【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告   作:新川翔

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衝動坦懐

 クロノ・ノーデンスが会談までの期間に開発した次元を超える剣。

 銘を『雪ノ下』。

 5つのワームホールを掛け合わせて強引に次元のゆがみを発生させ、その最奥に設定した対象のみを燃やし尽くす白炎『ライトニング・ウリエル』を灯すことで、切った対象の内部に火種を届けることが出来る。

 

 白い炎で対象を燃やすには条件がある。それは使い手が対象を観測することだ。

 天使の因子を持たず、『ライトニング・ウリエル』を共有しているだけの彼は、その性能を十分に引き出すことは出来ず、物理的には存在しない魔力を観測出来ない。しかし、彼自身が出来なければ機械に代用させればいい。

 この条件は黒縄眼鏡蛇(こくじょうこぶら)に縛られた際に、魔力を採取することで達成している。

 

 全ての障害を無視し、狙ったモノだけに火を点す魔剣。

 狙った獲物は『皇帝の魔力』。

 白い炎が灯る時間はそう長くはない。 

 

 

 

 

 

「キャプラ、頼んだ」

 

 彼女は既に青い宝石に内蔵されている、どんな形にも変わり魔法の力を高める水の鎧、『紺青の鎧』をその身に纏っている。さらに、サイコルの物体を弾く不可視の結界で四肢を覆っているとのことだから、防御面で心配することはないだろう。

 

「…………」

 

「えっと……大丈夫ですか?」

 

「いえ、仕込んでいた魔法がかなり破壊されていたので、残っているものを探していました」

 

「それで、その仕込みは使えますか?」

 

「はい。もちろんです」

 

「そう、ですか……」

 

 俺はキャプラと会話をしながら、並行して俺が使える現在の手札について考えていた。

 

(理事会から借りた兵装は、もう、この戦闘ではもう使えないな。殆ど一回の戦闘じゃ埋まりきらないインターバルが必要だ。強いて使えそうなのは、レッド・バルチャーと八重天雲鳴神剣か?そもそも、これらの武器が鎧の前には有効的かというと、そうでもない。なら、この奥の手と移動能力を駆使して戦うしかない)

 

 これからの戦闘の方針を考えながら、右手に持つ剣型の穴をちらりと見た。

 

「それじゃあ、よろしく」

 

 そう言い残して俺は、さらに左手に長針を持って、ドラガと皇帝に向かって走り出した。

 俺の持つ黒い剣型の穴、その刃部分の真ん中には白く小さい炎が灯された。

 燃やす対象は奴の魔力。火種を心臓付近にある魔力を生み出す器官『魔力丹』にくべてこの勝負を決する。

 飛び出した俺たちに反応して、皇帝も地面を踏み切り俺たちへと飛んでくる。

 しかし皇帝は衝突前に大剣を振るい、炎の斬撃を俺たちに飛ばしてきた。

 俺は穴を、ドラガは飛行能力を使って避けて皇帝に切りかかる。

 

 そしていざ、衝突しかけたその瞬間、奴は俺たちを無視してキャプラの方へ飛んで行った。

 

(見破られたか!)

 

 作戦を見破られたことを察知した俺は、すぐにキャプラの近くに繋がる穴を開いた。

 

 俺たちの作戦はキャプラの作る一瞬の隙を利用して、奴を追いつめるというものだ。

 

 俺たちと皇帝は超高速で戦闘を繰り広げている。だからこそ、一瞬でも隙が出ればそれは大きなアドバンテージとなる。

 そこで俺たちはキャプラの鎖魔法によって一瞬でも隙を作ってそこを攻め立てる作戦を立てていた。つまり、この作戦はキャプラが要だ。

 しかし、彼女はこの戦いについて行ける程の実力はない。だからこそ距離を取って支援に徹してもらおうと考えていた。

 

「鉄の陽射し。愚者の枷!」

 

