【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告   作:新川翔

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過去殺し

 深海の獣はパン、と手を合わせる。

 

【さて、これでどうだ?】

 

 すると辺りにある水が魚の形に変わり、その全てがアレムに向かって飛んで行った。全ての魚は弾丸に匹敵する速度と破壊力であるが、彼の鎧を前には意味を成さない。アレムの纏う灼熱の鎧は、水を一瞬で蒸発させてしまう。

 その様子を見て尚、クアラの勢いは衰えない。右手に質素な水の剣、左手には水のラウンド・シールドを持ち、標的の首を狙っている。

 

 それに堂々と待ち構える皇帝は兜の中から、殺意を向ける彼の目を無表情で見つめていた。

 

 先手はクアラだった。

 水の剣を、首に向かって振るう。

 しかし、それはバックステップで避けられる。クアラの剣速は至高のものだったが、至高程度なら、アレムは簡単に避けることが出来る。

 

(避けたな───!)

 

 しかし、初撃を避けられたくらいで彼は落胆しない。むしろ兜の中で彼は、絶望の中に光を見つけたようなにやけ顔で喜んでいる。

 

(奴の戦いのスタイルは問題なければ受けて、危険があれば避けるというもの。奴が避けたということはこの剣は、奴に通じるということ……!)

 

 彼の剣と盾は鎧を変形させたもの。普通の水を変形させたものとは訳が違う。

 そのまま彼らは互いの剣を躱しながら攻撃を繰り返す。

 互いの攻撃による余波が辺りに被害を与えていく。

 ただ、その被害には明確な差があった。クアラの石の柱を傷つけぐらつかせる程度だ。しかし、アレムは違う。彼の攻撃した先にある石の柱が何本も切れて倒れている。

 

(やはり、破格の攻撃力だ)

 

 その様子を見ながら支援の準備をしている深海の怪物、ディーオリトンはアレムの力に驚嘆していた。この石の柱は例え大気圏に突入しても壊れないほど、丈夫に作られている。それをいとも容易くバサバサと切っていくアレムの攻撃力は、クアラの言う通り山を割ることもできるだろう。

 切り合いをしている中、アレムの背後にある水の表面からディーオリトンのような形をした水の塊が現れ、彼を羽交い絞めにしてから水球へと変形した。そのような拘束、皇帝なら一瞬で蒸発できる。

 

 しかし、その一瞬でクアラは攻撃の準備を完了できる。

 

「───我が剣は大海を割る」

 

 詠唱に呼応して彼の持つ剣は大きく姿を変えた。

 柄は変形して拳を覆い、その剣はサーベルのように変化する。そして、そのサーベルは次の一撃のために、周囲から水を吸収し始めた。

 

 水の檻が解放された瞬間、その抑圧を解放する。

 

 放たれたマッハなど優に超える速度のジェットカッターに対し、アレムは遅れながらも攻撃を間に合わせてみせた。

 しかも威力は互角、爆発のように弾ける水蒸気に2人は包まれる。

 

 視界が悪くなったその瞬間、クアラの目の前に大きく分厚い大剣が霧をかき分けながら現れた。勿論、アレムの大剣である。

 その一撃をギリギリのところで躱し、カウンターを放とうとすると、腹の衝撃と共に吹き飛ばされた。

 

(カウンターを前提として……!)

 

 腹にパンチを受け、柱を貫通しながら吹き飛んでいくクアラ。それに地面を割る一回の跳躍で追いつき、追い打ちをかけるアレム。しかし皇帝の迫撃は叶わない。

 クアラの水の鎧からディーオリトンの腕が生えてきたのだ。予想外の攻撃であったため、片手で受けるも吹き飛ばされる。

 怪物はそこからさらに、にょき、とまるで植物のように鎧から全身を生やしてから、水の球体にクアラを入れることで受け止めた。

 

(水があればどこでも移動できるのか?しかも一撃一撃が重い。さすが伝説の怪物だ。しかもクアラも侮れない。あの剣、魔力の流れによる水魔法のカッターが鋭すぎる。鎧の上でも少しはダメージを受ける)

 

 吹き飛んだ先でアレムは伝説の怪物、そして親友に対する分析を行っていた。

 対して怪獣も、アレムを殴りつけた際に焦げてしまった手を再生させながら、敵の分析を行っている。

 

(海の獣である俺が、触れるだけでこれか。厄介だな。あらゆる攻撃を焼き尽くす鎧。そして万物を破壊する神器。徒手空拳もかなり脅威だ)

 

 そしてクアラは───

 

(仕留める!)

