【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告   作:新川翔

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思いもよらぬ事態

 船の中にいる全員が驚いていた。

 その理由は黒い穴の出現がなかったこと。

 しかし、実際に出現しているのだ。俺はただ、恐ろしいスピードで穴を開けて閉めていただけである。

 俺の世界にある世界を穿つ穴の性能を高める装置を、一瞬だけこの世界に持ってくることでその早業を成立させた。

 

 その稲妻が如き襲来を、一人の兄だけが反応していた。

 

 ユウタ・フルハウスは手元にあった電磁刀を抜き、シートベルトを裂き、外敵の首元に閃光の刃を振るっていた。

 装置の回収のため反応が一歩遅れたクロノは、一刀を長針で受けとめ、狂っているほど冴えた目をする少年への注意を高めながら、自身の役割を遂行する。

 

「レッド・バルチャー」

 

 クロノが刃を受け止めたその瞬間、赤い光線が船のあらゆる場所を破壊し始めた。

 風の轟音に警報が加わり。船内はカオスに包まれる。

 赤い雨が船を破壊し尽くす前に、ホークスの他のメンバーは自身でシートベルトを外しながら近くにある武装を装着する。

 そして船体はバラバラとなり、上空5,000mで全員、空中へ放り投げられた。

 

「ええぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~!」

 

 船にいた全員が空中で武装を起動し、突如現れた強敵へと視線を向ける。

 

 レイズは突然の出来事だったためか悲鳴を上げていた。

 ユウタは残骸を踏み台にして飛び回ることで執拗を攻撃している。

 

 閃光のような四方八方からの斬撃。その全てを受け止めていると、少し遠くの場所がキラリと光る。

 それは銀色に光る拳銃型レールガンだ。

 銃口から発射される弾丸は針の穴を通すような緻密さと、居合の達人のような速さで攻撃の網を潜り抜けて俺の喉元へと直進していた。

 

 

 脅威はそれだけではない。

 

 

 身の丈よりもずっと大きい刃渡りの斧を持つセカンド、クイーンが斧の背にあるジェット機構を利用してこちらに飛んできていた。さらに、辺りを見回すとホークスの面々が攻撃態勢に入っている。

 

「悪いが、そこまで付き合わないぞ」

 

 俺はすぐに落下方向に穴を開けて地上に降り、落ちてくる彼らを見上げる。

 

「一刀嶽斬、破山刀、起動!」

 

 特別な音声認証と共に、本来の性能を引き出した峰のような刀を抜く。

 天井に開く黒い穴。彼らに向かって山を裂く一刀が振り下ろされた。

 しかし、その一刀は鷹たちを殺すことは出来ない。

 俺の背後には煙を撒き散らしながら、先ほどの攻撃を回避した7人が、敵意と殺意に満ち満ちた形相で攻撃体勢に入っていた。

 

(あの時使っていた脱出用の装置だな!切り札のような使い方だ。もったいぶって使っている時点で、やはり回数に制限があるタイプか!不意打ちでの使用は、煙が出てバレるからないな!)

 

 

 2位(セカンド)は巨大な斧を、

 3位(サード)は二丁の電磁拳銃を、

 4位(フォース)は電磁刀を、

 5位(フィフス)はガトリングを、

 6位(シックスズ)は電磁刀とサブマシンガンを、

 7位(セブンズ)は長い電磁刀を、

 8位(エイズ)は太陽のような盾を構えている。

 

 

 彼らの辺りに漂う煙と現象から『何』をしたのか、またそれが『どんなもの』なのかを推測する。

 そして、落下時の戦闘で理解した。彼らには与えられた明確な役割がある。彼らの表情には一人を除いて驚きや恐怖はない。これから戦う獲物を見据える意志が伺える目だ。

 奴らは『俺の対策』を綿密に組んでいる。

 

「来い」

 

 だが、それがどうした。

 その対策ごと叩き潰せばいい。

 

 

 

 人造神はただ、秩序を示す。

 

 

 

 恐らく、この作戦の中心はフォース、ユウタだ。

 手数で圧倒する腹積もりだろう。ならば俺は更なる手数の暴力を用意する。

 戦いの方針決めるとすぐに、背後から無数の穴が出現させた。

 

「全兵装、展開!」

 

 レッド・バルチャーだけではない。三つの衛星、雷雲を纏う剣、竜を倒して得た新たな武装。他にも大型の武器の数々を起動させる。

 

「俺の底を見せよう。地に落ちろ!鷹ども!」

 

 ユウタがこちらに踏み出そうとした瞬間、俺の背後に漂う無数の穴から赤い閃光が放たれた。

 

 奴は自慢の俊足でそれら全てを避け、俺の心臓へと一撃入れようとするが長針で受けとめ、逸らす。

 一直線ならまだしも、光線を避けるために右往左往しているのなら対応は可能だ。

 俺はすぐに長針と八重天雲(やえのあまくも)鳴神剣(なるかみのつるぎ)の二刀を振るうが、奴は持ち前の動体視力で躱している。攻撃を受けて、攻撃を返す、高速の攻防を繰り広げても奴には空中戦の時のような仲間からの援護は来ない。

 

 何故なら、他のホークスたちも赤い光線に襲われているからだ。

 

「クソっ厄介だな」

 

 中でも鈍重な武器を持つセカンド、クイーンは回避の難しさに悪態をつきながらも、赤い光線の分析と並行して俺への隙を伺っている。

 

(ユウタの援護に行けない。常に回避することを強いられる。これだけの人数が自由に動き回って、さらに死角でも正確な銃撃であるところから見て、この光線は自動照準か!)