 彼女は詠唱で自身の背後に鎖でできた球体と、さらに前方の足元から数十本の鎖を出現させた。

 足元の鎖たちはすぐに皇帝に向かって発射している。

 彼女の全ての鎖は紺青の鎧によってコーティングされているため、例え鎧の上からであっても一瞬動きを封じることが出来る。

 しかし、それは鎖に捕えられれば(・・・・・・)の話だ。

 皇帝は鎖を炎の斬撃で溶かし、そのままの勢いでキャプラの首を掴んだ。

 しかし、キャプラはそれを絶好の好機と捉えていた。

 首は紺青の鎧で覆っているのですぐには焼かれない。

 

「捕まえた……!」

 

 彼女は皇帝の腕を掴み、背後の鎖の塊から全身に鎖を巻き付けた。

 そして、その隙に俺が間に合う。

 すぐに雪ノ下を走らせる。目指すは奴の心臓。

 しかし、これで倒すことが出来れば、これまでの攻防で皇帝は倒れていただろう。

 皇帝は首を持つ手を放し、拘束されながらもその肉体と強化魔法だけで鎖を引きちぎり、俺の斬撃を回避した。

 

 だが、これは確実な隙だ。

 

 それに、これだけの時間があれば竜神が追いつく。

 ドラガは弾けるように接近して、その刀で鎧の上から皇帝を切り裂いた。

 その異次元の剣速でその刀が燃えきる前に奴の背中を傷つけている。

 俺もすぐに加勢に入り、雪ノ下を心臓めがけて突き刺さそうと飛び出す。

 

 その瞬間、胸が熱くなった。

 

(来たな!)

 

 クアラを追いつめた心臓に発生する灼熱の剣。既に俺たちは対策を済ませている。

 俺はすぐに心臓を穴に通して剣を透かし、ドラガは変身魔法で心臓を炎に強くすることで防御した。

 解放された後すぐに距離を取っていたキャプラの心臓には、炎の剣は出現していない。

 ここで彼女を殺さない理由はないだろうから、恐らく、彼女は条件を満たしていない。

 ならば条件は時間だろうか。もしその通りならば、一層決着を早めなければならない。

 

 そして、心臓の剣では俺たちを仕留めきれないことを予想していた皇帝は、振り返りながら大剣を振って一刀で俺と竜神の二人の首を断ち切ろうとしていた。

 竜神は回避をせずに防御を選んだ。

 右腕を首の隣にまで上げて、キャプラの鎖により少しだけ速度が落ちた斬撃を受け止める。

 いくら耐熱性が高いとはいえ、完全に防御できるはずもない。

 すぐに俺は奴の右腕に雪ノ下を走らせて奴に目の前に移動した。

 皇帝の右腕の鎧が白い炎に包まれてから完全に消え去っている。

 

「……⁉」

 

 流石に驚いた皇帝。しかし動揺したところで肉体の冴えは衰えない。

 大剣を手放してこちらに振り返り、俺の顔面を殴りつける。

 それでも、俺はその拳を喰らいながらも両足で踏ん張って、俺の頬に当たっている右腕に小刀に変形した長針を叩きつけるように押し当てた。刀はざっくりと上腕部の骨まで到達している。

 すぐに迫撃に入る竜神に対して、皇帝は右腕を自ら切ることでその場をやり過ごした。

 

「随分と、攻撃が軽くなったな!」

 

 バックステップで距離を取った皇帝に対して大声で叫ぶ。奴が俺に浴びせた拳は、頬骨にヒビを入れるほどの破壊力しかなく、超大陸厄災の一撃とは思えないほど軽かった。

 

(右腕の魔力が無くなったから、体の動きにがたつきが出たな!)

 

 奴が距離を取る間に、文様が刻まれた大剣は俺の世界に移動させて2度と握れないようにした。

 皇帝アレムは炎の鎧の刺々しい箇所と多少の装甲を移動して、右腕とサーベルを作る。

 

「随分と、貧相な鎧になったな」

 

「焼け死ぬ弱者が喚くな」

 

 俺と皇帝の会話をよそに、刀が使い物にならなくなったドラガは、鈍を投げ捨ててから小手に強靭な爪を両手に3本ずつ作っていた。しかし、竜神の右腕はひどくただれている。積極的に使うことは出来ないだろう。

 俺は右頬の痛みを感じながらも、一番前線に立つ。

 

(俺が一番負傷していない。俺が前に出る。俺が壊す。俺が倒す!)

