【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告 作:新川翔
「ようこそ、ここが私たちの住む国、ルーシです」
俺たちは先ほどまで勘違いで戦っていたソフィアという女性と、彼女の従者であるイエモンという侍のような服を着た男と一緒に、彼女らの拠点に移動することとなった。
彼女たちの拠点は、灰色の葉の木で満たされた森の中にある古びた宮殿だ。森と同様に宮殿も色褪せていて、見張りのための塔と絢爛だったであろう装飾たちは大きく欠けてしまっているし、宮殿の所々に風穴が空いている。また、中庭に大きなガスボンベが列をなして置かれており、宮殿の様々な場所に繋がって光を灯している。
宮殿の中を歩いていると、この国の現状を更に伺うことが出来る。
ボロボロの廊下の端にはマットのようなものが敷かれており、そこに老若男女多くの人々が座っている。彼らに共通していることは誰もがボロボロで埃を被った服を着て、俯き絶望していることだ。時々、ソフィアを心配しtw話しかける者もいた。その表情に柔らかさはあるものの、明るさや希望を感じられない。
そして俺たちは宮殿に応接室らしき場所に案内された。
「茶も出せなくてすまない。私はこの国を守っている『ソフィア・ムーラシ』だ。さて、先遣隊の方々にも説明したが、再びこの国の状況について伝える」
室内にある長机に理事会側と現地側で別れて向かい合って座ると、今後の予定決めや情報の共有が始まった。
「私たちの国は現在、征服される危機に陥っている。原因はこの星の外の人類による侵攻だ。彼らの目的はこの星の資源『アルバガス』の独占。このガスは異次元の効率で燃焼する資源だ。この資源は私たちが、他の星の誰にも知れずに独占して使っていたものだが、数十年前のとある日、ある星外の人間が、その存在を宇宙中にバラしてしまったんだ。
結果として、ガスを欲しがる者たちがこの辺境の星に集まり、私たちの住処は戦いの火に包まれることになった。私たちは生活が脅かされぬよう戦ってきたのだが、戦いは泥沼化してしまっている。戦える人材もどんどん減っていってしまってな。こちらの戦える人材は数万人規模だったのだが、もう、私とイエモンしか残っていない」
彼女は真剣にこの星の状況を語っている。
「理事会の業務は人々を理不尽から守ることだという。今回は私たちの国の問題の解決に協力してくれるんだよな」
気丈な態度で語っているが、その声色は俺たちへ懇願するように見えた。
「その通りだ。だが、理事会としても頼みたいことがある」
その願いに無償で協力したいところだが、俺たちの目的は彼女らを外敵という脅威から守ることと、この星における厄災に対処することだ。特に後者の方が、優先度が高い。そもそもこの星が物理的に壊れる危険性があるのだから、優先度が高くなってしまうのだ。
そして取引をする理由は、『対等であるため』である。無償での行為はどうしても上下差を生んでしまう。それを意図しない対立に繋がらせないために、ある程度の見返りは必要だ
「なんだ?」
「今すぐ、ここの地下、アルバガスの採掘場を調査させてくれないか?」
「…………何か変なことでもするつもりじゃないだろうな?私たちの渡す情報だけでは不十分だろうか」
彼女はこちらを睨みつけて怪しんでいる。
この世界の厄災の調査は彼女が現れた際に一旦中断しておいた。これは強引に調査を行うと怪しまれると考えたためだ。ここで正式な許可を取り、胸を張って足元にある厄災を理解しておきたい。
そして、彼女が口にした疑問は真っ当なものだ。外様が何かさせて欲しいと言われたら警戒するのは当然のこと。さらに、それがこの国を守る資源に関係しているのならばより警戒は高まる。
追いつめられているからこそ、彼女の精神状態は不安定だ。こちらは慎重に言葉をかけなければならない。
「そんなことありません。ここを守る上では必要なことです。提供して頂いた情報によれば、敵の目的は地下に溜まっているアルバガスなのでしょう?それを守るためには実際にそこに赴いて様々な情報を集める必要があるんです」
ウリエルが優しくソフィアに語り掛けている。地下に溜まるアルバガスがこの星に害をなす可能性があることを隠しながら。
