【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告   作:新川翔

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▢▢衝動

 

 

『クロノ・ノーデンス』に関する報告書

 

 

「『世界渡り』の技術を持つ神野科学研究所での調査を経て、注目すべきレポートが発見された。あちらの世界の『世界渡り』の技術は大変興味深い内容であり、我々の技術の発展にも大きく寄与するモノだろう。だが、それは今回の議題ではない。いくらか質問をするぞ。ウリエル」

 五カ国会談の数日前、ウリエルは彼女の所属する多次元宇宙安全保障理事会の司令室に呼ばれ、ガブリエルにからの質疑応答が行われていた。

 

「クロノ・ノーデンスについてだ」

 

 今回の調査の結果、ロックされた実験体の観察日記が発見された。

 調査隊はそのロックを解除し、中身を閲覧した。そして、研究所が保有していた5体の実験体に関する記述を確認することが出来た。特に目を引く記述があったのは、実験体第5号クロノ・ノーデンスの自覚のない破壊衝動(・・・・)についてである。

 彼は『世界を救える人間を作る』というプロジェクトの一環として作られた人造人間の内の一体だ。コンセプトは『神に迫る人間』。そのため、体は非常に頑丈に作られ、さらに体が成熟すると小型化された次元移動装置が付けられた。彼は受精卵から作られて健やかに成長するはずだったが、3歳の時にその破壊衝動が発覚する。

 どうやら、ふとしたタイミングでモノを壊してしまうらしい。簡単なコップなどならまだマシだが、施設の壁を破壊し、他の実験体を傷つけたことも、隕石をワープさせて山を破壊したこともあったようだ。隕石の件で死傷者は出なかったものの、この衝動を問題視した研究所は、彼を生み出した科学者夫婦を責任者として重点的な教育を開始。

 そして彼は外付け(・・・)の道徳心を獲得した。

 それが作用して彼は一人となっても、どんな状況においても優しい人間となった。

 

 しかし、その破壊衝動の根本が解決されることはなかった。

 

 何しろ動機がない。

 まるで神のように、彼は無意識に人を害することがある。まさにこの衝動は本能と言えるだろう。

 だからこそ、研究所の者たちは愛をもって彼を育て、彼はそれを受け取ることで、その衝動を理性によって選択しないという判断ができるようになった。

 また、本人が自罰的になることを避けて、破壊衝動については告げられていない。

 そして観察の結果、破壊衝動がより露呈する環境は、正真正銘の外敵との接敵だと判明した。

 

 

 

 

 

 五カ国会談の最中、マイケルの勝負が決し、処刑人が3階で激戦を繰り広げるその時、砕かれた円卓に『世界渡りの権能を持つ男』クロノ・ノーデンスが穴から降り立つ。

 

 以前は恐怖心があった。だから足がすくみ、本能的に衝動へのスイッチが入らなかった。

 だが、今は違う。今の彼はトラウマから立ち直り、衝動を縛るものが理性しかない。

 そして彼の理性は目の前の敵を悪だと判断している。

 降り立った男が、皇帝をどこかへ連れ去った者だと判断した、帝国所属の筋骨隆々で大砲を持つ男は、その砲門をクロノに向けた。彼の名は『爆筒(ばくとう)』。その殲滅力でワ―サイトに反逆した7つの村を滅ぼしてきた。

 砲門からは炎と風の魔法が込められた玉が発射されるが、クロノはそれを、世界を渡る穴を用いて彼の左隣へと移動させる。

 

「なっ!」

 

 自身の砲撃を受けた爆筒は、そのままホールの端まで吹き飛んだ。

 

(北の厄災が目覚めた。多分、マイケルの言う寄生生物と関連してる)

 

(なるほど、なら俄然、エルフに寄生している奴らを対処した方が良さそうだ。あちらはまだ余裕はある任せてくれ)

 

 ウリエルのテレパシーによる報告を受けて、クロノは殲滅する対象を決定した。

 

「我々に従え」

 

 長老は椅子に座りながら虚ろな目で相も変わらず同じ言葉を繰り返している。

 

「お前たちのボスを出せ」

 

 対してクロノも長老の話には耳を傾けずに、淡々と自身の聞きたいことだけを話している。

 

「我々に従え」

 

「本体?頭目?なんでもいい。ここの北東にあるモノはなんだ?」

 