 

「鉄の陽射し、灰の砂漠」

 

 再衝突の合図はキャプラの詠唱だった。

 再びキャプラの背後に鎖の塊が現れた。更に彼女の足元が鎖に変化し始めている。

 皇帝を拘束しようとするキャプラ、それを止めようとするアレム、その皇帝を仕留めんとする俺とアレムによる戦闘が繰り広げられる。

 

────というような簡単な戦いではないようだ。

 

 皇帝は俺たちを狙ってそのサーベルを振るった。何とか避けることが出来たものの、彼のサーベルからは灼熱の斬撃が飛んでおり、その斬撃に触れた地面や石の柱はドロドロに溶けている。

 だが、この斬撃で分かったことがある。

 

(明らかに動きが鈍っている!やはり、消耗している!)

 

 更に皇帝は左手からキャプラに対して光線を発射する。十分に距離があったため、避けることが出来たキャプラは、皇帝の背中にタッチしてからすぐにその場を離れた。

 

「茨の獄」

 

 彼女の詠唱により触った部位から鎖が走って腹に巻き付いてから、地面に蠢く鎖と結びついた。

 

「行け!」

 

 彼女の叫びに応えて皇帝に向かって飛んでいく。

 

「権限せよ 焦熱界」

 

 対して奴は周りにバスケットボールほどの炎の球体を7個、衛星のように出現させた。さらにそれらは、キャプラに1個、俺とドラガに3個ずつ飛んで行った。

 俺は穴を開けてすぐにそれらを別世界へ移動させ、ドラガは自身の身体能力でそれらを避け、キャプラは全身に鎧を巻き付けて防御する姿勢を取っている。

 地面もしくはキャプラに触れた瞬間にそれは爆発するが、威力はさほど高くない。

 しかし、彼女を吹き飛ばすには十分な威力を持っている。

 よって俺たちは再び二対一の近接戦闘に入る。

 

────はずだった。

 

「まだ……終わってない!星の土塊!」

 

 彼女はマーキングに仕込んでいた二つ目の魔法を発動させる。

 

「何⁉」

 

 再び、皇帝は拘束されて、一秒間、空中で鎖を灼熱の鎧で溶かしながら自由落下をする。

 その瞬間を俺たちは見逃さなかった。

 まず、ドラガが爪を奴の目に突き刺そうとしたが、左手で掴んで受け止められた。

 その隙に俺は雪ノ下で左足を切る。すると奴の左足の炎の鎧が消滅した。

 皇帝はそんなことに構わず、竜神の胸をサーベルで切り裂く。ドラガは炎を吐いてやや威力を減衰させたものの、彼の胸が斜めに切り裂かれた。

 さらに皇帝は、ドラガを見ながら俺に向かって左手から光線を出す。

 

(穴が間に合わない!)

 

 ならば守る場所を取捨選択するしかない。

 体をずらしながら、心臓や頭を守るために穴を広げて左腕は長針を変形させて防御する。

 

 結果的には左上半身が大やけどをしただけで済んだ。

 

 そして、その隙に皇帝の腹部を竜神の右腕の爪が突き刺した。その爪が腹を貫いた途端、鎧の熱で溶けてきたので、奴はすぐに爪を分離してその手を放す。

 俺は皇帝の腹部に攻撃が入った瞬間に、奴の鎧のなくなった足を払っていた。

 転んだ皇帝に剣を突き立てようとしたが、ゴロゴロと転んで避けられる。移動先を読んだドラガが顔面を踏み潰そうとするも、回転をぴたりと止められ避けられた。その上、皇帝は両手を支えにしてドラガの頭を両足で挟み、地面に叩きつけた。

 

 そのままバク転の要領で立ち上がる皇帝に対して、俺はすぐに飛び込んで剣を振るう。

 皇帝はそれを気配だけで察知してサーベルを振るう。

 動きが鈍っているからこそ、俺はそれをすれ違うように避けて奴の背後に移動することが出来た。

 更に俺は剣を逆手に持ち替えてそれを心臓に向ける。

 

(ここで倒す!)

