【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告   作:新川翔

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本能と理性の戦い

「仕掛けるぞ」

 

 石の森の外から戦闘の様子を眺めていた竜神、ドラガは、戦いの終わりを察知して、その人間の体とは不釣り合いな、巨大な三角錐の翼を広げた。

 

「言われなくても」

 

 奴の近くでその戦いを眺めていた俺も、すぐに空中に穴を開けて奇襲の準備を行う。

 クアラの情報により、既に皇帝、アレムの繰り出す技の数々は頭に入っているし、先ほどの戦闘で見せた新技に関しても対策はある。ただ、鎧に関してはここで解除してもらうのが、かなりプラスだ。こちらの強みは速度と手札である。

 故に俺たちが取る作戦は、『少しずつダメージを与えてながら隙を探って大ダメージを狙う』というものになる。少しのダメージでも悉く燃やされてしまう鎧が残されていれば、この戦いはより厳しいものになっていただろう。

 

 

 

 

 

 

 皇帝は予想していた奇襲に対応する。

 背後から迫る竜神の神速の攻撃は、その右手で持つ大剣で受けて、奴諸共力で吹き飛ばす。

 さらに前方の別世界と繋がる穴から放った不可視の弾丸も、奴は直感でタイミングを予想し大剣に当てることで防御。そして、空いている手から炎の光線を出してその先にいる俺に対して攻撃した。

 

 俺は穴の真正面には立っていないのでその被害を受けることはなかったが、俺の世界に残す破壊の規模に、皇帝の破壊力の高さを実感していた。

 

(尋常じゃない破壊力だ。だが、問題はそれだけじゃない)

 

 しかし、俺の一番の懸念はその攻撃力ではなかった。

 

(問題は奴の鎧が再展開される可能性があることだ。奴は装填詠唱を使うことが出来る。恐らく今も、鎧の装填詠唱を行っているはずだ。それがいつになったら完了するかなんてわからない。焦らず、速攻で決着させる必要がある)

 

「今は機嫌が、すこぶる悪い。すぐにお前たちを殺して、会談に戻るぞ」

 

 皇帝の殺意に応じて奴の熱が高まり、その熱により地面が溶け始めている。

 そんな脅しなど意は介さず、赤い輪が皇帝の周囲に現れた。その正体は高速で旋回する竜神の翼より出る赤い煙によるものだ。

 奴がその輪から攻撃が来ること警戒していたので、俺はその意識外の上空から攻撃することにした。

 

「エンジェル・アンカー、起動!規模は対都市。発射!」

 

 破壊規模を対都市に設定した黒い杭が、天から皇帝という一人の人間を狙って射出される。

 防御はすべきでないと判断した奴は、すぐに杭が降りる範囲外に移動しようとしたが、旋回する竜神がそれを許さない。

 

 すぐさま、輪から出ようとする不届き者に激突する。しかし、ドラガの比類なき速度を見切っている皇帝は大剣でそれを受け止めて、その目論見通り、杭の当たらない場所まで移動した。

 杭は落ち、風圧が周囲を破壊しているが、竜神と皇帝には関係ない。

 一番速度を出せる翼を持った人間の形態で、竜神は皇帝を攻め立てていく。

 最高速で繰り広げられる斬撃の嵐に、皇帝は最小限の動きで攻撃を受け止め、または避けていくことしかできていない。

 どうやら速さならば、竜神が優位に立っているらしい。

 

「レッド・バルチャー・パルチザン!」

 

 数百本の赤いレーザー光線を皇帝の回避しそうな方向に壁のように発射することで、回避するルートを潰しておく。

 すると皇帝がとる行動は一つ。

 

「権限 焦熱界」

 

 クアラにも見せた大規模爆発。それで一旦状況をリセットしようとするだろう。

 

 竜神は持ち前のスピードで爆発から離脱して、体をバキバキと変形させ始めた。

 その肉体は膨れ上がり、スケールが一段階進化する。

 ドラガは変身魔法を解き、その身を本来の姿へと戻していく。更に大きくなった三角錐の翼、体長は15メートル、灰色の鱗に黄色い瞳、大地を踏みしめる四つの足、槍の穂が付いた尻尾、長い首に刀のような一本角を持つドラゴンへとその姿を変貌させた。

