【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告 作:新川翔
「キャプラとネゴシを守れ。援護は必要ない。二人を守ることに専念しろ」
「任せてください。それではあちらはお願いします」
処刑人はサイコルに代表たちの護衛を任せて、自分のすべきことのために、敵に対して歩き始めた。そこに決意はなく、感情も要らない。ただ、刃として仕事を遂行するだけ。
「やはりお前は、力でお前自身を証明してきたんだろう⁉」
「壊斧、同類を見つけたところで興奮しないでください」
それに対して一人の長身の女性が彼を止めに入る。
「……」
処刑人は特に否定はしなかった。特に否定する要素もなかったからだ。
そして、帝国の者同士の掛け合いなど微塵も興味がない彼は、無言で飛び出した。
鋭い大剣の一撃は壊斧の斧で受けとめられる。
(見た目以上に、重いな…)
彼は鍔迫り合いとなると壊斧の手ごたえに違和感を持った。
「風裂斬翔」
彼の隣で女が詠唱を開始して剣を抜くと、彼女の持つ蛇腹剣が意思を持つようにうねりながら処刑人に襲い掛かった。彼はそれを大剣に巻き付けて、その隙に女に接近して素手で殴り飛ばす。
「────!」
防御はしたものの吹き飛ぶ女に、飛び上がり迫撃しようとすると、背後から壊斧の巨大で柄の短い斧が迫って来たので、正装から二本のナイフを取り出してそれをノールックで防御する。
(やはり、重い!)
吹き飛ばされ、壁に衝突しながらその仕組みを考える。
(重量操作系の魔法か。振り上げる時は軽くして、インパクトの際は重くしているな。そして女の方は蛇腹剣を風魔法で強化して操作性と殺傷力を高めているな。恐らく相手は壊斧と風蛇。中々の強者だな)
相手を把握した上で戦法を考えていく。
(出来れば、結界を展開したいが、難しいな。このまま味方を巻き込むわけにはいかない。この腕輪の結界は部屋を結界の外郭とすることでしか範囲を限定できない。この4回には会談場という広いドームしか部屋はない。もし結界に巻き込むなら下の階へ落としたいところだが、適当な誘導に乗るような相手でもないな)
「まぁ、殺せばいいか」
作戦は思案した上での適当。既に処刑人は、ただ適切な状況判断で敵を殲滅する刃へと己を切り替えている。
(結界はタイミングと環境が合えばすればいい)
2本のナイフをその手に持ち、異次元のスピードで跳ねる。
対して風蛇は壊斧と合流して床に手を付ける。
「飛行遊船」
詠唱と共に彼女の周辺に竜巻が吹き荒れる。接近が不可能だと判断すると、すぐに地面に刺さる大剣の方へ方向転換する。
その大剣を手に取ると竜巻が解かれ、壊斧が爆発的な速度で飛んできたので、ナイフ2本を右手で持ち、大剣を左手で地面から抜いて振ることでそれに対応する。
ガキン、と重い金属音と共に、またその攻撃の重さを実感し、そのままの勢いで処刑人は吹き飛ばされた。
(なるほど、体重操作に風の加速を加えているな)
空中に居ながら敵の戦法をより深く分析し、壊斧の足元にナイフを投擲する。
弾いている隙に着地。再び弾けるように飛び出して大剣で首元を狙う。
ナイフを払うことに意識を削ぎすぎた壊斧はその一撃を防御することはできたが、さらにデズトは足を踏み、回避不可能にしてから鳩尾に拳をめり込ませた。
衝撃と吹き飛ぶことはない。しかし、しっかりとした手ごたえがあった。
彼を援護するように蛇腹剣の先が飛んでくるので後退してそれを回避する。
(他の仲間は援護なしで睨み合いか。ウィラノスを警戒しているな。都合がいい。では、
「結界は使わないのか?」
「アレは切り札だ。……お前たちに使う必要はない」
「舐められたもんだな。なぁ、風蛇」
「知りません。もし、舐めてくれているなら上々。このまま倒します」
「いいね」
壊斧はそう言いながら風蛇の蛇腹剣に触れる。
「!」
何が来るのかをすぐに理解した処刑人は大剣を山なりに投げて、低姿勢で走り出す。
彼の目の前には夥しい数の風のカッターが現れていた。
それらをジグザグに走って回避しようとしたが、数発掠ってしまう。
赤い血が風の刃の痕跡と共に床に刻まれるが、それも構わずに接近する。
「こわっ」