 

 赤い光線に逃げ惑う鷹たち、しかし一匹だけどんな状態であっても攻撃ができる超人がいた。

 

「ッ─────────」

 

 光線を避け短く息を吐き、神速の早撃ちを魅せる男がいる。

 その弾丸は如何なる時でも、神を傷つけ得る武器となる。

 

(サードだな。回避しながらでも速くて正確。動作を見てから防ぐのは厳しい)

 

 俺は弾丸を穴に通して避け、早撃ちの使い手を厄介に思いながら、ユウタとの攻防を繰り広げていく。

 

「遊星!暴れろ!」

 

 広範囲に攻撃していた三つの遊星は銃口をサード、ジャックに集中させる。これで奴はしばらく攻撃してこない。

 次に迫るのは長尺の太刀、これもまた、正確無比に俺の首を狙っている。

 更に迫るのはマシンガンの玉、これも無視するわけにはいかない。

 

(セブンズとフィフスか、遊星の攻撃が無くなると突っ込んでくるか)

 

 ユウタの攻撃を受けながら屈んで太刀と弾丸を避け、さらに雷雲と黒い穴を撒き散らすことで強引に距離を取った。電撃を浴びたユウタは動けなくなっている。

 

 俺の狙いは杭を使うこと。

 

 今必要なのは強引に一人倒すいちげ─────

 

 突如、黒雲を切り裂いて女傑が現れた。

 肌を焦がしながら歯を食いしばり、巨大な斧を振り下ろそうとしている。

 それを二刀で受け止めると、ズガン、と手から足、そして地面まで衝撃が走る。

 セカンドは斧を手放して地に足を着けて、静かにされど素早く、深く腰を落とした。

 

 その姿勢は、まるで空手の正拳突きのよう。

 

(まずい!)

 

 奴の拳の先に穴を用意して正拳突きを回避した。さらに穴を奴のすぐ横に生成してその一撃を奴が受けるようにする。はずだった。

 

(寸止め!読まれている!)

 

 自身のこめかみ1㎝先で止まる拳を見て、俺は嵌められたことを理解した。

 

「レッド・バルチャー・パルチザン!」

 

 音声認証で俺の周囲360度に光線のカーテンを降らす。

 すぐにクイーンには前蹴りを放ってから穴で移動。目の前には、ガトリングがあった。

 

「すいません、死んでください。すいません」

 

 引かれる引き金。響く銃声。発射される弾丸の壁。

 フィフス、レイズ・ベターは汗をかき謝りながら死を願っている。

 俺は二刀で銃弾を防ぎながらすぐに前方に穴を開けて銃弾の雨をやり過ごした。

 しかし、穴の展開は完全には間に合わず、頬、腕、太もも、体の各部位に銃弾を受けてしまった。

 

(どこからでも攻撃できるようにしていたな!)

 

 相手の陣形を理解してから目の前の脅威の対処へと動き出すこととした。

 

「ォラアぁぁ!」

 

 痛みを無視して穴を開けたまま前方へ飛び出し、ガトリングの銃身を蹴り壊す。

 この戦いでは後手に回ると負ける確率がグッと高まる。

 今は前へ!前へ!進め!

 

 すると背後からエイズ、フォールドが襲いかかって来た。

 奴は俺を羽交い絞めにすると、目の前のレイズは屈んで、その背中を支えにシックスズ、スリーが笑みを浮かべながら飛び出した。

 

(振り解けないな)

 

 剣速から回避は不可能だと判断する。

 そして奴はその勢いのまま、左手に持つ刀で首を撥ねようとした。

 刃の軌道は器用にエイズの首には触れないようになっている。

 

 しかし、俺の首には必ず届く。

 

 俺の命を絶つためだけに放たれた刃はなめらかに滑る。

 ただ頭は飛ばず、血は吹かない。

 

 奴の刀は首ではなく穴に届いたのだ。

 

「……厄介ね」

 

 俺は首のすぐ隣に穴を作り、首全体を覆わせて斬撃を回避していた。

 スリーは笑みを呆れが含まれるものに変えて、すぐに腰のサブマシンガンをコチラに向けるが、銃口が頭に向く前に俺は穴を俺自身にだけ通して避難した。さらにその辺りに滞留していた黒雲から電撃を浴びせることで二人にダメージを与える。

 

「これで、離れたぞ」

 

