【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告   作:新川翔

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ないもの探し

 

 

 人間は届かないモノを見ると、それを羨む。

 星だって『きれいだな』と見上げる。

 どうしても手に入らないものは『羨ましいな』と呟く。

 私が届かないものは『託される者としての資格』だ。

 実のところ、私は彼を見て嫉妬した。

 

 

 装置を破壊しようとするフォールドに対して、クロノは止まることはなかった。

 

 なぜなら、対策は済ませているから。

 

 装置のすぐ真上に一つ黒い穴が開き、そこから白炎の矢が放たれた。

 用心がなければ回避ができない距離での一撃を、フォールドはくるりと回避して盾を振るう。

 炎を防がれたことを確認したウリエルは、すかさず装置と彼の間に入って長針を振るう。男は攻撃を盾で受けながら、天使の到来を喜んだ。

 

「来たな!俺たちは弱い。だからこそそれなりの頭で戦い方を考える」

 

 その表情は変わっていないが、声色はどこか嬉しそうで、さらに盾を持たぬ手で頭をトントンと叩いている。

 

「要らない同情をどうも」

 

 彼女がクロノから借りている長針を伸ばして、盾に白い炎を着火させようとすると、フォールドはすぐに飛び退いて、着地と同時に言葉を発する。

 

「リミッター、解除」

 

 奴の盾は帯電し始め、さらには盾の先に刃が一本せり出てきた。

 

(そうだね。私は弱い)

 

 私はある日突然、その星の代表となった。

 空席となった『ウリエルの天使の因子』の唯一の適合者であることが分かったのだ。

 

 それまでは普通の生活を送っていたと思う。

 普通に学び、普通に友達を作り、普通に遊んで、普通に成功して、普通に失敗してきた。

 そんな私が世界を渡り、危機に瀕する人々を守る『多次元安全保障理事会』の一員となる権利を得たのだ。当時、第二反抗期真っ盛りで刹那的に生きていた私は、突然すぎて実感が湧かなかった。

 周りからはとても名誉なことだと言われた。さらに私自身もそう感じていたので、この話はすぐに受けた。私しか適合者はいなかったそうなので、適性試験はすぐに終わって理事会への入会が決定した。

 

 

 そして一か月後、後悔をした。

 はっきり感じたのは初めての任務の時だった。

 それまでは実感が湧かなかったからだろう。理事会で仕事をすることにあまりネガティブな感情は生まれなかった。世界を守る組織だというのに、研修は楽しかった。訓練には適度な緊張感があり、私に使命感を宿らせた。先輩方も私を暖かく迎えてサポートしてくれた。

 

 そうして薄氷の覚悟が形作られる。

 

 結果、現場で人間の邪悪さと自然の理不尽さを肌で味わって恐怖した。

 撒き上がる火の粉、止まない悲鳴。怪物の行進。それを心から喜ぶ一人の異常者。

 

(私には、無理だ)

 

 初めて期待を重みに感じたのだ。

 私が立ち向かうべきなのはこのような理不尽なのかと。

 重みは時間を重ねるごとに積み重なっていく。

 手厚い保護により何とかやれてしまった私に、あらゆる重圧が押し寄せてくる。

 無理矢理紡いできた意志が、徐々に歪んでいく。

 周りが、世界が、理事会が悪い。……そんな訳がない。

 それでは私が悪いのか。

 

 

 

 ……私が悪いのだろう。

 期待に応えられない私が悪い。ここまでしてもらって綻んでしまっている私が悪い。

 ─────なんて、決めつけることが出来なかった。

 理事会はそういう人間がいることを分かっていた。

 

 だからこそ、フォローしてくれて『私が悪い』、『背負いこむことはない』という結論を押し付けてくれた。

 

 そんな私に逃げる決断が出来たかというと、勿論、そんなわけがなかった。

 

 私以外にウリエルの因子に適合した者はいない。私は唯一の天使(ウリエル)になれる人間だ。

 

 こんな名誉なことを、こんな大役をこんな手厚いサポートを受けながらも自ら降りるなんて、私にはできなかった。

 つまるところ、私は世界を救うヒーローとしての責任感には耐えられず、かといってそこから逃げ出す度胸もなかったのだ。

 できることは、足を引っ張らず迷惑をかけないという一心で、日々の業務へしがみつくことだけだった。

 

 

 

 

 その時、彼に出会った。いや、見つけたという表現が正しい。

 理事会が偶然、世界を単独で移動する存在を捕捉したのだ。

 組織は以前からそのような者が現れることを予見していたので、さほど驚かずに、しかして警戒しながら彼の観察を始めた。彼は世界を渡り様々な人々に出会って、災難からは過剰に恐れて逃げているようだ。理事会は観察結果から彼が危険な人間ではないと判断し、その能力の希少性から勧誘、最低でも良好なコミュニケーションを取ることを決定した。

