【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告 作:新川翔
竜神との決戦の日がついに来た。
一週間も経つと、五カ国会談の後始末に終わりという光が見えてくる。
まず、ファーモット、シーオリトンに宣戦布告をした皇帝は、一旦、理事会で身柄を拘束されることとなり、この大陸の法律で裁判が行われるらしい。
そして帝国に関しても解体が決定した。10年前、彼に族滅させられていたと考えられていたワ―サイトの王族、その生き残りの方々が見つかったらしく、彼らを中心に新たな国を作ることとなったらしい。
俺は城門の前でウリエル、マイケル、キャプラ、サイコル、デズト、ザバスの6人に、準備運動と最後の確認をしているところを見守られていた。
死ななければほとんどの傷が癒える『回生の宝玉』は再使用に3年ほど必要だそうなので使えない。
今の俺には回復手段なく、武装は理事会から貸し出されたものと、獲得したモノだけだ。
だが武装が不十分だとは感じない。上手く立ち回れば勝ちを掴める筈だ。
「もし、お前が負けたら、俺が竜神を殺す」
デズトは俺に淡々と語り掛ける。
勿論、これはもし俺が負けてしまった時に実行される作戦のことだ。
奴は俺を殺した後、この大陸を征服すると宣った。
そして、今の奴は皇帝との戦いを経てより強大になっている。簡単に対抗できる人材などこの世界にはいない。だからこそ、もし確実に仕留めたいのなら、タイミングはそこしかない
「デズトさぁん!これから癖にそういうこと言います⁉頑張ってねー、負けるなー」
サイコルはデズトの発言に突っ込みを入れながら激励の言葉をくれた。
「いや、作戦の打ち合わせだ」
「…………はぁ」
その突っ込みに真剣に返すデズトに、サバスはため息をついていた。
「ああそう。もし負けたのならすぐに負けを宣言してください。すぐに回収するので」
キャプラは彼女らのやり取りは無視して、俺に安心させるための言葉を告げた。
契約では俺とドラガは互いの命を縛りとして、二人きりで勝負をすることになっている。勝負が決する前に協力者を介入させたら、協力者を許した方が死んでしまう。
裏を返せば勝負が決すれば介入は可能である。ということだ。
さらに、今回の契約において勝敗の条件を詳しく設定しなかった。
キャプラによると勝負をして負けを宣告すれば契約は終了するとのことだ。
「頼みます」
確認作業と準備体操を終えた俺は穴を開ける。
「色々、俺が負けた時の作戦は考えたけど……奴は俺が倒す。アレは俺が倒すべきだ」
すぐに振り返って勝利宣言をした。
今の俺の中にあるのは使命感だけだ。
同じ衝動を持つ者だからこそ、アイツはこの手で倒したい。
「ナイス!その通りだ兄弟!とにかくケツ蹴っ飛ばしてボコボコにして来い!」
「そうだね。これからもずっと人を助けるんでしょ。勝って次の世界も救おう!」
マイケルとウリエルはその姿勢に賛同してくれた。
「ああ、行ってくる!」
その言葉に押されながら暗い穴に飛び込んだ。
竜神 ドラガ
生物型 超国家級厄災
理事会はウリエル班の報告により、超大陸級に成長する可能性を認め、当厄災を緊急指定討滅対象と設定した。
穴から出て石の森に降り立つ。
この場所はどうやら皇帝と戦った時とあまり変わっていないらしい。
ワ―サイトから借りた魔力を探知する魔力計と俺の視力で辺りを見回すが、罠らしきものは見当たらない。どうやら、罠は仕掛けられてなさそうだ。
魔力計を穴にしまってから、大剣に変形させたチック・タック・ロットを手に持って耳を澄ませる。
(長くやり合うつもりはない。来いよ。すぐに仕留めてやる!)
