【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告   作:新川翔

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頂上決戦

「この星を守る、だとか。誰かを救う、だとか。ニンゲンって戦う時に大層な理由を付けるよな」

 

 ソフィアを殴り飛ばしたリーパーは軽い雑談するような態度で、ゆっくりと彼女に近づいている。

 

「ウチにも妹のために戦う男がいてな。他にも想いを胸に戦っている奴らがいるんだ。……実はな、ちょっとうらやましいって思ったことがある。なんたって、ちとカッコいいからな。でもな、10秒考えて、とある答えに至ったんだ。理由なんて別にいいかってな。俺は戦うことが楽しいんだ。命を削り合う感覚に心が躍る。それが楽しいんだから、それでいい」

 

 戦闘狂はどうしてか彼女に彼自身のことを一方的に語り始めた。

 

「クソっ…」

 

(速い。そして重い。昨日戦った時よりも)

 

 巨大な鉄塊による突きを受けたソフィアは、武器を介して攻撃を受け止めてもなお、プルプルと痺れる腕と、樹木に叩きつけられて痛む背中に意識を蝕まれながらも、それをしっかりと保っている。

 

 じんじん、と体が痛む。

 どこか、何かが不味いことになっている。

 滝のように流れる汗が肌を伝う感覚を、意図的に、必死に無視する。

 そして彼が悠長に歩いている間に、全細胞を総動員して呼吸を整え、敵の情報を分析していた。

 

「だから、まだ終わるなよ!」

 

 リーパーはセリフに反して殺意を全開にして飛び掛かる。

 彼の両腕の武装、『ホークス』は磁場を発生させて装着前と変わらない、もしくはそれ以上の動きを実現している。

 

「……そうだな」

 

『カタナナイフ』

 

 ソフィアは今の一撃で速さの絡繰を理解し、武装の弱点さえも看破した。

 豪速で振り下ろされる狂爪。それを前にしたソフィアは彼の視界から消える。

 さらに大弓の一部をナイフに変形させて、わき腹に研ぎ澄ました一閃を入れた。

 

 

 その一撃だけで彼女の攻撃は終わらない。

 

 

 意識外の攻撃により戦闘狂に生まれた0.8秒の隙。

 そこに二回刺突を入れると共に───

 

「くたばれ」

 

 不完全な大弓の一矢が放たれる。

 

 弓を大地に突き刺し、足で抑え、左手のみで引いた矢はリーパーを吹き飛ばす。

 直撃した彼は木を二つか三つ突き破って飛んで行った。

 

「そのおもちゃが軽くなったからって、大振りになることは変わらない。その隙を突けないとでも?」

 

『ダブルブレイド』

 

 彼女は武装を二刀に変えて、あえて追撃はせずに距離を取って相手の様子を伺っていた。

 何故ならあの戦闘狂は傷一つ(・・・)ついていない(・・・・・・)

 

「ハハッ…!流石の戦闘センスだ、惚れ惚れする」

 

 リーパーは吹き飛ばされた先でその昂りを次のステージへ上げていた。

 その四肢には一つの傷もついていない。彼の専用武装『ホークス』はその鉄塊が関節の動きを邪魔する以上、攻撃が大振りになるという弱点を抱えている。そこに電磁バリアを形成する機能を付け加えることでその弱点をカバーしていた。

 

(電磁バリアか。1年前に見たな。ただ、アレよりは性能が高いな)

 

 それをソフィアは一目で看破した。

 下手な攻撃の前では受け止められて、反撃されてしまう。そのリスクを考慮したための様子見であった。

 

「だが、一度喰らわなければ見つけられないのは、残念としか言えないぜ。お前、さっきの一撃で体はボロボロ。次、喰らえば終わりだぜ」

 

 彼は両腕をあげて、それを地面に叩きつけた。

 それを受けて大地は音をあげてクレーターを作り、木々は倒れていく。

 

 天下無二の剛力によって、戦いのリングが形作られた。

 

 ソフィアはその無慈悲な一撃を、距離を取ることによって回避していた。

 

「残念なのはお前の頭だよ。私を舐めている」

 

 倒れる木々を跨いで、二刀の女が化け物に近づいている。

 

「あん?そこまで言ってねぇぞ。ただ、愛している。とは言いたいな。好敵手として。こう、ペラペラと喋ってるのもソレだからだ。強い奴にこの感情を理解して欲しいんだろーな」