「我々に従え」

 

「それと、お前たちの正体はなんだ?ドラゴンどもも知らないらしいが」

 

「我々にした──「レッド・バルチャー」

 

 クロノがそう唱えると、彼の背後から一つ穴が現れて赤い光線が長老の腹を貫いた。彼は既に理事会から借り受けた様々な兵器を使いこなしている。

 しかし、腹に穴が開き、たらり、と青い血が流れても、エルフの長老は痛がる様子は見せない。

 

「痛みは感じないのか?洗脳というより寄生による乗っ取りの可能性が高いな。だろ?」

 

 望む答えが返ってこないので、彼は砕けた円卓の破片を踏みしめながら、歩みを進め威嚇し始める。

 

「待て!」

 

 すると、長老の左隣にいたスレンダーなエルフの女性は、クロノを止めようと彼らの間に入ろうとしたが、その一歩目を踏みしめたところで後ろから首を掴まれてしまう。

 その手はクロノが右腕を、穴を通して彼女の背後から出現させたものだ。

 

「冷たいな。それに血も流れていない。死んでいるな」

 

 そのまま一度強く首を握ってから手放しても、その女は倒れることはなく彼に走って来た。

 

「レッド・バルチャー」

 

 彼がまたそう呟くと、穴から赤い光線が放たれて彼女の膝と肘を貫通した。そのため彼女は動けなくなり、その場に倒れることとなる。

 そして長老に対して瞬時に距離を詰めて胸倉をつかみ、前方の穴へ放り投げた。

 圧倒的な光景を見た長老の右隣にいた得体のエルフの女性は逃げるように走り出したが、彼女の前に帝国の人間が立ちはだかる。

 

「逃がすか。お前くらいは。こちらで確保させてもらう」

 

 彼の名は『軍星(ぐんせい)』。同時に5つの殺戮衛星を操る物体操作魔法の天才。

 それぞれの楕円の衛星が魔法を断ち切る槍の穂先を備えている。

 その衛星の一つ一つが逃げたエルフの自由を奪うために、正確無比、疾風怒濤に襲い掛かる。それに対して、エルフは右手の五本の指を毛の束に変形させてそれぞれの衛星に放った。

 結果、エルフの変形した指は5つの衛星を捉えることに成功した。

 

「その程度で……グハッ!」

 

 軍星は何か策を発動させようとすると、顔から血管が浮き上がらせ、血を吐き出した。

彼はその場で片膝立ちになり、赤い血はべしゃり、と彼の足元に落ちて広がっている。

 

「ファーモット!彼らに触れるな!魔法的にもだ!こいつらは俺が連れていく!」

 

 クロノは条件を魔法による接触だと看破した上で、四肢のない女エルフも穴に落として移動させた。さらに、逃走を図ろうとする得体のエルフに対して対策を発動する。

 

八重天雲(やえのあまくも)鳴神(なるかみ)(のつるぎ)

 

 言葉を発すると穴が開き、赤い刀身の剣が電気を纏いながら衛星と繋がる全ての毛を断ち切る。すると、得体のエルフは振り返り、左手の指を毛束に変えてそれらでクロノを襲う。それに対してクロノが反撃しようとした。

その時、彼らの間で炎と風の玉が爆散し、球体の火災旋風が彼らを包み込む。

 

「やったか⁉」

 

 それを放ったのは爆筒。自身の砲撃を受けて傷を負ったが、まだ戦う余力は残っているようだ、更なる迫撃のため、球体に向かって砲門を向ける。

 しかし、その引き金を引くことは叶わなかった。彼の目の前にはクロノの移動する穴が出現していたからだ。

 

「そこか!」

 

 その穴からクロノが出てくるという予想をした爆筒だが、その予想は外れる。

 彼はいつの間にか、彼の後ろに立ち、自由に形を変える戒災礼装『チック・タック・ロット』を長針の形状にして首に向かって振っていた。しかしその刃が実際に首に届くことはない。その刃は砂の塊によって阻まれたからだ。

 

「爆筒下がってろ!相性が悪い!」

 

