【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告   作:新川翔

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眩しい光

「お久しぶりです」

 

 竜神との戦いから数日後、傷を癒して動ける状態になった俺は、キャプラと話をするために、彼女の執務室を訪れていた。執務室の内装はあの時と変わっていない。窓から注がれる日光を背に配置された執務用の椅子と机、その机の前に応接用の机がある。また、応接用の机を挟むように3人掛けの長椅子が向かい合うように置かれている。

 

「久しぶり、と言うほど時間は経っていませんよね?まぁ、そこにおかけください」

 

「そうだね。ま、会えたことは嬉しいよ。やっほー」

 

 俺の挨拶に、部屋に入って仕事をしていたキャプラとサイコルが応えてくれた。キャプラは執務用の椅子に座っており、サイコルは応接用の長椅子の内の一つを占拠している。

 俺と一緒にこの世界に来ているウリエルは、彼女の誘導通りに一緒の応接用の長椅子に座った。

 

「なんで、サイコルさんここにいるんです?」

 

「なんでって、なんででしょーか?」

 

 ウリエルの問いに、サイコルははぐらかしながら答えている。

 

「来るってことを伝えたからだろうが……マイケルは?」

 

「あいつは天使の力について色々あるみたいなんで欠席です。その代わりに彼から伝言です。『シーユー』だそうです」

 

 そして、サイコルのはぐらかしに突っ込みを入れたキャプラからの問いには俺が答えた。

 竜神の撃破と拘束によりこの世界の厄災は全て去った。これは俺の仕事が終わったことを意味する。つまり、俺がこの世界にとどまる理由は無くなったのだ。理事会からも次の世界に関する依頼は届いている。この世界に来るのは最後、という訳では決してないが、会える機会は極端に減るのだから、キャプラには礼を言うための場を作ってもらった。

 

「そういえば、軍務卿とデズトは?」

 

「彼らは仕事です。皇帝の派閥の残党が暴れているのでそれの処理をしています。こちらも連名で伝言を預かっています。『お疲れ様』だそうです」

 

「そう、ですか……。まだまだ後処理はかかりそうですね」

 

 俺はキャプラから軍務卿とデズトの伝言を受け取る。俺たちが戦ったのは大国なのだから、もちろん残党も多くいるだろう。

 

「帝国に関しては数か月かかりそうですね。ですが、理事会の助けになるような事態は起きないと思います。そちらは引き続き、アレムの拘束をお願いします」

 

「もちろんです。それと、理事会の協力体制は万全です。もし何かあれば頼ってください。連絡は以前渡した、その黒電話で」

 

 ウリエルはそう言いながら彼女の机の上にある黒電話を見ていた。

 これはこの世界と理事会を繋ぐ連絡装置だ。受話器を取ればすぐに理事会のコールセンター―に繋がるようになっている。

 

「それは……分かっているよ。ありがとうウリエル」

 

「クロノ~、指大丈夫?」

 

 キャプラが急に話題を変えてきた。どうやら竜神戦で切断された俺の左手の指が気になるらしい。

 

「大丈夫。あとすこしすれば完全に回復する」

 

 俺の左手は、包帯でぐるぐる巻きにされている。また、切られた指たちは理事会の技術で再生させることが出来た。俺は左手を彼女に見せながら、開いて閉じてを繰り返して重大でないことをアピールする。

 

「すごいね。それが理事会の技術?どうやってんの?」

 

「俺の皮膚の一部を切り取って細胞を取って指を作ってくっつけて……て感じだな」

 

「わぁ、エグいね。というか、そういうこともできるんだね?こっちじゃできなさそうだ。それで、その指の包帯が取れたら次の世界へ~って感じかな?」

 

「完全に治して、先遣隊がコミュニケーションを取り終わってからだな。1、2週間抱え宇宗だ」

 

「じゃあ、会えなくなるわけだ。寂しいね」

 

 するとサイコルはあからさまに寂しそうな顔をした。

 

「そんなことはない。別に今生の別れじゃないんだ。それに、このピアスはぅっと着けるつもりだし、そんな寂しいことじゃないだろ」

 