 

 何も考えることなく自身の目的のために駆けだした。

 

「珊瑚の樹!」

 

 水球から解放された瞬間に詠唱だけを行って弾けるように飛び出した。

 すると迎撃態勢を取ろうとした皇帝に対して全身の行動を制限するかのように珊瑚が生えた。それは彼の動きを一瞬だけ拘束することに成功する。そして、その一瞬だけでどんな攻撃が来るのか理解することは出来る。

 剣を振った時に放たれる豪炎のレーザーを見切って避けて、滑り込むように一足一斬の間合いに入る。

 

 そして再び始まる剣技の応酬。

 次元の異なる豪快な剣技を、クアラはなんとか躱していく。

 そして、繊細な剣技のどれもアレムには届かない。

 挑戦者(クアラ)に不利の拮抗状態。それを崩すのは国を呑み込む怪物。

 

【変化を与えようか。深淵に誘う黒い波】

 

 彼らが剣を交えていると、高さ15mの大波が現れた。

 

「……!」

 

 皇帝は剣技に対応しながら、そう来るかと驚いている間に波に巻き込まれる。

 

(オレの鎧の温度で蒸発しない。特殊な水だな)

 

 アレムは炎の鎧の魔法の出力を上げて、揺らいだ鎧の形を整えながら、辺りの水を蒸発させようと試みたがそれは叶わない。彼を包むのはディーオリトンの住処である深海の神殿の水だ。彼の魔法で強制的に水圧を上げることで蒸発させにくくしている。

 

【海の恐ろしさを教えてやる】

 

 怪物がそう告げると、皇帝の周囲にはサメやクジラを模した怪物たちが現れた。最初の魚の大群たちとは卓越している。それぞれの破壊力はいわば大砲レベル。それらが問答無用、間髪入れずに皇帝へと襲い掛かった。

 クアラは波に呑まれた際に、その勢いを利用してその場から一時離脱しその様子を眺めている。

 

 そして彼は目撃した。自身が不利なフィールドであっても、その威光を武で知らしめる皇帝の姿を。

 怪物たちが剣の一振りで消滅していく。

 そして怪物たちが数を減らすことで、どうしても生まれてしまう隙に皇帝は詠唱を行う。

 詠唱は口元にある水を高温度の炎で燃やして蒸発さることで、詠唱のためのスペースを作り出してから行っていた。

 

「顕現せよ。焦熱界」

 

 言の葉によって展開される、太陽が現れたと錯覚するほどの爆発。

 轟音によって辺りにいる水の化け物諸共、彼を呑み込んだ分の水は全て吹き飛んでしまった。

 クアラが纏っている鎧を除いて。

 爆発が終わり、彼の水の攻撃が到達できる温度となった瞬間、水のレーザーが皇帝に向かって発射された。

 しかし、その凶弾は皇帝の手によって払われる。ただ、小手の部分の炎は確実に剥げてその左手が見えていた。クアラは確実にダメージを与えたことに喜びながらも、それがダメージと言えるのかどうか、またこのまま目の前の脅威を撃破できるのかという、途方もなく長い道のりに笑っていた。

 しかし、その笑顔は絶望からくるものではない。希望からくるものだ。

 

「剝がせたな。…それに、その鎧の突破方法も理解できた」

 

「そうか……言ってみろ」

 

 皇帝は威圧感を放ちながら挑戦者に問う。

 

「その鎧、全てかき消せば消えるな」

 

 これまで全てのクアラの攻撃を防いできた鎧『獄炎』。彼はその性質と弱点を分析していた。

 

(まず、特筆すべきは防御力、というより『攻撃の足切り』性能の高さだ。あの鎧は触れるもの全て焼き尽くす。生半可な魔法だとすぐに焼き切れてしまう。だが炎である性質上、穴は存在する。例えば、そもそも燃えない攻撃であればあの鎧は無視できるだろう)

 

(そして奴の鎧の弱点は、即時再展開は不可能であるという点だ。大きな波に呑まれた際に、奴は鎧の形状維持に魔力を回していた。あの場であれば、鎧を作り直すより、秒単位で揺らぐ鎧を維持する方が魔力の消費は大きい。奴がわざわざ魔力を無駄にするか?それはありえない。つまり奴はどうしても炎の鎧を完全に消したくないということだ。……策はある。殺せせる!)

