じた。
その光景を見たオルトはすぐに議論の状況を分析する。
(なるほど、ワ―サイトの手口はヘットルの時と同じだな。至極シンプルかつ大胆な脅迫だ。だが、問題はもう一つ────)
彼が特に注目しているのは『正気でない』という事前情報がるエルフのフォランドの発言だ。
(エルフ…じゃなかったな。操られているらしいしからな。じゃあ、エルフ(仮)としておくか……。まずはエルフ(仮)の裏で手を引いている奴らの狙いと立ち位置を理解すべきだ。まず、奴らの狙いは『全ての国を服従させること』。これは言葉通り受け取っていいだろう。その先に『何か』があるのかもしれないがな。さてこの場において重要なのは、立ち位置だ)
一瞬、オルトはヘットルの女王とその配下の3メートルは背丈のある大男に視線を送る。
表情は変えずとも、僅かに目を見張っている。彼女らが驚いていることも考慮してすぐに分析を始める。
(これで、エルフ(仮)の立ち位置もほぼ確定できた。まず、アイツらはこの中の『誰とも手を組んでいない』。これは消去法で理解できる。まず、
根拠を元に彼は結論を取りまとめる。その間、1秒。
(エルフ(仮)は第三勢力!どの国にも属さぬジョーカー!)
「しっかりと守ってくれよ」
大統領は自身の護衛である双子の少女に信頼をもって呼びかける。
「もち」
「ろんです」
それに対してメガネをかけている妹、メガネをかけていない姉の順番で応え、それぞれの手に握られているハルバードを、如何なる状況でも敵に突き刺せるように臨戦態勢へと感情を切り替え、彼女らの目つきは既に肉食獣のように鋭くなっている。
(『エルフがワ―サイト側』という最悪の事態でなくて良かった。さぁ、後はどう出る?ファーモット)
オルトは現状の静観を続ける。盤面を見切り、適した行動を取るために。
「なんだ?貴様は」
長老?は自身と対立する意見を掲げたアレムに対して敵意を向けた。
「それはこちらのセリフだ。身の程を弁えろ。老骨」
その敵意に対してアレムが発するのは殺気と熱気。殺気はその場にいる者たちの域を早め、熱気は早くなった呼吸を苦しいものにしている。
「そうか。つまりお前たちは俺の国が欲しいんだな」
(こっちは何にも言ってないけどなぁ)
オルトは相変わらずの強引さに半ば呆れている。
(これがアレム。話は通じないな)
サイコルはアレムの感情を読み、心から言葉であると感じ取り、こちらを殺そうとしていることを理解して対話の可能性を諦めた。
「ならば力で奪い合おう。戦争だ」
より殺気が増すと共に、皇帝を中心に部屋の温度も上がっていく。
「さっきから黙って聞いていれば、なんて議論だ」
その殺気の中、キャプラは介入する。
「好き勝手他の国をどうするとか言っているな。他国はお前たちの道具じゃない。私にも守りたいものがある。抵抗はするぞ。……それにワ―サイト、ウィラノス両国の宣言は五カ国条約に対する違反行為だ。ここで、拘束する」
アレムとフォランドに対して啖呵を切ったキャプラに対して、サイコルはパチパチパチと拍手し始めた。その光景をエルフたち以外は困惑しながら眺めていた。
(サイコルちゃーん!空気読んで!)
オルトは心の中で愚痴を溢しながら、自身が立つべき位置を表明する。
「シーオリトンとしても、違反行為は看過できないな。私も秩序側だ」
「そうか、従う気はないか……!」
それを受けたアレムはより殺意と熱気を高め始める。オルトとキャプラが固唾を飲み、その気迫に圧倒されてしまうが、態度と表情では一切怖気づいていないように見せる。
辺りの全てに火が点く気温に差し掛かったその瞬間、1つの穴がアレムの後ろに広がった。
その正体を知らぬ者たちが、その穴を害のあるものであると認識するよりも速い速度で、その穴から手が伸びて、アレムを掴み、どこかへと連れて行った。
なんとか敵襲であると認識したワ―サイト所属の赤髪の長髪で、髪で右目が隠れた女が、右手の短剣を、不届き者を狩るために素早く振るう。
しかし、その刃は穴に触れる前に、彼女の主と共に消えてしまった。彼女は勢いのまま円卓に上っている。
「クソ!どこの差し金だ!殺してやる!」
会場に脅迫が響き渡る。キャプラ、オルトは作戦の第一段階が成功したことに安堵していた。
「おいおい。公的な会議だぞ。そういった言葉遣いはやめていただこうか」
脅迫に答えたのはマイケルだ。スーツに身を包んだ彼は円卓に手をかけて無礼者に呼びかけた。
「いいから、長老の言葉を聞け。ただお前たちは我々に服従しろ」
そこに話の流れなど一切気にせずに槍を持った細身の男が円卓に上がる。
「なに?死にたいの?」
「早く服従する意思を見せなければ殺す」
脅迫と脅迫。会話は平行線。
