【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告 作:新川翔
「創造結界 焦熱樹海」
短縮詠唱で発動する世界の創造。部屋を包んだ灼熱の森。炎でできた植物が世界の内に居る者を焦がしていく。勢力図は明らかに千刃が優位となった。
ならば、拮抗した実力差による一対一対一の均衡は崩れていく。
マイケルと槍使いのエルフの標的はこの世界の主に絞られた。これは目的の一致によるためである。彼らは先鋒。連戦の可能性は十分にある。だからこそ、最小限の損害で最大限の被害を与えたい。
マイケルはすぐにその鎧を通常形態にして走り出すと、炎の刃の花から夥しい数の刃が射出される。
(来い!受けきる!)
そう判断した彼はそのまま炎の雨に突っ込んでいく。その刃一つ一つが一般人を殺せるほどの威力を持っており、通常形態でなければ大きくダメージを喰らってしまうだろう。
しかし、この形態なら問題なし。依然、突進続行。
そして一歩の間合い。花弁の射出に千刃が巻き込まれてしまう距離でリベンジを解放。瞬間で距離を詰め、拳で攻撃を放つと共に、ゼロ距離からの衝撃波を放つ。
「もっと熱いの来いよ!」
マイケルの狙いは結界を維持できないほどのダメージを負わせること。結界魔法、特に創造結界は消費魔力が大きい。創造結界は『世界を作り』、『モチーフを具現化し』、『それらを維持する』三つの工程で多大な魔力を消費する。勿論、ダメージにより三つ目の維持することに魔力を割くことが出来なければ結界は崩壊する。
だが、そのリスクに対してリターンは絶大だ。槍使いのエルフは初撃を凌ぎ切れずに全身が燃え上がってしまっている。
衝撃波で吹き飛んだ千刃に対しては、足から衝撃波を飛ばして、それを推進力として接近する。それ以外の部位、または衝撃波を打たないタイミングでは鎧は通常形態のまま戦闘を行う。
さらに迫撃の拳は命中するも、上腕を切られていることに気が付いたが、それに構わず、同じような攻撃を繰り返す。
そして、一対一の戦いになると実力差がハッキリとしてくる。
(さてどう崩すか)
マイケルは攻防の末に理解する。実力は千刃の方が上だ。
彼のあらゆる攻撃はしっかりと防御され、対して千刃は彼の隙を的確に攻撃している。鎧によってダメージは軽減されているが、軽減されているだけだ。ダメージはしっかりと受けている。効果的な攻撃をするなら、第三者に隙を作らせてそこを突かなければならない。
だがその第三者はいない。既に燃えている。このまま時間切れを待つとしても、耐久戦では殺されてしまう可能性が高いだろう。
ならば、どうするか。
『バスター・ウェアウルフ・リベンジ 起動』
ならば、防御の上から叩き潰して速攻で勝つ。バッテリーにあるエネルギー、そして彼女と槍のエルフの攻撃により蓄えたエネルギーをすべて使用してでも、この結界を生き残る。
決意をすると彼はすぐに実行へ移した。
「死にたいんですか?」
「生きるためだよ」
彼は問いに答えてから己の考えを整理する。
(なんで俺はここにいる?なんで俺は戦っている?それは簡単だ)
男が思い浮かべるのは、CIA時代に彼に向けられ、彼自身を削ることとなった怒りや憎悪。それに彼は折れかけていた。それが正義と呼ばれる行いであっても、彼のメンタルはじわり、じわりダメージを受けていた。
(俺は割り切れない人間だ。あの仕事を続けていたら、いつか折れていただろう。でも、クロノは違う。そこは素直にリスペクトだ。だからこそ応援したい。ならば俺の使命は、アイツと共に、理事会と共に戦いぬくことだ)
バッテリーからエネルギーが放出され、千刃は背中から翼が生えたと錯覚する。
「防御の上から、ぶち抜く!」
最初のリベンジ発動よりも速い神速の拳は短剣で受けとめられたが、それを受けても余りある力で千刃は吹き飛ばされ血を吐いた。
「がはっ!」
さらに足元の植物からの刃の攻撃も迫るが、それらは足から放つ衝撃波で吹き飛ばして、千刃に再び接近する。
「……来い!」
彼女はその手に握られている炎の短剣、その二刀流で紫電の天使を迎え撃つ。
短剣に止められようが、なんだろうが、全ての攻撃に槍の衝撃波を発生させて目標を追い込んでいく。
炎で切りつけられようが殴る。
守られても衝撃波がダメージを与える。
相手がよろめいたなら蹴り上げる。
蹴り上げる足に炎の刃が突き刺さるがそれも無視して攻撃する。
多少焼けたが問題なし。
消耗度外視の戦法は確実に千刃に有効なダメージを与えている。