 砂でできた剣を使い、砂を生み出し操る魔法を使う『砂剣(さけん)』という全身を包帯で男が彼を援護していた。

 すぐに爆筒はその砲身でクロノを殴りつけてから距離を取った。それを腕で受けとめたクロノはその隙に穴を展開して火災旋風ごと別世界に送った。混沌とした勢力図を強制的に分断したクロノは、少しでもファーモット側を有利にするために更なる攻撃に入る。

 

「戦況を、整理しよう。レッド・バルチャー・トマホーク」

 

 すると、帝国の者たちの頭上に再び穴が現れて、そこから赤い光線が五本、それぞれを様々な軌道で追いつめた。帝国のほとんどの者が各々で対処するが、傷によりそれが叶わなかった軍星は体の各所に光線を受ける。

 

「ウリエル!」

 

「分かってる!」

 

 クロノに催促されるよりも早く動いたウリエルは、白い炎を剣の形にして軍星に刺すことで、彼の中の魔力とこれから生み出す魔力のみを燃やす火種を埋め込んだ。

 

「お前たち!この炎に触れるな!魔力が練れなくなる!」

 

 瞬時にその炎の性質を見抜いた軍星は、その危険性を伝えるために焦りながらもホール全体に響くように叫ぶ。その叫びは帝国全員に恐怖と焦りを伝播させた。

 通常であれば、魔法を使う者たちの戦闘において魔力の有無は決定的な差となる。魔法の発動、身体の強化に魔法を使うからだ。そのため、魔法の燃料となる魔力を封じられれば、戦闘不能の状態となるとなる。

 

「闇を祓い──光を灯し──鎖で繋ぐ彼方の運命」

 

 その時、サイコルの詠唱と魔力によるプレッシャーが4階にいる全員に走る。

 帝国の者たち全員が、サイコルが『心読』と『結界』の魔法の天才であるという前情報から何かしらの結界であると結論付けた。

 そのため、軍星以外の帝国の者たちはすぐにサイコルを狙って走り出す。

 

「サイコルを止めろ!」

 

 彼らは遠距離攻撃を選択しなかった。先ほど爆筒が痛い目を見たように、遠距離の攻撃は穴を介して己に返されると全員が判断した。

 そしてサイコルの前にはウリエルとクロノが合流して攻め込む3名の帝国の精鋭たちと相対する。

 最初にこちらに到着したのは先ほどから沈黙、不干渉を貫いていた『五本槍(ごほんやり)』。彼の持つ槍には穂が五つ付いていており、それらには『火』、『水』、『風』、『土』、『雷』5つの魔法が込められており、それぞれを詠唱で解放する必要がある。

 しかし五本槍は、沈黙の間に装填詠唱で詠唱を全て済ませていた。

 

「五つの冠──地に落ちた豊穣の星──ゲッシュオーレンの門」

 

 サイコルが詠唱を行う中、クロノは長針で振り下ろされる槍と撃ち合うと背後に猛烈な痛みが走る。

 彼の背後から床だった場所が土の魔法で針となり彼の背中を突き刺していた。しかも針の部分は炎の魔法で熱してある。

 しかしそれほど深くは刺さっていない。これは彼の体の頑丈さによるものである。

 すぐにクロノは槍を振り払って長針を長くして背中の針を破壊する。

 さらに彼と五本槍の間に八重天雲鳴神剣を着弾させて放電させることで追撃を防いだ。

 また、ウリエルは白い炎の矢を射ることで他の者たちをけん制していた。

 

「秤をこの手に──ばぁん!」

 

 詠唱が完了したサイコルは、右手の全ての指を揃えて爆筒に向けた。そして、「ばぁん」という掛け声と共に、透明な『物体を弾く結界』が弾丸となって爆筒の大砲を粉々に破壊した。

 

「なっ!」

 

「ばぁん!」

 

 爆筒が驚いている間にもう一発、不可視の結界は彼の体に命中して彼は壁に新たなクレーターを作る。そこにウリエルの白い炎の矢を当てることで無力化する。

 

「ははは!こっちはオッケーだよ!クロノ!」

 

 サイコルは少しハイになりながら、まだクロノに次に行うべきことをするように言った。

 

「ああ、任せた!ウリエルも!」

 

「もちろん!」

 

 クロノは寄生生物たちを倒し、覚醒した厄災と関係あるかどうかを調べるために穴に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

(よし、最小限の怪我で抑えられた)

 