「ひゅぅ。いいセリフ言うじゃん。ありがとうね。それで、その次の世界、どんな感じなの?」

 

 彼女はかけて欲しい言葉を言われたからか、どこか満足げだった。そして俺は『次の世界』という言葉に少しドキッとした。

 

「それがな……」

 

「何やらドキッとしたね?」

 

 どうやらサイコルは俺の心を読んだらしい。

 

「次の厄災も超大陸級なんだよ」

 

「あちゃー。それは大変だね」

 

 いわば、理事会の専門用語である厄災の『超大陸』という指標を用いて話しても、サイコルは特に支障なく伝わっている。次のやはりあのタイミングで彼女は俺の心を読んでいたらしい。

 

「……ん?次もってことは、今回、つまりアレムはその超大陸級だったってことですか?それに、その、その称号は字面通りに受け取ってもいいんですよ、ね……?」

 

 そこに『超大陸級』が何を意味するのか知らないキャプラが、その意味を自身で考えた上で確認してきた。

 

「ああ、言ってませんでしたね。アレムは超大陸級の厄災です。確か、大陸を破壊できるんだよな。ウリエル」

 

「その通り、どのような手段であれ、時間がかかったとしても、住む大陸を破壊できる力を持つのが超大陸級の厄災だね」

 

「そりゃあ、手強いわけだ……」

 

 それを受けたキャプラは一旦作業をやめて、背もたれにゆっくりと体重を預けて顔を両手で覆い始めた。どうやら彼女にとってあの戦いは相当に苦しかったらしい。

 

「それを倒せたから、またそれと同レベルの仕事を任されたみたいだね。評価されているってことだ。それで、どうなの?いけそう?」

 

 またサイコルが彼女の気になる話題について問いかけた。

 

「今回は、比較的大丈夫だと思う。いわば、爆弾タイプの厄災だから」

 

「いわばタイムリミットまでに発動を阻止すれば良いタイプの厄災。ということですね。ただ、もし失敗すると大陸が吹き飛ぶほどの被害が出ると」

 

「そういうことですね。だから、皇帝みたいな奴とは戦わないと思います」

 

「そうですか、出来ればこの国で休んでいただきたいところですが、こちらにはどれほど滞在するおつもりでしょうか?」

 

「特に決まってないです。今すぐ帰ることもできますし、先遣隊の調査と治療が終わるまでこの世界を拠点にすることもできます」

 

「随分と緩いね。そういう世界の移動?って厳重に管理するものだと思っていたけど」

 

 俺とキャプラが話していると、サイコルが割って入って来た。

 

「それは彼が特別だからですね。世界の移動を管理する理由の一つに、エネルギーが限られているというものがあります。彼は自身で世界移動が可能なのでそこら辺の問題を無視できます。どこに行くのか報告した上で私が見ていればどこでも行けますよ」

 

 そして彼女の質問にはウリエルが答える。

 

「なるほど、便利屋さんなわけだ」

 

「まぁ?そんな感じだな」

 

「失礼します!」

 

 すると突然、サイコルの屋敷にいたメイドがワゴンを押しながら部屋に入って来た。ワゴンの上にはパンと紅茶らしき飲料が置いてある。

 

 彼女はテキパキと俺たちの前にそれらを置いていく。

 

「クロノ。貴方は台風のような人です」

 

 茶に口をつけたキャプラがそう呟いた。

 

「えっ」

 

 あまりにも突飛な例えだったので、俺は困惑してしまう。

 

「突然現れてその力をもって人を救う。そしてすぐに去ろうとしている。台風みたいですよね」

 

「そ、そうですね」

 

 俺は彼女の言葉を悩みながら飲み込んでみる。

 確かに、俺が来たその次の日にファーモットの革命が決行された。いくら状況が整っていたからとはいえ、このスピード感は異常だ。

 

「貴方がそのように良いことを行えること。とても羨ましく思います。折れないでくださいね」

 

 彼女は茶を飲みながら、俺に信頼を感じられる目を見て言っていた。

 

「貴方もね」

 

 俺もその言葉を受け取って信頼をもって答えた。

 

 

 

 

 

 