 

 勧誘は私から立候補した。

 

「無理シテ勧誘しなくてモいいヨ。トイウカ、絶対に険悪にナラないようニ!これ、絶対ネ」

 

 などと先輩には言われたが、私は必ず彼を理事会に入れたいと考えていた。

 何故なら、彼の逃げる表情を見て、彼は私と同類なのではないかと、そんな期待を持ったからだ。単独で気軽に世界の移動が出来るのに、自身の世界には帰ろうとせず、不条理には逃げるように旅を続けている。

 そして、昔のニッポンのような世界で私は彼と出会う。

 何としても感情を共有できる仲間が欲しかった。私自身、あの時を振り返ると勧誘には随分と熱が入っていたように思える。

 そして、私は彼の使命に火を点した。

 どうしてそんなことをしたのか、今考えれば分かる。

 

(見栄、張っちゃったな)

 

 曲がりなりにも仕事ができたことと、目の前で起きた理不尽が比較的軽いものもあったことが功を奏した。

 彼のためなら臆することなく一人で立ち向かえた。

 そこで自覚する。私は使命のためではなく、他人のためなら戦えるらしい。

 

(結構いけるな)

 

 そんなのんきな油断もつかの間、私は真の厄災と対峙することとなる。

 

 竜神ドラガ、超国家級の厄災は私を怖気づかせるには十分な脅威だった。

 内心怯えて厄災と一人で戦う選択肢を取れなかった私の代わりに立ち向かったのは、クロノ・ノーデンスだった。

 彼は託される者としての器をその時に作り上げた。

 そんな彼を見て、私は心底『羨ましいな』と感じた。

 嫉妬した。彼は私の持っていないモノを、欲しいモノを持っているのだから。

 

 

 だけど、私の中で湧いた感情は決してそれだけではない。

 彼を私が支えることが出来れば、この器が歪まぬように、欠けぬように出来るのではないか。彼の作り上げたものが壊れるところなんて見たくない。

 私には私の背負いきれない『世界たちを救う』という願いを託し、応援したいという感情が湧いていた。

 

「とにかく、私の推しの邪魔すんな」

 

 それが、私の戦う理由。

 私は白い炎で剣を作り、剣先をフォールドに向ける。その盾を燃やし尽くすために。

 仕掛けるのはこちら側。炎の剣をこれまでにない速度で伸ばして盾に着火させる。

 炎は原始的な恐怖。すぐに取り外そうとするだろう。

 そんな隙を私は見逃さず、腹に拳を一撃入れると、フォールドは力なく倒れていった。

 同じ実力を持つ者同士でも、無傷の体と負傷した肉体では勝負はすぐに決まってしまった。

 

 

 

 

 そして視点は託された者たちへ移り、少し巻き戻る。

 装置を背に皇竜を構えるクロノ・ノーデンスと目の前の強敵に挑まんとするユウタ・フルハウス。互いに一歩踏み込み、一足一殺の間合いで睨み合っていた。

 

 理由は簡単。

 

 互いに次の一撃で勝負を決しようと画策しており、その一撃のために読み合いを行っていたからである。

 

 

 一撃で決めたいという思いはそれぞれの理由がある。

 

 

 クロノは状況に余裕を持たせるため。

 現在、ルーシ側の戦力は敵への対応に精一杯だ。ここで新たな介入が起こると対応しづらい。そのためにも彼自身がすぐにフリーになるべきだ。

 

 

 そしてユウタは瀕死状態のホークスたちを助けるため。

 土煙の中で、彼らはまだ(・・)生きている。

 彼らはあの危機的状況で一番勝率の高いであろうユウタにこの戦いを託すために、エイズ、フォールドを除いて、彼を全力で守ったために瀕死状態になっていた。

 ユウタの生きる目的は妹を助けるために金を稼ぐことである。そのためには今のホークスのメンバーで傭兵稼業をこなしていくことがベストであると彼は考えていた。

 宿願を果たすためには彼らの命は不可欠。まだ助かるのならば、すぐに目の前の脅威を排除して助けたい。そんな思惑があった。

 

 

 両者の思惑が一致して一瞬に全てを詰め込む果し合いが始まる。

 

 勝負は一筋の斬撃で決まった。

 一人の男の血が噴き出す。

 

 肩からバッサリと斬られたユウタは血を吹きだしながら地面に倒れる。

 クロノは地に伏せた男をクロノ自身の世界へ移動してから、辺りを見渡して土煙の間から見える、瀕死状態のホークスたちも自身の世界へ移動させた。

 

