【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告   作:新川翔

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一条の光

 

 

 

 少女は光と共に、その命の命題を定めた。

 

 

 

 灰色の大地に一台の車が走っている。

 乗っているのは四名。

 一名は前方で運転をしている伊右衛門という運転手。残りの三名は後方の座席に、進行方向に対して右から少女、その母親、父親の順に並んで座っている。

 

「パパ、ママ!」

 

 一人の少女が、この星一番の都市が見える窓から身を乗り出して、両親を呼んでいる。

 都市には夥しい量のガス移動用のパイプが設置されており、他にも商業ビル、住居、各インフラが薄黒い煙を天に排出している。

 

「どうしたの?」

 

 これから行う話し合いに対して、紙の資料を見ながら頭を抱えている父親は、彼女の呼び声を一切無視している。対して母親は娘の驚きに反応していた。

 

「なにあれ?」

 

 少女の指さす先には、灰色の煙と雲から青い光を溢しながら穴を穿つ一条の光が、彼女たちの目線の先にある都市に降り注ごうとしていた。

 

「え……?」

 

「伏せろ!」

 

 絶句した母親。その絶望を素早く察知し、彼女らの眺める方向をちらりと見た父親は、すぐに彼女らの頭もしくは襟を掴み伏せさせて、彼女らの頭は彼の持つ普通のアタッシュケースで守られている。

 

 

 俯いても分かる大きな光、遅れて伝わる大地を揺らす轟音。それが車内を揺らす。時々、何かが防弾ガラスに衝突する音がする。

 

 

 そんな時間が、数秒、もしくは数十分続いた。

 そして頭を上げ、目の前に広がっている光景は────

 

 

───雲さえ突き破る、巨大な煙だった。

 

 

「あいつら……やりやがったな……!」

 

 何が起きているのか、全く理解できない3名、しかし父親だけはその仔細を瞬時に理解していた。

 

 

 

 

 彼女が立つのはこの星の二番目に豊かな都市の会議場、その廊下。

 青いガス灯が暗い通路を照らしている。

 しかし、その光源はあまりに弱い。何故ならそれらはサブのガスであるからだ。今、この国は外敵との戦いに備えるために必要最低限ガスだけで生活をしている。

 

「待っていてくれ。奴らと話し合いでケリをつけてくる」

 

 彼女の父親はこの国の外務大臣だった。

 この国のトップは先日の爆撃で死んだ。国家の脳として生き残った彼は、勝ち目が限りなく薄い戦いを避け、国民を守るために都市にミサイルを撃った者たちとの話し合いの場を設けた。

 会談の相手は『C銀河探査軍』、とにかく、宇宙のどこかにある『新たな資源』の調査及び採取を目的としているらしい。

 

「……お前たちを愛している」

 

 決死の覚悟で会談に臨む彼は、ついて来ていた妻とその少女と抱き合っていた。

 心のどこかで今生の別れであることを予感していたのか、彼女らを力強く掴んでいる。

 同じ予感がしていた彼の妻は、さらに強い力でソレに返し、少女は幼いながらもその状況を理解して抱擁を受け入れていた。

 

 数十秒間続いた抱擁を終えた父親は、さらに娘の瞳を数秒間見つめる。

 

(困ったな……。どう声をかければいいか、分からない。……準備していたどの言葉も、無意味な気がする)

 

 話し合いの相手は既に休戦条約(・・・・)を踏み破って武力行使に出ている。

 この話し合いの場で、自身の命の火が消える可能性だって十二分にある。

 だから、この言葉が娘への最後の言葉となることが、頭の隅から離れなかった。

 

「ソフィア……お前は聡明だ。だが頭に血が上りやすい……そこは気をつけろ。……いや、そうじゃない。ははは……」

 

 冷静沈着で必要なことを瞬時に出力できる性分の父親だが、この時はそれが大きく鈍っていた。

 

「お前は、優しい。星を見ながら足元に気を遣える。……そうだな。俺にもしものことがったら、後は任せた」

 

 似合わない苦笑いをしてから彼が残したのは、『想い』だった。

 すぐに扉を開けて電気の明かりに照らされた部屋へと足を進めていく。

 扉の先には、強面で白髪の杖を突いた40代ほどの男が、彼を睨みながら椅子の前に立っていた。

 

 数分の話し合いの果てに、父親は頭に穴を開けて死んだ。

 

 この事件がきっかけで、ルーシは調査軍と戦争状態に突入する。

 

 

 

 