 

「正解だ。それで、勝ち筋は見つかったか?」

 

 皇帝は動じることなく彼の言葉を肯定し、試練を課すような尊大な態度を取っている。クアラにとってその態度も大変嫌悪すべきものだった。

 

「皇帝ってのも建前だろう?もう少し力を抜け。その隙に殺す」

 

「……そうか、なら力はより入れておこう」

 

【なんで歓談してるんだ?】

 

 そこに海の怪物が疑問を持ちながら皇帝へ攻撃を仕掛ける。

 現れたのは無数の三叉槍。深い青の槍たちが皇帝の命を消さんがために、地面から心臓目掛けて飛び出している。

 

「よくやった!」

 

 クアラは礼を言いながら、攻撃を跳躍で回避する皇帝に向かって斬りかかる。

 

「そう来るか!」

 

 すると彼は槍の雨に向かって左手を突き出して、そこから炎の光線を出して全ての槍を殲滅した。さらに、向かってくるクアラに対しては手を振って光線を当てようとする。それに対してクアラは、剣を光線に当てて水蒸気爆発を起こして強制的に移動することで回避した。

 そして、爆発の勢いも乗せることで瞬く間に接近。再び二人は剣戟を始めた。

 ただ、皇帝優勢の仮初の拮抗状態には変わりはない。

 そこを崩すのはやはり、海の怪物だ。

 怪物はクアラの鎧から拳を出して、その場に現れる。

 そこから二対一での近接戦による皇帝攻略が始まる。連携により隙の無い確実な攻撃が続けられていくが、何発か攻撃を当てることは出来ても、効果的なダメージを与えることは出来なかった。

 互いに決定打を与えることのない拮抗。

 その拮抗に皇帝はため息を漏らす。

 

「この程度か?」

 

 自身が押せば崩れる拮抗は彼にとって大変つまらないことだった。だが彼自身にも思惑があるからこそ、その拮抗を崩そうとしなかった。

 

「そろそろ飽きてきただろう?」

 

 代り映えのない剣戟の中でクアラがそう言うと、怪物が皇帝の足を地面から掴んだ。

 

(まさか、地下水のように地面の中に水を仕込んでいたのか!)

 

 皇帝はすぐに怪物の腕に刃を通したが、その腕が切り落とされることはない。

 

「この再送能力、本体か!」

 

 さらに怪物の力は非常に力強く、簡単に抜け出せるものではない。

 

「水面より穿つ群青の槍」

 

 その隙に行われる詠唱。

 天という青い海から放たれるのは、水でできた巨大な三叉槍。

 その巨大な槍の中には幾千もの実物大の水の槍が獲物を殺さんと漂っている。

 

「……そう来るか」

 

 皇帝もその槍なら炎の鎧を破壊出来るだろうと考えていた。

 だからこそ対策を発動させる。

 

「顕現しろ。焦熱界」

 

 大波に呑まれた際に発動させた大爆発。

 余人では骨も残らず灰になる火炎によって、皇帝は周囲にある全ての障害を焼き尽くした。

 天から放たれていた槍は跡形もなく消え、超国家級の怪物であるディーオリトンは水のなくなった地面の上で傷だらけで倒れている。

 

「……決心もできた。さて、終わらせるぞ」

 

 皇帝は自身に立ち向かった、彼にとっての親友に対してその命を絶つためにゆっくりと歩みを進めている。その表情は兜の上からでは伺うことは出来ない。

 クアラは爆心地から少しだけ遠かったことと、鎧による防御によって、鎧は消滅し全身に火傷を負いつつも、その二つの足で立っていた。

 

 ただ、別の要因のせいで彼は動けないでいた。

 

 爆発から身を守っていたその時、全ての魔力を水による防御に使用したその瞬間、彼の心臓が灼熱の剣によって貫かれていた。

 

(来たな。あの鎧に次ぐ、俺の知らない手札が!しかもこれは、装填詠唱か!)