冗談交じりに恐怖を発した風蛇は、近づく処刑人へ剣を振ろうとするが、それはするり、と避けられて手と首を掴まれ、一瞬、人質のように見せつけてから地面に叩きつけられてしまった。すぐにデズトはカポエラーのように風蛇の頭を支えにして壊斧を蹴る。
すると彼女を持つ方のデズトの手が風に切られ始めたのを察知して、すぐに転がって回避する。さらに迫撃として壊斧が斧を振り下ろすので起き上がり、バックステップでそれも避けて一息では詰められない距離に着地した。
帝国の二人は処刑人の反応速度とそれに追いつく肉体に驚愕していた。
「どうする?」
風蛇はふっ、と鼻から血を出してから壊斧に相談し始めた。
「攻撃は当たってる。細かく当てて、大きく崩れたタイミングで仕留めるぞ」
再び、風の刃の嵐が彼を襲う。それを先ほどの攻撃で見切った彼は、彼らに接近することなく回避を続ける。
近接戦闘はデズトの方が上であり、何かの意図があるのではないかと考えた彼らは特に攻めることはせずに風の斬撃を彼に浴びせ続けていた。
すると彼は急に、回避した先で、大剣を思い切り地面に叩きつけた。
「場所を変えるぞ」
「「⁉」」
その威力は易々と床を砕いて、彼らを下の階へと連れて行った。彼らの戦いにより床が傷つきも脆くなっていたからである。
「ここがお前たちの死に場所だ。……マイケルだな。この部屋から出ろ」
「了解」
背後の味方の気配に気づいた処刑人は、手負いの仲間を結界に閉じ込めないために退避の指示を出す。だが、帝国の二人も不詳者の存在を見逃すはずもない。大事な手負いの敵戦力だ。必ず撃破しようとかかるだろう。だが、処刑人がそれを易々と許すわけがない。しかし、処刑人の手負い殺しに対する妨害自体、隙が生じるものだ。
どのように敵を狙うかについての駆け引きが渦巻いている。
数秒の沈黙の後、マイケルは周囲にある穴からではなく、背後にある壁を破った上での退室を試みた。マイケルには風で加速した壊斧の一撃が迫り、デズトには蛇腹剣がその心臓を穿つために飛んできた。
デズトは大剣を風蛇と彼を結ぶ直線上に突き刺してから、素手で壊斧へと飛び出す。
彼の作戦は、彼女との直線上に大剣を置いて対処が難しい最短距離での蛇腹剣の攻撃を封じた上で、素手で壊斧を対処するというものだった。もしこれが成功すれば、マイケルが部屋から出た瞬間に結界を展開し魔法を封じ、蛇腹剣の殺傷力を減らすことが出来るという算段だった。
「来たな!」
しかし、壊斧はそれに対して喜ぶように振り返ってその斧を振るった。
どうやら帝国所属の二人は、援護に向かうデズトが狙いだったらしい。
だが、その策略だけでは処刑人は傷つかない。刃を肘と膝で挟むことでそれを受け止める。
「刃をこの手に」
マイケルが部屋を出た瞬間に、腕輪に言葉を紡ぐ。
展開される魔法を封じる結界。
部屋が黒く染まるその瞬間に、壊斧の歪んだ笑顔が見えた。
(なるほど、対策があったか)
その笑顔の意味を読み取りながら処刑人は斧の振られる勢いを利用して吹き飛んでいた。
壁に衝突する間に、結界は崩壊し、元居た部屋と同じ風景になる。
「ほら、俺たちの国は魔法道具が特産だろ?だから、作ったんだ。魔法の効果を消す魔法道具。この一点モノだけどな」
そう言って壊斧はポケットから透明な宝石を取り出した。
この宝石は、元は透き通るような緑色であったが既に効果を発揮して透明になっている。
「そうか。それだけか?辞世の句は」
腕輪には、もう魔力がないことを確認する処刑人。しかし、その殺意は一切衰えない。ここは彼の実力が十二分に発揮される狭所。また、巻き込む相手ももういない。
彼らは目撃する。非才の超人その真価を。
(この程度では死なない。俺の刃として終着点はここじゃない)
「軍務卿、西方に五千の大軍が突如現れました!」
軍務卿の執務室に衛兵による緊急通信が入る。
ワ―サイトの皇帝のアレムが戦争を宣言した瞬間に、ファーモットの方でも動きがあった。城下町の西方に突如、五千の軍勢が現れたのだ。
大軍の軍靴の音は徐々に近づいており、まさに地獄へのカウントダウンのような緊迫感が城を守る全兵に走る。
「相手は誰だ⁉」
「旗にはワ―サイトの紋章が!」