 ルーシの視点では勝ち目が薄いとされていた戦争、しかし、予想というものはたまによく(・・・・・)外れるものである。この星は探査軍に対してぎりぎりのところで踏ん張っていた。

 きっかけは均衡の崩壊だった。金で雇われたやる気のない(・・・・・・)のない探査軍と一律な行動しかできない機械兵に対して、精鋭(・・)たちが揃っていたこの星は5年程度の拮抗状態の後に、『内部情報が洩れた』ことによって徐々に崩れてしまった。

 

「どうして!どうして!どうして!」

 

 想いを受け取り、仲間を率いて探査軍と戦ってきた彼女は、膝を地面に付き、頭を下げる彼女の母親に投げつけるように叫んでいた。

 

 

 情報が漏れたのは、その母のせいだった。

 

 

 溢れるのは『怒り』ではなく純粋な『困惑』。

 怒りを覚えて今にも暴れそうな仲間たちは、ソフィアの声で冷静になりその様子を眺めていた。

 探査軍が彼女を『もし情報を漏らせば命だけは助ける』というような文句で脅したのだ。数年単位に渡るぎりぎりの戦いを、少ない物資のやりくりで何とかしていた者たちの精神は極限まで擦り減っていた。

それはソフィアの母の、夫が大切にしていたモノを守る意志さえ摩耗させてしまうほどに。

 結局、彼女の漏らした情報により探査軍に対抗していた五つの国は残り一つとなり、疲弊していたルーシの精鋭も少しずつ数を減らしていった。現在、残っている兵力は伊右衛門とソフィアのみとなる。

 

 余談だが、ソフィアの母は密告が露見してから精鋭の軍人が何人か死亡した後、首を吊った。

 

「……」

 

 母の冷たくなった姿を見た彼女はどんな言葉も、発することが出来なかった。

 

 次々と失っていく仲間、同じ視座を持っていたはずの母。長く続く苦しい生活。

 それらの苦悶が彼女に語り掛ける。

 

『もう、終わってもいいだろ。なんなんだよ。これで終わりだ』

 

 しかし、彼女の胸に灯された遺志としてきたコトがそれを許さない。

 

『いいや、あの志を果たすまでは諦められない』

 

 この心の拮抗を制したのは、後者だった。

 

(この託された想い、叶うのはもうすぐ、なはずだ)

 

 宮殿のバルコニーにて、ソフィアが薄く届く朝の陽射しを浴びていた。

 曇り空でも意外と昼夜の境目は視認できる。

 

 灰色の薄い場所から徐々に光が射し始めていた。

 

 彼女はここ最近、探査軍の勢いがなくなってきていることを感じ取っていた。兵士の量、質どちらも開戦当時と比べたら著しく低下している。さらに、ただでさえ低かった士気がさらに低くなっていた。

 彼女は士気の低い兵士たちを倒している間に、互いに戦力が無くなっていることを予感していた。

 そしてこのタイミングでの『ホークス』の投入、理事会とは違う別の星の協力者によると、彼らは宇宙で最強と名高い傭兵集団、らしい。

 ソフィアはこの時点での戦力投入を最後の切り札であると捉えていた。

 ここを凌げば、後はもう話し合いか殲滅か。なんにしろ、ホークスたちとの戦いに勝利することが意思を果たすために非常に重要なことである。

 

「ソフィア、今ちょっといいか?」

 

 彼女の背後に黒い穴が開き、その先から声が聞こえた。これはクロノのものだ。

 

「なんだ?」

 

「こちらで行ったホークスの解析についてだ」

 

 彼は穴から出てこちらの隣に立つと、真剣な面持ちでこちらに紙の束の資料を渡してきた。

 受け取ってその資料に目を通すと、ホークスについての事細かな情報が記されていた。

 

「彼らは8人と1人のオペレーターで構成されている傭兵集団だ。名前と戦い方はそこにある通りだ」

 

 続けて彼は、分かれて行動している理事会の先遣隊が調べた情報を簡単に共有し始めた。

 

「相手は電気を使った兵器を使う。制服で分かりづらいが、武器のどこかからコードが伸びていて、背中あたりにあるバッテリーに繋がっている。そこを破壊すれば底が見え始める。それと一人一人は脅威ではないが、連携されるとキツイ……ん。来たな。ありがとうウリエル」

 

 敵の調査について報告していた彼は、雲の先に視線を向けて何かの襲来を察知した。

 対して、彼女のポケットからは携帯通信機が着信の音声を発していた。

 

 

 

 

 

 ソフィアがすぐに無線に応答するとイエモンの声がバルコニーに響いた。

 