今回の厄災はこの星の地下で爆発しかけている『アルバガスだまり群』だ。このガスだまりが連鎖爆発を起こし、この大陸を破壊する可能性がある。
俺たちは理事会に、現地の方々に『アルバガスが厄災である』ということを出来るだけ伏せて事態に対処するよう言われている。理由は彼女らがその事実により混乱してしまうことを避けるためだ。この星の者たちは生活にアルバガスを使っている。それがこの星を破壊するので何とかしよう、などと説明してしまったら、彼女らは更に混乱してしまう。最悪、この国を守りたいのに、この国の人々から狙われるなんてことも起きてしまう。
「実際に赴くことで分かることもあります。もし怪しいのなら、誰かを監視に付けください。どうか、お願いします」
「……そうだな。協力しよう。イエモン、彼らに案内をお願いできるか?」
ウリエルの一押しにより調査の正当性を信じてくれた彼女は、監視付きでの調査を許可してくれた。これで今回の厄災をより深く知ることが出来るだろう。
「承知したが、念のため、お主たちの調査の目的を聞いておこう」
「とある計器を設置します。これは地下の構造をより詳しく調べるためのものです」
「だそうだ。我が主」
俺の回答を聞いた侍は、その回答を彼の主に譲る。
「ありがとう。イエモン。技術力はそちらの方が高いからな。私たちの知らないことを知れるかもしれない。それではイエモン頼んだ」
「……承った。お客人、ご案内しよう」
俺たちはイエモンに案内されて地下のアルバガス採掘場に向かうことなった。
「クイーンさん、聞きました?今回の相手のこと」
丁度その時、ルーシのある星の上空に一つの宇宙船が浮かんでいた。
この船は宇宙を股にかける傭兵集団である『ホークス』のもので、船内は突如現れた正体不明の二名に関する話題で持ちきりだった。
食堂では高身長で筋肉質、深紅に長髪の女性と、制服を着た低身長で黒いボブカット、童顔な若い女性の二人が、料理の完成を待ちながらファーストの報告によって話題となった男女、特にとある穴を操る男に焦点を当てて話していた。
「聞いたぜ。でっかいカタナ、みたいな武器を出したらしいな。そんな兵器はこの人生でも聞いたことがねぇ。お前、ここからあちらを見てオペレーションしていたんだろ?どうだったんだ?『新たに表れた脅威』は。どんな奴なんだ?」
筋肉質な女性はホークス・セカンド、『クイーン・ロイヤル』。童顔の女性はホークス専属のオペレーターである。
「そうですね。彼は、恐らく物体を移動する穴を自由自在に使えます。なんと個人で」
「まじか。馬鹿げてるなぁ~!こっちは緊急脱出用と宇宙船の長距離用移動用が限界なのにな」
「私たちのものはかなり高価かつ、用途は限定されています。好き勝手に使えるとなると、かなり脅威です。それに加えてあの女性が使っていた白い炎。どうやら特殊なもののようです。詳細は解析中ですがどちらも、馬鹿げています」
「すいません。馬鹿げていてすいません……」
するとまた一人の女性が彼女らの後ろに並んだ。
長身でスレンダー、黒髪が伸びきっている陰気な女性がそこにはいた。
彼女はホークス・フィフス『レイズ・ベター』だ。
「いや、レイズのことじゃないよ、今回の敵のことだ」
彼女のネガティブな感情のスイッチが入ることを察知したクイーンは、すぐさまフォローに入る。
しかし、負のサイクルは一度点火すれば、その身が疲弊するまで回り続ける。
「そ、そ、そうなんですか!すいません!勘違いをしてしまってすいません!」
「……ったく面倒になって来たな」
その状況に頭を抱えていると一人の男が彼女たちの輪に入ってくる。
「やってるねぇ」
ホークス・ファーストの『リーパー・ジョーカー』がにこやかに笑いながら彼らの背後に現れた。
「隊長⁉すいません!うるさかったですよね!すいません!」
「お、なんかタイミングがまずかったな。ま、いいか。いつものことだしな」
彼はネガティブな感情のサイクルを回すレイズのことは無視して、本題を語り始める。
「明日、ルーシに全員で降りる。夕食後にミーティングするぞ」
「了解です。早いですね」
「そうなんですかぁ⁉はいぃぃ!すいません!どんな指令でも従いますぅ!」