 

 ここでまだ死ねない。そう考えているクアラは冷静に状況を分析し対処しようと試みる。

 業火の剣は体内を焼いて風穴をぽっかりと開けてから消えていった。

 

 しかし、彼が膝をつくことはなかった。心臓を貫かれようとも力強く、目の前の心残りを抹殺するために立っている。

 

 彼は水魔法のスペシャリスト、『液体を操る』という水魔法の初歩の初歩は当然、マスターしている。

 そして、血は液体だ。

 つまり彼は血液を操作できる。

 

「心臓の代わりを魔法で……!」

 

 しかし、心臓の鼓動通りに血液を送ることは至難の技、まさに職人芸と言うべき美技に皇帝は驚いていた。

 

「まだまだ……終わらん……後悔(お前)を、殺すまで……!」

 

「…………」

 

 クアラの決意が滲み出る言葉を聞いた皇帝は感嘆の感情をすぐに引っ込めて、その兜の中で目をそらしている。

 

「悪い。殺す」

 

 そしてその言葉を発した途端、異次元のスピードで近づき、袈裟切りにした。その一撃は彼の左肩から右わき腹まで割く────はずだった。

 

 彼の刃は左肩と肺を割くだけで完全に胴体を切断することは叶わなかった。

 

(魔法が発動しない?それに、オレの刃が水で受けとめられている?)

 

「ディーオリトン!」

 

【分かっている!】

 

 その呼び声に傷だらけの化け物は呼応する。

 これが彼らの、命を供物にする最後の切り札だ。

 

「儀式魔法か⁉」

 

「ああ、死んでもらうぞ。アレム!」

 

 皇帝はすぐに彼らの行うことを察知し魔法を発動させようとしたがそれは叶わない。

 そして炎の鎧も皇帝の意向とは関係なく端から消え去っていく。

 

 

「儀式魔法 疑似建立 エナリオス天宮」

 

 

 儀式魔法とは様々な段階を踏んで発現させるこの世界における最高位の魔法。

 魚群と珊瑚の召喚、剣舞、大波、詠唱。

 彼らの全ての行動はこの魔法のための準備だった。

 

 効果は世界の法則(・・・・・)を書き換えること。ディーオリトンは起き上がり青い台座に座っている。

 

 そびえ立つは珊瑚の神殿。辺りに満ちるは深海の水。

 皇帝は逃げる間もなく、その影響を受ける。

 

 

 

────そこはあらゆる魔法を水(・・・・)に変換する(・・・・・)

 

 

そしてこの魔法は唱えた者の命も流していく。

 

 

【任せた。クアラ】

 

 彼に服従していた獣は、そう言い残してさらさらと台座から消えていった。

 

 そして残されるのは人間2人。鎧が解除された皇帝と、胸に穴の開いたただの男。

 

(クアラ!)

 

(アレム!)

 

 クアラは水流で体を動かして、水のサーベルを右手で持ち(旧友)を切らんと迫っている。対してアレムもその大剣を力強く握り(親友)を迎え討つ姿勢になった。

 

 

 

────そして、水のサーベルが標的に届くことはなかった。

 

 

 

「心臓を貫かれてそこまで重傷を負えば、本来の実力は出せないな」

 

 単純に剣を振る速度がアレムの方が早かったのだ。

 魔法は解け、儀式が終了する。

 最後の勝負は剣戟などなく、一瞬で終わった。

 

「……」

 

 胴体を両断されたクアラが虚ろな目で旧友を見ていた。

 

「最後に、言い残すことはあるか?」

 

 本能のまま生きる男の顔はどこか悲しげだった。

 これは彼の生涯においてたった一度の感情の吐露である。

 

「……悔しいよ」

 

 

 

「そうか」

 

 親友の言葉を聞き終えた刹那、皇帝は異常な気配を感じた。肌に伝わる破壊衝動。それが彼の背後から突き刺さっていた。

 そして目の前に現れるのは皇帝を誘拐した黒い穴。

 

(どちらか、いや、どちらもか!)

 

 遠い崖、石の森よりも外から神速の竜神ドラガがその刀を振るい、別の世界からは人造神性クロノ・ノーデンスが引き金を引こうとしていた。

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