結界にはヒビが入り、崩壊しかけている。
「ラストのサビだ!盛り上がっていこうか!」
その時だった。
先刃の腹に槍が刺さった。
彼女は血を吐き出し、ありえないモノが腹を貫いていることに驚愕している。
マイケルはその槍がエルフの物だと認識した瞬間に、バックステップで距離を取ると同時に、焼けて死んだはずの槍使いのエルフの方へ視線をやった。
彼が見たのはまさに映画で登場するゾンビのような風貌と化したエルフだった。彼の肉は剥げ骨が丸見え、肌はほとんど黒く焦げており、生きているとは言えない状態だ。槍は勝手に千刃の腹から抜けてエルフの手に戻っている。しかしエルフの目は死人のように呆然としている。最早、意思のない人形のようにも見えていた。
「おるなれぅれ、おるなれぅれ、うらばきんく」
エルフは槍を地面に突き刺し、不可解な言葉を紡ぎ出す。
「英語で言え!」
言語の意味は理解出来なかったが何らかの詠唱であると判断したマイケルは、すぐさま飛び出したが槍から生えてきた触手によって阻まれた。
「そっちか⁉」
触手はマイケルの腕を掴んで壁に向かって放り投げる。
「かうらんた!」
詠唱が完了すると、エルフの体がぐちゃぐちゃと音を立ててヒトならざるモノへと変容する。焦げて剥げた部分から、緑の触手が這いながら現れる。そして体はブクブクと膨れ上がって服を破り、槍も巻き込んで変貌し、樽と植物の化け物が現れた。
『こちらマイケル。洗脳されているエルフから寄生生物みたいな化け物が出てきやがった!』
連絡魔法のピアスに報告しながらその容貌を観察する。胴体は茶色い樽。側面の所々から緑の触手が蠢いている。樽の上部には一本の緑の茎と朝顔のような花があり、その中央には大きな眼球が覗いていており、樽の底からは緑の触手が数えきれないほど生えていて、それぞれが独立してうねっている。
『それと、この化け物は俺が倒す!』
マイケルは高らかに討伐の宣言をしてから通信を終えた。
「お前!手を組むぞ!」
すると、千刃は貫かれた腹を抑えながら彼に呼びかける。どうやら目の前の正体不明の敵に対して共闘を申し込んでいるようだ。彼女は既に多くの魔力を消費し、大きな怪我もしている。なりふり構えられない状態だ。
「おう、任せた!」
彼は同意を示す言葉を吐いて、化け物に向かって走り出す。
「なんて、な!」
しかし、走る最中、彼はその方向を変えて、千刃に対してストレートと槍型の衝撃波を放った。彼女は反応こそできたが、反撃することは叶わず、会場の外まで壁を全てぶち抜いて吹き飛んだ。
「嘘……だ……!」
「悪いな!」
彼の目的は敵を減らすこと。
そして、最悪のケースは『化け物と千刃を残して自身が敗北すること』だ。最悪の形をケアするためにまずは倒せそうだった千刃から倒した。
「さて、残り20秒ちょいか?」
残りのエネルギー残量から放つ衝撃波も考慮した上で戦える時間を逆算する。
「もう一つ、山場を乗り越えようか!」
マイケルの残りの体力は少なく、傷も深い。そして相手は正体不明。持久戦は難しいと判断した。リベンジ解除まで残り20秒。
樽の底から伸びる触手が一斉にマイケルに襲い掛かる。
それを、正面から拳のラッシュで受けきる。疲れで何個か衝撃波が漏れるが関係ない。
残り15秒。
触手の隙間を見つけたのでそこに向かって飛び出して、懐に飛び込んで一発だけ、衝撃波を当ててからすぐに飛び退く。洗脳の条件が分からないからこそ、長く懐に潜る判断はしなかった。
さらに、壁と足からの衝撃波を使ってピンボールのように跳ねて、全方位から苦しんでいる化け物の様子を伺う。化け物はあまりに早く動く彼を目で追えていないようだ。
(よし、攻撃は通じるな)
この5秒で情報を収集しながら整理する。
一つ『ダメージは通る』
二つ『あの目は飾りじゃない』
三つ『大体の生物の視覚は急所だ』
残り10秒。
マイケルは狙いを一つに絞って弾けるように壁を蹴った。
「⁉」
しかしその拳は眼球に届くことはなく、花弁を閉じることで防御されてしまう。
手ごたえが言っている。この上から攻撃は通せない。
すぐに飛び退いて再びピンボールのように部屋中を跳ね始める。これで2秒経過。
化け物は花弁を開いて跳ね回る狼を目で捉えることを試みている。
(普通、花弁を閉じたままでいいはずだ。目で捉えられるとマズそうだな)
彼はそんなことを考えながら5秒間、跳ね続けて最後の攻撃のための算段を決め、タイミングを見極めていた。
残り3秒。
(行くぞ!)
