【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告   作:新川翔

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衝動嚥下

「で、その……上位特使について教えてたただけませんか」

 

 その場にどさりと座って、体力を振り絞りながら、突然俺を上位特使とやらに任命してきたメデュエルという女性の天使に、彼女の言う上位特使について尋ねることにした。

 いつでも聞いておけることなのだろうが、俺はすぐにでも回復に体の全機能を集中させる休眠モードに入るつもりだ。その前に知ることのできる情報は知った上で、安心して寝たい。

 

「マ、名前の通りサ。理事会の協力者である『特使』。その中で上位の特使を『上位特使』というんダ。そして上位特使には様々な権力が与えられル。その最タルものが上位礼装等の使用許可ダネ」

 

「なるほど、俺の戦略の幅が広がるわけですね」

 

「ザッツライ!今使っている武装もそのママ貸し出し状態にしとクって、指令ガ言ってたヨ」

 

「ありがとう、ございます」

 

「そうだね。それじゃア、詳しい手続きはウリエルがするから、それと、キャプラチャン。ちょっといいかな?」

 

 俺に対して説明を終えた彼女は、くるりと向きを変えてキャプラに話しかけた。

 

「……はい。なんでしょうか?」

 

「そこの皇帝を確実に、閉じ込める檻はあるかナ?」

 

 すると、彼女は倒した側が考えるべき問題を提示してきた。

 これからこの世界では皇帝やワ―サイトに関する裁判や会談が行われていくのだろうが、それ自体に莫大な時間がかかる。そして、それら全てを終えるまでに皇帝や帝国を抑えておける余力はあるだろうか。

確かに、皇帝と戦うことになっても、またこの場にいる全員でかかれば勝てるかもしれない。

 だが、再戦にかかるコストが高すぎる。もし、もう一度戦えば多くの死人を出してしまう可能性がある。それに俺は今後ドラガと戦い決着をつける必要もある。その戦いでどちらかが死ぬ可能性は高く、このメンバーは二度と集められないという世界線も有り得る。キャプラや帝国以外の国としては、皇帝は安心できる場所で預かってほしいはずだ。

 

 俺は安心して休眠モードに入るために、彼女らの話を区切りのいいところまで聞くことにした。

 

「……檻は、ないですね。もしそちらにそのような術があるのなら、預かってほしいです」

 

 キャプラは少し考えを巡らせてから答える。これは帝国以外の人間にとってはとても魅力的な提案だろう。

 

「ならば身柄をコチラに預けさせてくれないカナ?」

 

「それはとても嬉しい提案ですけど……条件がありますよね?」

 

 しかし、彼女はこの魅力的な提案にあまり嬉しそうではなかった。あれ程の力を見せた皇帝を拘束できると言う理事会と、取引するのを躊躇っているようだった。

 まず、無償で身柄を預かってもらえる訳がないという前提のもと、彼女は条件について尋ねている。

 この交渉において、武力、技術力は理事会の方が上だ。脅しによって不平等な約束を結ばれるかもしれない。しかし、こちらには皇帝アレムを拘束し続ける術はない。

 こんな問題をどう紐解くか、短い時間で必死に考えているのだろう。

 

「アハハ……そうだネ。頭がヨぉく回ル。いいと思うヨ。色々と条件は決メた方がいいネ。それジゃあ、その条件について後日、話し合おうカ。それまでは『回生の宝玉』だっケ?それと彼の身柄を一旦交換して、その間に決メルというのは、どうかナ?」

 

「…………」

 

 メデュエルの提案にキャプラは黙り込んでしまった。

 

「ハハハ!ごめんネ。こんな時に。取リ敢えず、会談場で交渉した方がいいカナ?ンなワケでクロノ君!」

 

 その様子を見た天使は少し慌てながら、判断を彼女だけではなくこの大陸にいるトップ全員で話そうと誘導し始めた。

 

「はい……了解です」

 

 俺は穴を使って彼女の頼み通りにここにいる全員を会談場に移動させることにした。

 会談場に繋がる、ドアのように長方形の四角い穴を開けるとそこに全員入っていった。

 

「……お帰りなさい」

 

 俺たちが一団となって帰ると、サイコルが爽やかな笑顔顔でこちらに寄り、俺とキャプラを一緒に寄せてハグをしてきた。

 

「うん。最高だね。あ、サバスさん、帝国の軍勢が来たけど勝ったって。全盤面でこちらの勝利だよ」

 

 彼女は静かな喜びを爆発させながら現在の状況を教えてくれた。どうやら城下町の方も上手くやったらしい。

 また、俺がこの部屋を出る前に居なかった処刑人デズトが、壊れた円卓のファーモットの席の近くに、血だらけで立っている。どうやら、彼も下の階で行われていた戦闘に勝利したようだ。

 

「だれぇ~?あの女性」

 

 オルトは急に現れたメデュエルにオーバーに驚いている。

 

(今日の仕事はここまでかな……?)