 

「それ、電力を消費が激しいだろう。電磁シールドに磁場の生成、それだけのことをしていつまで持つんだろうな。それに、お前、そろそろ足技使うつもりだろ。仕込み靴なんて履いて来るな。重心が少しずれてるぞ」

 

 ソフィアは敵の戯言を無視して、戦闘狂の両腕の鉄塊についての推理を披露し始めた。

 

「え?ああ!その通りだよ!いいね。そこまで見抜くんだな、お前はァ!」

 

 彼は彼女からのボール(言葉)をしっかり受け取っていた。

 備えてきた絡め手を当てられたことがそれほど嬉しかったのか、目を見開いて驚いた後、怖いくらいの笑みを浮かべながら喜んでいる。

 

 彼は誰かのためではなく、楽しむために戦っている。

 

 戦いにより高まるボルテージ、血と汗と戦術の果てに得られる結果を、彼は愛している。

 

 だから、今までの作戦も、このルーシでの作戦にさえも、どこかどうでもよく思っている。

 裏で何かありそうだとか、彼女以外の強敵とも戦う可能性だとか、そのような思いが戦闘狂の脳裏によぎるが、────そんな些事は投げ捨てる。

 

 

 ひとまず今は目の前の美味を───。

 

 

(かなりまずいな)

 

 ソフィアは喜んでいる戦闘狂に視線を注ぎながら、外敵への対策を考えていた。

 

(敵の消耗が早いのなら、それまで耐えきるのがセオリーだ……。だが、これはギリギリの防衛戦。そんな余裕はない。攻撃するにしても生半可な攻撃をしたところで効果があるかどうか……)

 

 不完全ではあるが大弓が通じなかった時点で、電磁バリアを割る手段は限られてしまう。

 

(最大威力のオメガブレイドでシールドごと叩き切るしかない!)

 

 こちらの戦力はカツカツだ。

 負けは許される状況じゃない。温存して負けるなんて最も避けるべきことだ。

 なんとしてでもこの強敵を───。

 

 

 

 

────平らげる!

────殲滅する!

 

 

 

 

 戦闘狂は両腕の装甲を外し、この武装の本来の姿を現す。

 どうして彼の専用武器がこうも巨大なのか。

 それは耐久力を確保するためである。

 この装備は本来、超攻撃特化の武装。

 爪に流れる高電圧の電流は一度触れれば獲物を焼き、磁場はより自由な狩りを実現させる。

 ただし、電気の消耗が激しく装置は脆いため、長時間の戦闘は不可能。だから、外付けのバッテリーと補強のための分厚く硬い外皮が用意された。

 

 それらの弱点を看破された以上、残しておく必要はない。

 

 鷹は鎧を脱ぎ捨て翼を得る。

 

 それはまるで化け物の腕。

 禍々しい黒腕に電気が迸る。

 

「来い!アルバアーマー!」

 

「ははっ!そうだよ!それを待ってたんだよ!」

 

 爪の装甲が外れている中、ソフィアは長らく使っていなかった奥の手を呼び寄せた。

 

 ルーシがどうして長い年月の間、この土地を守り切れたのか。

 そこには4つの要因がある。

 一つ、兵の士気が高いこと。

 二つ、兵の質が高いこと。

 三つ、資源がほぼ尽きないこと。

 そして最後の一つ。

 

 四つ、兵器がこれほどなく上等なこと。

 

 ルーシの空を覆う灰色の雲から一つの星が流れて落ちる。

 星の大きさは4メートル強。カタチは人型。人を模した滑らかで細いフォルム。

 胴体の部分には操縦席があり、鳥のような兜、左腕にはガトリング、両肩には一つずつ大砲が搭載されており、体の様々な場所にジェットが備え付けられている。

 流星はくすんだ青色で所々に傷があった。

 人を破壊兵器へと変貌させるパワードスーツ、『アルバアーマー』。

 その動力源は背中に刺さっている6本のアルバガス。

 半永久的に活動する鉄の人形はあらゆる状況下での殲滅を実行する。

 

「さぁ、行くぞ!」

 

 愉悦を味わうことを我慢ならなくなったリーパーは、青い星が落ちてくる前に、猛禽類が獲物を捕らえるような速度で飛び出した。

 