(そうだ。同じ衝動を持っているから分かる。奴は俺を倒した先でこの大陸の制圧を実現できるだろう。ならば倒さねばならない)
相手は竜神、ドラガ。俺と共に皇帝を打破した実力者だ。
この戦いに栄光ある勝利は要らない。
俺は人を救う人間としてただ、勝利を掴む。
すると、遠くからキーンという音が聞こえてくる。
(……来たな)
俺は再び、あの破壊衝動を肌で感じた。
「あの時の続きだ!」
大剣を脇構えで構えてから、背後に穴から発射したレッド・バルチャーを滝のように降らせて壁を作り、更に前方180度の至る所に穴を展開する。
ただ一つの直線の侵入経路だけを残して。
背後から来てもレッド・バルチャーを喰らった隙に反撃できる。
穴に入って来たら、むしろこちらが有利になる。
奴の取るであろうあらゆる攻撃に対して、こちらは用意が出来ている。
(さぁ来い!)
黄色い尾を引きながら、竜神は上空で旋回している。
どうやら奴の出す煙が赤から黄色になったらしい。
しかし、変化したのは色だけじゃない。更に奴の速度も皇帝戦の時よりも早くなっているようだ。
旋回速度は指数関数的に上昇し、音の壁を越えながら輪を作る。
鳴り響く轟音、吹き荒れる風に呼応して俺の心臓も緊張で高鳴っていく。
数秒の後、奴はその刃を、ソニックブームをまき散らしながら、俺の首目掛けて振るった。
それに対して、俺は移動せず、ただその大剣を振り上げて振り下ろした。
そして、竜神と衝突する瞬間に、大剣の
黒い装甲が剥がれ,現れたのは『ナスカ・ライへ』。
皇帝『アレム・ヴァルヘル』が所持していた大陸最強の岩盤剣。
その一振りは大地の力を呼び覚まし、直線上のあらゆるものを呼応させ破壊する。
ドラガは並々ならない反射神経でその斬撃を躱すが、大きく体勢を崩し彼から見た左側の地面へ滑っていく。
すぐに俺は大剣を穴に通して、武器を長針に持ち替えて迫撃をする。
『ナスカ・ライへ 充電開始』
この装備は外部から何らかのエネルギーを補給しなければ使用できない。皇帝はその莫大な魔力量ですぐに補給していたが、余程の規格外でなければそのような運用方法は出来ない。
俺の世界ではナスカ・ライヘを自動操縦のロボットが受け取っており、それをすぐに充電装置へと接続している。
長針を振るうと奴はそれを刀で受けとめた。
そして俺はこのタイミングで、素早すぎて捕捉できなかった奴の姿をはっきりと認識する。
三角錐の翼は皇帝と戦った時と変わらないが、鎧と兜の全体のシルエットが細身になっている。恐らく最低限まで防御力を落とした上で機動力に特化しているのだろう。
「狂い遊星」
音声認識により三つの、銃と銃剣の装着されたドローンが起動して竜神に襲い掛かかる。
すぐに奴は持ち前のスピードで目の前から離脱して再び空を飛び始めた。
俺は背後で発動しているレッド・バルチャーの目標を奴に変えて発射した。
互いに勝利ためのビジョンは見えている。
あの時と同じだ。
どちらかの有利な点をどれだけ押し付けるかでこの勝負は決まる。
ドラガはスピードで、クロノは手段で相手を大きく上回っている。
この互いに持つアドバンテージをどう生かして敵を追いつめるか、逆に相手のアドバンテージを自身の力でどう封じるかによって勝敗は決する。
竜神を狙ったレッド・バルチャーによる光線群は、尋常ならざる速度で移動する奴には一発も命中することはない。
(だが、それでいい!)
「
雷を纏う赤色の剣を地面に刺し、名を呼んで力を引き出す。
剣からは黒い雲が発生し、その刃を中心に俺の足元を包みながら地上15cm程の厚さで円形に広がっていく。
更に狂い遊星3機全て俺の頭上で旋回している。
「ほら!とっとと来いよ!」
俺は挑発しながら奴の様子を伺っていた。
この際、レッド・バルチャーが全弾外れ続けていることは一切気にしない。この弾幕は竜神を好きにさせないためにある。なので、あれらの光線は既に役割を果たしていると言える。
すると奴はギュンと軌道を変えて俺に突っ込んできた。
その瞬間、雷鳴が轟く。
剣の柄から雷がドラゴンに向かって放たれたのだ。
(それでも避けるか!)