 そして月日は流れて数日後、俺は理事会に戻って215階の礼装保管室で最終調整を行っていた。明日には次の世界に向かわなければならない。

 この階は様々な礼装が、部屋を埋め尽くす棚に置かれていている。

 その中でも俺は、新しく導入する長い柄の刃が機械でできた斧のメンテナンスをしている。

 

「お帰り。しっかり、俺の分までアイサツしてきてくれたか?」

 

 するとスーツ姿のマイケルが後ろから話しかけてきた。

 

「しっかりしてきたよ。そっちはどうだ?」

 

「ある意味順調だ」

 

「ある意味?」

 

「小さいが大きな一歩を踏み出したということだ」

 

「随分と面白い言い回しするなぁ。何があったんだ?具体的に、分かりやすく。よろしく」

 

 彼の言い回しがふわふわだったのでより詳しく掘り下げることにした。

 

「因子問題について分かったことがある。俺の中にあるミカエルの因子の道筋を、別の世界を観測する装置を使って探してみたんだ。いわば因子の移動履歴だな。それで一つ分かったことがある。ミカエルの因子は最低二つに割れて、片方は俺にもう片方は装置でも負えない場所に移動したってことだ」

 

「なるほど」

 

 どうやら理事会は不測の事態に対して少しずつその全容を掴もうとしているらしい。

 

「ミカエルの因子を奪ったやつは『因子について俺たちより知識があり』、『世界の移動が出来る奴だ』。ほら、絞れないよりよりはマシだろう。ただ、それ以上は絞れない。敵が『俺たちより上手な奴』だってのが分かっただけだ。だから小さくて大きな──「待て、『移動できる奴』って……」

 

 犯人の条件を聞いたその時、俺の心が動じてしまった。彼の言う後半の条件には俺は含まれている。ただ、もちろん冤罪だ。ただ、俺が疑われているかもしれない。そんな予感が胸中の片隅に生まれている。

ただ、これを問うこと自体、馬鹿げている。もし俺が疑われているならもう既に拘束されているだろう。

だから、冗談を言うように大げさに言ってみた。

 

 出来れば俺のことは疑っていないと嬉しい、という感情は少なからずあった。やっとできた同じ志を持つ仲間だ。決裂するのは避けたい。

 

「いや、さすがにそれはねぇよ。お前はしっかり信頼されてる」

 

「それもそうだな。いや、すまない。んんっ」

 

 咳払いをしながら感情を平静に整える。

 

「それじゃあ話の続きだ。当面の理事会の敵は二つに絞られる。一つ目は『因子泥棒を捕まえること』。もう一つは『厄災大戦への対処』だ」

 

「ん?なんだ、その物騒な戦いは」

 

 前者は話の流れから当然だろう。俺が気になったのは後者だ。

 

「そうだな。とある星でとんでもない厄災群が発見されたんだ。二つの超大陸級ともう一つは超惑星級の厄災だ」

 

 『超惑星』という言葉からして惑星を破壊できる厄災ということは推測できる。

 

「超惑星ね……。そのレベルの規模って珍しいのか?」

 

 その規模に怯むつもりはないが、まさかこのレベルの厄災についての話を、理事会の特使になってからすぐに聞く機会があるとは思わなかった。

 

「かなり珍しい、らしいな。理事会のアーカイブによると生命体同士の争いで惑星が滅びるケースはよくあるそうだが、たった一つの要因で一気に崩壊することはほとんどないらしい」

 

「だよな。俺が巡った世界の中でも、そのレベルの事態に陥っている場所はなかった」

 

「そうなのか。まぁ、その話は置いておこう。この話をしたのはお前にこの件に関わって欲しいからだ。もしお前が次の世界を生き残ったら、やってもらいたい仕事がある。ミカエルとして依頼するぜ。来る時に、超惑星の厄災等の厄災達に理事会の精鋭の一員として対峙してもらいたい」

 

 勿論断る理由はない。

 

「任せろ。それが人を助けることなら、俺は何でもやるさ」

 

 俺はすぐにその依頼を引き受けた。

 

「……映画の悪役みたいな極論、言うんじゃねぇぞ」

 

 マイケルは何やら不安げな表情で俺に忠告してきていた。

 

「急にどうした?」





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