【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告 作:新川翔
「なんで、厄災が起動しているんだ!?」
警報によって俺の脳みそはフリーズする。
(何が、あった?そんな前兆、なかったはずなのに)
それと同時に大きな爆発が起きる。
響く衝撃と轟音が俺の頭に処理不可能なノイズを与えてくる。
「え……?」
(あそこは確か、ソフィアが……。勝負はどうなった⁉いや、どうして?空に向けたレーダーは何をしている?ホークス以外に敵がいるのか?もう警報が鳴っている。一秒後にはここが爆発しているかもしれない。どうする?現地の人もいる。彼らを助けなければ!出来るのか?人の居場所も分からない。それじゃあ宮殿ごと?ならば装置が必要だ。でもこの地面だって次の瞬間には爆発しているかもしれない。しかもそれは宮殿も同じ。ならすぐに助けるべきだろう何をしている!クソ、今こんな状況で)
「クロノ!まだ時間はある!」
混沌とした思考が、ウリエルの一声で整理された。
まだ、この地面は爆発していない。
まだ、宮殿は割れていない。
まだ、この星は滅んでいない。
今この瞬間、星が壊れていないなら、猶予はある。今はすぐにでも動くべきだ。
(そうか──!)
「「厄災を止めよう!」」
「俺はガスだまりを対処する。ウリエルは」
「原因の調査!」
「「任せた!」」
俺はすぐに厄災が起きるとされるガスだまりの前に移動した。
「何も起きてない……?」
独り言をつぶやきながら現状の把握に努める。厄災レーダーから警報があったのだから厄災は起きている筈だ。ただ、厄災が起きているのならば、この場所は既に吹き飛んでいる。
「バカ!落ち着け!違う!」
自身に一喝を飛ばしてすべきことを整理する。
(今はまだ、ドミノの一つ目が倒れただけなんだ。警報が鳴ったからって即発動とは限らない。今は発動の初期段階!今のうちに、原因を根絶する!)
「最終手段だが、やるしかない!イエモン!……応答なしか!」
最終防衛ラインを担当していたイエモンからの応答はない。恐らく、そういう状況だ。
すぐに俺は厄災の起因となる大きなガスだまりの近くまで移動してから辺りを見回す。
しかしその場には何ら異常はない。俺の目の前では大きなガスの採取を行う装置が変わりなく稼働している。
「ここを解決すればいいんだ。なら、簡単だ」
ドミノの一番最後を取り除いてしまえば災害のスケールは大きく縮まる。
『こちらクロノ、ウリエル聞こえるな。これより、厄災の排除を行う』
ひとまずこの空間に繋がる全ての通り道に穴を開く。これで敵が通り道を通って来るという可能性は無くなる。
後はこの空間への侵入方法と言えば地面を突き破って来るか、ワープをしてくるかの二択となる。
俺の背後には三つの機械を設置した。
一つ目は、厄災レーダー。今地中で起きていることを事細かく把握するため。
二つ目は、普通のレーダー。辺りへの警戒が担当だ。
最後は、穴の性能を強化する装置。俺の奥の手だ。
そして俺自身は、足元に手を付けてガスだまり、もといガスを含む層への介入を行う。
「もったいないな!」
穴の先は俺の空間及びルーシの上空。
この星にある膨大なガスを俺一人で外に逃がす。
厄災の原因を直接取り除けば、爆発なんて起きることはない。
(やってみせる!)
「厄災レーダー、爆発まであと何分だ!」
『残り5分です』
星の滅亡は当初の12時間も早く訪れようとしていた。
「さて、果たすぞ!」
今一度、『俺の生き方を全うする』という決意を体に教え込むために、言い聞かせるように叫んだ。
「うっ」
戦闘狂との決着直前に爆発に巻き込まれたソフィアは、うめき声をあげながら目を覚ました。どうやら爆発に巻き込まれても彼女を包む鉄の人形が彼女を守ってくれたらしい。
『ビー、ビー、ビー』
アルバアーマーは主人を守り切った歓喜からか、それとも今にも体が崩れそうな痛みからか、途絶えることなく警報音を鳴らしている。
「……ありがとう」
ソフィアはアーマーに礼を言いながら、まだ生きているレーダーやカメラで辺りの観測を始めた。
(アレでファーストは死んだのか?というか、今の状況が分からない。すぐに把握しないと……)
彼女がいるのは、どうやらどこかの地中らしい。天井にはぽっかりと長い穴が開いていて、そこから僅かな光が漏れており、彼女がどれだけ深いところに落ちたのかが推察できる。
そして僅かな光に照らされているのは、従者の死体だ。
「いえ、も……」
まるで彼女に見せつかるかのように伊右衛門の死体が置かれている。
右足は無くなっていて、顔の左半分は削れていて、全身はひどい火傷を負っていて。
「あっ、ああ」
その光景は、彼女にある思いを過らせる。
(戦いが終わった。私が気絶している間に……?)