オペレーターとレイズは驚きながらも彼の指示に素直に同意した。
対して難色を示したのは、彼と長い付き合いがあるクイーンだった。
「急すぎてないか?今回の件は相手が未知数だ。いくら報酬がデカいからといっても、タイムリミットはないし、早い者勝ちでもない。焦る必要はないだろ」
ルーシのある星は、宇宙を旅することが出来るほど発展している星々から見ても、とても遠い場所にある。
最初は各々アルバガスという魅力的な資源に惹かれていたものの、それぞれに豊かな資源があるため、関心は徐々に薄まっていったのだ。
『またいずれ、交易すべき星』というのが、発展途上星たちの意見である。
「これはクライアントとの話し合いで決まったことだ。捻じ曲げられない。それにもっともらしい理由もある。今回の敵には予想外の存在が二つある。だが、こちらにはそれらの様子を探る余力はない。ここは辺境でしかも危険地帯ときた。長くはいられねぇ。賭けに出るしかないってことだ」
「そうか……まぁ、仕事は請け負った以上、何とかするしかないか」
「その通り、頼むぜクイーン」
いつの間にか彼らの前には彼らの頼んだ定食が置かれていた。
「ほらほら、とっとと食べな!冷めちゃうよ!」
食堂の切り盛りを担当するおばさんと称すべき容姿をした女性が、いつまでも受け取り口で喋っている彼らに向かって怒りの籠った声をかけた。
「「「「了解です!ありがとうございます!」」」」
投げかけられた言葉に、その場にいるホークスのメンバーは元気よく返した。
「どこまで行かれるおつもりか?最奥までか?」
アルバガス採掘場の調査の許可を得た俺たちは、目的地に繋がる宮殿の地下へと案内された。さらにそこからは梯子を下ってアルバガスの採掘場に到着した。
「はい。一番奥までお願いします」
「相分かった。洞窟内では某に決して離れぬように。迷うと面倒なことになってしまいまする」
そうして俺たちは厄災レーダーを設置すべき場所まで移動し始めた。
洞窟内は暗く、ガス灯の明かりがぽつぽつと設置されており辺りを照らしている。また、採掘場はアリの巣のような構造になっており、一度迷うと徒歩での脱出は難しくなる、というのは本当だろう。さらに、所々に直方体の形をした空洞があり、そこには採掘に使う道具が散乱している。
イエモンに誘導されながら採掘場の様々な場所を確認する。例えば俺たちの足元にレールのようなものが敷かれており、この洞窟の中で人々が活動していたことが見て取れる。
事前情報によると、この洞窟は元々鉱石の採掘のために使われていたらしい。当時は採掘に関するノウハウはなく、手当たり次第に掘っていたため、迷宮のような構造になっているようだ。
「イエモンさんはルーシご出身なんですか?」
道中、沈黙が続いていたので、イエモンと会話を交わすことにした。目的は親交を深め、より情報を得るためだ。
「いや。違う。某は少し前から居候をさせてもらっている身じゃ。我が主の父上に世話になってな。それ以来その恩を返すためにここで守っている」
「そうなんですね。居候は何年ほど前からなんですか?」
「随分と長くなるのぅ。確か50年は前だろう」
ウリエルの質問から、思いもしない回答が返って来た。
「「ごじゅう⁉」」
二人で彼が告げた数字に驚いてしまった。彼の外見が50代以上のようには見えなかったからだ。今の彼は20代の青年に見える。
「その通り。某は体を戦闘用に改造していておる。他の者よりも寿命は長いし、体が若い期間も長い。ソフィアのことは赤子のころから見守って来た」
しばらくの間、雑談をしながら進んでいくと、俺たちはついに洞窟の最奥に到達した。
最奥は立方体の巨大な部屋になっており、その中央には全自動採掘機が音を鳴らしながら地下にあるアルバガスを採掘している。
俺たちはすぐに厄災レーダーを起動して、この地に眠る厄災の全貌を知ろうとした。
数秒の沈黙の間の後、モニターに調査結果が出たのだが、その全貌は俺が予想していたものとは大きく異なるものだった。
(ウリエル!アルバガスの爆発、24時間後だ!)
(はぁ⁉)
調査の結果、俺たちの立つ地面が、星が危機に直面していることが分かってしまった。