 俺は帝国の精鋭たちにここまでダメージを与えられたことに少し喜びながら穴から出て、俺の世界へと移動する。

 目の前にあるのは黒い空、1つの太陽。

 俺が俺の力を120%引き出すための場所だ。

 

「待たせたな……なるほど、それが本当の姿ということか」

 

 この世界には移動させたはずのエルフたちの姿はもうない。代わりにいるのは、この世の者とは思えない3体の化け物たち。どれも、体長は3~5メートル程だ。

 一体は頭が狼、上半身は人間、下半身は鹿のものだ。ただし足は2本。もう一匹の化け物は草食動物のような歯を持つサンマらしき魚の頭と、そこから骨が伸びて灰色の立方体と繋がっている。また、立方体の底は小さな触手で蠢いている。そして3体目は毛の塊だ。充血している瞳がこちらを伺っている。

 

「お前たち目的は、なんだ?」

 

 言葉が通じるか、年のため話しかけてみる。

 この者たちは突如、服従を要求しこの世界の住民を脅かす存在だ。何としてでも壊すべきだろう。

 

「………」

 

 もちろん返答はない。

 ぐちゃぐちゃにしてやる。

 

「返さない。ということでいいんだな?」

 

 粉々にしてやる。

 

 アレム戦までに使用可能になる兵装のみを使って化け物たちを殲滅することに決めた。

 

(こいつらとあの厄災との関連を調べたい。サイコルに頼むか……?吐いてくれれば一番楽だが……そんな余裕はないよな。ならば壊してしまっても構わないか?確か理事会から借り受けた道具に、『その生命が何をしてきたか』について読み取るものがあったな。それを使おう)

 

 そうか。なら、こいつは、そうしても───。

 

(なんだか。頭の中がおかしいな。)

 

 そんな違和感が一瞬だけ頭の中によぎって、消えると、長針をその手に走り出した。

 

 相手は洗脳を使える。悠長に時間をかけていられない。最良の燃費でこの怪物どもを倒す。

 頭が狼の化け物が腕を振り下ろすが、それは穴を開けて奴の後頭部に当てる。迫りくる魚の頭には八重天雲鳴雷剣の遠隔投下で電流を流し、毛の塊による毛の波状攻撃にはレッド・バルチャーによる光線で対処する。

 後頭部を打った狼の怪物の目を長針で潰し、そして長針を分裂させて、針の先だけ残して俺が離れたタイミングで爆発させる。

 

《ヴぁりゅぎゃああああああ》

 

 狼の化け物の断末魔を奴の頭の上で聞いた瞬間、俺の耳にはどんな声も届かなくなってしまった。

 

(え?)

 

 何が起きたのか、一瞬、理解できなかった。恐らく、鼓膜を潰されたのだろう。

 

(クソ!)

 

 そして反応が遅れたことにより更なる迫撃を受けることとなる。

 俺の左肩が水のレーザーで貫通していた。ちらりと撃たれた方向を見て、未だサンマの化け物が息をしていることに気づく。

 

(電撃が効いてないな!)

 

 すぐに長針の形状を変えて、ウリエルと共有している白い炎で灯す。

 

(えぶり)倶利伽羅(くりから)灰立槍(はいたちのやり)

 

 燃やす薪は奴の頭。そう指定して、白炎の槍を投擲して命中させると、雷の剣を、穴を通してして手元に移動させ、出力を最大まで引き上げた雷撃を、剣を振るうことで毛玉の化け物に命中させる。

 

(今は後手に回るな!ただ。何が何でも火力でゴリ押し続けろ!)

 

 狼の化け物に掴まれて地面に叩きつけられる。その力はあの時の処刑人ほど力強い。

地面とぶつかって体の中で壊れてはいけない場所が壊れた気がする。それに俺を掴んだ掌に奴は金属の針を生成していたので、かなりのダメージを受けた。

 でも、構わない。

 

「999式ラムドシアス・マグナム 起動」

 

 音声認識により発射された弾丸は、この世界の遠方から狼の化け物の胸をごっそりと貫いた。

 

(まだ、体は動くな!)