「我が主!上空から2つの飛行物体が此方に落ちてきているのを確認した!恐らくホークスだ!」

 

 俺やウリエルも事前に設置していた高性能なレーダーによりその情報を同時に得ていた。

 

「ああ、こっちのレーダーも反応した。さて、この2つについてだが……」

 

 レーダーによると2つの飛行物体は戦闘機のような形状をしており、片方は大人数が乗れるようなジェット機のような形状をしている。そして戦闘機の形状をしている物体は『ホークス・ファースト』が昨日乗って来たものと酷似しているらしい。

 

「レーダーによると、大きい船に7人、いるな。隊長以外の残りのホークスだろう。なら俺が大きい船の方をやる。それでいいか?」

 

「……理由を」

 

 俺の提案に彼女は手短に理由を求める。

 

「俺はルーシ側で一番、多対一の状況に適応できる。対してお前は一対一の方が実力を発揮しやすい。違うか?」

 

「そうだな。それでは、隊長は私が倒す。イエモン!最終防衛ラインは頼んだ!」

 

 きっぱりと納得できた彼女は、すぐに自身の役割を共有しながら部下に指示を飛ばす。

 最終防衛ラインとは、敵の目的であるアルバガスの採掘場の占拠のために必ず通ることとなる通路のことだ。

 

「ははっ!しかと心得ました!」

 

 彼女の臣下の答えを確認してから、俺は穴を開ける。

 

「それじゃあ……」

 

 この戦いは個人に責任が重く圧し掛かっている。

 彼女は今まで、その責任に耐えて結果を出してきた。

 

 

 いや、『耐えて』という表現は違う。『糧にして』という表現の方が正しい。

 遺志が心を蝕み、きつく縛られたこともあっただろう。

 対立する感情で胸が焼けたこともあるだろう。

 だが、その言葉に背中を押されたこともある。

 遺志をただ、重圧のように表現するのはいけない。

 どちらが正しい感情なのかという話ではない。『前を向かせてくれた』ものをただ『呪い』と表現するのは嫌いなだけだ。

 

「……果たすぞ」

 

「もちろん!」

 

 だから、この言葉を託して穴に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 ホークスのセカンドからエイズが乗り組む大きな突入用ジェットでは、各々がシートベルトをしっかり締めた上でシートに深く座り唾を飲み、息を整え、静かに着地と同時に戦う強敵のことへ考えを巡らせていた。

 船内は旅客機のようになっていて、進行方向に対して横4人、2列に並んでいる。

 彼らの相手は例外。常を超えた科学の怪物。

 対策を立てたところで、その未知数さから、それらが無意味となる可能性は存在する。戦いの火ぶたが切られるその瞬間まで、考え得る手段とその対策を考えておく必要があった。

 

「……」

 

 ただ一人の例外を除いて。

 

 ホークスのフォース(4番手)、ユウタ・フルハウスはその男への殺意を研ぎ澄ましていた。

 

 対策など考える必要はない。

 ただ、対象を早く仕留める。それだけで思考は完結していた。

 

(待ってろよ。コサキ)

 

 殺意を研ぎながら、病床の妹のことを考える。

 彼の妹は難病を患ってしまった。この事実に対して救いと苦難がある。

 救いは治療法が確立されていること。

 苦難はその治療にかかる費用が、人生を3つ賭けたところで到底稼げないことだ。

 ユウタは中流の経済規模を持つ星の中流の家庭に生まれた。そのため、彼の家庭にはそんな金銭的余裕はない。そんな大金を出してくれる富豪との強いコネクションもない。

 しかし、彼はそんな理不尽を許容することが出来なかった。

 そのために目を付けたのは理論上、あらゆる者が身の丈以上の金を稼げる傭兵稼業。

 彼の持つ戦闘センス、ホークスに巡り会えた運、理想を実現するための不断の鍛錬。これらを用いた彼はホークスのフォースへと昇りつめた。

 

『お兄ちゃん、私、助かるの……?』

 

『ああ、勿論だ。任せろ』

 

 託された願いが、奇跡を願う潤んだ瞳が、彼の原動力だ。

 

(まだまだ、金は要る。ここもまだ、通過点にすぎない。あの男も仕留めてもっと金を稼ぐんだ……!)

 

 自動運転の船内は、大気圏に突入する轟音だけが鳴っている。

 

 ごごごごごご、と心臓の音さえ掻き消える船の中に───

 

 

 

 

────クロノ・ノーデンスが現れた。

 

 

 

 

 

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