 

 さらに皇帝も背後にいる俺を殺すためにサーベルを逆手に持って突き刺そうとした。

 

 

 しかし、その刃が俺に届くことはない。

 

 

 それは奴の胴体がキャプラに拘束されたためであった。彼女の鎖は溶けつつも最高の仕事をしてくれた。

 

 雪ノ下はするりと皇帝の『魔力丹』を貫き、そこに魔力を燃やす白い炎を灯した。

 すると、剣の中の白い炎は、その役目を終えて消え去った。

 貧相になった炎の鎧とサーベルは塵のように消え、ただのアレムがその場に残る。

 

「知るか……」

 

 しかし、鎧と剣が消えても何かを呟きながらその拳で俺を殴って来た。

 

「知るか!オレは!ぶっ!」

 

 それを避けて雪ノ下を消し、拳を握りカウンターを放った。

 さらにドラガは残った左腕の爪を発射して皇帝の足の甲と地面を縫い付けて固定し、爪のない拳でアッパーをする。

 そこから俺たちはボロボロの体で、ハァハァと息切れをしながら、アレムに何もさせないためにバキ、バキ、バキ、バキと殴り続けた。

 数秒間、皇帝は殴られて続けてからぶつぶつと言葉を唱え始める。

 

「あの……景色を……儀式(・・)……魔法(・・)……」

 

「「‼」」

 

 本能に殉じるために、男は命さえもくべるつもりだ。

 『アレムは魔法が使えないはず』

 そんなことを考えている暇はなかった。

 もしここで儀式魔法を使用されたら、俺たちの敗北は確定する。奴の魔力は封じたはずだが、万に一つ、魔法を使えるのならば、何としてでも阻止しなければならない。

 と、一瞬焦ったが、その心配は不要だった。

 

「阻止させてもらった」

 

 キャプラが鎖を火球でできたクレーターに刺していた。

 恐らく、俺たちに飛ばした火球に何か細工をしてあったのだろう。しかし、キャプラの『魔力を封じる鎖』によって、奴が仕組んだ細工は不発に終わった。

 それを目視で確認した俺はその男の顔面を殴り、ドラガは俺と同時に腹を蹴って吹き飛ばした。

 アレムはそのまま吹き飛んで、地面の上をゴロゴロ転がって動かない。

 

「お前の本能が、肯定されるワケ、ないだろ」

 

 ピクリとも動かない皇帝を見て、思わず呟いた。

 キャプラは奴に近寄り、息をしていることを確認してから、すぐに鎖で拘束した。

 

「ワ―サイト皇帝アレム・ヴァルヘル。逮捕」

 

 彼女の、宣言が荒廃とした石の森に響き渡る。

 

「「ハァ────。ハァ────。ハァ────。ハァ────」」

 

 俺たちはゆっくりと息をしながら、拘束されて伏せているアレムの様子をただ見つめることしかできなかった。

 

「クロノ……」

 

 そして、ドラガが息切れしながら口を開く。

 

「次はお前だ」

 

 彼が発した言葉は、明らかな殺意を向けられて放たれたものだ。

 だが特段驚くべきことではない。これは契約で決めていたことだ。

 

「その言葉、そのまま返そう」

 

「おめでト!」

 

 すると、世界を移動する穴から、腰まで伸びる長い緑髪と蛇のような目を持つ女性が賛美の言葉を口にしながら現れた。

 

「理事会の天使ですか?」

 

 その頭に緑の輪っかが浮かんでいること、そして別世界から来たことから理事会の天使であると推察した。

 

「ご名とウ!多次元宇宙安全保障理事会から来たメデュエルだヨ。ウリエルから話は聞いてル?」

 

「聞いてないですね」

 

 今の疲れ果てた頭では気を使うこともできないので、考えたことをそのまま口にした。

 

「マジかい?この崇高で最高の天使であるわたシの名前を……?まぁいいヤ!それよりも、話すべきことがアル。おめでとう君タチ。見事超大陸級の厄災は倒されタ。そしてクロノ・ノーデンス。君を上位特使に任命するヨ」

 

「なんですかそれ?」

 

 知らない役職に任命されたので聞いてみた。

 

「…………マジかい?」

 

 その質問に彼女は困惑していた。

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