 

 思っていたより疲労が溜まっていると感じた俺は、ここにいるメンバーなら良い案を出せるだろうと考え至り、すぐに休眠モードに入る決断をした。

 だがしかし、休眠に入る前にやるべきことがある。

 

「サイコル。ごめん」

 

 一言謝って、彼女のハグから脱出する。

 

「ドラガ。契約の件だが……」

 

 皇帝を倒した後から一言しか話していない奴と、契約である『二人っきりの決闘』について細かく決めるために話しかけた。

 

「僕も同じことを考えていた。契約に僕たちの戦いの期限は設定していない。傷が全快してから協議しよう」

 

 すると奴は詳しいことの決議を先延ばしにしてくれた。

 

「ああ、ありがとう……それと、ウリエル……」

 

 俺のやるべきことは全て行い、肩の荷を下ろした達成感の中、ウリエルに重いものの、気楽そうな足取りで近寄った。

 

「どうした?」

 

 すると彼女はふらふらと歩き続ける俺を受け止めてくれた。

 

「寝る」

 

「うん、お疲れ様」

 

 その言葉が引き金となって、俺のスイッチは一旦バチッと切れた。

 

「ちょっと待ってこの場で寝るなんて……!」

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 目を開けると目の前に女の胸部があった。

 それとはまた別に、空いている窓から柔らかい風と暖かい日差しが部屋の中に入ってくる。体内時計によると、3日ほど寝ていたらしい。

 

「目が覚めたら目の前におっぱいがあるのは、生まれて初めてだよ」

 

(ウリエル、起きた)

 

 そのおっぱいはサイコルのものだった。どうやら俺はベッドの上で膝枕をされているようだ。ついでにウリエルにテレパシーで連絡する。

 正直、この光景に圧倒されすぎて逆に冷静になっていた。

 

「え、クロノそういう語彙使うんだね」

 

「女性の胸部って言えばよかったか?」

 

「はは、いや、別になんでもいいけど」

 

 彼女の言葉を聞きながら、俺が置かれている状況をさらに正確に把握する。

 恐らく、ここはファーモットにある城の病室だろうか。白い天井、白いベッドなどの清潔感のある部屋と、俺の左右に並べられたベッドといった要素、さらに寝た俺が移動させられる場所はどんな場所か、という思考から推察した。左右どちらのベッドにも人は横たわっておらず、清潔にシーツが敷かれている。

 

「膝枕か……。嬉しいよ。ありがとう」

 

「はは、嬉しいってなに……。そう、ここは城下町の病院だよ」

 

 どうやら俺の予想とは少し外れた場所にいるらしい。

 

「そうか、城下町か。ありがとう。それと、嬉しいってのは……自分でも分からない」

 

「ははは、なにそれ」

 

 彼女は膝枕をしながらふふっと笑っていた。

 

「そういえば何分ぐらいコレしてくれているんだ?」

 

「1時間くらい。うっ血しそう」

 

「何やってんの⁉」

 

 すぐに体を起こすと、彼女はさっとベッドから降りて俺の隣に立った。

 

「クロノ!」

 

 すると目の前の扉からガチャリと音を立ててウリエルが現れた。

 

「おはよ!」

 

「軽いね。……びっくりしたんだよ。急に寝たんだから……!まさか死んだんじゃないかって焦ったし」

 

 挨拶しておくと彼女の口から言葉が次々と溢れ始めた。。

 

「ごめんごめ、マジかよ」

 

 感傷に浸らせる暇はないようだ。遠くからキーンという音がした途端、一匹の人型のドラゴン、ドラガが窓から入って来た。

 

「仔細を決めに来たぞ」

 

 どうやら既にドラガは完全に回復したようだ。皇帝戦で受けた傷は全て回復している。

 

「せっかちだな。てか、なんで分かったんだよ」

 

 奴はガツガツと病室を歩き、俺から見て右隣のベッドに座る。

 

「そこの女が連絡魔法をよこしてきた。それだけだ」

 

 サイコルの方を見るとにこやかに笑ってピースをしていた。

 

「それじゃあ、決めるか。そっちから何かあるか?」

 

 俺は話を強引にドラガとの戦いの日程決めへと切り替える。

 

「一週間後、石の森でどうだ?」

 

 ドラガの提案に、俺は否定する意見を持ち合わせていなかったので、同意することにした。

 

「分かった。それでいこう。話はそれで終わりか?」

 

「いや、まだ終わらない。僕の話を聞いてもらおうか……いわば、雑談だ」

 

 決闘の日取りを決めた奴は、雑談を持ちかけた。

 俺にとってはとても意外なことだった。なんとなくではあるが、奴は無駄なことは自発的にしないタイプの生き物であると考えていたからだ。

 

「何を言っているんだ?」

 

「これは重要な儀式だ。口に出すことでお前を強く敵だと認識したい。これはお前にとっても必要なことだろう?」

 

(どういうことだ?)