 

 さらに、その口元には青い炎の玉が現れた。

 俺は爆発が終わった瞬間に攻撃するために、皇帝を囲うように穴を開ける。電磁砲、大砲等、まだ壊されても替えが効く兵装を展開する。

 そして太陽が消えたその瞬間、皇帝に対する全方位攻撃が行われた。

 俺は四方八方に設置した兵器で掃射を行い、竜神は竜形態による青い火球を呑み込み、レーザーのようなブレスを発射する。

 

 しかし、皇帝には傷一つ与えられない。

 轟音と煙の中、一人の男が竜神に向かって飛んでいた。

 

 電磁砲たちはその大剣で弾き、光線は左手に炎魔法を出力することで防いでいる。さらに全ての兵器は竜神のブレスを受け止める際についでに複数の光線を発射させることで破壊していた。

 さらに特筆すべきことは、光線と拮抗しながらその跳躍の勢いを衰えさせていないことだ。つまりこちらとの純粋な攻撃の威力の勝負では、勝ち目がないことを意味する。

 押し合いでは勝てないことを察した竜神は、その姿を人間に戻して刀で応戦しようと考えたようだ。

 すぐ人間体のドラガが竜の腹を刀で裂いて現れて、その大きな翼から煙を吐きながら飛び出している。

 

 三者が互いの敵に向かって飛ぶその瞬間、空に巨大な赤い文様が浮かんでいた。

 

(アレか⁉)

 

 俺はすぐにその魔法の正体を見破って、俺と竜神の周囲に多くの穴を出現させる。

 

「見上げて媚び泣け 叫喚炎刃」

 

 鳥のような文様その目と思われる部分が光り、大剣の形をした炎が雨のように幾千本も落ちてきた。

 いくつか巨大な穴を展開してセーフティーゾーンを作ると同時に、エンジェル・アンカ―を穴に通して回収する。さらに、俺の辺りには穴を複数用意することで炎の雨から身を守ることにした。

 

『エンジェル・アンカー 冷却開始』

 

 俺は杭の準備開始を確認しながら、右手に長針型の剣、左手には八重天雲(やえのあまくも)鳴神剣(なるかみのつるぎ)を持って接近した。炎刃の雨の降る速度はそこまで速いものではない。

 ならば、竜神には止まっているように見えているはずだ。だからこそ過剰なサポートは不要であると判断した。

 

 すぐに竜神は刃の間を縫いながら器用に皇帝に剣戟を行う。対して俺も皇帝の周囲に穴を出現させて、そこから隙を見つけては切り込んでいく。

 この戦いにおいて最もスピードが速いのは竜神だった。だからこそ彗星のような尾を引きながら不規則な軌道で空中から迫っている皇帝へと斬りかかっている。

 真正面からの攻防では勝てないと判断した奴は、超高速の全方位ヒット&アウェイで攻撃を行っていた。このような攻撃ならば皇帝の剣技と渡り合うことは可能だ。

 

 しかし、アレムがわざわざ剣での戦いに付き合う義理はない。

 

「跪け。黒縄眼鏡蛇(こくじょうこぶら)

 

 皇帝の剣を持たぬ左手から無数の蛇が全方位に放たれる。

 だが、その程度では竜神は止まらない。圧倒的な動体視力とスピードにより実現する体さばきと刀さばきで炎刃の雨も含めて全ての攻撃を回避もしくは迎撃する。

 

 しかし、回避だけで手一杯。

 

 皇帝はその隙を見逃さなかった。

 すぐに奴は背中に傷つかない程度の爆発を行ってドラガに急接近。首を掴んで大剣で翼を断ち切ろうとした。

 

「999式ラムドシアス・マグナム!」

 