怪物が完全に狼を追いきれなくなった瞬間、衝撃波と共に眼球に向かって弾けた。
怪物はその花弁を閉じようとするも、それは叶わない。
弾ける狼と共に空気中から発射された小さな槍の衝撃波たちが、それを阻んだからだ。
『バスター・ウェアウルフ・リベンジ』の翼はエネルギーの漏出によるものだ。
またバスター・ウェアウルフは貯め込んだエネルギーを操作して戦う。
もちろん、漏出したエネルギーも操作の対象である。
この部屋に満ちた全てのエネルギーが彼の背中を押し、目標を殲滅する槍となる。
『ミカエル・ペネトレイト・ザ・ハート』
全てのエネルギーを集中したマイケル蹴りは、化け物の眼球を容易に貫いた。
《んgりゅうううううううう!》
化け物の聞くに堪えないうめき声と青い血が部屋中に飛び散っている。
しばらくそれらを撒き散らしてから、化け物は力なくその場で倒れた。
『こちらマイケル。謎の生物を沈黙させた』
マイケルは通常形態に戻り、ピクリとも動かない怪物の遺体を眺める。
また、周囲への警戒も怠らない。だが、千刃が戻ってくる様子もないし、彼を暗殺しようとする者の気配は、今のところない。それでも、この混沌とした状況下では何が起きるか分からない。その予感が、マイケルの感情を冷静なものにさせる。
(ちょっとここで死亡の確認をしながら休憩しよう)
『少し様子を見てからそちらに戻る』
彼自身、今のままでは戦闘面で役に立つことは出来ない。ならば今は、怪物が死んだふりをしていないか監視しながら、少しでも体力を回復すべきだと判断した。
怪物の花弁は閉じている。その様子から何か調べられないか一歩だけ足を前に出すと、ぶしゃり、と天井の壁が怪物の遺体を押しつぶした。
そして現れるのはデズトと二人の帝国の戦士だ。
(デズト⁉)
処刑人は帝国の人間を二人、相手にして激戦を繰り広げていた。
相手は蛇腹剣を持つ長身の女性『
マイケルが槍使いのエルフと千刃の三名で一つ下の階で戦闘をし始めた頃、会談場でも大きな動きがあった。先ず、細身で男のエルフがキャプラに向かって飛んできたが、デズトは大剣でその男の首を切り落とした。
「失礼。殺した。うちの代表が殺されそうだったんでな。当然の処置だ」
エルフから出た青い血が飛び散る中、彼は大剣を一振りして刃に付いた血を飛ばす。
「ファーモット。なんのつもりだ」
壊斧が壊れた円卓を血で染める処刑人に対して斧を構えて抗議する。その目は明らかに期待を孕んだものだった。
「さっきも言っただろう。代表が殺されそうだから殺した。それだけだ」
そんな期待に応える義理もない処刑人はただ淡々と、理由を告げる。
「つまり──「もう、戦争なんだろ?それはそっちの代表が言っていたことだ。建前はもう、いいだろう。とっとと殺しに来い。殺し返してやる」
無駄な問答を続けようとする壊斧に対して、無才の超人はその言葉を遮り、改めて殺意を告げる。すると、その言葉は壊斧の孕んだ期待を決壊させたようだ。
「よく言った!やはり、お前は、お前は!」
「気持ちが悪い。叩き切る」
クロノ「寄生生物か……ドラガ、何か知ってるか?」
ドラガ「知らん」
クロノ「そうか……」