彼女は自分がどれほどの時間寝ていたのか把握していない。
そのタイミングで
(あ────)
彼女の意思は決壊した。
絶望は、無力感は彼女の全て否定し瓦解させる。
「絶望したか?」
そこに、一人の老人が現れた。
杖をつき、よぼよぼで真っ黒なサングラスを付けた男は涙を流す彼女に語りかける。
「どうだ。苦しいか?」
無様な姿を見たがっているのか、サングラスを取って彼女が晒す醜態を観察している。
その目は感動で潤んでいるかのようにも見える。
声は知らない。ただ、彼女は老人の顔を知っている。
「お前は」
押し潰されるような絶望の中、とある男の顔が浮かぶ。
アレは最後の会談で父を殺した。
探査軍の……。
「まだ、残っていたのか。亡霊!」
この星を危機に晒す元凶、C銀河探査軍の総大将である『フェム・チャイルド』。
彼の執念はここで果たされようとしている。
「違う。違うぞ。亡霊などでは断じてない!」
『亡霊』という言葉が癪に障った老人は怒りを沸し始める。
「今も生きている!貶すな。私、私たちの意思を!知らないだろう!」
「知るか!そんなもの……!お前は私たちの家族を、大切な人たちを!」
「そんなもの、どうでもいい!お前たちはアルバガスを寄越せ!」
「────は?」
その言葉にソフィアの堪忍袋の緒が切れた。
全ての絶望を塗りつぶすほどの強い怒りが彼女の胸中で巻き起こる。
(こんな奴なんだ。やはり、父さんを殺した男は、こいつは外道だ。ここで死ぬべき外道だ)
彼女は却って冷静になっていた。今は目の前の外道であり、仇である男をどう殺すかについて考えを巡らせている。
己ができることを理解した上で、相手の次の動き、相手の戦法、相手の狙い、相手の弱み。
それら全てを看破する、捕食者の瞳で老人を観察していた。
まず彼女は自身の状態を整理する。
アルバアーマーはボロボロ。全ての装甲は廃棄するしかない。
しかし彼女の持っていたMACは武装としての役割を何とか果たせる。
幸運なことに彼女自身の体はそれ程負傷していない。さらに戦闘を続行する体力くらいは残っている。
(まだ、戦闘狂の状態を確認していない。それに戦う相手が残っているかもしれない。この外道は一撃で殺す)
「そうだ。ガスさえあれば、資源さえあれば、私たちの星は再生できる!」
老人が吠えると彼の背後の穴から灰色の液体のようなモノが飛んできた。
(自立して動く液体金属?)
一見、水銀のようなその物体を辛うじて生きているアルバアーマーが解析し始める。
(いや、ナノマシンの集合体か。単に汎用性があるだけの兵装。特別な効果はなさそうだ。熱に強いコーティングをしているが、ただそれだけだな)
老人の体はミクロの機械に呑まれ、灰色の人間へと変化しようとしていた。
その姿を見てソフィアは勝利を確信する。
(装甲は薄い。戦法は格闘の範疇を超えないな。これならオメガブレイドで焼き切れる。少しでも動いてみろ。その体、灰にしてやる)
どんな動きにも予兆がある。
ニンゲンでも、機械でも、指令があるからこそパーツは動く。
彼女のセンスと反射神経ならば、指令を受けた瞬間に動き出すことが可能だ。
体の機微から指令を察知し動く。
そのような神業を行うためにソフィアは武器を握りしめていた。
「死「死ね」
しかし、灰色の体が指令を受ける前に、亡霊は何者かに心臓を貫かれていた。
「お前は……リーパーか。裏切ったな」
その正体はこの宇宙最強の傭兵。
戦闘狂リーパー・ジョーカー。
その姿は血だらけで傷だらけだが、力強くその場に立っている。
また武装も破損していて左手にはいくつもの破片が刺さっている。辛うじて右手の武装は使用できそうだった。
「そっちが殴って来たんだぜ?なら一発殴ってもいいんだ。コレ、常識だぜ。あぁ、殴ったら心臓掴めちゃったってのは、ご愛敬な」
「…………」
心臓を貫かれた男は、恨みを吐き出すこともなくただ黙っている。