 

 質問はせずに奴の胸中を推察する。

 下手なことを聞いて逆鱗に触れたら何をされるのか分からない。

 強く敵と認識する、ということは裏を返せばあまり俺のことを敵と認識していないということ。奴は俺に少し絆されていて、その感情をここで殺しておきたいということだろうか。

 

「……そうか。まぁ、分かった。話を聞こう」

 

「そうか。ではまず、竜神についてだ。竜神という役職には役割がない。いや、厳密にはなくなった、という表現が正しい。お前たちは知らないだろうが、竜神とは約5000年に一度、特徴的な羽をもって生まれるドラゴンのことを言う。だが竜神に関してはそれしか歴史が残っていない。きっと何世代も経てその役割が抜け落ちたんだろう。今は漠然と、敬われるだけの存在となった。そこで僕は役割を欲しがった。自分が何者かを知りたかったからだ」

 

 すると、ドラガが急に俺の方を指さしてきた。

 

「お前は俺だ」

 

 その言葉を俺は否定しない。奴の言いたいことは何となく分かっている。

 

「…………そうだな。俺たちは同じ衝動を持っている」

 

 

 そうだ。

 

 何度か奴から浴びせられた破壊衝動。

 

 それと同じものを俺は持っている。

 

 

 今までの研究所で育てられていた時から、じわじわとそれを自覚し始めて、寄生生物の親玉を排除した時に確固たるものとなった。父さんや母さん、研究所の人たちからはそんなことは一言も言われなかったが、あの日々の生活の中で、何となく察しがついていたのだ。

 そして、あの時、この衝動をはっきりと自覚した結果、俺は何も変わらなかった。

 

 あの余分な破壊に興じる感覚はきっと普通ではない。

 

 

 だが、それがどうした。俺はあの時そう感じた。

 

 

 すぐに死地に向かわなければならないため、深く考えることは出来ないという理由もあったが、一番はやはり、俺の生き方を既に決めていたからだろう。

 こんな本能(衝動)などどうでもいい、と心の底から思えるようになっていた。

 

「お前はその衝動を持ちながら人間を助けている。本能を封じて理性に生きているということだ。その手があったと膝を打ったものだ。そういえば、皇帝は本能に殉ずるという生き方を選んでいたな……」

 

 嫌な予感がする。

 

 その宣言をさせたら後戻りが────しなくていい。

 

 むしろ、今すぐにでもこの男の喉元に手をかけるべきだろうかと頭によぎるくらいだ。そもそも、厄介な敵なら今ここで不意打ちすべきなのではないだろうか。

 しかし、その判断を肯定することは出来なかった。今の俺は休眠モードから目覚めて時間が経っていないため、パフォーマンスが下がっている。それに、こんな場所で戦ったら城下町の人々に被害が及んでしまう。被害状況を考えながら戦えるほどの余裕を持てる相手ではない。

 更に、俺が負けた際どうするのかという作戦も立てていない。

 そんな無責任なことは出来ない。

 

「まず、お前を殺し、その後、この大陸を征服して神となる。僕は本能を呑み込んで生きることにした。他の生物を蹂躙するドラゴンとして、頂点に君臨し治める竜神として、僕の目指す世界を実現するんだ」

 

「なるほどな…………」

 

 俺はここで、粒ほどの可能性はあった、ドラガとの対話という選択肢を消した。

 

 

 同じ存在だから分かる。

 

 

 この化け物の言っていることは嘘ではない。

 

 

 そして、竜神は何があっても、どんな言葉をかけられても、この信条を変えることはないだろう。

 

 

「これが竜神として正しい姿なのか。それは分からない。だが、これでいい。僕の役割は山だけでなく、より広く、より多くの場所を制圧し、同胞を増やすことだ」

 

「そうか、まぁ、否定も肯定もしねぇよ」

 

 俺は人の思想の上下を決められるほどの人間ではない。

 ただ、託された理想のために本能を封じ、足掻くだけだ。

 

「それでは、一週間後戦おう。いや、殺してやる。クロノ・ノーデンス。場所は……石ノ森だな」

 

「そうだ。遅れるなよ」

 

 奴は返事はせずにすぐに立ち上がって窓から飛んで行った。

 

「必ず来いよ。俺が、倒してやるから……!」

 

 窓から空へ一直線に飛んでいくドラゴンを眺めながら、無意識にそう呟いていた。

 




クロノ「ウリエル」
ウリエル「どうかした?」
クロノ「俺、なんか普通と違うな」
ウリエル「…………」
クロノ「いや、その、中二病的なソレじゃなくて、いや、セリフ的には……!」
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