 ここで竜神の起動力を低下させる訳にはいかない。

 俺が長針の代わりに取り出したのは、銃身が前腕ほど長く、不可視の弾丸を放つ退魔の黒いリボルバー。

 不可視の弾丸で大剣を弾いてから、皇帝の背後に現れてから雷の剣を振るう。

 すると、皇帝はドラガに光線を浴びせてから手放して俺の剣を左手で掴んだ。そのまま腕まで切れないのは想定済みなので電撃での攻撃を行う。

 竜神は刃の雨を受けながら地面に落ちていった。

 

「……くだらない」

 

 奴は掌に血を滴らせ電撃を受けながらも、その剣を放そうとはせず、大剣を逆手に持ち替えて脇の下から俺に向かって突こうとしていた。

 

「うるせぇな!」

 

 腹に大きな穴を開けてそれを回避しながらマグナムの全弾を発射。皇帝は俺の剣を手放して吹き飛んだ。しかし腹に違和感がる。

 

「……‼」

 

 俺の腹には皇帝の炎の蛇が巻き付いていた。

 

(雷で攻撃した時点で……!)

 

「爆ぜろ」

 

 皇帝はスッと手をかざして詠唱を紡いで起爆する。

 爆発の直前、紐が緩んだその瞬間に、穴を使って移動することで、その爆発を全て喰らわずに済んだ。

 しかし、それで済んだとは言えかなりのダメージだ。俺は事前に設置したカメラであちらの世界の様子を見ながら深呼吸をした。

 

(腹は……さすがにもげていないな。出血も、それほど多くない。骨も肉もイカれてない。だが、キツイな)

 

『エンジェル・アンカー 冷却完了』

 

「そうか、なら規模は対国に設定。それとラムドシアス・マグナムは悪魔専用の十字架の弾丸を装填してくれ」

 

 杭の準備完了の知らせを聞いてから次の一撃の設定を行い、さらにマグナムを、弾丸を補充する1m程の黒い金属製の箱の中に入れてから、再び戦場に舞い戻った。

 吹き飛ばした皇帝の周囲に穴を展開しながら、奴の右にある穴から長針で斬りかかる。

 勿論、それは受け止められる。

 

「狂い遊星!」

 

 そこで、他の俺が現れなかった複数の穴のうち、3つから一つずつドローンが出現した。

 それぞれ、モダンで上品な装飾が施されたドローンたちは、銃と短剣のような機構が取り付けられており、それぞれが無視できない威力と速度を持ちながら自動で皇帝を攻め立てていく。

 

 剣の衝突や、実際の切り合いから、皇帝のその攻撃力の高さを実感する。

 二刀流と三機のドローンの手数で一刀の攻防にやっと対抗できるくらいだ。

 真正面から攻撃を受ければひとたまりもないだろう。

 俺は様々な場所に穴を撒いて俺と三機のドローンを駆使し戦っているが崩せる気がしない。

 

 その時、急に炎の刃の雨が止んだ。

 

 上空には傷を負ったが五体満足のドラガが空を飛んでいた。あの魔法の要である、鳥の模様の目に該当する箇所の炎の玉を破壊したのだ。ドラガは炎を操るドラゴンだ。炎には非常に高い耐性を持っている。光線をモロに食らったところで他の者たちよりは、ダメージは少ない。

 

 そして皇帝の背後に穴を出現させると竜神が再び戦闘に参加してきた。

 激しい音を立てながら地上で激しい攻防が展開される。

 

 今は細かく攻撃を行っていき、少しずつダメージを与えていけばいい。

 

 もし、竜神の攻撃が避けられればドローンか俺で追いつめて攻撃すればいい。

 もし、俺の攻撃が避けられればドローンで追いつめて竜神が攻撃すればいい。

 

 綿密な攻撃によって少しずつダメージを与えていく。

 

「地に伏せろ。等殺槍花(とうさつそうか)

 

 近接戦を苦しく感じた皇帝はその場に手を置き詠唱をすると、地面からおびただしい数の炎の槍が現れた。

 

 常ならばこの灼熱の槍を避けるために空中に飛ぶべきだろう。

 

(だがこの槍は苦し紛れのものだ。だからこそ、攻める!)