「アンタ、この星ぶっ壊すつもりだろ。それじゃあ、ここで戦っているオレの部下、それに空で待っているオペ子ちゃんも巻き込まれちまう。そんなつもりで動いてたんなら……あ、裏切るのも織り込み済みか。ちっ、悔しいなぁ」
勝手に老人の真意に気づいた男は心臓を握りつぶし、血塗られた右手を引っこ抜いた。
既に老人は絶えている。
新たに増えた死体はその場に打ち捨てられた。
びちゃ、と老人の中で巡っていた血と、行き場をなくしたナノマシンが地面に広がる。
「さぁ、ソフィア・ムーラシ。立ち上がれ。最後だ」
男は血だまりに轍を残して、最期の晩餐に舌なめずりする。
「……なんで、こんな時に?」
ソフィアは現れた強敵への分析のため、理由を問うことで時間を稼ぐことにした。
「理由?そりゃあ簡単だよ」
戦闘狂は呆れたように不満を漏らした後、戦う理由を再び高らかに語り始めた。
「オレは闘争が大好きだ!戦っている時って、こう、体が熱くなるだろ?血を流した時ってどこか達成感があるだろ?相手を倒した時、生き残ったって感じがするだろ?それが、全部、大好きなんだよ!」
彼は戦いの場に立っている。己の快楽のために。
「俺の戦いの後に、何が残るかなんてどうでもいい。俺は戦いの中で生きたいんだ」
「部下は?どうでもいいの?」
「どうでもよくねぇよ。さっき言ったことはそっくりそのままオペ子ちゃんに言っといたぜ。殺り合うなら心残りなく、ってな。ホラ、アイツらには戦いの先に願いがある。その願いは俺の願いに巻き込まれる必要はない」
「そうか」
この時点で、ソフィアはリーパーの分析を完全に終わらせた。
彼があの爆発に巻き込まれてあの傷で済んでいるのは、爆発の瞬間に尋常ならざる反射神経と判断力で電磁バリアを使用したからだろう。
しかし、絶対不可侵の防御はもう使えない。
彼の武装には十分なバリアを展開する電力は残っていない。
この二人の戦も次の一撃が最後となる。
「様子見は終わったか?何ならもう少し時間いるか?」
(ここで倒れるわけにはいかない。まだ油断できない状況だ)
「いいや、急いでいる。すぐに終わらせよう」
「……お前も戦いの先に願いがあるタイプだよな」
オメガブレイドをぎゅっと強く握る。
リーパーと自身の距離、瞬時に体を動かせる範囲を考えた上での選択だ。
そして戦闘狂は自身が守るべき存在と同じような、戦う理由を持つ相手を羨んでいた。
「まぁいいか。俺の敵として現れたのが運の尽きだ。その願い。砕く」
戦闘狂は深く腰を落とし、ボロボロの左手を開いて前に突き出し、右の拳を握りしめて弓を引くように構える。
リーパーが拳を構えたと同時に、両者は爆発的な勢いで飛び出した。
両者の決死の一撃は、いわば究極の矛同士の激突であった。
戦闘狂は『構える』ことでどのような攻撃をするのかを晒す代わりに、神速をもって最後の好敵手へと一撃を与える。体内で暴れ回るアドレナリン、無二の敵との対峙という環境、そして全盛期の肉体が実現する、二度はない極上の一撃。
対して防国の乙女は天才的なセンスを総動員してその一撃を迎え撃った。構えから攻撃を分析し、拳の速度を計算し、己の攻撃を決定する。
彼女が選んだ一撃はオメガブレイドの最大火力、その剣先を当てること。彼女のアドバンテージは間合いだ。相手が拳で攻撃する以上、上手くいけば彼女の攻撃は先に当たる。相手が不完全なバリアを張ることを考慮した上で、それを破るためのエネルギーを集めやすい剣先での攻撃を決定した。
この世界でも随一のセンスを持つ人間が放つ正確無比の一撃。
戦闘狂は敵に予想を上回れるか、乙女は予想の範疇で脅威を処理できるか。
それぞれが持っている全てを賭けた一撃は、引き分けなどという結果を許すはずがなく────。
「ありがとう」
右肩から左脇腹までざっくりと斬られた戦闘狂は、礼を言って彼女の目の前で力なく倒れた。