 移動した先は一息では攻撃が届かぬ場所。距離にして70メートル。

 俺の後ろには穴の性能を高める装置が置かれている。

 今の脱出はこの装置があったからこそできた芸当だ。

 この場のホークス全員はボロボロになりながらも、俺の背後にある装置がこの戦いの鍵であると気づいただろう。

 ホークスたちは一斉に装置の破壊のために駆け始めた。

 きっとコレの破壊に全力を注ぐ。ソレは何としてでも避けるべきだ。この戦いでは何度かコレに助けられている。もし失ってしまえば命綱なしで綱渡りを行わなくてはならなってしまう。

 

 では何故、そんなモノをこの場に置いたのか。

 そこには確固たる意味がある。

 この戦いを終わりへと近づける一撃を放つため。

 

「エンジェル・アンカー!」

 

 呼び覚ますは懲罰の杭。

 天にはホークスたちを見下ろす何百もの穴を出現させる。

 これら(・・・)の杭は狙った心臓を須らく貫く、無慈悲の鉄爪。

 さらに俺は、くるぶし辺りの高さで、前方50メートル辺りを中心点として、半径200メートルの巨大な穴を出現させる。穴の先は俺の世界の地面だ。

 

 この星の地下には刺激すると爆発する厄災(ガスだまり)が眠っている。

 俺の火力のある武装ならば、その余波で厄災を起こしてしまうだろう。

 つまりは刺激しなければ、何ら問題なく高火力の武装を使用できる。

 全ての余波は俺の世界に請け負わせる。

 これはこの装置がなければできないことだ。

 装置という弱点を晒し、切り札を稼働する。

 

「全規模並列装填」

 

 好き放題撃てるのなら、気持ちよく撃ってしまおう。

 その火力がこの場面では必要だ。

 

 

 

『何か不味いことが起きる』

 

 

 その予感を傭兵たち全員が感じ取る。

 

『詳しいことはいい。今は何かすべきだ』

 

 ある者たちは対策を考え、ある者たちは逃げる策を考え、ある者たちは明らかに怪しい装置を破壊するために敢えて前進を選択した。

 

「発射」

 

 号令の0.1秒後に、サイズも規模もそれぞれ違う杭が、穴の開いているあらゆる場所に落ちてきた。

 杭たちは絶えることなく降り続け、奴らの姿は土煙に隠れてしまい、その様子を知ることは出来ない。

 

 

 それでも俺は分かっていた。知っていた。彼らの目を見ればわかる。

 

 壊れたところを紡いで、挑戦者たちは俺の喉元へ刃を突き立てることを。

 

 俺を後手に回らせることが出来れば殺せる程の策を練って来た者たちがここで全滅するわけがない。

 俺の辺りにも土煙は漂ってきて視界が悪くなる。手元に穴を生成して、そこに右手を突っ込み、迫る襲撃を警戒する。

 すると煙の中から、ユウタが今までの奴では考えられないスピードで現れた。

 殺意の籠った視線で俺を突き刺し、命を絶つため電磁刀を振り上げている。

 その速度は竜神まであと一歩。

 

 反応は出来ても体は追いつかない。

 

 

 

(今までの俺ならな)

 

 

 

 穴より持ち出したのは竜神撃破により獲得した神速の剣。

 その剣は奴の電磁刀が届くよりも早く奴の胸を裂いた。

 

「なっ!」

 

 ユウタは驚きながら。その優れた反射神経で傷が深いところに到達する前に飛び退いていた。敵ながら素晴らしい反射神経だ。

 俺の手には奴の血が付着した銀色の短刀が握られている。

 

(空中で進行方向の変更もできるのか、あの靴)

 

 その刃はあまりに薄く、鍔はグローブのように拳を覆っている上に、ジェットのような機構が備え付けられている。

 

 

 

 生き残るために『速さ』を選ぶ生物がいる。

 理由は様々。脅威を回避するため。標的を傷つけるため。

 世界に他者がいる以上、速さは必要不可欠だ。

 逃がさぬように、逃げるために、彼らは速さを極めてきた。

 そして彼らが速さを得る条件は大きく三つ。

 

 『体が軽く』、『そもそも速く』、『空気の抵抗を受けない』

 

 人類はそのような生物たちを観察、学習し、利器へと取り入れてきた。

 この短刀もそれによって生まれた。

 

 クロノ・ノーデンスが征した竜神ドラガ。その竜が持つ究極の機能美をこの剣は搭載している。

 剣は軽く、速く、そして抵抗を受けにくい。これらの要素を異次元のバランスで成立させている。

 

 記された銘は『対厄災兵装 皇竜』

 

 万物よりも速く、外敵を裂く不可避の剣。

 

 

 

「リミッター解除!」

 

 ユウタがバックステップの着地と同時に叫ぶ。どうやら相手は奥の手を使うらしい。

 

(これで仕留める!)

 

 銀の刃を持ち、すぐにでも戦いを終わらせるために一歩前へ踏み出した途端、背後に気配を感じた。

 なんとエイズ、フォールドが全身血だらけで装置を壊さんと盾を振り上げていたのだ

 

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