「失礼。どうやら俺が話し合いをレクチャーしなければならないらしい」
狼は自身が戦うべき相手を見定めた。
「ちょっとお二方、退場していただこうか」
マイケルは身を乗り出し、円卓の上で四肢と胴に紫の鎧を出現させながら構える。
『バスター・ウェアウルフ 起動』
「舐めるな」
「我々に従え」
狼だけでなくそれぞれが、卓上にいる人間を敵と見なしたようだ。マイケルが狼の兜を装着した瞬間に三者同時に円卓の中央で激突した。女は槍使いのエルフを狙い、エルフはそれに対して突きで対応し、その二人が衝突する前に、マイケルが間に入り込んだ形だ。彼は完全に二人の攻撃を受け止めて防御している。
余波で円卓に放射状のヒビが入り、マイケルの鎧には両者の攻撃のエネルギーが吸収されていく。
「まずは、礼儀でも教えてやる」
マイケルは一瞬、右腕だけエネルギーを解放して二人をよろめかせ、そのまま拳を床へと振り下ろして砕き、彼を含む三名を3階へと落とした。
彼の鎧は理事会での検査を経て変化をしている。大きな変化は二つ。装甲の追加と機能の修復だ。理事会での研究の果てに彼らはマイケルをミカエルとして認定し、因子を最適化する決断を下した。その結果、因子は本来の力を取り戻し、四肢だけではなく胴体にも装甲が追加され、本来の『バスター・ミカエル』の機能も追加された。
(確か女の方は千刃。だったな。5年前、ヘットルで千人殺したっていう。獲物は短剣と炎魔法で作り出す数多くの剣)
(そんで男のエルフは……情報なし。ただ獲物は槍か)
マイケルは事前に共有された情報を元に目の前の者たちが何者かを分析する。
(一度受けただけで分かる。この二人は油断できない。できればリベンジで戦いたい)
「知ってるか。お前ら」
3階に降り立った彼は決意をして敵に告げる。
千刃は左手に炎の短剣を構えた。
「最近の音楽はな」
『エンジェルバッテリー 接続開始』
槍のエルフは足を開き、穂先をマイケルに構える。
「最初からノれるんだぜ!」
『バスター・ウェアウルフ・リベンジ 起動』
機会音と共に、背中にある電極のような六つの突起が隆起して、鎧の各所に赤いラインが入ると同時に、狼のような兜の上には紫色の天使の輪が出現する。
本来のバスター・ミカエルの機能の一つ。エネルギーの貯蓄機能を解放し、すぐさまリベンジ形態へ移行する。
狼は女に対して真っ直ぐに飛び出してストレートを放った。千刃は短剣で受けるもあまりの衝撃波に壁を一つぶち抜いて吹き飛ばされる。
ストレートという仕草によりできた隙を目掛けて槍を振るうエルフの攻撃を受け止めると、エルフに対して千刃が炎の刃を何十本も投擲する。マイケルは槍を弾いて距離を取り、槍のエルフは全ての刃を器用に叩き落とした。ただ、叩き落とす方法が人間の体に即していない。槍では間に合わないと判断した際には関節をあらぬ方向に曲げた腕で叩き落としていた。
(あの槍と腕、何かしらの魔法を纏わせているのか)
マイケルは距離を取ってその光景を見た際に、実体のない炎を叩き落とすからくりを見破った。
(魔法は魔法を弾くんだっけか。それよりもヤバいのはエルフの体だな。関節変な方向に曲がってたぞ。魔法か?)
三つ巴の戦いは視野の広さで決まる。互いの相性差、互いに見せる小さな隙、それらを上手く拾った上で、二対一、もしくは一対一対一という戦いを、付け込みすぎずに立ち回らなければならない。
適度な距離感を取りながら3階で暴れる三名。
エルフの放った槍の一閃を拳で受けとめ反撃するマイケル、それを狙う千刃に対して、彼は空いた手で衝撃波を飛ばして対応する。それを見た千刃はその衝撃波を避けて、標的を変更。その勢いのままエルフに迫ろうとするも、マイケルが槍の穂先を弾いて彼女に衝撃波を飛ばす。その衝撃波は命中するが、エルフによる拳を顔に喰らい、彼も吹き飛んでしまう。そしてその場に一人残ったエルフに対しては、千刃が最初に吹き飛ばされていた時に用意していた『時間差で射出する炎の刃』を喰らってしまう。
実力はほぼ均衡しているため、二対一の形式にはならずに、誰かが一撃を加えて、その一撃を加えた者の隙を第三者が狙う。そういった攻防の繰り返しにより、全員が消耗していっている。このままでは誰かが勝利したとしても、ほぼ瀕死状態となることは自明であった。
「創造結界 焦熱樹海」
そのため、女は決着を急いた。現れるのは肌を焼く炎の森。現れるのは肌を焼く炎の森。さらに、彼女の背後には巨大な炎の刃の花弁でできた花が、マイケルと槍のエルフの方向へ向いて咲いている。
(詠唱の短縮だな……!魔力を多く消費する代わりに、強引に魔法を発動させるという……!)
炎の刃の森が彼ら包み、殺意の刃を向けていた。
オルト「普段は俺、公的な場所では私。使い分けだね」