 

 すぐに足元に大きな穴を展開する。しかし、それは皇帝を連れ去るためのものではなく、槍を回避するためのものだ。俺は足首くらいまでを穴に入れて、俺の世界の地面に足を着け、そこから穴を徐々に広げていく。

 その意図を知らない皇帝は穴の中に移動させられるを恐れて飛び上がる。

 

 その飛び上がりは確固たる隙となる。

 

八重(やえの)天雲(あまくも)鳴神剣(なるかみのつるぎ)!」

 

 先ほどの攻撃で雷は効いていたことからこの攻撃は効く。

 その判断で雷を浴びせる。

 

 そして、雷撃の隙をドラガは見逃さなかった。

 マッハ5で刀を振り下ろす。

 

 それは大剣で受けとめられるが、マッハ5の衝撃は空中で受けとめられるものではない。

 俺はすぐに空に移動して迫撃を行う。

 

「レッド・バルチャー・ハルバード!」

「999式ラムドシアス・マグナム クロスバレット発射」

「狂い遊星3機。接続およびチャージ開始」

 

 1つの島を覆うほどの赤い光線と体内で破裂する悪魔殺しの弾丸が皇帝に降り注ぎ、ドローン三機は連結してエネルギーを貯め始める。

 

(手ごたえは……ある!)

 

 それは俺の目の望遠機能からも確認できた。

 迷っている暇はない。すぐに次の手を打つ。

 

「破山刀 抜刀!」

「遊星槍 投擲!」

「エラドル・エンジン内臓型削斬機投下!」

「エンジェル・アンカー 発射!」

 

 巨人の持つ40メートルの巨大な刀、充電を果たした連結ドローンによる槍のエネルギー弾、鋼鉄の惑星を破壊する重機、万物を貫く杭、それぞれを全てを最大火力で叩き込んだ。

 

 また、ドラガも頭だけをドラゴンに変形させて青い炎のレーザーを皇帝に向かって吐き出していた。

 

 

 

 

 

 俺とドラガの最大火力による攻撃は奴の背後にあるモノほぼ全てを吹き飛ばした。

 

 目を凝らして俺の攻撃がどれだけ効果があったのかを確認する。

 

 そして、煙の中から現れたのは、煉獄の鎧『獄炎』を装着したアレムだった。

 奴はクアラに見せたものとは少し違う、炎のフルフェイスの兜に直線的で棘棘しい鎧を纏って俺たちに近づいてきている。

 

(間に合わなかったか────────────)

 

(だが、このままじゃ終わらない)

 

「ドラガ、行けるか⁉」

 

「ああ、このままヤツを殺す」

 

 するとドラガはバキバキとその姿を変え始めた。

 その姿は先ほどのドラゴンのようなものではない。体のスケールは人間のまま、銀色に光る鱗をその身を守る鎧と兜に変えた。兜にはドラゴン形態に合った刀のような一本角を備え、鎧には黄色いラインが多く入っている。

 さらに俺は鎧のための兵器を用意し始めた。5つの黒い穴を掛け合わせた上で剣の形に変えて、それを握った。

 

「それと、やるぞ。キャプラ」

 

 そして、この戦況を変え得る助っ人を呼ぶ。

 

「はい。お待たせしました。私があの男を捕まえます」

 

 ファーモット保障局局長、法を守りたいと願う女が、青い宝石がはめ込まれたペンダントを首にかけて戦場に降り立った。

 

 

 

 皇帝は『獄炎』を展開し、さらにその攻撃力を消耗前まで取り戻す。

 

 

 竜神はその体を、皇帝を殺すためのものに作り替えた。

 

 

 クロノは鎧を破り皇帝を撃破するための武器をその手にuする。

 

 

 キャプラはペンダントに内包される紺青の鎧とサイコルの援護により、その実力を150%まで引き上げる。

 

 

 

「皇帝!そのくだらない本能を潰してやる」

 

 俺は切り札の剣を振るい、皇帝に啖呵を切る。

 

「……お前たちはただひき潰されていろ」

 

 皇帝は俺たちを無表情に、冷たく見つめてからそう呟いていた。

 

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