【完結】スカー・リバイバー『世界渡り』による救世活動に関する報告   作:新川翔

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星のように眩しく遠い貴方へ

 

 

 

「みんな!世界を救うぞ!」

 

 

 ある日、希望を乗せた船が人々に見送られて出発した。

 ただし、向けられているのは期待ではなく憎悪だ。

 地上より放たれる銃弾、敵意、ミサイル、罵声。

 この星を存続させたいという願いは、この星を破壊したいという願いによって砕かれようとしていた。

 

「フェムさん!試作電磁バリア、残り30%しかありません!」

 

 全長150mはある船の管制室で、害意から船を守る業務を担当している男が、奥の椅子に座る、この船の船長である男へと吠えていた。

 

「構うな!何としてでも持たせろ!」

 

 船長は船全体の状況を知ることのできる大きなモニターを前に指示を飛ばし、内心で燻る焦りによって汗を一筋垂らす。

 彼の住む星は限界だった。

 その星に残る資源は度重なる戦乱によって底をついた。

 この船は星外にある新たな資源を求めて、その星から足を離し、宙へと旅立とうとしている。

 そのような大義をどうして邪魔する者たちがいるのか。

 

 

 理由は至極簡単なことで、戦争をしているからである。

 

 

 いくら崇高な願いだととはいえ、その国では称賛されたとはいえ、それは敵の狙い。指を咥えて眺めている訳にはいない。

 さらに敵にはこの船を破壊。もしくは略奪する理由があった。

 船にはその国の叡智が注ぎ込まれている。破壊し、残骸を回収できるのなら今後の戦争において大きな利益となる。

 

(クソ!)

 

 一秒が何秒にも感じられる極限状態の中、船長はその目に映る全ての情報を見逃さぬようにしていた。

 モニターにはいくつもの異常事態が映し出されている。

 その中でも特別で優先すべき事態を瞬時に発見し、反射に等しい速度で対抗策を出す。思考は二重、三重にも重なってオーバーヒートを起こしそうなところを、無理矢理継ぎ接ぎで正常化させる。

 

(あと、少し、あと少しで……!)

 

 男は10回目のあと少しの果てに、黒い空とその中に光る星々を見た。

 

『フェムさん!逃げきれました!』

 

 結果として、船は猛攻を凌ぎ切り、大気圏からはるか向こうへ逃げ出すことに成功した。

 果てしない暗い宇宙へ彼らは希望を求めて足を踏み入れる。

 自分たちが生き延びたこと、そして野望の達成に一歩進んだことに、船内の人間たちは安堵の息を漏らしてから、歓喜の声をあげた。

 

「みんな。ありがとう。これで俺たちは、故郷を救える」

 

 彼らは故郷を存続させるための何かを求め、使命感を胸に航海の旅に出た。

 

 そして、出航から一年経った。

 まだ、目当ての星は見つからない。

 彼らの星は詰んでいた。

 星外からの資源援助程度では話にならない程に。

 だから彼らは、常識が根本から覆るような魔法の資源を求めていた。

 

 

 

 十年経った。

 まだ、星は見つからない。

 魔法のような資源など十年で見つかるはずがない。

 もし、そんなモノがこれほどの年数で手に入るのなら、今頃どこかの星を通じて大きく普及している筈だ。

 船員は何人か途中で離脱した。

 彼らは耐えきれなくなったのだ。

 当てもなく、砂漠の中で一粒の金を見つけるに等しい行為は使命感を削り、精神を摩耗させていた。

 

 

 

 