 リングを横断する稲光に、無慈悲の掃射が始まる。

 上空からは主を守らんと彼女のアーマーによる銃弾の雨が降っていたのだ。それら全ては捕食者の侵攻を妨害しうる威力があり、無視しながら進むことは出来ない。

 

『オメガブレイド』

 

 進みながらも回避行動を取った彼を、彼女の有する最大火力が焼き尽くす。

 リングを囲う木々は灰となるが、それだけで彼は止まらない。

 

「っしゃぁ、オラぁ!」

 

 一匹の猛獣が青い炎の壁を突き破って来た。依然、速度は変わらない。

 オメガブレイドは大剣の形をしているため、取り回しが悪い。

 振り切ってしまっては反撃には間に合わない。

 

 だから、殴る。

 

 大剣を手放すと、その左手にはアーマーの左手が装着された。

 落下する流星は、少しでも早く主を助けるために、各パーツを分裂させて彼女のもとへ飛んで行っていた。

 

 そのまま彼女は、戦闘狂の右脇腹に向かって一撃を入れる。

 

「来い!」

 

 続けて右肩に装着された大砲を敵に向けて発射。

 それはリーパーが殴ることで相殺していた。

 さらに相殺するだけでなく、その勢いのまま、拳で標的を貫こうとしている。

 

「まだまだァ!」

 

 そのための対策をソフィアは既に打っている。「来い!」と叫んで音声操作の機能がある大剣に炎を吹かせて、ひとりでに彼女の手へと戻らせて振るった。

 

 

 青炎の大剣と黒い電爪が衝突する。

 本来ならば戦闘狂が負けるはずの衝突。

 しかし彼女らは拮抗状態にあった。

 

(電磁バリアで爪をコーティングしているな)

 

 拮抗の仕組みを看破した彼女はすぐに次の策を打つ。

 その策とは剣の潜在能力の解放(ギア上げ)

 

 鍔元にあるトリガーを一度押すと火炎のギアが一つ上がった。

 

 強まった青い旋風は電磁バリアを崩壊させる。

 

「まだあるのか!?」

 

 『これは防げない。取るべきは回避だ』と、本能で理解したリーパーは、熱風を利用してバリアの崩壊と同時に安全圏まで飛び退いていた。

 

 それを彼女は追撃せず。背後に着陸したアルバアーマーに搭乗する。

 

 胴体部分の座席に乗り込むと、彼女を守るように装甲が展開され、兜には黄色いラインが走る。

 さらに前方に展開された装甲、その裏側、彼女の目の前にある液晶から機体の状態がこと細かく伝えられている。彼女はそれらを見ながら両腕の手元にあり、アーマーに接続されているアタッシュケ―スの黒い取っ手を握った。

 

『指紋認証 クリア』

『網膜認証 クリア』

『運転をオートからマニュアルへ移行』

『各部接続を確認』

『オメガブレイド、アルバエンハンス追加完了』

『全ガス、動力炉に注入』

『全兵装の正常稼働を確認』

 

 モニターからは視覚情報が、スピーカーからは音声が一斉にパイロットへと伝えられる。

 

『出力最大、アルバアーマー『クリーニア』戦闘開始』

 

「ふぅ、やるぞ」

 

 戦力を正常に引き出せていることを確認した彼女は息を飲み、地面に着地してすぐに飛び出した戦闘狂に対応する。

 

 繰り広げられる超機動戦。

 ソフィアはアーマーの各部位に備えられたジェットの短い噴射を用いて、リーパーはその磁場と身体能力を使い、リング内で互いへの一撃必殺の攻撃を躱し続ける。

 その勝負は永遠に続くように見えているが、その実情は違う。ソフィアは連日での戦闘によりリーパーの動きに慣れ始めており、その速度と戦い方に対応し始めている。

 もう少しで決定的な一撃が入る。その前にこのような戦い方では死ぬと気づいたリーパーは、リングの外に退場し森の中に身を潜めた。

 戦闘狂は木々に身を隠しながら、機を伺うことで絶頂への階段を駆け上がる。

 この武装が戦える時間は限られている。さらに、この形態にも慣れられてきた。

 

 もう、時間がない。

 

 沸き立つ興奮が彼の背中を押している。

 

(イくぞ!!!!決着だ!!!!)