神速の竜神はそれを初見で回避して見せた。ただそれは無理をきかせたもの。
次の迫撃は避けられない。
すぐに俺はハンマーに変形させた長針を使って吹き飛ばす。
(重っ)
しかし、それほどダメージは響かなかったのか、ドラガは空中で体勢を立て直し、スピードを再び上げて俺に突っ込んできた。
手持ちの武器が重いハンマーであったため、俺はそれを受けるしかない。
(鎧が厄介だな!)
受けるだけにならないために、すぐにドローンたちの銃撃でドラガを攻撃するが、勿論距離を取られて避けられた。
必要最低限に削ったとは言え、奴の鎧にはある程度の厚さがあるようだ。
皇帝と戦う時に見せたような超高速ヒット&アウェイをさらに洗練させた動きで俺の作った陣に対抗している。
さらに奴はそのスピードに雷を回避できるスピードの中でも緩急をつけることで上手く俺を翻弄している。
勘で防ぐしかないスピードと、目で見て対処できるスピードを使い分けることで、ひたすらに俺に頭を使わせて隙を作る方針だろう。
攻防を続けていると、奴のその方針通りに隙が出来てしまい、対応が遅れた個所から、軽くではあるが傷つけられてしまう。
このままではジリ貧で負ける。
ならばこちらから強引にでも攻めるしかない。
俺は嵐のような攻防の刹那に
俺が作ったわずかな隙に、竜神は思案もせずに飛んでくる。
何があっても反応できるという自負があるのだろう。
腹めがけて走る剣先。
その刀を長針で包んだ手で掴んで軌道を逸らせたが、わき腹が少し裂けた。
しかし、その痛みには怯まずに鎧の胸倉を掴む。
「エンジェル・アンカー起動!規模は対国。標的は俺!」
その言葉で、奴は目の色を変えた。
自爆前提の攻撃、という訳ではない。俺の移動の力なら無傷で済む。
そしてこの手札なら、竜神を大いに追いつめることが出来る。
この杭はあの皇帝でさえも直撃を恐れた。
竜神がこの一撃を恐れない理由はない。
だからこそ、奴は逃げの一手を取らざるを得ない。竜神は拘束に手こずりながらも、強引に俺の腕を振りほどいて杭の被害が及ぶ範囲外に飛んで行こうとする。
共闘のためにエンジェル・アンカーの効果範囲を教えていたからこそ分かる。
俺に拘束された秒数、アンカーの効果範囲、奴のスピードから考えて、進むルートは後方一直線。
「尻尾撒いて逃げろ!」
穴から射出される杭には一切ひるまず左手を突き出す。
ルートが分かれば場所も分かる。
ドラガを囲うように数十個の黒い穴を顕現させる。
奴はレッド・バルチャーの雨が来ると判断して回避行動を行うだろう。
だからこそ、赤い光線群の中に忍ばされた、不可視の弾丸が命中する。
「……!」
対悪魔の拳銃、ラムドシアスマグナムが火を噴いた。
鎧を貫くことはなかったが、確実に空中でよろけさせた。
「
その隙に杭の範囲外に移動した俺は、白煙の巨槍を竜神めがけて発射した。
燃やすモノは奴の鎧。
槍はすぐさま竜神の兜と衝突し火を点している。
それを見届けた瞬間、俺たちを土煙が包んだ。これは杭が地面に衝突した際に発生したものだ。
俺はすぐに発射した灰立槍を回収して目を凝らす。
視界一面に広がる茶色い土煙の中、奴の刀がキラリと光った。
その光を目撃した瞬間、俺の首に目掛けて閃光が飛んできた。