 

 四つん這いになりながら兵装を声で起動させる。

 

「レッド・バルチャー・パルチザン!」

 

 毛玉の標的に20本の赤い光線を降らせてハチの巣にすることで沈黙させる。

 

「ハァ────ハァ────」

 

 最後に苦しんでいるサンマの頭の化け物にも赤い光線の雨を降らせて、全ての化け物たちを完全に沈黙させた。

 

 もたもたしている暇はない。奴らがもう動かないフリをしていることを考慮しながら、慎重に理事会から預かっている記憶を読み取る装置を移動させた。

 スーパーコンピューターのような大きな黒い箱が現れ、自動的に黒いイヤホンジャックのような端子が突き刺さり、その生命の履歴を検索する。

 

(活動開始は……5万年前⁉)

 

 息を整えながら、この装置と連動しているタブレットからこの生物について調べていると目を見張る結果が出ていた。

 

(俺はこの大陸の歴史を見ているのか……?)

 

 彼らは5万年前にこの星に降り立った生物らしい。彼らは体内にある器官から生み出すエネルギーであらゆる事象を実現できる生命で、故郷の星が住めなくなったという理由でこの星に来たようだ。しかし、仲間割れを起こし、殺し合いの内戦が勃発。勝った側は生き残り、負けた側は逃げるか冬眠状態に入ったそうだ。そして、勝った側の個体は環境に適応して進化し、人間やドラゴンとなっていったようだ。

 

(いや、今はそんなことはいい。それよりも必要な情報をピックアップしろ!)

 

 スクロールしながら、会談場から見て北東にいる、覚醒したばかりの厄災と合致する情報を探す。

 

(『生贄がボス個体の力を強める。完全に覚醒すれば敵全員を洗脳できる。また、半覚醒も目前』……か。敵全員っていうのは、この大陸の生命か?…………これだ!座標も……一致してる!)

 

 俺は事態の深刻さをより鮮明にしてから、すぐに覚醒したばかりの厄災の殲滅を決意してそこに繋がる穴に飛び込んだ。

 

(ウリエルの情報と併せて考えると、今の北東の厄災は覚醒しかけている状態だ。それに、完全な覚醒に必要な生贄の量が分からない。それに、今どんな状態かも分からない。今すぐに撃破すべきだ!)

 

 穴の先には青い空。眼下にある雲の合間から厄災の居場所を目視で確認する。

 深緑の森の中に一本だけ大きな石の柱がある。その場所は彼女の調査した厄災の位置情報、そして化け物から集めた情報と一致している。ならば、あそこが覚醒したばかりの厄災がいるはずだ。

 

「エンジェル・アンカー 起動」

 

 人差し指と中指を立てて、俺から見て45度ほど上の場所に構える。

 すると、厄災のいる地点の丁度真上に出現した穴から、巨大な黒い杭が現れた。

 理事会が開発した破壊兵装の一つが厄災にその牙を向ける。

 相手は厄災だ。壊してもいいのなら、景気よく壊してしまおう。

 

「座標設定。弾道計算完了。有効破壊距離確保。規模を対国家に設定」

 

 そうだこいつらは壊してもいいだろ。

 まるで我慢してきたものをやっと解放できるような快感が、すぐそこまで来ている。

 

───このまま、いや、ダメだろ。

 

 オーバーに破壊する理由がないからだ。

 壊すのなら、理由が必要だ。この森一帯を破壊する理由は俺にはない。

 それに、ただこのままこの快感に身を委ねたら何かが変わる気がした。

 すぐに規模を最小限の対都市に落とす。

 そして───

 

「発射」

 

 音にも迫る速度で発射された杭は厄災を完膚なきまでに吹き飛ばした。

 残ったのは黒い杭と、風圧で吹き飛んだ木々と、被害を受けずに力強く立つ木々だけだった。

 

 

 

 

 

 

「私は、彼を信じることにしました。人は本能だけの生物ではありません。理性で本能を凌駕することが出来ます。そして、彼の託された志は尊ばれるべきものです。その志を果たそうとする彼を私は助けます」

 

 あの日、司令室でウリエルは堂々とガブリエルに彼女の覚悟を示した。

 

「そうか……お前の意見は分かった。反対意見など言うつもりはないさ。今の理事会は彼をそれほど危険視していない。厄災認定はされていないからな。それでは、もし彼が道を違えたらどうする?」

 

 対してガブリエルは特に反対せず彼女に同調した。彼の対応はとても義務的なものであり、興味のなさそうな形だけの質問を行っているように見える。

 

「私が対処します。既にそのような契約はしています」

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