 

 一秒後、森に潜む彼の姿をクリーニアのカメラが見つけたと同時に、木が放物線を描いてソフィアへと降り注いだ。

 

「なるほど」

 

 宙に浮き、ジェットを短く噴射して大きな雨への回避行動を取る。

 アーマーは巨体とは思えぬ速度で迫りくる脅威を避けている。

 さらに両肩と左腕の重火器が木の飛んでくる方向に向かって火を噴いている。

 しかし、その木の雨が止むことはない。

 ガトリング弾のリロードの瞬間、戦いに動きがあった。

 

「リロード!よし来い!リーパー!」

 

 ソフィアの予感と同時に木々の中からリーパーが飛び出した。

 

 再び行われる、捕食獣による急接近。しかしそれらを妨害するものは使用できない。

 両肩から放たれる砲撃も、彼なら勢いを殺さず避けることが出来る。

 電磁バリアと磁場によって三次元的な移動を行う戦闘狂は、オメガブレイドの大振りもはらりと躱し、すぐに操縦者を守るアーマーの懐に現れた。

 そして拳が装甲を壊す前に、ぱっくりと割れた。

 

 目の前にはもう一つのオメガブレイドを持ったソフィアが、のこのこと寄って来た戦闘狂を仕留めんとするために剣先を向けていた。

 クリーニアの操縦には彼女の持つアタッシュケ―ス型の兵装『MAC』が必要となる。

 操縦席にはそれが二つ備え付けられている。そのうちの一つを取り出し、敵を待ち構えていた。

 

 さて、対してリーパーは、そんなことでは驚かない。それよりも彼の最優先目標を果たすために拳を振り下ろす。

 

「ふん!」

 

 狙ったのは彼女ではなくガトリング。

 彼はまず、行動を制限する厄介ものを排除しようとしていた。

 彼女には目もくれず、銃弾の雨を降らす鉄の筒を鷲掴みにした。捕食者により筒は握り潰される。

 

 機体に走る電流。

 左腕を中心に起こる故障。

 鳴り響く警報。

 失った武装。

 この一瞬で『クリーニア』は多くの物を失った。

 

 だから、この隙をソフィアは見逃さない。

 

「喰らえ!」

 

 目の前で悠長なことをしている男へ、躊躇なく剣先から青い炎を発射した。

 リーパーは破片に電磁バリアを付与してその剣先に投げることで一瞬の猶予を作る。

 

 本来より0.2秒遅れての爆発。

 その間に行った後退で、本来死んでしまうような攻撃を致命傷に限りなく近い傷にした。

 

(どうだ───!これが最後だ!)

 

 戦闘狂の体は焦げて、頬からは歯が見えている。

 だが、男の瞳には闘志が宿っている。

 

 その瞳が彼女に切り札を切らせた。

 

(ここで終わらせる!)

 

「オメガブレイド、連結!」

 

 彼女は操縦席からブレイド投げてアーマーの持つ大剣と連結させた。

 彼女の言う最大威力のオメガブレイド。

 それはガスだまりの誘爆による大規模爆破である。

 

 ルーシはアルバガスを駆使して成長を遂げてきた。

 それ故にそのガスの仔細を知っている。

 どこでどのように刺激を与えれば、どのように爆発するのかも知っている。

 宮殿にいる民間人に被害を与えない程、ただ、戦闘狂を確実に殺せる爆発。

 自身の生存は考慮しない一撃のために、彼女はこの場所を戦地として選んでいた。

 リーパーの地下への攻撃、及び火炎の放射により、ガスだまりまでのルートは出来ている。

 その一撃でこの戦いを終わらせる。

 

 そしてその思いは戦闘狂も同じだった。

 彼には奥の手がある。それでこの戦いを終結させるつもりだった。

 

 その攻撃は神速必中の中距離攻撃。

 今まで近距離での戦闘を行ってきたため、ソフィアの中遠距離攻撃に対する警戒が薄くなっていた。

 条件はクリアしており、後はその爪から一撃を発するだけだ。

 

 両者の放つ奥の手で雌雄は決する。

 

 

 

 

 

 はずだった。

 

 

 

 

 

「なんだ!?」

 

 炎を放つ直前、彼女は目撃する。大陸を破壊し得る爆発。その前兆を。

 

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