 二十年経った。

 まだ、星は見つからない。

 ここで緊急事態が起きる。

 船員の数が激減してしまったのだ。

 途中で宇宙海賊に襲われたのがまずかった。船員全員の力を結集することで何とか逃げることができたが、このまま旅を続けることは困難になるほどの傷を負った。

 だが、この船は止まれない。

 生き残った者たちは皆、血に染まった手を見ながらそう考えた。

 こんなところで後戻りはできない。

 出来るはずがない。

 だって我々は星の未来を背負っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 百年経った。

 もう、船長以外の乗務員はいなくなってしまった。

 ある者は彼の狂気に痺れを切らして船を降りた。

 ある者は狂を発して首を括った。

 またある者は未知の病により隔離された状態で寝たきりになった。

 しかし、航海は順調だ。

 燃料は十分にあるし、設備も十全に働いている。

 それは船長が目の前のモニターを通して分かっていた。

 何故なら、資源のある星から略奪し尽くしたから。

 ないのならばどこからか補充すればよいのだ。

 まずは弱っている星から、徐々に略奪する規模を増やしていった。

 この船に乗っていて唯一幸運であったことは、資源が尽きかけた時に、弱っている星を見つけられたことだ。

 この手は血で汚れてしまったが仕方がない。

 私の星を生かすためだ。他の星などどうでもいい。

 人手の問題も旅の途中で略奪した全自動のロボットがいるので解決した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二百年経った。

 もう、私の体は人間とは言えなくなった。

 だが、信念だけは燃え続けている。

 今日も他の星で補給をしながらまだ見ぬ星を目指して旅を続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出航から二百三十三年。

 私はついに、最高の希望を見つけた。

 

 極限まで高められた効率を誇るガス『アルバガス』。これを使えば故郷を救うことが出来る。

 あの時の喜びは他に変えられない。山のような重荷がやっと降ろされた解放感は思わず笑みを漏れさせたし、目の前にある財宝には心が躍った。

 

 実際に踊り狂ったように喜んだ。

 

 いつもと変わらぬ、窓から見える星々は、その時だけは船長を祝福するかのように輝いており、目の前の灰色の星は巨大なご馳走に見えた。

 そしてひとしきり一人で喜ぶと、船にある全てを使ってその星を侵略することにした。

 奪って貯めた資金も資源も全て総動員して挑んだ戦争は、順調とは言えなかった。

 なんだって、原住民はアルバガスのエキスパート。

 その扱い方は効率的どころの話ではなかった。

 だから、彼が奪ってきた選りすぐりの兵器たちを前に、数と文明的な不利が加わっていても対抗することが出来た。

 じわじわと、C銀河探査軍がやや優勢の拮抗状態のまま攻め続けていく。

 やがて5つあった国は残りの1つになった。

 代償として探査軍はその資産の8割を犠牲にした。

 こんな状況では故郷の星に帰ることすらままならない。

 

 

 でも心配ない。アルバガスさえ手に入れることが出来れば、問題は解決する。

 

 

 最後の後押しとして、残り二割を全てはたいて、ここらで最強の傭兵集団を雇った。

 これが最後のチャンスだ。アルバガスを手に入れれば大願は果たされる。

 失った人も資源も凌駕する利益が手に入る。

 だから、肉体を無くしてでも(・・・・・・)、この志は実現させる。

 

 

 

 

 

 

「貴方が爆発を起こした張本人ですね」

 

 白炎の天使、ウリエルが右手に白い炎を浮かべながら語り掛ける。

 

「……」

 

 目の前にはナノマシンでできた巨人がいる。

 

 それは泥人形のように醜く、とても、どこかの星の最高の技術を用いられたモノには見えなかった。

 正体はこの騒動を引き起こした男、フェム・チャイルドの指令を全うするだけの機械の集合体。主の命は既に絶え、その亡霊だけがこの星の全てを奪うために稼働している。

 

『そうだ。お前も私の邪魔をするのか?』

 

 主の声から作られた電子音声が、目の前に立つ天使に声をかける。

 

「その通りです」

 

 彼女の右手の炎は主の覚悟に呼応してより強く燃え盛っていた。

 ただ、彼女には一つだけ疑問がよぎる。

 

(爆発の原因は自然現象じゃないの?ここにいる敵の目的はアルバガスの獲得なはず。爆発させる意味はないはずだけど……。後で考えよう)

 

『そんなこと、あってはならない。私は願いを、託された。だから叶えなければならない』

 

「そうですが、ですけど燃やします。その全てを『火宅之境(かたくのきょう)』」

 

 すると。白い炎により暗い洞窟は塗り替わる。

 

『アァ、アァァァァァァァ!』

 

 何人たりとも立ち入ることを許されない炎の雪原が巨人を蝕む。

 

「天使である私が命じます。そこで、灰になりなさい」

 

 指定する薪の一つはナノマシン。

 小さな機械はバチバチと悲鳴と電流を流し、巨人は膝をつく。

 

「……この程度で、終われるか」

 

 しかし、白い炎は執念までを燃やすには至らなかった。

 