「よし、次はどうしようか」

 

 敗北者がいなくなった戦場で、男は次に打つ手を考えていた。

 

 

 

 

 俺の背後、装置の向こうではウリエルがフォールドを倒していた。盾は燃え、その体は地に伏せている。すぐさまフォールドを俺の世界に移動させてから礼を言った。

 

「ありがとう、ウリエル」

 

「どうもです。言ったよね。背中は任せてって」

 

 彼女はかっこつけるような爽やかな笑顔、どや顔と呼ばれる顔で俺に言い放った。

 

「……言ってないよ?」

 

 彼女に礼を言いながらそれでいて言われていないことはきっちり否定して、穴の向こうでホークスたちは生きているかどうかの確認をした。

 彼らは動けないよう拘束をしてから延命装置に繋げている。これは今後のための保険だ。

 

「そうだっけ?」

 

「言って…ない。じゃあ俺は──『ビー、ビー、ビー』

 

 あまりにも自信ありげに言うので、念のため頭のメモリーをくまなく検索してから結果を言うと、突然俺とウリエルの腕時計が鳴り始めた。

 体温がぎゅっと低くなり、それに合わせて血液が冷たくなる。

 これは俺たちの足元にあるガスだまりが、爆発しかけていることを知らせるための警報だ。

 どうしてか、予定よりも早く厄災が起動し始めている。

 

 

「よぉ、また会ったな。ソフィア」

 

 クロノとセカンドからエイズのホークスたちが戦い始めた頃、またもう一つの戦いが始まろうとしていた。

 場所は宮殿の近く森。しかし、宮殿とは一般人には被害が及ばないくらいの距離が離れている。

 ファースト、リーパー・ジョーカーはスポーツウェアのような恰好で、登山用のナップザックを背負っていて、対してソフィアは藍一色のボディのラインが出る首以下の全身を覆うインナーを着用した上で、父の形見のスーツのジャケットを腰に巻いている。

 

 互いに30m程離れているので、彼は声が聞こえるように叫んでいた。

 

「もう会いたくないから倒してしまうけども、いいな?『ハートバイト』」

 

 彼女の呼び声でアタッシュケースは人を殺すための巨大な弓へ変形した。

 

 時間にして一秒。

 エネルギーでできた矢は殺意によって引き絞られ、解放された途端、直線上にある木々をなぎ倒しながら0.1秒で敵に到達した。

 リーパーは一撃必殺の矢を彼の武装である『超強力スタンガン付きメリケンサック』で弾き飛ばす。

 

「おっと危ない。なんだよ。殺す気っと!」

 

 彼のセリフなど聞かず、二撃目が放たれ弾かれる。

 

「満々じゃねぇか!よし────。ホークス起動!」

 

 リーパーは短く息を吸ってから、地が揺れるほどの怒鳴り声で笑いながら叫んだ。

 ソフィアの尋常ならない殺意、故郷を守ってきた実績、そして生死を決めるシチュエーションが戦闘狂を昂らせる。

 彼の言葉に応えて、ナップザックから何かが突き破った。

 現れたのはブラックホールのように黒い大きな長方形の直方体二つ。それを細いロボットアームが支えている。

 彼はそれぞれに両手を伸ばすと、それらは吸い込まれるように彼の前腕部にはまった。

 そしてガチャガチャという音を鳴らしながら、形をより闘争に適した形へと変えていく。

 

 

 それは巨大な『爪』。

 

 

 敵を引き裂くために適したフォルム。

 変形の間を好機と見たソフィアが次々と矢を発射するが、その悉くを殴ってかき消している。

 この世界、この宇宙において最高峰の傭兵集団ホークス、そしてその一番手リーパー・ジョーカー。

 彼には目を逸らしたくなるような悲しい過去はなく、また、アイデンティティとなるような決意もない。ただ、とある星の貧民街で生まれて、今の地位を力と機転で獲得してきた。

生粋、天然、無垢に戦闘を楽しむ、生まれながらの強者。

 姿を現した漆黒の巨爪、それは太く、大きく、長く、黒かった。

 

『リーパー専用拡張型惨殺爪 ホークス』

 

 その狂爪は彼の悦を満たす方へ向く。

 

「随分と、やってくれたなァ!」

 

 子供のような純真な目で男は踏み出した。

 迸る黒い閃光。

 リーパーはその巨大な武装を両手に備えているとは思えない、尋常ならざる速度で接近して、ソフィアの腹部を突いた。

 

 

 

 戦いを制するのは想いだけではない。

 

 

 

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