衛兵は焦りながらも冷静に敵の正体を述べた。その『ワ―サイト』という言葉に軍務卿サバス・ナイトは武者震いをする。
(恐らく、移動魔法だ。かなり本腰を入れてきたな)
本来、この世界での移動魔法は運ぶものとその大きさに比例して難易度と消費魔力が高くなる。それこそ大軍を移動するなら、魔法道具についてのノウハウがあるワ―サイトでも貴重な魔法道具を年単位で運用してやっと実現するものだ。
「そうか、では手筈通り俺一人で出る!他の者は遠距離の魔法で雑兵を減らすんだ!」
軍務卿は執務室の窓から飛び出して、西方から行軍する敵に向かっていく。
「4つの盃をソラに。我は防人なれば」
これは軍務卿が北嶺探査により手に入れた獣の魔剣。
「血は道標 肉は剣 掲げるは魂の御旗」
持つ者の力を喰らい、糧とする。
「森羅万象をこの手に。魔剣 抜刀」
詠唱をにより男は魔剣を解放した。
「杯をこの手に。我は贄となる」
ソレはファーモットの軍務卿に代々継承されるナニカ。
「満ちて。満ちて。溢れ瞬く。」
辺りの魔の力を否応なしに徴収する。
「力をこの手に。聖剣、解放」
詠唱は完了し、ナニカは剣の形で解放された。
二つの剣の詠唱を完了した彼は、堂々と大軍の目の前に姿を現した。
(さて、会談の方も上手くやってくれるといいが……)
大軍の先頭には3名の帝国の精鋭が、軍務卿を仕留めるために歩みを進めている。
「ファーモットの軍務卿、貴方の見せてもらいましょう」
その3名は千刃と共にヘットル制圧の際に武勇を轟かせた者たちだ。
彼に語り掛けたメガネの男は『
その右隣にいるポニーテールの女剣士は『
『龍花』の左隣にいる、両前腕に鋭い爪の付いた盾を持つ男は『
3人の強敵を目の前にしながら、軍務卿は自身の存在の行く末に思いをはせていた。
(ここじゃ終われない。俺たちが死ぬのは、平和な国のベッドの上だろ。デズト)
軍務卿サバス・ナイトは、特別処刑人デズト・キルアライトと交わした、砕けかけた
五カ国会談の会場の3階にて処刑人が帝国の精鋭二人と激闘を繰り広げている。
処刑人の異次元の瞬発力は弾けるという表現では
しかし、ただ捉えられないだけで殺されてしまうのならば、とても軍事大国の精鋭だとは言えない。帝国の風蛇と壊斧は己の魔法と知略を用いて暴力に拮抗していく。
既に2階に避難したマイケルはその壮絶さに驚きながらも、息を整え必要ならばいつでも介入できるように準備をしていた。
大剣による斬撃、四肢による殴打、全てが無視できないダメージを与える攻撃が死角もしくは不可避の状況から繰り出される。それらの一撃が帝国の者たちに命中するごとに、拮抗は崩れつつあった。
処刑人も3階へ降りた頃に砕けた円卓の辺りにいる者たちに動きがあった。
「さてどうしようかな?」
サイコルはキャプラとネゴシの守りを任されたものの。好き勝手動いてどうにかなる局面ではないことは理解していた。
(どうしようか)
それはウリエルも同じ考えであり、彼女は頭の中でこの状況をどう乗り越えるかを思案していた。
(え────)
すると突然、彼女の腕時計に予想外の厄災の反応が示された。
ファーモットから見た北、ドラゴンの住処よりもさらに北にある半島に生息する休眠状態の厄災が覚醒し始めた。何故、今このタイミングになって目覚めたのか、彼女には心当たりがある。
(まさかエルフを操っている奴らと連動して───!)
混沌状態に新たに加わる超国家級の厄災の覚醒により、彼女の精神は混乱状態に陥る。目の前の修羅場と遠方の修羅場、そして超大陸級の敵との決戦。何が最善の手段なのか。一つのミスが崩壊を招きかねない状況だ。
(北方の厄災の情報は無視すべき?そもそも現状でこちらは手一杯。でも、もし寄生生物と関連しているなら『洗脳し乗っ取る』能力を持っているはず。対策をしているとはいえ、そんな厄災に先手を打たせる訳にはいかない。でも、そんな戦力……理事会に援軍を要請すべき?でも厄災の詳細が分からないから────)
そこに一条の光が差し込むかのような、テレパシーによる通信が入る。
(ウリエル!そこのエルフは俺が引き受ける!それと、回生の宝玉は俺に!)
クロノ・ノーデンスが戦局を変える一手となろうとしていた。
司令「『クロノ・ノーデンス』か……」