「……終わりは、もうすぐ、だ」

 

 怪物の皮は剥げる。

 その損傷は執念を果たす前に一つの目的を設定させた。

 それは対処。

 肉と骨が燃え尽きる前に、目の前の敵を排除する。

 資源の奪取はそれからだ。

 

『排除、スル』

 

 巨人は炎の中で四つん這いになり姿を変え始めた。

 太い人間の足が、細く滑らかなチーターのような足へと変貌していく。

 巨体を細長く変形させ、両手は着き、姿勢は低く。まるで捕食獣を思わせる風貌だ。

 跳躍に特化したそのバネは極限まで縮められて、1秒で爆発寸前に至っている。

 ウリエルは目の前の物体の狙いを瞬時に看破した。

 

(一瞬で勝負を決めるつもり!)

 

 体が燃えてその対処が難しい状態なら、すべきことは目標の達成。

 しかし、それは目の前の障害が許さない。

 ならばその障害ごと駆逐してやればいい、ということだ。

 ウリエルの予測が完結する前に、爆発した。

 怪物が大きく足を踏み込み、障害を排除しようと駆けだしていく。

 細長い腕は鋭利な刃となり、首を断ち切る。

 

堕羅堕羅(だらだら)

 

 

 はずだった。

 

 

 人を殺し、目的のために駆け回る体躯は弾けることは叶わなかった。

 踏み込んだ地面がドロドロに溶けていたのだ。

 どんなに素晴らしい、急襲に適した体を持っていたとしても、その爆発を受け止める大地がなければ飛び出すことなど不可能だ。

 

『何ガ、ドウナッテ……?』

 

 ウリエルは彼らの立つ地面さえも燃やす薪へと指定していた。

 故に、彼らの足場はドロドロに溶け、歩くことも満足にできなくなっている。

 

「それでも聞かぬのなら。私が手をかけましょう」

 

 地は崩れ天井は溶けだす地獄のような様相の中、天使は羽を広げて宙に浮く。

 

 

 

「跪け」

 

 

 

 彼女は飛行できるので、足元のこと知ったことではない。

その場でうずくまり、底なし沼に嵌ったようにゆっくりと沈んでいく怪人へと跪くように命令した。

 

『…………』

 

 項垂れる機械の集合体。

 それが首に当たる部位を差し出す。

 怪物は炎に焼かれ、徐々に構成するナノマシンを溢していく。

 

『イや、マダダ』

 

 白い炎の中、執念は灰になっていない。

 

「まだ……まだだ……まだなんだ!」

 

 機械音声特有のノイズは薄れ、ヒトの音声のように変化していく。

 細長い触手を天使に伸ばすと、その喉笛を掻き切る前に燃え尽きた。

 

「翼がないあなたは、ただ這いつくばることしかできない」

 

 天使は慈悲か怒りか、表情は変えずに慟哭しながらうずくまる、心残りの目の前に立った。

 跪く物体に手を向かる。

 

 掌は春の軽やかな風のように、頬に触れる。

 

「白剣」

 

 天使が言葉を紡ぐと、彼女の出現させた炎の全てが、瞬時に掌に集まった。

 

「この一刀にて、その怨念を断ち切りましょう」

 

 足も手も、あらゆるものが燃え尽きた執念は地面に転がった。

 

 

 

「灰心」

 

 

 

 C銀河探査軍、フェム・チャイルドの歪んだ願いは灰となって終着となった。

 

「ぜぇ。ぜぇ。ぜぇ。ぜぇ」

 

 炎が消えた洞窟の中、天使は無事な地面まで移動してから翼を畳んで膝をついた。

 

「疲れた……すごく疲れた……もう動けない」

 

 玉のような汗が全身を伝っている。

 天使は誰もいなくなった洞窟で座り込み、息を荒くしていた。

 彼女は大技の代償を背負ってしばらく動けなくなっていた。

 

(あまり動けないかも)

 

 心残りはたった一つ。

 それを果たさなければ。

 

『全員に、報告……!』

 

 

 

 

 

 

「爆発まであと何分!?」

 

 俺は地中に埋まるアルバガスを外に逃がしながら、厄災レーダーに問いかける。

 

『30ビョウです』

 

「残りのカウントダウンは表示しろ!」

 

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